ポーカーにおける、PKO(プログレッシブノックアウト)トーナメントとは、バイインの一部が各プレイヤーのバウンティに充てられるトーナメントの一種です。
PKOトーナメントでは、プレイヤーが他のプレイヤーを飛ばした場合、飛ばされたプレイヤーのバウンティの半分を受け取るのが一般的です。残りの半分のプライズは、他のプレイヤーが獲得できるように、自分に加算されます。スプリットポットで2人以上のプレイヤーが勝った場合、バウンティは全ての勝者に均等に分配されます。Pokerstarsのようなサイトでは、PKOトーナメントを開催し、プライズプールの⅔または全額をバウンティに充てている場合もあります。この記事では、標準的な50%バウンティの場合を扱います。
バウンティがあることで、戦略性が増します!PKOトーナメントでは、プレイヤーはただトーナメントを勝ち進むだけでなく、プレイヤーを飛ばしてバウンティを獲得する必要があるため、アクションが多くなる傾向があります。また、チップアドバンテージのあるプレイヤーは、チップEV以外のEVを稼ぐことができるため、ショートスタックに対してアグレッシブにプレイすることができます。
GTO Wizard のPKOソリューション
GTO WizardのPKOソリューションは以下のストラクチャーが基準となっています。
- プレイヤーは200人(1000人は近日公開予定)
- 200ドルバイイン:賞金プールに100ドル、バウンティプールに100ドル
- 各テーブル8人
- 0.125BBアンティ
トーナメントが始まったばかりのテーブルを見てみましょう。各プレイヤーは100BBでスタートします。
それぞれのプレイヤーは合計100ドルのバウンティでスタートします
- 飛ばしたプレイヤーは$50をすぐに獲得できます。
- 飛ばしたプレイヤーのバウンティに$50が加算されます。
GTO Wizardには、多くのトーナメントフェーズやさまざまなスタックサイズに対応するソリューションがあります。
しかし、これはまだ序盤です。トーナメント後半のステージや、ファイナルテーブルのスポット、より多くのバウンティの分配方法に対応するために、今後多くのPKOソリューションを追加する予定です。PKOトーナメントで起こりうるすべてのシナリオをモデル化することは不可能です。しかし、これらのソリューションを使えば、トーナメントではどのように戦略を変えるべきか、バウンティや自分よりスタックの大きいプレイヤーの存在が最適戦略にどのような影響を与えるかを研究することができます。このような普遍的な考え方を理解することは、特定のスポットでのソリューションの暗記よりも重要です。その理解があれば、変化する状況に適応し、トーナメントでより良い決断を下すことができるようになります。
ICMとチップEV
一般的に言われているように、チップEVはPKOトーナメントにおけるチップの価値を見積もる指標としては不十分です。古典的なチップEVの計算は、トーナメントでコントロール可能なチップの割合に依存しています。スタックの価値は次のような式で表すことができます。
チップEV = チップの割合(残りのバウンティープール + 残りのプライズプール)
ここでの「チップの割合」とは、トーナメントで自分が持っているチップの割合のことです。この単純な計算式は、自分がチップの10%を持っているなら、残りのプライズの10%を獲得できるはずだと仮定しているだけです。しかし、先ほどもお伝えした通り、この仮定には欠陥があります。ICMはトーナメントの早い段階であっても、大きく影響します。
ICMはトーナメント、特にPKOトーナメントでスタックの価値を決める正確な方法です。ICMの計算では、プレイヤーが1位、2位、3位などの順位になる頻度を考慮し、それに応じてチップの価値を調整します。さらに、ソルバーは、ICM、ポジション、ペイアウトストラクチャー、バウンティの分配、プレイヤーの戦略、プレイヤーのチップの額、ポストフロップのEQRなどその他多くの要素を組み込み、PKOトーナメントにおけるスタックの真の価値を見つけます。
このため、GTO WizardのPKOシミュレーションでは、トーナメントのすべての局面でICM計算を使用しています。シミュレーションはすべて、上記の要素を含んだスタックの正しい価値を元にしています。
バウンティパワー
多くのプレイヤーはバウンティを、スタックの少ない相手に勝った時の賞金という観点しか見ていません。しかし、これは正しい見方ではありません。自分がカバーしているプレイヤーに対してオールインする場合、自分のチップの価値に対するバウンティの価値を考慮する必要があります。バウンティとチップの換算係数は「バウンティパワー」と呼ばれます。PKOが強いプレイヤーは、この係数を使って1ドルのバウンティをチップの価値に換算します。
バウンティパワーは$1のバウンティの価値をBBに換算します。
ウィザードに表示されているバウンティの大きさに、バウンティパワーを掛けると、BBでのバウンティのおおよその価値がわかります。これをポットオッズの計算に加え、オールインできる境界線を探します。
バウンティパワー= プレイ中のチップの総量 / (残りのバウンティプール + 残りのプライズプール)
- プレイ中のチップの総量は、平均スタックに残りのプレイヤー数を掛けることで求められます。
- 残りのプライズプールは、スタート賞金プールから既に支払われた賞金を引くことで求められます。これはバブルの後に行われます。
- 残りのバウンティプールはここではシミュレーションで求めていますが、計算式を使っておおよその値を出すことも可能です。
スタート時点でのバウンティプール – ($50 x 飛ばされたプレイヤーの数)
これはチップEVに基づいているため、ICMの影響が強くなるとバウンティパワーの精度が低くなることは覚えておきましょう。
参加者200人の8maxPKO
自分で計算するよりも、表でトーナメントのステージごとのバウンティパワーを見る方が早いでしょう。以下は参加者200人の8maxPKOのソリューションのバウンティファクターです。
