期待値(EV)はポーカーで最も基本的な指標です。全ての決断は、リターンを最大化するという目標をもとに行われており、そのために一つ一つのアクションを長期的に見た時に利益がどの程度出るのかを考える必要があります。
期待値とは、特定のプレイをした際、長期的にどれだけの勝ち負けを期待できるかということです。
EVはどこからきているのか
全員がすべてのハンドをチェックで終えると仮定すると、エクイティは均等に分配されるため、全てのプレイヤーのEVは同じで誰かが有利になることはありません。そのため、ポーカーで利益を得るには、その均等に分配されたエクイティ以上にEVを獲得していく必要があります。
では、EVはどこから獲得できるのでしょうか?最もわかりやすいのは、エクイティを相手より効率的に獲得していくことです。つまり、適切なアクションをし、適切なベットサイズを用いることです。
ポーカーでチップを獲得する方法は2つで、ショーダウンでポットを獲得するか、他のプレイヤー全員をフォールドさせるかです。そのため、ほとんどのHUDでは、獲得したチップをショーダウンの有無で赤線と青線の2種類で表示し、下記の2種類のEVに分けています。
- ショーダウンEV(青) – ショーダウンで獲得したチップ/失ったチップ
- フォールドEV(赤) – 相手をフォールドさせて獲得したチップ/(自分が)フォールドして失ったチップ
フォールドEV
フォールドEVの最も基本的な獲得の方法は、後に逆転される可能性のあるハンドをフォールドさせることです。勝てる見込みのないハンドをフォールドさせてもフォールドEVは得られません。
例えば、リバーでナッツを持っている時は、相手をフォールドさせたとしてもフォールドEVを得ることができません。リバーでナッツを持っている際に得られるのは「ショーダウンEV」のみで、相手のエクイティ0%のハンドをフォールドさせて得をするのは、そのハンドが後にあなたのエクイティをブラフで奪う可能性があった場合のみです。
フォールドEVを獲得する例を1つ紹介します。ターンでトップ2ペアを持っていてベットをし、相手がフラッシュドローをフォールドしたとします。このように、逆転される可能性のあるハンドからエクイティを奪うことがフォールドエクイティを獲得する方法です。
一般的には、より弱いハンドにはコールして欲しいですが、そのような弱いハンドが自分のハンドに対して高いインプライドオッズを持っている場合、フォールドしてもらう方が良い可能性があります。フォールドしてもらうことで、チェックするときに比べてエクイティを実現することができます。
シンブロックベットの例
セカンドペアを持っており、リバーでブロックベットをしたとします。自分より強いハンドにコールされたり、弱いハンドにコールされたり、弱いハンドにブラフレイズされるかもしれません。このようなセカンドペアという微妙なハンドでベットして意味はあるのでしょうか?
もしかすると、フォールドさせた弱いハンドは、自分がチェックしていたら、ブラフをされフォールドすることになっていたかもしれません。このブロックベットはショーダウンのEVがマイナスになる可能性はありますが、チェックよりは優れたプレイの可能性もあります。これが、コールされたときに50%以下のエクイティしかないハンドでブロックベットするのをソルバーで時々見かける理由です。
EVの相対性
期待値に関する最も一般的な誤解は、「フォールドは常にEVが0である」というものです。しかし、これはフォールドを0と定義した場合にのみ当てはまります。EVは、ハンドのスタート時点からのスタックと比較して計算する方法も存在し、これも正しい考え方の1つです。
例えば、11bbに3ベットした際、25bbの4ベットを返されたとします。フォールドすれば11bbを失ったことになり、100回繰り返せば1100bbを失うことになります!では、フォールドのEVが常に0にもかかわらず、なぜ失っているのでしょうか?
