トーナメントではICMによってアクションが保守的になるので、リスクプレミアムが高くなる局面では、ブラインドまで皆フォールドすることが多々あります。そのため、ICMプレッシャーが強いSB対BBの戦略を学ぶことは非常に重要です。どちらかがカバーしている場合でも、両方とも大きなポットを争うことは避けながらエクイティを実現する必要があり、以下はその方法です。
- リンプもしくはチェックでポットを大きくしない
- 自分からオールインして相手にフォールドか、コールして大きなポットを失うリスクを負うかの二択に追い込む
リスクプレミアムが高ければ高いほど、両プレイヤーがこの2つの戦略のどちらかを採用するメリットが大きくなります。なお、オールインは、スタックが比較的浅い場合にのみ有効です。次の図は、トーナメントの様々なステージでブラインドまでフォールドされた際のSBの戦略と、リンプに対してBBがどのように対応するかを示しています。このシミュレーションは全プレイヤーが40BBを持っており、どちらもカバーしていません。
ここでは大きな変化が見て取れます。リスクプレミアムが高くなるにつれて、SBはオープンレイズすることが少なくなり、バブルや残り9人のファイナルテーブルのようなプレッシャーが非常に高い局面では、ほぼ純粋なリンプ/フォールド戦略を取ります。
ほとんどの場合、リンプに対するBBのレイズ頻度はリスクプレミアムが高まるにつれて減少します。しかし純粋なコール/フォールド戦略を取ることはなく、トーナメントのどのステージでも一定のレイズ戦略は保っています。ポットを大きくすることは両プレイヤーにとって不利ですが、OOPであるSBはフロップ以降のEQRが低く、ポットのコントロールが難しいため、特に不利になります。相手がこのように広いレンジでレイズをしていたとしても、SBはレイズよりコールを好みます。
ポットが大きくなると両プレイヤーとも損をするが、OOPであるSBは特に不利になる。
以下は先ほどと同様のファイナルテーブルで、SBがセカンドチップリーダーで、BBが圧倒的なチップリーダーの場合のSBのレンジです。
ファイナルテーブルでSBのチップが圧倒的に他のプレイヤーと比べて多い場合のみ、積極的にレイズすることができます。
SBはどんなハンドでレイズするべき?
リンプの重要性が高まったとはいえ、先ほどのようなICMシナリオが最も強くなる局面を除けば、レイズはSB戦略を構築する上で必要です。ここでは、どのようなハンドでレイズすれば良いかを簡単に判別するコツをいくつか紹介します。以下は25%のプレイヤーが残っている状況で全員40BBの場合の戦略です。
SBのレイズレンジは狭くポラライズされており、バリューレンジは強いポケット、As、スートのブロードウェイのみで構成されています。スートではないブロードウェイは非常に強いカードのみレイズし、その他のブロードウェイと中程度のスートは大きなポットを避け、エクイティを落とさないよう高頻度でリンプします。レイズレンジのブラフは、弱いスートと強いオフスートを混合しています。
一見このレイズレンジはランダムに見えますが、きちんと理由があります。BBがこのレイズに対して強力なコールレンジとポラライズされた3ベットで応じるためです。これによってSBは弱いスートか強いオフスートだけをレイズするという単純な戦略を取れなくなります。BBがコールする場合、SBはOOPからエクイティを実現しやすいスートを持っている方が良くなります。しかしスートを多くすると、BBがレイズした場合にSBはフォールドすることになり多くのEVを手放すことになります。
そのため、SBの均衡戦略はコールされた時にプレイしやすくかつ、3ベットに容易にフォールドできるオフスートと、3ベットに対してEVロスが少ないスートを混合します。これが、SBでT3sがT6sよりオープン頻度が高い理由です。後者はコールされたときのパフォーマンスは若干良いですが、3ベットにフォールドしたときに失うものも大きくなります。
BBのコールと3ベットの混合戦略によってSBは簡単な戦略を取れなくなる。
バブルが近づいても同じ傾向が続きますが、SBはめったにレイズしないため、見極めが難しくなります。
ショートスタック
エフィエクティブスタックが少なくなると、SBはポットが大きくなるのを避けるため、オープンからオールインするようになります。少し直感には反しますが、BBはリスクプレミアムを考慮すると、SBのオールインレンジを大きく上回るハンドであってもかなりの頻度でフォールドしなくてはならないので、このプレイは実際リスクが低くなります。リスクプレミアムが高くなるにつれ、SBの戦略はコールや小さなオープンレイズから、オーイン/フォールドへとシフトしていきます。次の表は、トーナメントが進むにつれてSBの戦略がどのように変化するかを示しています。
この傾向はSBがカバーされていても同じです。このファイナルテーブルのシナリオでは、BBが30BB、SBは19BBですが、SBは積極的にオールインしています。
レンジの構成もカバーされていない場合と同じです。SBはレイズフォールドするには強すぎるが、レイズを期待するほど強くない中程度の強さのハンドで構成されたブロッカーの強いレンジでオールインします。
3BBのレイズレンジはより強くポラライズされており、ビッグペアとAsのバリューと弱いスートと強いオフスートのブラフでバランスをとっています。SBのリンプレンジもどこかポラライズ気味で、強いハンドは相手のレイズに対してコールかレイズ、弱いハンドはフォールドとなっています。AAはBBのレイズレンジの多くをブロックしているので、リンプのトラップハンドには向きません。
SBがBBをカバーしている場合、オールインかフォールドがほとんどで、残りはポラライズしたレイズレンジとなります。BBはディープよりショートの方が飛びかねないハンドが多くなるのでフォールド頻度が増えます。
まとめ
ここで紹介した内容を基準にし、特定のハンドでエクスプロイトするかどうかを判断する際に、この記事を読み返すことで、ICMのプレッシャーを自身にとっての脅威ではなく、相手からチップを奪う手段へと変えることができます。
ブラインド対ブラインドの対決は、ホールデムで最も難しい局面の1つです。両プレイヤーは広いレンジでポットを争うため、ICMプレッシャーを大きく受けます。SBはスタックが深い場合はオープンリンプ、スタックが浅い場合はオープンオールインを使いこなすことでこうした局面を乗り切ることができます。