バブルとFTバブルの違い
バブルは、どれも同じなのでしょうか?参加人数の少ないトーナメントと多いトーナメントのバブル、あるいはFTバブルでは、どの状況でより慎重にプレイするべきでしょうか?トーナメントの規模や構成によっても違いはあるのでしょうか?
バブルごとの違いを理解するのに役立つため、これまでICMについて書いたいくつかの記事でも以下の画像を紹介してきました。PokerStarsの看板イベントであるサンデートーナメント「Sunday Million」で、各ステージにおける平均的なプレイヤーのバブルファクターを示したグラフです。約20年前に出版された書籍『Kill Everyone』(2007年)から引用しています。
グラフで最も目立つのは、平均バブルファクターがインマネ直前のバブルで最初のピークを迎え、ファイナルテーブル直前のバブルでもう一度ピークを迎えることです。いずれもプレイヤーが脱落するたびに急激に低下します。ファイナルテーブル直前のバブルの方がインマネ直前のバブルより極端になることを意外に感じる人もいますが、ファイナルテーブルへ進めばトーナメント最大のプライズを狙えるためです。
このグラフを見ると、インマネ直前のバブル(以下、バブル)とファイナルテーブル直前のバブル(以下、FTバブル)の戦略は同じだと考えるかもしれません。しかし、実際には同じではありません。MTTで重要なこの2つのバブルには、大きな違いがあります。
インマネ
トーナメントで順位に応じた賞金を獲得することです。「キャッシュを獲得した」とも表現し、ITMと略します。
ファイナルテーブル
トーナメントで最後に残ったテーブルです。FTと略します。
ショートスタックのICMプレッシャーは、バブルで最も大きくなります。
ショートスタックのICMプレッシャーは、FTバブルで最も小さくなります。
同じチップ分布、異なるバブル
とあるスポットを見てみます。どちらもチップ分布は同じです。テーブルのスタックサイズは以下のとおりです。
さまざまなスタックサイズがあります。後ろの3ポジションに注目すると、BTNは9bbのショートスタック、SBは21bbのミドルスタック、BBは44bbのビッグスタックです。
まず、トーナメントのステージ=バブルとしたこのスポットのバブルファクターを見てみましょう。
バブルファクター表は、ショート、ミドル、ビッグの各スタックに該当する後ろの3ポジションだけに絞っています。
表を1行ずつ読み解いていきます。
- 最小スタック:BTNには極めて大きなICMプレッシャーがかかっています。相手が誰でもバブルファクターは2.06で変わりません。ポットに参加し、スタックを全てかけるには、17.3%高いエクイティが必要です。
- ミドルスタック:SBにもある程度のICMプレッシャーがあり、相手からカバーされている場合はさらに大きくなります。カバーされている場合のバブルファクターは1.8ですが、BTNに対しては1.12まで下がります。
- 最大スタック:BBにはICMプレッシャーがほとんどかかりません。BTNに対しては1.04で、ほぼチップEVと同じです。2番手のチップリーダーであるUTGに対しても1.21と、かなり低くなっています。
次に、チップ分布は同じまま、トーナメントのステージ=FTバブルとしたスポットのバブルファクターを確認します。
続いて、2つ目の表を分析します。
- 最小スタック:BTNにかかるICMプレッシャーは、極めて大きい状態からごく小さい状態へ変わりました。バブルファクターの最大値は1.18で、前の例のチップリーダーとほぼ同じ低さです。
- ミドルスタックと最大スタック:ICMプレッシャーはミドルスタックとビッグスタックに移りました。バブルでショートスタックにかかっていたほど大きくはありませんが、FTバブルでショートスタックにかかるプレッシャーよりはるかに大きくなっています。
- 最大スタック:最も高いバブルファクターは、BB vs UTGとなるチップリーダー vs 2番手のチップリーダーのスポットです。チップリーダーのBBが、2番手のUTGによるオールインをコールするには、9.1%高いエクイティが必要で、バブルファクターは1.44です。
- この違いは戦略にも表れています。まず、ITMバブルにおけるBTNのオープン戦略です。
同じスポットのFTバブルにおける戦略は以下のとおりです。
BTNのレンジはほぼ2倍になりました。どちらのスポットでも最も飛ぶリスクが高いのはBTNですが、FTバブルよりバブルの方が生き残る価値は高くなります。FTバブルでは、より上位のプライズを狙ってダブルアップし、優勝争いへ戻るために、相対的に大胆な戦略を取ります。もう一度「優勝を狙う」こともできます。
ショートスタックはミニマムキャッシュを優先する
トーナメントのシミュレーション
