PKOトーナメント戦略を読んだ方は、なぜPKOでは通常のMTTよりも広いレンジでプレイできるのかすでに知っていると思います。特にこの効果は、バブルファクターが1を下回るPKOの開始時に最も顕著に現れます(通常のMTTでは見られないことです)。チップを失うデメリットよりもバウンティを獲得できるメリットの方が大きいため、ヘッズアップポットよりもマルチウェイポットでルースにプレイします。
しかし、PKOでインマネが近い時はどうなるでしょうか。バブル付近やファイナルテーブルでのICMはどう影響するのでしょうか。
ICMダイヤル
前述の記事を読んだ方なら、バウンティパワーとバブルファクターの概念はすでに知っていると思います。
- バウンティパワーは、バウンティの価値をチップに変換します。バウンティパワーが高いほど、ルースにプレイできます。
- バブルファクターはポーカーにおけるICMプレッシャーを測るもので、飛んだ場合に失うエクイティ($EV)を、他のプレイヤーを飛ばした場合に得られる$EVで割った比率と定義されます。つまり、バブルファクターが高ければ高いほど、タイトにプレイすべきです。
バウンティパワーとバブルファクターは、PKOトーナメントにおいて互いに競合し合っている概念です。共同執筆パートナーであるダラ・オカーニーは、この関係を「ICMダイヤル」と呼んでいます。時計やスピーカーのダイヤルを想像して見てください。ダイヤルの一方の端にはバブルファクターがあり、もう一方の端にはバウンティパワーがあります。PKOトーナメントではいつでも、この2つの力によって異なる方向に引っ張られます。ICMのプレッシャーがあればレンジは狭くなり、バウンティがあればレンジは広くなります。これほど単純ではありませんが、イメージするのに役立つでしょう。
PKOトーナメントでは、ICMとバウンティのどちらが自分のプレイに大きな影響を与えるかを常に考える必要があります。
この表は、PKOの入門編で紹介した200人のトーナメントでのバウンティパワーを示しています。ご覧の通り、バウンティパワーはトーナメント開始時が最も高く、時間が経つにつれて徐々に低くなっています。トーナメントが後半になればなるほど、賞金とファイナルテーブルの影響が大きくなります。
注意点として、この表におけるバウンティパワーは、1ドルのバウンティの価値をビッグブラインドに相当する価値に換算したものです。
トーナメントのステージ別にバウンティの価値をグラフ化しました。
PKOの終盤では、通常のMTTの終盤と同じようにタイトにプレイするべきです。問題は、どの程度タイトにするかです。
バブル
通常のMTTの終盤のスポットとPKOのスポットを比較します。GTO Wiizardでは、終盤の「クラシック」ICMシナリオの多くに、PKOバージョンがあるため、それを使用します。
まず、同じスポットでトイゲームを使って比較します。どちらの例でも、バブル付近で、テーブルの全員が30bbのスタックを持っています。もちろん、全員が同じスタックを持っているような状況は現実にはほぼ起こりませんが、クラシックMTTとPKOの大まかな違いを見るのに役立ちます。このスポットのクラシックバージョンとPKOバージョンの両方でテーブルの状況は下記のようになっています。唯一の違いは、PKOバージョンでは、各プレイヤーが$125から$150の間のバウンティを持っていることです。
レンジを見る前に、バブルファクターを見てみます。まずはクラシックバージョンです。
バブルファクターは、スタックが同じであるため全員同じです。1.8は非常にタイトなバブルファクターであり、大雑把に言えば、コールするには64%のエクイティが必要です。
次はPKOバージョンのバブルファクターです。
この2つの差は大きく、ChipEVよりもタイトにプレイする必要があり、バブルファクターが1を下回るPKOのスタート時よりもずっとタイトにプレイしなければならないですが、MTTのバブル付近としてはまだ緩くプレイします。ここでバブルファクターが若干プレイヤーによって異なるのは、バウンティの大きさが違うためです。もう一度、ICMダイヤルを思い浮かべてください。バブル付近のため、クラシックMTTのプレイヤーはバブルファクターが1.8になりますが、バウンティによって、PKOでは1.22になります。
