EQR
エクイティとEV
ポーカーにおける「エクイティ」は、ショーダウンで相手のハンドやレンジに対して、そのハンドが平均してどのくらいポットを獲得できるかを表します。エクイティの利点は、他の多くのポーカーの評価基準と異なり、簡単かつ正確に計算できることです。もしそれ以上ベットがなかった場合、ハンドがポットの何割を獲得できるかを理解することで、そのハンドがどのような状況でどの程度の価値があるかを大まかに知ることができます。
しかし、「後のベットを考慮していない」というのは、大きな注意点です。ポーカーはベットがすべてです。エフェクティブスタックが深く、ベットの機会が多く残っていればいるほど、エクイティはハンドのEV(理論通りベットした場合に実際に得られる金額)を正確に表すことができません。
極端な例として、お互いオールインしたときのことを考えてみましょう。この時、5枚のカードを全て見ることができ、自分がフォールドする可能性も、相手がフォールドする可能性も、これ以上ポットが増える可能性もありません。この場合、後のベットを考慮していない、エクイティとEVにズレはありません
逆に、ノーリミットホールデムでのディープスタックのプリフロップを考えてみましょう。スタックはポットよりもはるかに大きく、ショーダウンまでにあと3回のストリートがあります。その結果、A6oやK2oのような比較的エクイティの高いハンドは、65sのようなエクイティの低いハンドよりもEVが低くなります。これを65sの方が「プレイアビリティが高い」と言います。
エクイティやEVがどういう概念か自信がない場合は、以下の記事を先にご覧ください。
EQR
EQRとはプレイアビリティを表したものです。特定の状況においてハンドがエクイティに対してどの程度のパフォーマンスが出せるかを示しています。EQRはパーセンテージで表され、EQRが100%より高い場合はエクイティを実現しやすく、EQRが100%より小さいハンドはエクイティを実現しにくくなります。
EQRを使うことで、エクイティとEVを紐づけることができます。ハンドエクイティにEQRとポットサイズを掛けるとEVになります。
Equity × EQR × pot = EV
EQRが高くなる場合
ハンドエクイティ以上にエクイティを実現するには以下の2つの方法があります。
- 勝てそうなポットにより多くのお金を入れる
多くの場合、ハンドが強い時にベットするという形で行われますが、ブラフや自分より弱い間違った相手の「バリューベット」をコールすることでも可能です。 - まくられる可能性のあるハンドをフォールドさせる
ブラフが代表的ですが、非常に強いハンドであっても、相手がフォールドすれば、EQRが高くなります。
簡単な例
プリフロップでAAを持っていて、相手は72oを持っているとします。ポットには100ドルが入っています。ここでAAのエクイティは88%(88ドル)です。そこで100ドルをオールインして相手がフォールドした場合、あなたは$100のポット全額を獲得することになり、これはエクイティの114%にあたります。
相手がコールすれば、より多くのチップを獲得できます。エクイティは88%で変わっていませんが、ポットは300ドルあるので、その88%つまり264ドルの価値があります。ベットした100ドルを差し引くと、平均164ドル得られることになります。つまりベットする前のエクイティの186%の価値があることになります。
いずれにせよ、エクイティを大きく実現することができます。強いハンドは、エクイティが高いだけでなく、ポットを大きくしたり、相手のエクイティを放棄させたりすることで、エクイティを大きく実現することができます。
ブラフ
一見すると直感に反しますが、「とても弱いハンドほど、意外と持っているエクイティ以上の結果を出しやすい」という傾向があります。もちろん、弱いハンドが“良い”わけではありません。ただ、もともとのエクイティがほぼ無いので、少しでも想定以上の結果が出れば「エクイティを多く実現した」ことになるだけです。例えば、リバーでのブラフのEVは、理論上はそこまで高くありません。上手い相手は、ブラフが大きく利益を生むほど頻繁にはフォールドしてくれないからです。とはいえ、ブラフに使うハンドはそもそもショーダウンで勝てる可能性がほとんどありません。だから、ほんの少しでもブラフでEVを回収できれば、ショーダウンでほぼ0に近いエクイティよりはずっとマシです。
