ナッツは必ずベットするべきなのか?
ポーカーは非常に複雑なゲームであり、上達を目指すプレイヤーには多様なスキルが求められます。その代表例としては、メンタルを安定させる自己管理能力、正確なハンドリーディング、そしてボードテクスチャに対しての理解などが挙げられます。しかし、より高度な戦略を追求するあまり、ナッツ級のハンドで最大限のバリューを引き出すといった基本を見落としてしまうことも少なくありません。
一般的に、ポーカーを学び始めたばかりの頃は、「強いハンドはベットするものだ」と教わります。しかし、より深く戦略を理解するにつれ、ゲームツリー上の特定のノードでは、ベットするよりもチェックした方がEVが高くなるケースがあることに気づくかと思います。
この記事では、強いハンドでもベットよりチェックの方が優れている、5つのシチュエーションについて分析していきます。
1) ナッツポテンシャル
このボードは、BBのレンジとよく絡んでいます。OOPのプレイヤーはナッツストレートとなる78oがレンジにありますが、IPのプレイヤーにはありません。そういった要因もあり、BTNはレンジのかなりの割合をチェックに回し(また、ナッツ級のハンドをそれほど持っていないことから)ベットする際は小さめのサイズをよく使います。
AAやKKのようなハンドは、エクイティだけを見れば強いですが、実際には77や88といったハンドの方が、より高頻度でベットされていることが分かります。
これにはいくつか理由があります。
- BBはプリフロップで強いオーバーペアの大半を3ベットするため、フロップ時点では77もAAも、BBのレンジに対して同じくらい優位な状態にあります。そのため、ポットを小さく保ちつつ、チェックレンジを強くする方が利益的になります。
- さらに、この場面でIPのオーバーペアは、相手のエクイティを否定するメリットをあまり受けられません。AAやKKをまくるようなハンドは、ほとんどないためです。
AAと77の違いを詳しく見ていくと、77はナッツをブロックしつつ、ナッツになる可能性があることが分かります。ストレートのアウツが8枚あり、セットやツーペアをまくる可能性があるうえ、BBからのアグレッシブなアクションに対しても耐えられます。フロップでチェックレイズされ、さらにターンでオーバーベットを打たれるような展開では、BTNのオーバーペアは非常に難しい状況に追い込まれます。そしてQQのようなハンドは、ほとんど利益がなくなってしまいます。
特に相手が多くの強いハンドを持ち得るスポットでは、ナッツになる可能性があるハンドを持っていることが、AAのようにエクイティ上は強いハンドよりも、高頻度でベットする大きな理由となります。
2) エクイティの否定
相手のエクイティを否定することでのメリットが少ない場合、強いハンドをチェックに回し、やや弱めのバリューハンドをベットするシチュエーションは、実戦でも頻繁に発生します。実際のスポットとともに確認してみます。BTNがオープン、SBが3ベット、BTNがコールします。
SBのレンジは、863ttというローカード中心のボードテクスチャとはあまり絡みません。ブロードウェイ系のハンドの多くは、このボードではミスしています。その結果、OOPのプレイヤーはレンジ全体でベットすることができず、かなりの割合でチェックをしなければいけません。チェックレンジが弱くなりすぎないようにするため、OOPはある程度強いハンドもチェックに含める必要があります。
66やAA、KKといったハンドは、相手のエクイティを否定することから得られるメリットがあまり大きくありません。一方で、強い8xや99、TT、JJといったハンドは、エクイティを否定することに大きな価値があります。SBがチェックし、BTNがチェックバックしたとしても、AAや66のようなハンドは、ターンカードを相手に与えてもそれほど悪くはありません。一方で、99や強い8xといったハンドは、2枚のオーバーカードを持つハンドをフォールドさせることは大きな価値があります。
ただし、プレミアムハンドをすべてチェックに回し、中程度の強さのハンドだけでベットするわけではありません。たとえば、77や弱い8xのようなハンドは、スタックを全て賭けるほどではないため、ベット頻度もそれに合わせて調整すべきです。
調整すべき場面
もし相手が非常にタイトで、IPからチェックバックしすぎるプレイヤーの場合、AAやKKのような強いハンドでチェックレイズする機会が得られません。そのような相手に対しては、こちらからベットした方が良いでしょう。
3) チェックレイズへの対応
すでに役が完成している強いハンドをチェックに回し、やや弱めのハンドをベットするという考え方は、ドローハンドにも当てはまります。
