ICM(インディペンデント・チップ・モデル)を使えば、トーナメントでの決断が金銭的に与える影響を明確に理解することができます。ICMは戦略を構築する上で重要で、タイトにプレイすべきかアグレッシブにプレイすべきかを知ることができます。残念ながらプレイ中にICMを計算することはできません。しかし、バブルファクターを使えば、トーナメントの各ステージで根拠に基づいた決断を下すことができます。バブルファクターはICMプレッシャーを測ります。バブルファクターとは、スタックされた時に失うトーナメントエクイティ($EV)を、他のプレイヤーをスタックした時に得られる$EVで割ったものです。実戦的な言い方をすれば、バブルファクターはトーナメントで誰を恐れ、誰をアグレッシブに狙うべきかを示しています。
バブルファクターとは
バブルファクターは、Lee Nelson、Steven L. Heston、Tysen Streibの3人が2009年に出版した画期的な書籍『Kill Everyone』で紹介されました。紹介された当初は一つの指標にすぎませんでしたが、ソルバー時代に復活を遂げました。
GTO Wizardは新しくバブルファクターを導入しました。MTTソリューションのICMソルバーで見ることができます。ソリューションセレクタの下にある「Bubble Factors」タブをクリックしてみてください。
この表は、テーブルのそれぞれのプレイヤーが他のプレイヤーと対戦した時のバブルファクターを示しています。バブルファクターは各マスの一番下にある数字で、オールインを受けた場合に、そのプレイヤーがどの程度タイトになるべきかを示しています。縦軸はオールインを受けたプレイヤー、横軸は相手を示しています。例えば、UTGのUTG1のオールインに対するバブルファクターは1.47です。バブルファクターが高いほど、そのプレイヤーはタイトにする必要があり、それは四角の色でも簡単に見分けられます。赤い四角は非常にタイトにプレイするべきで、緑の四角はChipEVに近くタイトにする必要はないことをを示しています。
バブルファクターの上にある%はリスクプレミアムを表しています。
バブルファクターは名前のせいでトーナメントのバブルの時だけ気にすべき指標だと誤解されることがあります。
これはICMでも一部のプレイヤーが「ICMが適用されるのはインマネの直前だけ」と誤解しているように、ICMとバブルファクターは、トーナメントの全てのステージで戦略に影響します。
バブルファクターはトーナメントのすべてのステージに影響する
バブルファクターの例
ICMの基本原則は、ポットを争った際、勝って得られるエクイティは、負けた際に失うエクイティほどないということです。MTTのペイアウトの仕組み上、エクイティはチップで得られる金額より少なくなります。100ドルバイインの10人のSNGで初期スタックが1000、ペイアウトは1位から$500/$300/$200のトイゲームを見てみましょう。ここにはレーキもアンティもなく、ブラインドは50/100です。
プレイ前に全員が100ドルのエクイティを持っているのは当たり前ですね。しかし、最初のハンドでSBとBBがオールインし、SBが負けたとしましょう。エクイティはどうなるでしょうか?
負けたプレイヤーのエクイティは100ドルから0ドルになりました。しかし、勝ったプレイヤーは100ドルのエクイティを得たのではなく、84.44ドルのエクイティを得ただけです。残りの15.56ドルは残りのプレイヤーに分配されています!他のプレイヤーは、チップを失うリスクを負うことなく、1.94ドルのエクイティを得ています。
勝ったプレイヤーは84.44ドルを得るために100ドルのリスクを負っており、トーナメントでは勝つことよりも負けることがいかに痛手かを示しています。もしこれがキャッシュゲームであれば、$100を獲得するために$100のリスクを負ったことになり、このような局面はチップEVのスポットと言います。この場合チップと金銭的価値は同じです。ペイアウトの仕組み上、トーナメントでリスク以上のエクイティを獲得することはできません(バウンティが絡む場合は除きます)。この例では、SNGであなたが1位になった場合、$1,000(10 x $100)を獲得することはできず、$500を獲得するだけです。
バブルファクターは、オールインをコールするために必要なエクイティをリスクとリターンを考慮したリアルマネーのエクイティに基づいて表します。バブルファクターの計算方法は以下の通りです。
負けた時に失う$EV / 勝った時に得られる$EV = バブルファクター
失う可能性のあるエクイティを得られる可能性のあるエクイティで割っています。先ほどあげた例だと以下のようになります。
$100 / $84.44 = 1.18
この例では、バブルファクターは1.18です。バブルファクターが分かれば、オールインをコールするのに必要なエクイティは次のような簡単な計算で求められます。
必要なエクイティ= バブルファクター / (バブルファクター + 1)
この例だと
1.18 / (1.18 + 1) = 54%
このトイゲームがキャッシュゲームであれば、50%のエクイティがあれば二人ともトントンになります。しかし、今回はトーナメントなので必要なエクイティは54%に上がります。これは、バブル以外でも、トーナメントにおける全ての判断でICMが重要な要素であることを示しています。