EQRが低くなる場合
EQRの低いハンドは、中くらいの強さのハンドです。これはショーダウンで勝つ可能性は十分にあるが、バリューベットをするほど強くないハンドのことを指します。このことは、EQRがプレイアビリティ、つまり将来のベットの回数が増えることによって損得がどのように変わるか測るものであることを理解していれば納得できるはずです。強いハンドはポットを大きくすることで利益を得ます。弱いハンドはブラフから利益を得ます。ベットで苦しむのは中間のハンドです。なぜなら、より強いハンドに対してポットを膨らませることになったり、負けているハンドにフォールドするリスクがあるからです。
ハンドエクイティよりもエクイティが実現できない場合は以下の2パターンです。
- 勝てる見込みが低いポットに、さらにチップを入れなければならない状況 🎰📈
ポットオッズ的にはコールが正しくても、「もしチップを追加せずにショーダウンまで行ける方法があるなら、そのほうが絶対に良いよね」という話です。 -
ショーダウンで勝てる可能性があるのにフォールドしてしまうこと
ショーダウンで勝つ見込みが高いほど、フォールドしたときに失うエクイティは大きくなります。リバーで「1枚引けば勝てる」程度のハンドをフォールドしても、大きな損失にはなりません。どうせほとんど勝てなかったからです。しかし、相手のリバーブラフに対して“自分のほうが勝っているハンド”をフォールドしてしまった場合、そのミスは非常に高くつきます。その瞬間、勝てるはずだったポットを全て手放すことになるからです。
EQRを見積もる
EQRはハンドの絶対的な価値を測るものではありません。非常に弱いハンドはEQRが高いことがよくありますが、その場合EVは低いことを思い出しましょう。しかし、EQRと自分のエクイティの概算を組み合わせることで、自分のハンドの実際の価値と、そのハンドにチップを入れ続けるべきかどうかについての感覚を掴むことができます。
EQRは常に状況によって左右されます。ポジション、ボード、スタックサイズ、各プレイヤーのレンジの構成などによって大きく異なります。「A9oは悪いハンドである」と一概に言えないように「A9oはEQRが低い」と状況を見ずに言い切ることはできません。両プレイヤーが均衡戦略をとった場合の正確なEQRをソルバーは示してくれますが、実戦ではそんなことはめったに起こりません。プレイ中はEQRを予想することしかできないでしょう。以下に役に立ちそうな法則をいくつか記載します。
- OOPの場合どのハンドもEQRは低くなります。
- 後のストリートでバリューベットやブラフで利益を得ることが予想されるハンドはEQRが高くなります。ここにはその時点で既にベットに向いているハンドと、バリューベットできるほど強いハンドに将来的に変わる可能性のあるハンド、またブラフしやすいブロッカーを含むハンドが含まれます。
- 逆に、中程度の強さのドローは、中程度の強さのハンドと同じように、EQRが低くなります。これは役ができたとしても同じ問題が起こるためです。
- EQRは、自分と相手が後のストリートをいかにうまくプレイできるかで変わります。バリューベットやブラフの機会を逃すと、ソルバーが出すエクイティよりも低くなってしまいます。相手がそのような機会を逃したり、バリューベットにコールしすぎたり、ブラフに対してフォールドしすぎたりすると、ソルバー以上のエクイティを実現できます。
- レンジのほとんどが弱いハンドで構成されている場合、その中に少しだけある強いハンドがより多くのエクイティを実現します。同様に、レンジのほとんどが強いハンドで構成されている場合、数少ない弱いハンドがより多くのエクイティを実現します。
- 強いレンジがより多くのエクイティを実現するのは、より多くのフォールドエクイティを生み出すためです。弱いレンジは、降ろされることが多いため、エクイティを実現しにくくなります
OOPでのEQR
下の画像は、MTTにおけるHJ対BBの50BBのヘッズアップで、ボードがJ♥T♦9♥ の時のBBのEQRを表しています。法則1にあるようにこれらのハンドのほとんどはEQRが低くなっています。EQRが100%を超えているハンドを見て、なぜそのハンドがエクイティを実現しやすいのか考えてみてください。答えは画像の下にあります。