次のスポットを見てみましょう。COがオープン、BTNが3ベット、COがコールします。フロップでは、BTNの小さめのCベットをし、COがコールします。
この時点では、BTNが強いハンドを多く持っています。このような状況では、強いトップペア以上のハンドを軸に、ポットを大きくしながらリバーまでにスタックを入れ切れるような、ポラライズされたベットサイズを使うのが一般的です。
ブラフについては、フラッシュドローやストレートドローに加え、COのトップペアに対して1枚オーバーカードを持つAハイやKハイのようなハンドも使われます。ただし、すべてのドローハンドをベットするわけではありません。中にはチェックバックの方が適しているドローもあり、特にオールインされたくないハンドはその傾向が強くなります。
その代表例がK9sのクラブです。K♣9♣はフラッシュドローがある分、他のK9の組み合わせよりエクイティは高く、チェックバックする方が好まれます。フラッシュドローのないK9をベットしてオールインされても、ガットショットとして素直にフォールドできますが、K♣9♣をベットしてオールインされると、エクイティが多くあるにも関わらずフォールドとなってしまうので、非常に勿体無いプレイとなります。
ドローハンドをベットするかどうか判断する際は、常にベットしたら何が起こるのか考える癖を持ってください。
- レイズに対してコールできるか?オールインに対してはどうか?
- フォールドせざるを得ない場合、どれほどデメリットがあるのか?
- どれくらいのエクイティを放棄することになるのか?
こうした問いをその場で考えることで、早いストリート(フロップ、ターン)での判断を、より自信を持って正確に行えるようになります。
4) コールレンジをブロックしている場合
ここでは、これまで触れていなかったシチュエーションとして、相手のコールレンジを広くブロックしている場合を見ていきます。スロープレイが正しいケースと、そうでないケースについて、2つの例を用いて説明します。
これら2つのスポットには、どのような共通点があるのでしょうか。
どちらの状況でも、レンジは非常にポラライズされています。いずれもSRPで、ターン時点のSPRが大きい状況です。
では、これらはどこが異なるのでしょうか。
- Kハイボードはレインボー(スートが全て異なる)で、非常にドライです。
- Jハイボードには2つのフラッシュドローがあり、今後エクイティが大きくシフトする可能性があります。
また、スタティックなKハイボードにおけるトップセットは、2つのフラッシュドローがあるダイナミックなJハイボードでのトップセットよりも、エクイティが約4%高くなっています。
ここで、それぞれのスポットにおける最上位のハンド(例:AJ+)を見ると、SPRがまだ十分に残っている状況では、レンジ上位のハンドで積極的にベットし、ポットを大きくしていくのが一般的だと分かります。その例外となるのが、K27rのトップセットです。
この例から、次の2つの条件が揃うとき、ナッツ級のハンドでチェックすることが多くなることがわかります。
- 相手のコールレンジを強くブロックしている場合
- エクイティがあまりシフトせず、フリーカード(今回の場合はリバーカード)を与えてもそれほど弱くならない場合
この2つの理由について、もう少し詳しく確認します。
このような状況は、実質的にボードを「ロック」しているときに起こりやすくなります。
(1) フリーカードを与えても問題ない場合
ドライなKハイボード(レインボー)では、ドローがほとんど存在しません。このようなボードでは、相手がこちらをまくる可能性は低く、さらにKxのコールハンドを多くブロックしているため、ベットするとフォールドする可能性が高くなっています。そのため、相手にエクイティを実現させ、多少追いつかれる余地を与えつつ、弱いハンドをポットに残した方がよい状況です。
(2) チェックレイズ・オールインをされにくい場合
ここで、ターンでのBBのチェックレイズサイズをオールインに固定して考えてみると、重要な点が見えてきます。Kハイボードでは、BBがオールインしてくることはほとんどありません。さらに、小さめのレイズサイズであっても、その頻度はわずか2%強にとどまり、BBのアクションの大半は、コールかフォールドになります。これは、ドライなボードテクスチャでポラライズされた戦略に直面したときによく見られる傾向で、相手のブラフがこちらのレンジに対してほとんどエクイティを持たないためです。一方で、Jハイボードでは、BBは約6.5%の頻度でオールインしてきます。これは、Jハイボードの方がはるかにダイナミックであり、IP側のドローがより多くのエクイティを持っているため、エクイティを否定する価値も高くなるからです。