冒頭で挙げたバブルファクターの表を見ると、BB対UTGのバブルファクターは1.18、リスクプレミアムは+4.1%となっています。リスクプレミアムはコールをするために必要なチップEVのエクイティにどれだけのパーセンテージを上乗せするべきかを示しています。つまりバブルファクターもリスクプレミアムも結論は同じです。バブルファクターは、ゼロからコールするために必要なエクイティを示し、リスクプレミアムは、ChipEV計算を行った後、必要なエクイティにいくら追加するべきかを表しています。ほとんどの人はどちらか片方を使いますが、バブルファクターから何が学べるか、もう少し見てみましょう。
次に進む前に、テーブルでリアルタイムにバブルファクターを調べようとしないことが重要であることを強調しておきます。テーブルの外でGTO Wizardを使ってどのような要素がバブルファクターに影響を与えるか、またどのような法則があり戦略にどのように利用できるかを考える方がはるかに有益です。
バブルファクターに影響するもの
バブルファクターはICMプレッシャーを表した指標であり、以下の要素の影響を受けます。
- ペイアウトストラクチャー
- トーナメントステージ
- それぞれのスタックサイズ
ペイアウトストラクチャー
ペイアウトストラクチャーはバブルファクターに強く影響します。極端な例だと、1位総取りのトーナメントではバブルファクターは1になります。バブルファクターの影響を全く受けず、基本的に最初から最後までチップEV戦略です。もう一つの極端な例は、全てプライズが同価値であるサテライトトーナメントです。このようなトーナメントはオールオアナッシングで、キャッシュを得るか失うかのどちらかです。そのため、ICMプレッシャーが非常に大きく、プリフロップでAAをフォールドするのが正しい場合もあります。
PKOトーナメントでもバブルファクターは使えます。PKOトーナメントでは、バブルファクターが1を下回ることがありますが、これはカバーしているときにバウンティを獲得することでエクイティが追加されるためです。例えばこの表は、PKOトーナメントの最初のハンドでの各プレイヤーのバブルファクターを示しています。
バブルファクターは0.82で、オールインをコールするのに必要なエクイティは45%です。この負のリスクプレミアムはバウンティによるもので、チップEVよりも広いレンジでプレイすることを表しています。PKOの最初のハンドは、全てのプレイヤーが他の全てのプレイヤーのバウンティを獲得できる唯一の機会であり、それがコールレンジが広い理由です。PKOはバウンティがあるため、得るものより失うものの方が多いというトーナメントのルールの例外です。
Stage of the tournament
トーナメントステージもバブルファクターに影響します。ITMやファイナルテーブルに近づけば近づくほど、ICMプレッシャーは大きくなります。これを示すのに最適なのが、前述の本「Kill Everyone」に掲載されているこのグラフです。
これは、10,000人参加のサンデーミリオンの平均スタックの平均バブルファクターを表しています(2009年のトップヘビーペイアウトストラクチャーに基づいています)。
平均バブルファクターは低い値から始まり、バブルで1.6まで急上昇し、その後インマネするとかなり減少します。小さな山と谷がありますが、これはペイジャンプです。その後、ファイナルテーブルの前に1.7まで急上昇し、ヘッズアップになるまでそれほど急激ではありませんが再び下降します。ヘッズアップになると、ICMは当てはまらなくなりバブルファクターは1、つまりChipEVになります。
ファイナルテーブルのバブルは通常ICMプレッシャーが最も強くなりますが、ファイナルテーブルは賞金が高額になるので驚くことはありません。
それぞれのスタックサイズ
バブルファクターに影響する最後の要素であり、おそらく最も重要になるのは、自分のテーブルのスタックの分布です。ここまで平均的なバブルファクターについて見てきましたが、バブルファクターは自分のチップと相手のスタックによって大きく変わります。
全体感としては、
- チップリーダーのバブルファクターは低くなります。これは直感的に理解できます。チップリーダーは飛ばされるリスクが最も低いので、オールインを楽にコールすることができます。
- ショートスタックもバブルファクターが低い傾向があります。ショートは元々トーナメントエクイティを持っていないので、他のスタックとぶつかる時のリスクは少なくなります。
- ミディアムスタックはバブルファクターが最も高く、ショートスタックよりも先にバストするのは避けたいので、非常にタイトにプレイする必要があります。
GTO Wziardで具体例を見てみましょう。平均スタック25BBのファイナルテーブルです。
BBのチップリーダーは41BB、UTGも37BBのビッグスタック。中くらいのスタックは17~33BB、2人のショートスタックは共に14BB以下となっています。
テーブルのそれぞれプレイヤーのバブルファクターは以下の通りです。
BBのチップリーダーはバブルファクターが低く、最も低い場合は1.11とChipEVにかなり近くなっています。一番ショートのUTG1もバブルファクターは1.28があり、低くなっています。29BBのLJは中くらいのスタックで、楽に4位になれる可能性があるのに、飛ばされるのは最悪なため、バブルファクターは1.93があるほど高くなっています。
