多くのプロポーカープレイヤーは、スタックが大きいほど有利になるにも関わらず、なぜトーナメントに遅れて参加するのでしょうか。実は遅れて参加することで、ICMエクイティを多く獲得することができます。この記事では、トーナメントのほとんどでレイトレジストが利益的になる理由を説明します。
レイトレジストは有利になるのでしょうか
ポーカー界ではかなり以前から議論されており、多くのプレイヤーは、平均より浅いスタックでトーナメントに参加することは非常に不利だと考えています。しかし、トーナメントに参加できる時間を延ばすことはプロに有利になりすぎると考える人もいます。これはありがたいことに数字で示すことができます。しかし、レイトレジストが多くのトーナメント形式、特に標準的な賞金ストラクチャーを持つ非バウンティトーナメントで利益を生むことは否定できません。
参加しなくてもエクイティを獲得できる
なぜレイトレジストが有益な戦略なのかを説明するのに役立つICMの基本を説明します。以下は$450/$300/$150の賞金がもらえる9人の$100SNGです。
ご覧のように、この(レーキがない)トイゲームの例では、SNGの開始時、全員のバイイン額と同じエクイティ(100ドル)を持っています。
SBがオールインし、BBがコールしたとします。BBが勝ち、SBが負けたとします。エクイティは以下のように変わります。
勝ったプレイヤーのチップは倍になりましたが、エクイティは倍になっていません。$100のエクイティを賭けたにも関わらず、$83.33のエクイティしか獲得していません。残りの$16.67のエクイティはプリフロップでフォールドした他のプレイヤーに等しく分配されています。これは、ICMの鉄則です。エクイティという点では、常に得られる以上のリスクを負うことになります。トーナメントがキャッシュゲームよりタイトなのはこれが原因です。
この例はまた、ICMのもう1つの重要な事実を浮き彫りにしています。
何もしないことで、他の7人のプレイヤーのエクイティは2.38%増加したことになります。もちろん、ファイナルテーブルのように、脱落するたびに賞金が跳ね上がるような、極端でより具体的な例もありますが、ほとんどのプレイヤーはトーナメントの開始時にもこのようなことが起こっていることに気づいていません。
レイトレジストは、トーナメントに参加しないことでエクイティが増えることを利用する方法です。
フォールドすることでエクイティが得られるのであれば、テーブルにいないことでさらにエクイティが得られるのは当然です。遅れて参加することで、より賞金に近いところから始めることができます。それを数字で表してみます。
トーナメントは遅れて参加するべきか
レイトレジストの利点を説明するために、別の例を見てみます。上記のSNGで4人のプレイヤーが脱落し、その時点でSNGに参加したとします。下記の図は、参加する前のスタックとエクイティです。
そして、参加後は以下のようになります。
賞金総額が増えたのは、参加費の$100が追加されたためです。次に注目すべきは、自分の現在のエクイティが110.90ドルであることです。つまり、途中から参加しただけで、$10.90を獲得したことになります。ポーカーにおいて、何もせずに勝率を10.9%も上げられる機会はほとんどありません。
1位のプレイヤーを除いて、他のプレイヤーはエクイティが少し減っています。自分が遅れて参加したことでエクイティが増えたように、他のプレイヤーは時間通りに参加したことで損をしています。
SNGでは計算が簡単で説明しやすいですが、マルチテーブルトーナメントでは、計算は非常に複雑になります。それでも、このトイゲームの例を使って、MTTについての大まかな仮定を立てることはできます。
賞金の構造がもっと平坦な場合はどうなるでしょうか。賞金をもらえるプレイヤーを3人から4人に変更します。
より平坦な賞金の構造では、プレイする前にエクイティが22.35%増えます。つまり、100ドルのバイインは122.35ドルの価値があることになります。
上のシナリオと違い、4位以上のプレイヤーは同じ賞金を手にするサテライトのような構造で、遅れて参加したらどうなるでしょうか。
この構造では、エクイティは29.76%増加します。この効果は、賞金の構造が平坦であればあるほどより顕著になります。
賞金の構造が平坦であればあるほど、上位の賞金を狙う必要はなくなり、インマネを優先するようになります。
ICMの観点からは、バブル付近でトーナメントに参加する方が有利です。
トーナメントの大きさが変わると、どのような影響を与えるのでしょうか。通常のMTTの賞金の構造で、27人で開始し、残り10人になった際に参加する場合を考えてみます。以下が参加する前の状況です。
参加した後は以下のような状況になります。
プレイする前に$31.48のエクイティを得たことになります。この例では他のプレイヤーと比べてチップは少ないですが、エクイティは大幅に増えています。ICMの計算では、遅れて参加すると、優勝する確率は減りますが、より多くの賞金を獲得することができます。
ショートスタックでプレイする
レイトレジストがよくない最大の理由は、平均より少ないスタックで参加することです。少ないスタックではあまりプレイできず、参加後すぐにオールインしなければなりません。大きなエッジを得られない20BBのスタックで入ったり、すぐにオールインになることはあまり嬉しくありません。
ここでは頻度のバイアスがあります。少ないスタックで遅れて参加すると、すぐに敗退となる可能性があります。これはトーナメントの性質上仕方のないことです。確かに、20BBでは100BBのように弱いプレイヤーをエクスプロイトすることは難しいですが、少ないスタックにもメリットはあります。
SPRが低いので、スタックが浅い方がプレイしやすい。
