ヘッズアップの戦略については多くの研究がされていますが、マルチウェイポットについてはまだあまり研究がされていません。マット・ハントは、彼のマルチウェイコース「Three’s A Crowd」の中で次のように述べています。「マルチウェイのポストフロップは、ヘッズアップのポストフロップよりも、マルチウェイのプリフロップに似ている。」
この記事ではマルチウェイでのプレイを向上させるための理論的基盤を紹介します。GTO Wizardは2023年にマルチウェイのポストフロップソリューションを実装する予定です。この記事では今すぐ勝つために必要な知識を身につけることを目的としています。マルチウェイのプリフロップで使用される傾向の多くが、マルチウェイのポストフロップにも適用されます。多くのプレイヤーはこれらの原則がプリフロップに特化したものであると勘違いしていますが、実際はポストフロップにも大きく関係しています。
1) マルチウェイでの均衡
細かい話に入る前に、ナッシュ均衡(GTO)の基本的な主張がマルチウェイのスポットでどのように変わるかを検証しなければなりません。GTO戦略に従えば、最小限の期待値が保証され、相手のミスによってより利益を得ることができます。この原則はマルチウェイにはありません。マルチウェイでは、エクスプロイト不可能な戦略というものは存在しません。期待値は保証されていません。
マルチウェイポットで誰かがミスした場合、そのプレイヤーの期待値は残っているプレイヤーに単純に分配されるわけではありません。そのプレイヤーのミスは、他のプレイヤーの期待値を下げ、第3のプレイヤーの利益になることがあります。GTOであれエクスプロイトであれ、どんな戦略にもこの効果があります。もしそうだとしたら、マルチウェイのGTOソリューションが正しいとどのようにわかるのでしょうか。この疑問は、計算ゲーム理論の著名な専門家であり、LibratusやPluribusのような先進的なポーカーAIの開発者であるNoam Brownによって説明されています。Lex Friedmanとのインタビューで、ヘッズアップとマルチウェイの区別について聞かれたとき、Noamはこう答えています。(言い換えています)
2人のみのプレイヤーで均衡を近似するために使われた方法は、プレイヤーが協力しない敵対的なゲームの性質上、6人でのポーカーでも有効に機能することがわかった。
マルチウェイでもGTOが近似できることがわかっています。この主張は、異なるソルバーアルゴリズムが、全く異なる方法を使っても、同じマルチウェイ戦略に到達するという事実から来ています。難しい理論はさておき、マルチウェイポットで最も影響力のある要素について掘り下げてみます。
2) ディフェンス頻度の分担
ポーカーでは、最小ディフェンス頻度(MDF)を使って、相手がブラフで利益を得るのを防ぐために、どれだけ広くディフェンスする必要があるかを計算します。この計算の逆数がアルファ(α)であり、純粋なブラフで利益を得るために必要なフォールド頻度です。MDFとアルファについて詳しくはこちらをご覧ください。
マルチウェイポットでポットサイズのブラフをした場合を考えてみます。ブラフが利益を生むためには、少なくとも50%の確率でポットを取る必要があります。つまり、ヘッズアップでは、相手は少なくとも半分の確率でディフェンスする必要があります。しかし、マルチウェイポットでは、ディフェンス頻度は分担されます!