BBの強いハンドのほとんどはストレート、セット、ツーペアです。これはボトムツーペアや低いストレートと同じです。BBのレンジは広く、ほとんどが弱いため、数少ない強いハンドは、たとえそれがナッツでなかったとしても、全てエクイティを実現しやすくなります。弱いレンジは相手がアグレッシブになりやすいため、数少ない強いハンドはチップを獲得しやすくなっています。
ほとんどの♥フラッシュドローはエクイティを大きく実現しますが、極端に弱いドローはそうではありません。例えば3♥2♥のEQRは87%にとどまります。これは、弱いドローほどリバーに至るまでにフォールドさせられやすく、さらに完成しても上位のフラッシュに負けるリスクがあるためです。誤解しないでほしいのは、3♥2♥もフラッシュを完成させたときは確かにエクイティを大きく実現しているという点です。ただし、弱いドローは完成したときの見返り(リワード)が強いドローよりも小さいので、その他の多くの「エクイティを実現できない」場面を完全には補えません。
このボードではストレートドローはEQRが高くありません。ストレートのうち4枚がボードにあり、特にフラッシュの可能性もある場合、チップを大きく取るのは難しくなります。QJが100%以上のEQRを持つのはQ♥を持っているときだけで、その場合でもギリギリ100%を超える程度です。なお、QJ自体のエクイティは66%ほどあり、エクイティを実現しにくいハンドではあるものの悪いハンドではないということは覚えておいてください。
下のストレートドローはよりEQRが低くなります。ペアかつオープンエンドドローは普通は強いハンドですが、98のエクイティは25%以下となっています。このボードではボトムペアはあまり強くなく、4カードストレートの下のカードを引けても大して意味はありません。このハンドはナッツになる可能性がないため、インプライドオッズがほとんどありません。しかしバックドアフラッシュドローの存在は非常に大きく、EQRを50%近くまで引き上げます。これはフラッシュドローとしての価値だけでなく、ターンで♦が落ちると9♦8♦がセミブラフになったり、他の98コンボのエクイティを奪うことができるためです。
IPでのEQR
HJはポジションを持っている分、BBよりもエクイティをずっと効率的に実現できます。同じ状況で、両者のハンドがどのように機能するかを比較します。
HJはレンジ全体でEQRが高くなっています。IPは強いレンジを持っており、フォールドエクイティが高いため、IPの全てのハンドは、OOPの相手のハンドよりも高いパフォーマンスを出します。例えば、HJのA♦2♦はエクイティをほぼ100%を実現するのに対し、BBは2%以下です。これは、HJのレンジが強いため、非常に弱いハンドでもブラフができますが、BBはフロップでベットされるとフォールドしてしまうことがほとんどだからです。
EQRの活用方法
EQRとエクイティを組み合わせることで自らポットを大きくするべきかの判断を正確に下せるようになります。例えば、J♥T♦9♥のフロップで33%Cベットを打たれた時のBBのフォールドレンジを見てみましょう。
33%のポットベットではオッズは4:1になりますが、20%以上のエクイティあるハンドでもフォールドしています。
なぜでしょうか?🤔
BBはエクイティを実際には大きく下回って実現してしまう、つまりEQRが低くなると見込んでいるため、フォールドを選びます。実際、97oは約44%ものエクイティがあるにもかかわらずフォールドします。本来であれば、弱いペアや弱いストレートドロー、さらには一部のAハイでさえ、このベットがオールインであり、エクイティを確実に100%実現できるならコールして良いハンドです。しかし実戦ではこれらのハンドは、後のストリートでうまく立ち回れないことが多く、ショーダウンまでにベットを受けてフォールドさせられやすいため、フロップの段階でそのエクイティを手放さざるを得ません。
まとめ
EQRは、エクイティとEVの架け橋です。実戦ではこれらの値を正確に知ることはできませんが、自分のエクイティを見積り、この記事に基づいて、EQRの大きさを予測することでエクイティ単体で考えるよりも正確な判断ができるようになります。また、後にどんなカードが落ちればどういったアクションを取るべきかを考えることで、前もって戦略を立てられるようになるでしょう。