もしペアができたらオールインまでいくことが多く、できなかったら降りるしかありません。上手いプレイヤーが多くても、遅れて参加することで彼らが有利になることは少なく、多くのテーブルでプレイすれば、決断はより簡単になります。一般的に言って、スタックが浅い方が、より多くのハンドをプレイできます。リスクとなるトーナメントエクイティが少なくなり、獲得したポットがスタックの大部分になるため、より多くのハンドでプレイすることになります。一般的にショートスタックは中程度の大きさのスタックよりもICMプレッシャーが少なく(バブル時を除く)なります。
下記の図は、COの10BB ChipEVにおけるオープンレンジです。
7BBの際のオープンレンジです。
5BBの際のオープンレンジです。
ご覧のように、COのスタックが小さくなるにつれて、レンジは広くなります。スタックが浅くなればなるほど、より多くのハンドが利益を生むようになります。なぜなら、すでにポットにあるお金がCOのスタックの大部分を占めるようになるからです。ポットを取ると、最初の例ではCOのスタックは25%増えるのに対し、最後の例では50%増えます。また、スタックが浅くなるにつれてオールインが増えますが、これは浅いスタックの方がプレイしやすいということを裏付けています。
このトイゲームの例は完璧ではなく、すべてのシナリオで100%再現できるものでもないですが、大まかなポイントを示しています。スタックが深いほどレンジが広くなり、スーテッドコネクターのような投機的なハンドが利益を上げやすくなります。これらの例はICMを考慮していません。遅れて参加する時はICMが大きく関わってきます。ショートスタックのプレイヤーは、より大きなスタックからのフォールドエクイティを活用できるため、レンジがさらに広がることもあります(中程度のスタックのプレイヤーは、より大きなスタックが背後から何かしてくるのを恐れて、ショートスタックのオールインにコールできなくなります)。
レイトレジストのもう1つのメリットは、時給がアップすることです。トーナメントを2時間短縮できれば、時給はすぐに上がります。そしてより多くのトーナメントに出場できるようになります。直感に反するように聞こえるかもしれないですが、トーナメントに遅れて参加し、すぐに飛ぶことは、より多くのトーナメントに参加できることを意味するので、勝てるプレイヤーにとっては嬉しいことです。最初から参加し、2時間プレイして、レイトレジスト終了と同時に飛ぶよりもずっと良いでしょう。
バウンティトーナメント
PKOに遅れて参加したり、リバイするようなことはよくありません。バウンティを獲得できずに飛んでしまうと少なくともバイインの25%を賞金総額から失うことになり、参加が遅れれば遅れるほど、エントリーした人数の割に賞金総額は少なくなります。
PKOでは、ICMのルールである「常にエクイティを得るよりも失う方が多い」は正しくありません。PKOでは多くの場合、すぐにバウンティを獲得できることと、スタックが大きくなったことによる将来獲得できるバウンティ、さらにトーナメントで優勝した場合の賞金があるため、リスクよりもエクイティを多く得ることができます。
バウンティを逃した場合は、追加でレーキを支払ったと考えてください。
ただし、ミステリーバウンティだけは例外です。ミステリーバウンティーの開始時にバウンティを獲得することはできず、バウンティ獲得期間は通常、3分の2のプレイヤーが脱落した2日目から始まります。運営者は、バイインに比べてバウンティを大きくするために、このようにイベントを構成しています。ミステリーバウンティートーナメントの2日目に近いほど、より大きなバウンティを獲得することができ、運が良ければ非常に大きなバウンティを獲得できる可能性があります。
プレイヤー数100人の参加費$100のPKOでは、プレイヤーが1人脱落するごとに$0.25のレーキを追加で支払わなければなりません($25のバウンティを100人で割った額)。トーナメント開始間際に参加し、数人のプレイヤーしか飛んでいない場合はそれほど問題にはなりませんが、ギリギリに参加した場合は最悪でしょう。通常のトーナメントで時間通りに来た人たちからエクイティを得るのと同じように、遅れて参加した場合、PKOでは最初からいるプレイヤーは遅れて来たプレイヤーたちからエクイティを得ることができます。
まとめ
レイトレジストレーションの議論で興味深いのは、多くのプレイヤーがレクリエーションプレイヤーにとって不公平であると主張していることです。負け組プレイヤーでも、遅れてトーナメントに参加すれば、収支がとんとんかプラスになったり、勝ち組プレイヤーになったりするかもしれません。
100BBのスタックに比べ、20BBのスタックでは差が出にくいので、彼らにとって浅いスタックで参加することは有利でしょう。レイトレジストをするのであれば、スタックが小さい時のレンジをもっと練習するべきです。
これは、レイトレジストがまったく簡単な戦略だということではありません。分散が大きく、早い段階で飛んでしまうことも多々あります。特に、旅先でのライブトーナメントに遅れて参加した場合は精神的に厳しいでしょう。レイトレジストには、強いリスク耐性と、分散に対する深い理解が必要です。
レイトレジストは紛れもなく有益ですが、楽しむためにポーカーをプレイしたり、多くのハンドをプレイしたい方には向かないかもしれません。もしあなたが時給を最大にしたいのであれば、レイトレジストは毎セッションで行う最も有益な決断でしょう。
要点
- 参加していなくても、トーナメントでエクイティを獲得することができます。
- 遅れて参加すると、より賞金に近いところからスタートすることになり、先に飛んだプレイヤーからエクイティを得ることになります。
- より平坦な賞金の構造では、より多くのエクイティを得ることができます。
- より大きなトーナメントに参加することで、より多くのエクイティを得ることができます。
- 遅れて参加した場合、トーナメントの優勝確率は下がりますが、全体としてはより多くの賞金を獲得することができます。
- スタックは浅い方がプレイしやすいです。
- 参加が遅れると、プレイ時間が短くなり、より多くのトーナメントに参加できるようになります。
- PKOトーナメントに遅れて参加するのは悪手ですが、ミステリーバウンティに遅れて参加するのは妙手です。