インプライドオッズによって見落とされているもの
はじめに
ポーカーの戦略を学び始めた頃、多くの人はエクイティ、アウツ、ポットオッズといった概念を学んだかと思います。ドローを持っているとき、アウツを数えてエクイティを推定し、それに見合ったポットオッズが得られるかどうかでコールかフォールドかを判断する、そう学んだはずです。
実際に例を見ていきましょう。A♠K♥8♣5♦のボードで7♣6♣を持っているとします。ストレートのアウツは8枚、それを2倍してエクイティを約16%と推定し、相手のベットサイズから、5.25:1以上のオッズがあれば、コールするといったように。
しかしノーリミットでは、そんな小さなベットに出会うことはほとんどありません。そして、もう少し複雑な話があることに気づきます。たとえば$10ポットへの$10ベットに対しても、残りスタックが$50あって、ストレートが完成したリバーで毎回相手をスタックできると見込めるなら、8アウツのドローでコールできます。$10をリスクにかけて、すでにポットの$20と残りスタックの$50、合計$70を狙えるなら、実質的なオッズは$70:$10、つまり7:1となり、エクイティに必要な5.25:1を上回るからです。
もちろんテーブルで毎回こんな計算を正確にできるわけではありませんが、この概念を覚えると一気に応用することができます。プリフロップの段階から「インプライドオッズハンド」という発想で考え始めます。セットを作れれば大きなポットを取れるからと、スモールポケットペアでのコールをするようになり、ミディアムスーテッドコネクターでも、ストレートやフラッシュが完成した時の見返りを期待してレイズにコールするようになりました。
何が問題なのか?
「インプライドオッズ」という概念自体は間違っていません。しかし、粗すぎるのです。やがてそれはゲームを深く理解する際への障壁になっていきます。先ほどの例での暗黙の仮定を一つずつ検証してみましょう。
仮定1:ストレートが完成すれば必ずポットを取れる
この仮定に限っては正しいといえます。カウントしている8枚のアウツがすべてナッツになるアウツなので、それを引けば確実にポットを取れます。
もしボードにフラッシュドローがあったらどうでしょうか?そうなると8枚のうちナッツになるのは6枚だけです。より上のストレートが作れるアウツがあったら?ペアボードだったら?
これは特にプリフロップのセットマインドで問題になります。セットを作れば必ず勝てると無意識に仮定しているプレイヤーが多いからです。セットは非常に強いハンドですが、無敵ではありません。セットを作っても大きなポットを失う可能性はあります。
仮定2:ストレートが完成すれば必ず残りスタック($50)を取れる
仮定2は特に相手のレンジの強さとドローの見えにくさに依存します。相手のレンジが非常に強く、かつドローが見えにくければ、完成した時に相手からより多くのチップを取れます。仮にドローが完成した時に50%の確率でしかスタックできないと見込まれる場合、計算上は$25を確実な取り分として扱えます。この場合、実質的なポットオッズは4.50:1となり、必要な5.25:1を下回るためコールが割に合わなくなります。
仮定3:ストレートが完成しなければ絶対にポットを取れない
仮定3は重要です。実際には、ストレートを作らなくても勝てる方法が3つあります。
- ブラフする。もちろん、リバーカードによってブラフが有効かどうかは変わります。
- 弱いペアを作り、ショーダウンで勝つ。多くの条件が揃う必要がありますが、不可能ではありません。相手が非常に弱いハンドを持っていて、こちらがペアを引いた時に相手がブラフをしないこと(もしくはコールする)が条件です。
- 何も改善しないが、ハイカードのままショーダウンで勝てるほどハンドが強い。(2)と同様、ハンドが良い状態でショーダウンに持ち込む必要があります。7ハイでは難しいですが、ナッツフラッシュドローやペア+ドローを持っている場合はよくあるシナリオです。
仮定2と3は実は同じ要因に左右されます。相手のレンジが非常に強い場合、改善しなければ勝ちにくいですが、完成した時に相手からより多くのチップを取れます。逆に相手のレンジが弱い場合、完成しても相手からチップを取りにくくなりますが、ブラフやマージナルなハンドのショーダウンなど、改善しなくても勝てる可能性が高くなります。
これらを踏まえると、なぜソルバーがスタックの多い状況で強いドローをほとんどフォールドしないかが説明できます。それは単に強いハンドを作った時のチップへの期待(狭義のインプライドオッズ)だけでなく、弱いハンドでのブラフやマージナルハンドでのショーダウンによって少しずつエクイティを積み重ねられる可能性があるからです。
具体例
具体的に見てみましょう。100bbのキャッシュゲーム、UTG対BBのSRP。BBはJ♥8♦2♥フロップでT9oを持っています。33%ポットのCベットに対して、ソルバーはT9oのすべてのコンボがレイズでもコールでもEQRが100%を上回ると想定しています。もちろん♥を持っている方が有利で、♥と♦の両方を持つコンボがベストです。ヒットした時に負けるリスクが最も低くなるからです。
OOPではEQRが下がりやすくなります。その不利な条件にもかかわらずT9oのEQRが100%を上回っているのは、インプライドオッズが機能していることの証ともいえます。
ここでBBが同じフロップで124%ポットのCベット(オーバーベット)に対してどうEQRが変化するのか見てみましょう。このサイズもソルバーの選択肢に含まれています。
オーバーベットに対して、T9oのEQRは大きく下がります。♥を持たないコンボが最も打撃を受け、EQRはほぼ半分程度になります。それでもフォールドはしません。エクイティが十分にあり、半分しか実現できなくても採算が合うからです。しかし、なぜ大きなベットがこれほど不利になるのか、その理由を掘り下げてみましょう。
最大のヒントは、♥なしのコンボが33%ポットベットと比べてEQRの低下が大きいという点にあります。33%ポットベット時、UTGがフラッシュドローを持つ確率は9.2%です。
124%ポットベット時、UTGがフラッシュドローを持つ確率は13.3%に上がります
オーバーベットにコールした後、♥を含むT9oのコンボでさえ7♥のターンではEQRが下がります(それでもエクイティは十分にあり、依然として非常に強いハンドです)。
33%ポットのCBにコールした後は対照的で、♥なしのコンボでも同じターンでEQRが100%を上回ります。
しかしこれだけではありません。オーバーベットにコールした後、BBがこのカードでフラッシュを持つ確率は21.6%、スモールCBにコールした後では10.6%です。
相手のレンジにフラッシュが多く含まれているほど、ストレートでバリューを取るのは難しくなります!