この違いが生じる理由を示すため、HoldemResources Calculatorの無料ツール「MTT ICM Calculator」を使ってトーナメントをシミュレーションしました。賞金構造は、GTO Wizardのソリューションライブラリにある参加者1,000人のICMシミュレーションを基にしています。計算を簡単にするため、レーキなしの$100バイイン、$100,000のプライズプールとし、その15.19%($15,190)を優勝者へ割り当てました。
バブルのシミュレーション
参加者の上位15%にあたる150人が入賞します。さまざまなスタックサイズがあるバブルをシミュレーションしました。計算結果はこちらで確認できます。
- この例で最もショートのプレイヤーのスタックは、初期スタックと同じです。
- トーナメントエクイティは$281.16で、このトーナメントのミニマムキャッシュは$200です。
- ダブルアップすると初期スタック2つ分となり、トーナメントエクイティは$374.32になります。
- $281.16をリスクにさらして得られるのは$93.16だけです。言い換えると、エクイティの増加率は33%にとどまります。
- 平均スタックは初期スタックの7倍弱で、$722.24の価値があります。
- ダブルアップすると初期スタックの14倍となり、エクイティは$1,126.33になります。
- $722.24をリスクにさらして$404.09を得るため、エクイティは56%増加します。
- ビッグスタックは初期スタックの20倍で、$1,440.36の価値があります。
- ダブルアップして初期スタックの40倍になると、エクイティは$2,374.70になります。
- $1,440.36のエクイティをリスクにさらして$934.34を得るため、エクイティは65%増加します。
バブルでは、スタックが大きいほどダブルアップによって増える相対的なトーナメントエクイティも大きくなります。
トーナメントエクイティの読み解き方
ICMの計算では、最初に各プレイヤーの優勝確率を推定します。この確率は、そのプレイヤーがトーナメント全体のチップを何%持っているかに基づいて算出します。
最もショートのプレイヤーが持つチップは全体の0.10%で、トーナメントの優勝確率も0.10%です。大きなプライズを獲得できる可能性が極めて低いため、トーナメントエクイティの大半をミニマムキャッシュが占めています。ダブルアップしても優勝やファイナルテーブル進出の確率はあまり上がらないため、生き残ることが最優先です。
一方、ビッグスタックがダブルアップすると、トーナメント全体のチップの4%を持つことになります。残り151人の段階なら、上位へ進出してさらに大きなプライズを獲得できる可能性が大幅に高まります。
バブルでは2人のビッグスタックが衝突を避けるべきだという一般的な考え方に反する結果です。実際のお金で見ると、ビッグスタックにはミニマムキャッシュにあたる$200の損失が生じる可能性があります。一方、ダブルアップすればトーナメントエクイティが$934.34増加する可能性があります。
ショートスタックはFT進出のためにより大きなリスクを取る
FTバブルのシミュレーション
同じトーナメントのFTバブルもシミュレーションしました。優勝賞金は$15,190、9位は$1,390、バブルボーイは$1,020です。
- ショートスタックには初期スタックの20倍を与えました。その価値は$2,307.75です。
- ダブルアップすると、エクイティは$3,386.60になります。
- $1,287.75(現在のエクイティ$2,307.75−確定している10位の賞金$1,020)をリスクにさらし、$2,366.60(新しいエクイティ$3,386.60−確定している10位の賞金$1,020)を得るため、エクイティは84%増える可能性があります。
- 平均スタックは初期スタックの100倍で、$5,704.72の価値があります。
- ダブルアップすると、エクイティは$8,126.77になります。
- $4,684.72(現在のエクイティ$5,704.72−確定している10位の賞金$1,020)をリスクにさらし、$7,106.77(新しいエクイティ$8,126.77−確定している10位の賞金$1,020)を得るため、エクイティは51%増える可能性があります。
- 2番手のチップリーダーは初期スタックの200倍を持ち、その価値は$8,126.77です。
- 初期スタックの222倍を持つチップリーダーと戦ってダブルアップすると、エクイティは$11,079.23になります。
- $7,106.77(現在のエクイティ$8,126.77−確定している10位の賞金$1,020)をリスクにさらし、$10,036(新しいエクイティ$11,079.23−確定している10位の賞金$1,020)を得るため、エクイティは41%増える可能性があります。
バブルとは逆の結果です。スタックが大きいほど、ダブルアップで増える相対的なトーナメントエクイティは小さくなります。
ファイナルテーブルではビッグスタックほど失うものが多い
なぜICMプレッシャーのかかり方がほぼ逆転するのでしょうか?