5) ポットを大きくする
最後に、私のお気に入りのスポットを紹介します。ここは見落とされがちな部分です。
BTNがポットの40%でCベットし、BBがコール。ターンはQ♥で、互いにチェック。リバーは7♠です。
ここでOOPのBBは、リバーで自分のレンジがどのようなアクションを取りたいのかを考える必要があります。この時点で、BBのバリューハンドは大きく2つのカテゴリーに分かれます。
- 88や99、Txのようなやや弱めのバリューハンドは、小さめのベットサイズを選ぶ傾向があります。
- Qx以上の強いバリューハンドは、基本的に大きめのサイズを選ぶ傾向があります
戦略を組み立てる際には、常にそれぞれのハンドのEVを最大化することを目指します。
トップペア以上に注目してみましょう
Qx以上の最強クラスのハンドがリバーでどのようにプレイされるかを見ていくと、2つの重要な傾向が見えてきます。
- トップペア(Qx)はほぼ常にオーバーベットを選択し、チェックや小さいベットはほとんどありません
- ツーペアやセット、ストレートといったとても強いハンドは、かなりの頻度でチェックも混ぜています
なぜ「ベストハンド」に分類される中でも、とても強いハンドは、その一段下のハンドよりもスロープレイされやすいのでしょうか。
1) トップペア
トップペアはこの場面では非常に強く、特にIPがターンをチェックバックした後では、より一層上の位置になります。Qのワンペアはこの時点で90%以上のエクイティを持っています。ただし、バリュー目的でチェックレイズを狙えるほどの強さがあるハンドクラスではありません。トップペアでチェックすると、相手は弱いペアをチェックバックしてくることが多くなります。また、相手がベットしてきたとしても、ターンでレンジがキャップされているため、オーバーベットになることはほとんどありません。つまり、Qxはチェックしてしまうとバリューを取り逃しやすく、大きめのベットでこちらからアクションした方が、はるかにEVが高くなります。
2) トップペアより強いハンド
ここで、ツーペア、セット、ストレートといったとても強いハンドについて考えてみましょう。これらのハンドは、小さめのオーバーベットでは取り切れない、より大きなバリューを引き出したいハンドです。では、どのようにしてポットをさらに大きくすればよいのでしょうか。
EVを最大化するための2つの選択肢
- さらに大きなオーバーベットを使う – 非常に大きなオーバーベットは、強いナッツアドバンテージがある場合に用いられることが多いですが、このスポットではBBにその優位性はありません。BTNには、ターンでチェックバックする可能性のある64sのようなハンドに加え、リバーで完成したツーペア、さらには77のようなハンドも一定数含まれています。その結果、BBの相対的なナッツアドバンテージは小さくなります。
- リバーでチェックレイズする – フロップのCベットにコールされ、ターンがチェックで回った後は、両者のレンジはまだ広く、比較的弱い状態にあります。この状況では、BTNはレンジのかなり広い部分でベットするインセンティブを持ちます。ナッツ級のハンドをチェックすることで、相手にアクションをする機会を与え、そこからチェックレイズを行うことで、より大きなポットを作ることができます。
この2つ目の選択肢には、主に2つのメリットがあります。
- とても強いハンドで最大限のバリューを引き出すチャンスを得られる
- チェックレンジが強化され、全体として相手にとってプレイしづらくなる
実践的なガイドライン
リバーでOOPになったときは、
- チェックレイズするほどではないものの、十分に強いハンドはベットする
- リバーでのベットに対して無理なくレイズできるナッツ級のハンドは、チェックも混ぜる
ただし、注意点もあります。すべてのナッツ級のハンドでチェックするわけではありません。たとえばQTのようなハンドは、相手のバリューベットハンドであるQxやTxを多くブロックしており、こちらがチェックした際に相手がベットしてくる可能性が低くなります。このようなケースでは、ポットを大きくする機会を逃すリスクが高いため、QTはこちらからベットした方がよいでしょう。
注意点