トーナメントが進行し、チップの価値が高くなるにつれ、バウンティの価値はBBの価値に対して減少しています。PKOの後半になると平均バウンティが増える傾向があるにもかかわらずです。
バウンティパワーをポットオッズの計算にどのように組み込むか見てみましょう。
PKOをプレイしていて、参加者の70%が残っているとします。このスポットを選んだのは、トーナメント序盤ではチップEVの計算を簡略化した方が正確なためです。平均スタックは50BB。自分はBBで69BB持っています。
BBをカバーしています。このオールインに対するポットオッズを計算してみましょう。標準的なポットオッズの計算式は簡単です。
コールに必要なエクイティ=コールに必要な額 / コールした後のポット
- コールに必要な額= 12BB
- コールした後のポット= 13 + 13 + 1.5 = 27.5BB
したがって、ポットオッズは12/27.5 = 43.6%となります。つまり、もしバウンティがなければ、これ以上のエクイティがあるハンドはコールできます。
PKOでは、この式の分母にバウンティの価値を加える必要があります。
コールに必要なエクイティ = コールに必要な額 / (コールした後のポット + (バウンティ × バウンティパワー))
- バウンティ = $50
- バウンティパワー = 7,018 / ($16,836 +$20,000) = 0.191
UTGの50ドルのバウンティは50 * 0.191 = 9.55BBに換算されます。これをプライズに加えます。
コールに必要なエクイティ= 12 / (27.5 + 9.55) = 32.4%
つまり、BBはUTGのオールインレンジに対して、最低このエクイティがあればどんなハンドでもコールできるということです。BBのエクイティは以下の通りです。
43%以上のエクイティを持つハンドは濃い緑で、32.4%以上のエクイティを持つハンドは薄い緑で表示されています。バウンティが絡むとオールイン可能なラインがこれだけ広がるのです!
参考までにICM、バウンティ、バンチングを考慮したBBのGTO戦略は以下の通りです。
エクイティが33%以上のハンドはコールしています。A4o、 A7o、Q7♠、54♠のような手はフォールドとコールの混合戦略をとっています。
PKOでのバブルファクター
PKOソリューションを正しく読むために、GTO Wizardでもう1つスポットをみてみます。
- 100人スタートで50%のプレイヤーが生き残っている
- 平均スタックは60BB
スタックとバウンティは以下の通りです。
初めにバブルファクターを調べてみましょう。バブルファクターは、MTTにおいて勝つことよりも負けることがどれだけ不味いかを示します。これは飛びたくないというプレッシャーを表した指標であり、ICMの影響があるスポットを理解するために重要な要素です。今回のシナリオのバブルファクターは以下の通りです。
PKOでは面白いことが起こります。バブルファクターが1未満になる場合があるのです。これは負のリスクプレミアムに相当します。チップEVをベースに計算する際は、バブルファクターは常に1になります。
- 正のリスクプレミアムは、勝った場合に比べて負けた場合の方がダメージを受ける場合を指します。
- 負のリスクプレミアムは、負けた場合に比べて勝った場合の方が得られるものが大きい場合を指します。
つまり、一部のポジションではチップEVよりも広くプレイできると言うことです。PKOのICMソリューションのリスクプレミアムは、PKOでない場合に比べて全体的に低くなります。
さて、このことは戦略にどう影響するのでしょうか。BTNまでフォールドで回ってきた局面をみてみましょう。BTNは36BBを持っていて、$50のバウンティがあります。2.1BBにオープンしました。
ここでのEVはドルベースではなく、エクイティが変化した割合です。AAの2.63という値は、BTNがこのハンドをオープンしたときに、EVが2.63%増加するということです。
SBのアクションです。SBはこのテーブルのチップリーダーで92BBを持っています。そのためBTNとBBの両方をカバーしています。このため、SBは幅広いハンドで強くアグレッシブにプレイできます。SBはより多くのバウンティを取るために多くのハンドでオールインします。
SBがアグレッシブな戦略を取るのは、このテーブルのチップリーダーであり、残りのプレイヤーをカバーするために必要なリスクがスタックの3分の1程度だからです。さらに、BTNとBBはICMの観点から慎重にプレーする必要があります。
これはバブルファクターにも反映されています。SBはBTNに対して-4.6%のリスクプレミアムを、BBに対しては-6.2%のリスクプレミアムを持っています。これは、SBが残りの2人のプレーヤーに対してポットにチップを入れやすいということです。
逆に、BTNとBBはともにプラスのリスクプレミアムを持っており、勝利よりも損失の方が大きいため、SBやお互いに対してより慎重にプレイする必要があることを示しています。
まとめ
- PKOにおけるスタックの価値は、自分のチップの割合を、残りのプライズ(バウンティ+通常のプライズ)で割ったものにほぼ等しくなります。
- 残りのプライズに対するプレイ中のチップ総額の比率は、バウンティの相対的な価値をチップをBBに換算するのに使われます。
- PKOを専門にしているプレイヤーは、バウンティパワーを使ってバウンティをチップに換算し、それをポットオッズの計算に追加して、オールインの境界線の目安にします。
- ノックアウトトーナメントでは、負のリスクプレミアムが生まれることがあります。バウンティが十分に大きく、相手をカバーしている場合、そのプレイヤーに対してスタックを失う損失よりも、勝った場合の利益が上回ることがあります。ほとんどのトーナメントでは正のリスクプレミアムがありますがそれとは対照的と言えるでしょう。