フォールド頻度は掛け算です。各プレイヤーは、両者の間でフォールド頻度が50%を超えないような頻度でディフェンスをすればよいです。あるベットでフォールドする確率は、次の式で計算できます。
合計フォールド%=プレイヤー1フォールド%×プレイヤー2フォールド%×プレイヤー3フォールド% …
プレイヤー当たりの平均フォールド頻度は、n乗根αで表されます。
実際には、アクションが最後のプレイヤーは前のプレイヤーよりも多くディフェンスをしなければいけません。そのストリートでレイズをされることがないため、ディフェンスする利益が他のプレイヤーに比べて多くなります。
以下の表は、プレイヤー数ごとのMDFを示しています。
ヘッズアップで、相手がポットの10%をベットした場合、相手がブラフで利益を得るのを防ぐには、レンジの91%をディフェンスする必要があります。この小さなベットに対してディフェンスするプレイヤーが8人いたとすると、ディフェンス頻度は約26%に低下します!実際、1%ポットサイズのベットでさえ、ディフェンス頻度を劇的に低下させます。HUでは、相手がポットの1%をベットした場合、レンジの約99%を守る必要がありますが、9人のプレイヤーがいる時では44%に下がります。
マルチウェイポットの特徴として、純粋なブラフに対するリスクとリターンの比率が非常に悪いことが挙げられます。相手はとても小さなベットに対しても、ブラフで利益を得るのを防ぎながら、ずっとタイトに守ることができます。一方、ポットオッズは変わりません。十分なEVを得られるハンドであれば、コールしてプレイを続けることができます。
3) タイトにする
先ほど示したように、マルチウェイポットでは、相手はエクスプロイトされずにディフェンス頻度を減らすことができます。一方で、自分のレンジが弱すぎる場合には、相手はディフェンス頻度を増やすことができます。このことは、非常に単純ですが、重要な法則につながります。
タイトにする
マルチウェイでは、ヘッズアップほど広く守る必要はありません。あるベットサイズに対してどのようなハンドで守るかどうかの境界線はタイトになります。同時に、ベットレンジはより強くなります。ピュアブラフはマルチウェイではあまりよくありません。より強いバリューベットと、より強いブラフが必要です。リバーを除いて、ドローが多くあるハンド以外でブラフをすることはほとんどありません。
4) レンジベットをやめる
レンジベットとは、あるスポットで自分のレンジ全てでベットすることであり、通常は小さなサイズでベットします。この戦略はHUでのポストフロップでは一般的ですが、ほとんどのマルチウェイでは大失敗となるでしょう。
レンジベットの戦略的前提は、圧倒的なアドバンテージを持っているため、全ハンドでベットしても相手は多くフォールドしなければいけないということです。しかし、マルチウェイでは、相手はヘッズアップほど広く守る必要はありません。このことはレンジベットの利点を減らしています。ヘッズアップで得られる余分なフォールドエクイティは、マルチウェイではすべて消えてしまいます。
マルチウェイ戦略を向上させるためにできる最も簡単な変更は、レンジベットをやめる。ブラフをせずに諦める回数を増やす。バリューベットのラインをタイトにする。中程度の強さのハンドを多くチェックし、ショーダウンを狙うといったことです。
5) ナッツになれるかどうか
ナッツポテンシャルとは、ナッツになる可能性、またはそれに近い可能性のことです。例えば、A♠Q♠8♥のようなフロップでは、6♠4♠のようなドローは引けても弱いフラッシュなので、ナッツポテンシャルが低くなります。しかし、K♠7♠のようなハンドは引けたらナッツになるので、ナッツポテンシャルが高くなります。
マルチウェイではオールインレンジがかなり狭くなるため、ナッツポテンシャルは重要です。
マルチウェイでセミブラフを考えるときは、アウツをより考慮するようになります。ドローを引いた際にナッツになることができるのか?アウツの中に、より強いドローを完成させるものがあるか?マルチウェイではよりこれらのことが重要となります。
さらに、マルチウェイでのベット頻度はナットアドバンテージと強い相関関係があります。ナッツアドバンテージを持たないレンジアドバンテージのあるプレイヤーは、通常(SPRが非常に低い場合を除き)よりパッシブにプレイすべきです。
753rのようなボードでBTNがSBとBBに対してレンジベットしたらどうなるでしょうか。確かにBTNはオーバーペアを多く持っていますが、SBとBBはセット、ツーペア、ストレートなどのナッツハンドを持っています。オーバーペアはマージナルなペアからあまりバリューを取れずチェックレイズで攻撃されることが多くなります。
6) 高いインプライドオッズ
「インプライドオッズ」の記事にあるGIFで、エクイティがどのように変化するかを表示しています。正確な数字は重要ではなく色分けされたグラデーションに注目してください。
