私
がプリフロップのソルバー分析を始めたころに、最も印象的だった特徴の一つに、比較的小さいポットへの大きなプリフロップオールインがあります。ソルバーが登場する前は珍しくはありませんでしたが、このような巨大なオールインは、ポストフロップのスキル不足を補うための雑なプレイで、フィッシュがするアクションだと思われていました。実際、ソルバー以前はそれが正しいことも多々ありました。しかし、このようなアクションは根本は正しいのです。適切な場所で、適切な種類のハンド(フロップ以降でプレイするのが難しいハンド)を使えば、プリフロップでの大きなオールインは最適なプレイとなります。
このようなオールインのほとんどは相手のレンジが広くなるレイトポジションで起こります。そこではレイズフォールドするには強すぎるが、相手のオールインやレイズを期待するほど強くないハンドでのオールインが最適戦略になることが多々あります。これがレイトポジションのプレイヤーが誰もオープンしていないポットに20BBでいきなりオールインしたり、レイトポジションの「スチール」に対して30BB以上のオールインをする理由です。特にBBやSBはレイズ額が小さいとフロップ以降OOPで大きなポットを争うことになるので、オールインがより正当化されます。
例えば、以下は2.3bbのBTNオープンに対する40BBのBBの反応をChipEVモデルで表したものです。
BBはレンジの6%でオールインしており、そのレンジは小さいポケットやAQo、AJoといったエクイティは高いものの、SPRの低いポストフロップでのパーフォーマンスが悪いハンドに集中しています。これはレイズによるフォールドエクイティが目的で、4ベットを受けた場合は強すぎてフォールドできないが、3ベットをして相手にレイズの機会をわざわざ与えるほど強くないハンドです。
このようなオールインをした際にはハンドが透けるが、相手はそれをエクスプロイトすることはできない。
こういったオールインをした際にはハンドが透けますが、相手はそれをエクスプロイトすることはできません。もし相手がタイトなレンジでコールした場合、これらのハンドはコールされたときのパフォーマンスは低くなりますが、ショーダウンせずにポットを多く獲得できます。相手がより広いレンジでコールした場合は、フォールドによる利益は少なくなりますが、コールされた時のエクイティが大きくなります。
この戦略が間違っている可能性があるのは、BTNが全体的にタイトなレンジで最初からオープンしている場合です。その場合、利益を得られるのは自分の弱いレンジで、正しいアグレッションを持つBTNに本来スチールで失われていたポットを得ることができます。
オールインは選択肢のひとつ
このようなオールインの多くは混合戦略で、それより小さい3ベットやコールとEVは同じです。純粋戦略を取るハンドもありますが、EVは近くなっています。均衡時の88でのオールインは3.2BBのEVを持っていますが、それより小さい3ベットも3.15BBとなっています。AKoでの3ベットは5.68bbで、オールインのEVは5.59bbとなっています。
ここで重要なのは、全てのプレイヤーがぴったり40BBを持っている状況に出くわす可能性は低いので、頻度を固定して特定のハンドで無条件にオールインしてはいけないということです。それよりも、オールインがどのような状況で良いプレイになるのか、どうしてそれが良いプレイなのか、どんなハンドが最も適しているのかを理解することが重要です。
ソルバーが考慮しない重要な要素で、絶対に考慮すべきなのは、自分と相手とのスキルの差です。ポストフロップをOOPからプレイするのはどんな場面でも難しいですが、強い相手に対しては特に難しくなります。EVが近いこれらのハンドでは、たとえBBが均衡でオールインをしないとしても、相手が強い場合は有効な選択肢になることもあります。コールや3ベットのEVはフロップ以降でエクイティを上手く実現できるかどうかに大きく左右されるので、その自信がない時はオールインが有力な選択になり得ます。
その他の重要な考慮点としては、BTNのオープンの広さと、レイズ額です。先ほど述べたように、こういったハンドでのオールインのEVは、BTNがオールインに対してどのように反応するかよりも、最初に相手がどの程度広くオープンしているかによって決まります。66のようなハンドでのオールインは、いわば現行犯逮捕をしようとしているようなものです。相手が66より良いハンドを持っていることはあまりないので、オールインがどんなにコールされようが、悪いハンドでフォールドされようが、自分のオールインは+EVです。
BTNのオープンサイズが変わると、戦略にも大きな違いが出てきます。レイズが小さいほどポットオッズが良くなり、比較的コールが優勢になります。以下は9人テーブルでBTNが2.3BBではなく2.1BBでオープンした場合のチップEVのシミュレーションです。
BTNのレイズ額が少し変わるだけで、BBのオールイン頻度は半分以下になります。とはいえ、EVに大きな差はなく、候補となるハンドも同じです。均衡ではオールインとなっていないペアも含めた88以下のペアはすべてオールイン可能です。55をオールインした場合のEVは1.75bbで、これに対して3ベットのEVは1.78bbとなっています。
ICMを考慮する
以下は先ほどと同じシナリオをICMモデルで解析したものです。ここでは参加者のうち25%が残っています。