それが戦略にどのような影響を与えるか見てみます。
クラシックMTTの例でのBTNのオープンレンジです。
以下はPKOの時のレンジです。
PKOでは、チップリーダー(BTN)がICMプレッシャーをかけ、2人のプレイヤーを飛ばすことでバウンティを得ることができます。
どちらもレンジの73%をフォールドしています。しかし、フォールド以外の部分では大きな違いがあります。
クラシックICMの例では、SBはよりアグレッシブにプレイしています。レンジの9.2%でオールインし、10.9%でレイズし、6.2%でコールします。PKOの例では、SBはほとんどオールインせず、レンジの17.3%でレイズし、レンジの9.1%でコールしています。
これはICMとバウンティの影響を表しています。ICMの例では、SBは全スタックを失いたくなく、またコールしてポジションを失いたくもありません。マルチウェイポットもプレイしたくありません。そのため、フォールドエクイティを最大にして、ポットを取ろうとしています。クラシックのレンジではこの理由からAxのハンドでよりアグレッシブにプレイします。他の2人のプレイヤーはフォールドすることが多いので、分散を低くすることができています。
PKOの例では、SBはBTNのバウンティを獲得しようとするため、オールインをしません。また、BBのバウンティも視野に入れているので、BBを参加させるためコールが多くなります。
ICMとPKO ICMの大きな違いは、PKOではマルチウェイポットをプレイしようとすることです。
SBがフォールドした場合のBBのアクションを見てみます。
どちらも同じような頻度でフォールドしています。しかし、ICMのレンジではコールまたは7.5のレイズが多いのに対し、PKOのレンジではBBはオールインをしています。
クラシックICMでは、ソルバーは最も分散の少ないラインを取ります。PKOでは、分散を受け入れたプレイをします。
SBはBTNオープンに対して、最も分散の少ないラインを取りたく、オールインをして相手をフォールドさせます。BBがBTNオープンに対して、最も分散が小さいのはコールです。この例では、PKOの方が分散が大きいラインを取るようになっています。コールやレイズで守れるハンドをオールインしています。
少し戻り、SBがBTNオープンに対してレイズ(オールインではない)した場合を見てみます。
クラシックバージョンでのBBの戦略です。
PKOでは下記のような戦略になります。
どちらも同じような頻度でフォールドしていますが、2つの顕著な違いがあります。
- クラシックバージョンではオールインが多く、これはフォールドエクイティを最大にすることでヘッズアップに持ち込みたいためです。クラシックの例では、QQのようなハンドはヘッズアップにしたいですが、PKOではBTNを参加させようと小さいレイズをしています。
- 次に、レンジの形が異なります。PKOのレンジはリニアバリューですが、クラシックのレンジはよりポラライズされています。クラシックICMでは、フォールドエクイティがより重要となるためこの違いが生まれています。BBが低いスートのAをブラフとしてオールインするのは、それらがボタンのコールレンジをブロックするためです (そしてコールされたときに強いハンドを作ることができる)。
ファイナルテーブル
ICMプレッシャーはバブル付近でより顕著になります。今度はトーナメント終盤でスタックサイズが異なる場合を見てみます。どちらの例もファイナルテーブルで3人のプレイヤーが残っており、BTNのスタックが一番大きく、SBがミドルスタック、BBがショートスタックです。PKOでのバウンティは次のようになります。
クラシックの例では、BTNとBBのバブルファクターはかなり低くなっています。BTNは飛ばされる心配がなく、BBはショートスタックなのであまり気にする必要はありません。SBは中位に位置し、BBより先に飛びたくないので、バブルファクターは高くなります。
PKOの例では、比率は同じですが、バブルファクターはかなり低くなっています。実際、BBが絡むとバブルファクターは1を下回ります。ICMのプレッシャーがあったとしても、バウンティを獲得するためにChipEVよりもルースにプレイします。