マルチウェイではインプライドオッズとリバースインプライドオッズを増加させます。この効果は、ディープスタックでインプライドオッズが上がるのと似ています。マルチウェイでは、オールインの境界線がよりタイトになるため、HUよりもバリューでオールインするには強いハンドが必要になります。ブラフキャッチャー、中程度の強のハンド、弱いトップペアではあまりバリューを取ることができなくなります。マルチウェイに有利なハンドは、ナッツになる可能性が高く、「ナッツになりやすい」ハンドです。ナッツに近い状態までなれるかどうかが重要です。
マルチウェイでエクイティを維持できるハンドは、一般的に強いドローの可能性を持っている、スーテッドコネクター、スーテッドギャッパー、ナッツフラッシュができるハンドなどです。
7) ベットサイズを小さくする
マルチウェイでのディフェンスはよりタイトになります。そのため、大きなサイズを使うと、オーバープレイになりやすくなります。マルチウェイではEQ保持力を意識することが大事です。EQ保持力とは、コールされた時にどれだけのエクイティを維持できるかということです。
[NL500キャッシュ] BTNがオープンしBBがコール、フロップがA♣T♣2♠。ヘッズアップでは、BTNは通常オーバーベットを好み、BBが125%のポットサイズのベットをコールしたときのエクイティは以下の通りです(BBはここでかなりオーバーフォールドしています)。UTGのほとんどの強いトップペアはまだBBのコールレンジを大きく上回っています。フロップは A♣T♣2♠です。
では、これをマルチウェイの時と比較してみます。[NL500キャッシュ] BTNがオープン、SBがコール、BBがコール。GTO Wizardのレンジを使います。オーバーベットをされた際のプレイヤー1人当たりの平均ディフェンス頻度は25%です(HUでは44%)。通常、SBのディフェンス頻度はBBより低いですが、ここでは単純化して、両プレイヤーともプリフロップのコールレンジの上位4分の1でコールすることにします。SBとBBのレンジの上位25%に対するBTNのエクイティは以下の通りです。
A2のようなツーペアやAKのような強いトップペアでさえ、エクイティが50%を切っています!フロップのオーバーベットはツーペアをオーバープレイしたことになります…ブラインドは実際にはもっとフォールドするはずなので、これでもBTNのエクイティを多めに見積もっています。
これが、マルチウェイポットで小さいサイズを使うべき理由です。大きなベットをされた際、複数人のプレイヤーがいると、極めて強いレンジになるため、EQ保持力は急激に低くなります。とはいえ、マルチウェイでオーバーベットできる場面もあります。ただし、ナッツアドバンテージがあり、ナッツでスタックを稼ぐことができる場合に限られます。マルチウェイでのオーバーベットはHUよりはるかに珍しくなります。
8) ポジションがより重要になる
ポジションの優位性は、相手が先にアクションすることで得られる情報と、各ストリートでアクションを終えられることからきています。マルチウェイでは、より多くの情報を持っているため、ポジションの優位性はより大きくなり、アクションを終えられることの価値が高くなります。逆に、後ろにまだアクションしていないプレイヤーが大勢いる場合は、かなり不利になります。
この原則を示す最も簡単な方法は、BTNのコールドコールレンジとSBのコールドコールレンジを比較することです。ほとんどのキャッシュゲームでは、BTNはSBよりも後ろに残っているプレイヤーが多く、追加で多くのチップがいるにも関わらず広くディフェンスします。
この原則を実証するために、ディープスタックのとあるスポットをみてみます(ディープスタックはポジションの優位性をさらに大きくする)。[500NL 200bb キャッシュ] COが2.5bbオープン。BTNとSBのプリフロップのディフェンスを比較してみます。
BTN対CO RFI
SB対CO RFI
BTNはSBより8%広くディフェンスしています。これは、プリフロップで最初にレイズしたプレイヤーに対してポジションを持っていること、マルチウェイでのポジションを持っていることが影響しています。SBはBTNより少ない額で参加することができ、後ろのプレイヤーも少ないですが、この2つの要素だけではポジションの不利さを覆すことはできません。したがって、SBはこのスポットではBTNよりもタイトにプレイします。SBがBTNとBBに囲まれていることも関係しているのでしょうか。
自分の後ろと前にプレイヤーがいる状態で「モンキー・イン・ミドル」をするのもよくありません。多くのプレイヤーが犯しがちな間違いは、SBがIPのオープンをコールした後、BBはプリフロップのレンジをもっと広く守るべきだと考えることですが、通常はそうではありません。確かにポットオッズは良くなりますが、マルチウェイでのEQ保持力はより低くなります。
Daily Dose # 64とDaily Dose #342で紹介したように、ほとんどのハンドはマルチウェ イでは価値を失います。このルールには例外もあり、例えば、SBのコールドコールレンジが広いのであれば、BBも広くコールすることができます。