オールインはすべてなくなりました。先ほどオールインしていたハンドのほとんどが、コールの方がプレイしやすくなっています。この結果はICMの特徴を反映しています。チップEVモデルがすべてのチップを等しく価値あるものとして扱うのに対し、ICMは生き残ることを重視し、自分のスタックに追加されたチップは、既に持っているチップよりわずかに価値が低いものとして扱います。従って、ICMプレッシャーが増すと、BTNがオールインにフォールドしたときに5bbを獲得するメリットが減り、BTNがコールして自分が負けた時に失うものが大きくなります。
ICMは生き残ることを重視し、自分のスタックに追加されたチップは、既に持っているチップよりわずかに価値が低いものとして扱う。
EVはチップEVの場合ほど近くはありません。均衡では、スモールペアのオールインはコールより約20%EVが悪く、オールインが正しくなるには相手がかなり大きくGTOから逸脱している必要があります。トーナメントが進んでICMのプレッシャーが高まるにつれて、BTNのオープンレンジがタイトになっていることも要因の一つです。BTNも同じくチップを増やすことよりも保ち続けることを重視しています。
以下のグラフは、トーナメントが進むにつれて、BTNオープンに対するBBのレンジがどのように変化するかを示しています。
トーナメントにおいてチップEVは最初のハンドですら正確ではなく、バブルが近づくにつれ、オールインがBBの戦略から失われていきます。バブルに近づくにつれ、オールインは3ベットになり、3ベットはコールになり、コールはフォールドになります。
興味深いのは、BBの強いハンドが3ベットからコールに変わっていくにつれて、BBのフォールド頻度が少なくなっていくことです。強いハンドがコールレンジに入ることで、BTNはフロップ以降にアグレッシブにプレイしにくくなり、BBがよりアグレッシブな3ベット戦略を取っていた時にはフォールドしていたハンドでもエクイティが実現しやすくなったのです。
SBの場合
同じような傾向はSBにも見られ、BTNオープンに対する40bbのオールインはチップEVモデルが使われなくなり、ICMの要素が強くなるにつれて減少しています。
次の表は、40BBでのBTNオープンに対するSBの戦略をトーナメントフェーズ別に示したものです。
スタックが浅い場合
スタックが30BBの場合は、オールインのリスクとリターンの比率がより有利になるため、バブル間際までBBはBTNに対してオールインします。それでも、トーナメントが進むにつれ、オールイン戦略はより保守的になります。
次の表は、30BBでのBTNオープンに対するBBの戦略をトーナメントフェーズ別に示したものです。
トーナメントが進むにつれて、BBのオールインレンジにも面白い変化が見られます。ミディアムペアはコールが良くなっていきますが、KsとQsは少しアグレッシブにオールインするようになります。以下は、参加者の25%が残っている場合と50%が残っている場合の30BBのBTNオープンに対するBBのレンジを比較しています。
これは以下のオールインに対するBTNのコールレンジの変化に対応したためです。BTNがK♠やスモールペアをフォールドするようになると、BBはミディアムペアをオールインするメリットが減り、K♠をオールインするメリットが増えます。
スクイーズ
SBがBTNのオープンをコールした後のBBのオールイン戦略もほぼ同じです。より多くのチップと3人目のプレイヤーがポットに入るため、オールインはバブルの直前まで残ります。しかし、トーナメントが進むにつれて、BBはヘッズアップと同じように、オールインから3ベットに変えていきます。
バブルにおけるBBのオールイン頻度は参加者の25%が残っている場合よりも少し高くなります。これはBBがオールインにより弱いハンドが含まれるようになったからではなく、3ベットの頻度がバブルは最も低くなるためです。むしろ、TT、JJ、AKoは、トーナメントの序盤では小さいスクイーズで相手のレイズを期待しますが、バブルではオールインすることでレイズのリスクを少なくしてポットを取る方が良くなります。
また、ヘッズアップでのBBのフォールド頻度は、コールレンジに強いハンドが含まれているおかげでバブルでは下がるものの、SBがコールしてる場合は上がり続けるというのも面白い結果となっています。マルチウェイポットはICMの影響が非常に強くなります。ポットオッズが良いということは、BBが勝てばより大きなポットを獲得できますが、ポット内のプレイヤーが多ければ勝つことは難しくなるということです。ICMによってBBはより多くのチップを獲得するより、今持っているチップを守ることを重視するようになります。
まとめ
ICMはリスクに重みを与えます。バブルに近づけば近づくほど、チップを節約し、飛ばされかねない状況を避ける必要があります。その結果、トーナメントが進むにつれて、レイトポジションでのスチール以外の大きなオールインは好まれなくなります。スタックが浅い時やポットに3人のプレイヤーが入る場合は、オールインをする際はより強いハンドを使います。AKoやJJのような強いハンドは、レイズを誘うために3ベットをするハイリスクハイリターンの戦略よりも、より小さなポットをより少ないリスクで勝つためにオールインをするようになります。