チップリーダー(BTN)がICMプレッシャーをかけ、両プレイヤーを飛ばしてバウンティを獲得しに行きます。
SBはICMダイヤルの真ん中にいます。先にオープンしたチップリーダーに飛ばされるリスクは冒したくないですが、ショートスタックのBBのバウンティを獲得するチャンスも逃したくありません。明確な違いは、クラシックバージョンではSBからのフォールドが多いことです。PKOの例での76.3%に比べ、87.1%フォールドしています。SBは、クラシックの例ではコールよりもレイズする頻度が高くなっています。SBはフォールドエクイティを使ってポットを獲得したく、3ウェイポットに巻き込まれたりBBにスクイーズされたくはありません。PKOでは、SBはBBのバウンティを獲得できる可能性があるため、より頻繁に参加しています。
繰り返しになりますが、クラシックの例ではフォールドが多くなっています。PKOの例では、BBがフォールドし、SBが飛ばされて、賞金が増えることを考えると、BBの関与の大きさが変わってきます。どちらの例でも、BBのスクイーズレンジはリニアですが、PKOバージョンではスモールペアに比重が置かれています。クラシックICMでは、1人、場合によっては2人のプレイヤーに対して44でオールインするのはよくないですが、PKOではより多くのハンドでオールインしています。
バウンティを獲得できないのにも関わらず、BBがこれほど参加していることに驚く人もいるかもしれません。BBのプレイはクラシックICMに近いと考える人もいるでしょう。そうでない理由は2つあります。第一に、BBはバウンティのためにPKOでは広くコールされることを知っています。BTNにA9や44でコールされ、BTNのコールレンジに勝っているということはよくあるでしょう。次に、相手を飛ばしたとしてもBBはバウンティを獲得できません。バウンティを獲得するために、残りの2プレイヤーをカバーするスタックを築く必要があります。
PKOでは一番少ないスタックのプレイヤーでもルースになります。なぜなら、スタックを築いてカバーしたく、また相手が広くコールすることを知っているからです。
PKOではBTNはほぼ2倍のハンドでプレイしています。マルチウェイPKOの記事をご覧になった方なら、BTNがQTやJTのようなスーテッドブロードウェイのハンドで多く参加していることを知っているでしょう(BBが喜んでオールインしたのはそのためです)。これらのハンドは、SBが絡むとプレイしやすいハンドです。また、BTNはオールインとコールを混ぜていることにも注目してください。クラシックの例では、ヘッズアップに持ち込もうとしていますがPKOではマルチウェイにし、バウンティを2つ獲得しようとしています。
GTO WzardでクラシックICMとPKOを比較し、自分自身で研究することをお勧めします。トーナメント終盤の様々なシナリオで比較できる興味深いスポットがたくさんあります。
まとめ
PKOにおけるICMは、複雑な要因のひとつとなっています。PKOトーナメントが真に解析されることはないかもしれません。ICMダイヤルによって、レンジを狭めたり広げたりする力が働きます。PKOにおけるスキルの要素は、ICMのプレッシャーとバウンティパワーのどちらが影響力が大きいかを決める部分にあるかもしれません。
この対立を研究する最善の方法は、GTO WizardのクラシックとPKOの両方で、チップ分布の観点から同じスポットを見ることです。クラシックのスポットを基準として、PKOの例でバウンティパワーを調整します。
要点
- ICMとバウンティは競合する2つの力です。どのような状況においても、どちらの影響力が大きいかを常に考えてください。
- 賞金とバブルはレンジを狭め、バウンティはレンジを広げます。
- PKO ICMの場面ではレンジが広くなります。
- フォールドエクイティはPKO以外のICMの場面でよく使われます。
- ソルバーはクラシックICMでは分散を取るラインやマルチウェイポットを避けます。PKOでは分散を受け入れ、マルチウェイポットをプレイしようとします。
- クラシックICMではAブロッカーの価値が高くなります。PKOではマルチウェイに強いハンドの価値が上がります。