本質的な理由は、ミドルスタックとビッグスタックほど失うものが多いからです。
ミドルスタックのエクイティは$5,704.72で、ほぼ4位の賞金に相当します。無謀なプレイで飛べば、4位相当の賞金だけでなく、優勝、準優勝、3位などを獲得する可能性まで失います。
もう1つの大きな要因は、ビッグスタックが得られる上限が決まっていることです。どれだけチップを増やしても、優勝賞金の$15,190を超えるプライズは獲得できません。チップリーダーが全体の40%を持つとき、トーナメントエクイティは$11,079.23です。99%のチップを持たせても、エクイティは$15,147.43までしか増えません。大きなリスクを取るだけのメリットが少ないためです。
対照的に、ショートスタックにはダブルアップによって得られる大きなメリットがあります。すでに10位の賞金$1,020は確定しているため、その賞金を失うリスクはありません。ダブルアップできれば、エクイティは84%増えます。もちろん、ショートスタックにもICMプレッシャーはかかっています。ただし、より大きなスタックと比べれば「失うものはない」に近く、「得られるものはすべて」といえる状況です。
参加人数が少ない大会と多い大会のバブル
ここまでの説明がそのまま当てはまらないのは、参加人数の少ないトーナメントでバブルを迎える場合です。
次の2つのスポットでは、テーブルのチップ分布を同じ設定にしています。
参加人数がバブルファクターに与える影響
まず、参加者1,000人のトーナメントにおけるバブルです。150位まで入賞となり、バブルファクターは以下のとおりです。
次はチップ分布が同じで、参加者200人のトーナメントにおけるバブルです。30位まで入賞となります。
一見すると、かなり似ています。しかし、8bbのHJであるショートスタックを詳しく見ると違いがあります。参加者1,000人の例では、どの相手に対してもバブルファクターは2.04で、テーブル内の最高値です。参加者200人の例では、ほとんどのスポットで1.64まで下がります。
ミドルスタックは23bbのBTNです。バブルファクターの最大値は、参加者1,000人の例では1.7ですが、参加者200人の例では1.83まで上がり、テーブル内の最高値になります。
チップリーダーは32bbのUTGです。バブルファクターの最大値は、参加者1,000人の例では1.36、参加者200人の例では1.62です。
参加人数の少ない大会のバブルは、FTバブルにかなり近い状態になります。
実際の戦略では、ショートスタックがよりルーズにプレイできる一方、ミドルスタックとビッグスタックは慎重にプレイする必要があります。
この違いが生じるのは、バブルとFTバブルの距離が近いからです。参加人数の少ない大会では、大型MTTよりも全員がファイナルテーブルへ進める可能性が高くなります。そのため、ショートスタックのエクイティに占めるミニマムキャッシュの割合は小さくなります。
まとめ
バブルとFTバブルは、一般的なトーナメントでICMが最も強く影響する2つの状況です。プレッシャーの大きさは似ていますが、最も強く受けるプレイヤーが異なります。
バブル
バブルで最も大きなプレッシャーを受けるのはショートスタックです。ショートスタックにとって、インマネが現実的に狙える唯一の目標となる場合が多いためです。ビッグスタックはファイナルテーブル進出や上位のプライズを現実的に狙えるため、ミニマムキャッシュをそれほど重視する必要はありません。
FTバブル
FTバブルでは逆になります。ミドルスタックとビッグスタックは「すべて」を失う可能性がある一方、FTバブルで大きなリスクを取っても得られるメリットが小さいため、最も強いプレッシャーを受けます。一方、ショートスタックはリスクを取ることで大きなメリットを得られます。FTバブルでは、ショートスタックが得られるメリットがはるかに大きいからです。この点では、参加人数も重要です。バブルの時点で全員がファイナルテーブルに近いほど、戦略もFTバブルに近づきます。


