9) ブロッカーの効果が大きくなる
ブロッカーはマルチウェイでより重要になります。ブロッカーがより多くのレンジと相互作用するにつれて、カード除去効果はより強力になります。例をみてみます。[NL500 6max キャッシュ、200bb ディープ] UTGがオープンした際、ハンドによってブラインドを奪えるかどうかが変わってきます。
上記のようにハンドによって大きな差が出てます。UTGがオープンした場合、AKは22よりも7.3%多くブラインドを奪うことができます。AKがUTGのオープンをコールまたはレイズするハンドをブロックするのに対し、22は主にフォールドするハンドをブロックするためブラインドを奪える頻度が変わってきます。同じ考え方がポストフロップのマルチウェイにも当てはまります。ナッツをブロックすることはより重要であり、フォールドをブロックすることはあまりよくありません。相手がプレイし続けるであろうハンドをブロックすると、バリューを取るのが難しくなります。
10) キャップレンジがエクスプロイトされにくくなる
キャップされたレンジには最強のハンドは含まれていません。HUでは自分のレンジがエクスプロイトされるかどうかを気にする必要があります。もし弱いハンドでチェックバックしすぎたり、強いハンドで十分にスロープレイしなかったりすると、相手は弱いレンジに対してアグレッシブにプレイし、エクスプロイトすることができてしまいます。
しかし、マルチウェイでは、複数のプレイヤーがディフェンス頻度を分担するため、キャップすることはあまり問題になりません。レンジアドバンテージがあるアグレッサーは、複数の相手と戦わなければいけません。以下はその例です。[NL500 100bb 6max キャッシュ] UTGが2bbオープン。全員がフォールドした時のBBのディフェンス。
上記のレンジと、SBがコールドコールした後にBBがどのようにディフェンスするかを比較します。
BBがUTGとHUをする場合、AKoやQQ、時にはAQ♠のような強いハンドでコールします。このような強いハンドは、残りのコールレンジのハンドを守るために必要となります。
SBがコールした後のBBの戦略を比べてみます。BBは自分のレンジの一番上を使ってスクイーズする傾向が強く、自分のコールレンジをよりわかりやすいようにします。これはスクイーズのインセンティブに関係する部分もありますが、マルチウェイではキャップされても、エクスプロイトしにくいということも関係しています。ほとんどのスクイーズ戦略は非常にリニアであり、非常にトップヘビーです。一般的にマルチウェイでは「より正直に」プレイする必要があります。プリフロップでもポストフロップでも、マルチウェイでのベットレンジはよりリニアになります。「正直に」というのは、文字通りごまかしがないという意味ではなく、プレイヤーのアクションはマルチウェイのレンジの価値をより忠実に反映するべきだという意味です。もし誰かが大きくベットしすぎたり、弱すぎたりすると、ブラフに必要なフォールドエクイティはほとんど得られず、彼らのバリューレンジはタイトになったコールレンジと戦うこととなります。EQ保持力は急激に下がり、チェックレイズに極めて弱くなります。
しかし、もっと興味深いのはチェックレンジです。マルチウェイのチェックレンジは一般的に弱く、キャップされています。ベットレンジがより正直であるのも原因ですが、複数のプレイヤーがディフェンス頻度を分担することで、ディフェンスする必要性が少し減るためでもあります。ある意味、他のプレイヤーが盾の役割を果たし、他のプレイヤーが自分のキャップレンジを守っています。つまり、リバーでのレンジはアクションがチェックで終わると、かなり弱くなることが多くなります。プレイヤーはマルチウェイで薄くベットする傾向があるので、実際にはなおさらです。このため、多くのMDAを研究しているグループでは、リバーまでチェックした場合、マルチウェイのスポットで積極的なブラフをすることを推奨しています。
まとめ
マルチウェイでのベットの最大の難点は、エクスプロイトされることなく、タイトにディフェンスできる一方で、ベットレンジが弱すぎる場合は、必要以上にディフェンスすることができるということです。
まとめると、
- プレイヤーがディフェンス頻度を分担することで、コールレンジが狭くなります。
- エアーでのベットやレンジベットは通常、有効な戦略ではありません。
- EQを維持しにくくなるため、ベットサイズを小さくします。
- バリューやブラフをする際の境界線がより強くなり、強いベットレンジになります
- インプライドオッズ、EQ保持力、ナッツになれるかどうかを重視します。
- ポジションの価値が高くなります。
- ブロッカーは、カード除去効果が複数のレンジと相互作用するため、より重要となります。
- 他のプレイヤーがいると、キャップされたレンジを攻撃するのが難しくなります。/li>
- ベットはよりリニアになり、チェックダウンはよりキャップされるようになります。
- GTOソリューションは、エクスプロイトされないという保証はありません。