OOPでとても強いハンドを持っているとき、いつスロープレイすべきかには注意しなければなりません。OOPがフロップとターンの両方でベットし、そのままリバーを迎えるような状況では、OOPのレンジはナッツかエアーに大きくポラライズされていることが多くなります。そのようなスポットでは、IP側のレンジはブラフキャッチャーが中心になるため、チェックされたときにベットするインセンティブが小さくなります。その結果、リバーがチェック/チェックで終わる頻度が高くなり、とても強いハンドをベットしなかったことでバリューを取り逃してしまいます。
調整が必要なタイミング
ここまで見てきたように、特定のスポットでは、ナッツ級のハンドをチェックする方がEVが高くなることがよくあります。しかし、実際の対戦相手を前にしたときには、戦略を調整しなければなりません。その際に特に重要となるのが、IPのプレイヤーがどの程度ベットをするかです。
- 相手がチェックバックしすぎるタイプの場合、チェックレイズの機会を失ってしまうため、ナッツ級のハンドで大きなバリューを取り逃すことになる
- IPが広いレンジでベットしてくる場合は、とても強いハンドを多くチェックに回し、トラップとするべき
これを示すために、IPがベットしなさすぎるケースと、逆にベットしすぎるケースの2つを想定し、ノードロックしたシミュレーションを行います。この比較から、相手の傾向が自身の戦略にどれほど大きな影響を与えるかが分かります。
ハンド例: SB vs BB, SRP
フロップは両者チェックで回り、ターンではSBがポットベットし、BBがコールします。下記の画像は972 K3のボードにおける、SBのツーペア以上でのGTO戦略です。
最適な戦略は、相手の戦略次第で大きく変わります。相手がチェックバックしすぎている場合、とても強いハンドをチェックに回すべきではありません。相手がベットし過ぎている場合には、レンジ全体でチェックする調整が正しくなります。
適切な調整を行うために、次の2つの問いを自身に投げかけてください。
- 理論上、どのようなプレイをするべきか
相手が理論上(エクスプロイトされないように)どのようにプレイすべきかを理解することで、どこで理論から逸脱しているのかが分かります。 - どのようにすれば最大限エクスプロイトできるか
ここで役立つのが、ノードロック機能があるGTO Wizard AIです。相手の想定されるミスを反映するように戦略をノードロックすることで、その傾向にどのように調整してプレイすべきかを把握できます。
さまざまなプレイヤープロファイルを想定してノードロックを試すことで、ウィンレートを上げることができるでしょう。
まとめ
ここまで、かなり多くの情報を見てきました。 最後に重要なポイントを簡潔にまとめます。
(1) エクイティ上は強くても、特定のボードテクスチャでEVを伸ばしにくいハンドはチェックに回し、ナッツポテンシャルの高いやや弱めのハンドをベットする方が、単純にハンドの強さだけでベットするよりも良い結果につながることが多くあります。
(2) フロップでチェックレンジを構築する際には、多少弱くても、相手のエクイティを否定することによる恩恵が大きいハンドをベットした方が効果的な場合があります。ただし、しっかりとバリューベットできる強さがあることが前提です。
(3) チェックレイズをされたくないドローハンド、特に比較的エクイティの高いドローは、チェックバックを選ぶことが多くなります。一方で、エクイティを放棄しても問題のない弱めのドローは、よりアグレッシブにブラフとして使うことができます。
ドローハンドをベットするか考える際には、常に次の点を意識してください。
- オールインに対して、コールできるかどうか
- フォールドせざるを得ない場合、どれほどデメリットがあるのか
- どれくらいのエクイティを放棄することになるのか
(4) 相手のコールレンジを強くブロックしている場合、とても強いハンドをチェックに回すことが、最適な選択となるケースが多くあります。ただし、これはボードをほぼロックしている状況に限られ、フリーカードを与えてもリスクが小さいと考えられる場合です。
(5) OOPでナッツ級のハンドを使ってより大きなポットを作るためには、チェックレイズが有効な手段となります。特に、自分からベットするだけでは、ナッツ級のハンドで思うようにチップを入れられない場合に効果的です。リバーでベットされた場合でも無理なくレイズできるナッツ級のハンドは、戦略の中にチェックを組み込むようにしましょう。ただし、注意が必要です。こちらのレンジが強くポラライズされている場合や、タイト・パッシブな相手を前にしている場合、IPはあまりベットしてこない可能性があります。そのような状況では、強いハンドをチェックに回すと、リバーがチェックで回ってしまう頻度が高くなり、バリューを取り逃すリスクが大きくなります。