しかし、全てには当てはまりません。チップリーダーは相手がUTGの時はバブルファクターが1.85になり、ミディアムスタックのLJは相手がショートだと1.14になったりしています。
バブルファクターは相対的な指標です。自分のスタックサイズは全体的にバブルファクターに影響しますが、自分のスタックと相手のスタックとの相対的な差も同じぐらい影響します。
セカンドチップリーダー
37BBsでチップ量2位のUTGを見てみましょう。次のハンドで41BBのBBがプリフロップでフォールドすれば、このプレイヤーが事実上のチップリーダーになります。UTGは、自分が飛ばされることはないという確信を持って、安心して他のプレイヤーをいじめることができます。しかし、チップリーダーとポットを争うたびに飛ばされるリスクがあります。チップリーダーと絡むことはセカンドチップリーダーにとって非常にリスキーであり、バブルファクターは2.06です。チップリーダーのオールインをコールするには67%のエクイティが必要ですが、ショートスタックに対しては53%のエクイティしか必要ありません。
チップリーダー
チップリーダーもセカンドチップリーダーに対しては高いバブルファクターを持っています。飛ばされることはありませんが、セカンドチップリーダーに負けることは、なんとしても避けたいです。しかし、チップリーダーは他の中くらいのスタックやショートスタックに対して、より低いリスクプレミアムを持っています。
ショートスタック
一方、ショートスタックである9BBのUTG1は、相手にもよりますが、バブルファクターが1.28から1.4と低くなっています。ショートスタックはトーナメントエクイティが小さいので、一般的にリスクプレミアムが低くなります。バブルファクターにあまり差がないのは、負ければ全部毎回同じ結果、つまり飛ばされるからです。しかし、ショートスタックのバブルファクターが2番目のショートスタック、13BBのCOに対して最も低いのは面白く、バブルファクターは1.28となっています。
これは些細な違いですが、その理由を簡単に説明する価値があります。2番目のショートスタックにオールインで勝つ方が、他のプレイヤーよりも状況が良くなります。もしCOがこのハンドで負ければ、マイクロスタックになり脱落に近くなります。UTG1のスタックは18BB以上になり、もう一つ順位を上げれる可能性が非常に高くなります。チップリーダーに対するダブルアップは、それに比べれば有益とは言えません。
バブルファクターが戦略にどのように影響するか
バブルファクターからテーブルで誰を恐れ、誰をアグレッシブに狙うべきかの理解をどのように深めていけば良いか分かります。
バブルファクターは、オールインベットをコールするのに必要なエクイティを計算する場合に最も正確になります。ポストフロップで使うこともできますが、非常に複雑になります。それよりも、相手が自分に対してどのくらい慎重になるべきか、自分が相手に対してどの程度慎重になるべきか判断する尺度として使いましょう。これはプリフロップとポストフロップ、どちらの戦略にも当てはまります。
- 自分がビッグスタックを持っているなら、得られるものよりも失うものの方が大きいミディアムスタックをいじめることができます。ビッグスタック同士の対決は避けるべきです。ビックスタックを相手にするには、非常に強いハンドが必要です。また、ショートスタックもアクションがはっきりしているため、ビックスタックに対してはディフェンスが強くなるでしょう。
- 自分がミディアムスタックなら、ビッグスタックとミディアムスタックを避け、ショートスタックを少し狙うべきです。おそらく最も重要なことは、どの選択もはっきりしない「ICMの檻」の中にいることを認識することです。ミディアムスタックは「順位を少しでも上げる」戦略が最も重要です。
- ショートの場合はルーズにプレイすべきですが、他のショートスタックを積極的にターゲットにするべきです。他のショートスタックにICMプレッシャーをかけることができますし、オールインで勝てる可能性も高くなります。
まとめ
バブルファクターをプレイ中に急いで計算しようとしたり、普段の研究とは別に計算するのは、精神的リソースを無駄に消費します。GTO Wizardのバブルファクター機能を使って、バブルファクターとは何か、どのような要素がバブルファクターに影響するのかを理解する方がはるかに簡単で生産的です。
重要なポイント
GTO Wizardのバブルファクターで遊んでみましょう。異なるスタックサイズの組み合わせやトーナメントの異なるステージ、異なるペイアウトストラクチャーを比較してください。どこでICMプレッシャーをかけ、いつ生き残ることを優先するようになるか、すぐにパターンがつかめるでしょう。
- トーナメントでは常に、得るものよりも失うものの方が多くなります
- バブルファクターは、オールインをコールするために必要なエクイティを示します
- 必要なエクイティ = BF / (BF + 1)
- ペイアウトストラクチャー、トーナメントのステージ、チップスタックがバブルファクターに影響します
- バブルファクターは、マネーバブルとファイナルテーブルで最も高くなります。
- バブルファクターはスタックサイズによって異なります
- ビッグスタックは避け、ミディアムスタックを狙うべきです
- ミディアムスタックはビッグスタックとミディアムスタックを避けるべきです
- スモールスタックは全員を狙うべきですが、特に他のショートスタックを狙うべきです