9♥のターンでも同様の問題が生じます。UTGのオーバーベットレンジにはフラッシュが多く含まれるため、小さいベットでのレンジと比べてセカンドペアでのショーダウン勝ちが難しくなります。ペアで勝てる確率が下がるうえ、ペア以下しか持たないUTGがブラフを打つ可能性も高まるからです。
ハートではない9がターンに落ちた場合でも、BBはオーバーベットレンジに対する方が33%ポットレンジに対するよりEQRが低くなります。
UTGはフロップで大きくベットする時、レンジがよりポラライズされています。つまり、T9を上回る強いハンドか、ブラフを打つメリットのある非常に弱いハンドを持っている可能性が高くなります。T9oはストレートドローのおかげでターンのブラフキャッチャーとして機能しますが、ブランクだったリバーでのトリプルバレルに対してはピュアフォールドです。これはショーダウンで負けるUTGの多くのハンドが取るべきプレイです。
UTGがフロップで33%ポットベットを選んだ場合、レンジにはA8やK8のような中程度の強さのハンドが多く含まれます。これらのハンドはショーダウンに持ち込みたいため、ブラフに変えたくありません。これはBBにとって都合がよく、ブラフが来ればフォールドせざるを得ないBBのマージナルなペアが守られます。
インプライドオッズは本来の意味においても、オーバーベットレンジに対してもまだ意味があります。BBがフロップオーバーベット後にターンでナッツを引いた場合、平均でポットほどの額をさらに取れます。
悪くはありませんが、それだけでフロップでのコールを正当化することはできません。このシナリオでT9oは「インプライドオッズのコール」とは程遠く、インプライドオッズがEVに貢献していることは確かでも、それが主な理由ではありません。
ナッツを引いた時よりもはるかに高いEQRを示すシナリオが別にあります。
上記の画像は、UTGがフロップオーバーベット後にターンをチェックバックした場合の、J♥8♦2♥ 2♣ 2♦でのT9oのEQRです。
エクイティが少ない時ほど、EQRは上がりやすい!
このシナリオでは、T♣9♦のエクイティはわずか1.3%です。チェックしてもこのエクイティを実現することはほぼできません。UTGが持っている数少ない弱いハンドは毎回ブラフをするからです。しかし、このハンドでブラフを打つことで、BBはポットの約10%を取ることができます。
なぜブラフがこれほど利益的なプレイになるのでしょうか?
ターンレポート
ターンレポートを使うと、T9oのターンカード別のEVを可視化できます。6枚のアウツがEVの大部分を占め、残りの2枚はフラッシュドローと被るためEVが大きく下がります。しかし、すぐに改善できなくても、残りのカードが無価値なわけではありません。ブリックにも隠れたエクイティがあります。たとえば4♠では、T9oはフロップで使ったチップの約60%分のEVがあります。リバーでブラフを打つか、エクイティを実現する可能性として、ハンドの底力を示す数字です。
まとめ
従来の意味でのインプライドオッズは、ドローでのコール(またはレイズ)を利益にするあくまで一つの要素に過ぎません。
強いハンドを作れば大きなポットを取れる、それは確かにあっています。しかしそれを実現するには多くの条件が揃う必要があります。ハンドを完成させること自体が十分に難しいうえ、特にドローが見えやすい場合やこちらのレンジがすでに強い場合は、完成した後も相手からチップを取れるとは限りません。
こうした理由から、私はJ82フロップでのT9のようなハンドを「インプライドオッズハンド」ではなく「ポートフォリオハンド」と呼ぶことを好みます。このコールのEVは複数の要素から成り立っているからです。強いランアウトでのバリューベット、別のランアウトでのブラフ、そして時にはマージナルなハンドのショーダウンから来ています。インプライドオッズ(狭義)への過度な注目は、こうしたハンドの多面的な価値を見落とす原因になります。
ポーカーを学び始めた頃は、「このハンドはストレートへの8アウツがあり、作れれば大きなポットを取れるからコールする価値がある」という大きくシンプルな概念に集中することは理にかなっています。しかし上達するには、すべての可能性を視野に入れ、細部の状況を最大限に活かせるようになることが求められます。