4ベットをされた時から考えると、最初の11bbのレイズはサンクコストであり、フォールドは0EVだと捉えることができます。最初のスタックから考えると、フォールドは11bbを失ったことになります。どちらの視点も正しく、これは比べている点がただ違うだけです。
重要なのは、フォールドのEVは常に0ということではなく、EVは常に何か他のものとの相対的な関係で測定されているということです。フォールドのEVを0と定義するのであれば、コールのEVはそのフォールドのEVと相対的に測られます。
例えば、BBでAQを3ベットし、BTNから25bbの4ベットをされたとします。フォールド、コール、オールインの3つの選択肢があり、GTO WizardでこれらのアクションのEVを見ると、次のようになります。
フォールドは0bb、コールは4.02bb、オールインは2.58bbです。上記の数字は、コールもオールインも「利益的である」と誤解を招く可能性があります。
先ほどとは違い、開始時のスタックに対するEVを見てみます。
フォールドは-11bb、コールは-6.98bb(フォールドより4.02bb高い)、オールインは-8.42bb(フォールドより2.58bb高い)です。
つまり、どのように考えてもコールは最善の選択肢であり、フォールドより4.02bb分EVが高くなっています。重要なのは、3つのアクションの中から、最も負けの少ないアクションを選んでいるということです。EVの文脈を理解するためには、この概念を理解することが重要です。ポーカーでは、このような「負けを最小限にする」スポットが頻繁に起こります。
EVの表示単位
EVの表示方法は色々ありますが、最も一般的なのは「bb」または「ビッグブラインド」で表示する方法です。しかし、チップやポットシェアでEVを表示することもできます。例えばポットが5bbで3bb分のEVがある場合、60%のEVを持っていると言えます(ポットシェアで測定した場合)。この表示方法では、さらに膨らんだポットも獲得できる際、100%以上のEVを持つことができます。
また、EVをパーセンテージで表示することは、物事を客観的に見ることができるという利点もあります。例えば、2bbは大きいかどうかという問いに対して、もしポットが1000bbであれば、非常に些細な数字ですが、もしポットが5bbであれば大きな数字となります。そういった判断をパーセンテージで表示することですぐにできるようになります。
トーナメントプレイヤーはもう一歩踏み込んで、ICM、DCM、FGSのようなものを使ってEVをトーナメントバリューに変換しなければなりません。チップEVをトーナメントEVに変換する際の複雑さについてはまた他の記事で説明します。
EVの定義
期待値とは、将来のすべてのアクションを考慮した上での加重平均の値のことです。最もシンプルな定義は次のようになります。
EV = (結果1の確率 x 結果1のペイオフ) + (結果2の確率 x 結果2のペイオフ) + (結果3の確率 x 結果3のペイオフ)…
ボックス法
- 起こり得る結果をすべて列挙する。(ボックスを作る)
- 各結果の確率とペイオフを求める。(ボックスを埋める)
- それをすべて方程式にまとめ、計算する。(ボックスを解く)
ボックス法の計算例
例1
簡単な例から始めます。25%のエクイティがあるドローハンドを持っている時にポットサイズのオールインをされたとします。コールした場合、勝てば相手がベットした額も含めてポットを獲得し、負ければポットサイズ分の額を失います。
勝ち: 25% (+2ポット)
負け: 75% (-1ポット)
EV = (25% x 2) + (75% x -1) = -0.25ポット
この場合、平均してポットの25%を失うので、コールするべきではありません。
例2
相手が50%ポットサイズのオールインをし、自分はエクイティが35%のハンドを持っているとします。つまり、1.5ポット(相手の50%ポットサイズのベット+ポット)獲得するために、50%ポットサイズ分のリスクを負っていることとなります。
EV = (35% x 1.5) – (65% x 0.5) = +0.2ポット
平均してポットの20%を獲得します。
例3
もう少し複雑にしてみます。トップペアを持っており、リバーでポットベット(10bb)する選択肢がありますが、相手からオールインがきて、フォールドさせられる可能性もあるとします。
- チェックバックした場合のエクイティ:70%
- コールされたときのエクイティ:55%
- 相手がオールインをする(自分はフォールドする)確率:20%
- 相手がフォールドする確率:50%
- 相手がコールする確率:30%
ここで薄いバリューを取りに行くべきでしょうか?
自分がベットしてコールされた場合 = (55% * 20bb) + (45% * -10bb) = +6.5bb
相手がフォールドした場合 = +10bb
レイズされた場合 = -10bb
ベットのEV = (フォールド% x 10bb) + (コール% x 6.5bb) + (レイズ% x -10bb)
ベットのEV = (50% x 10bb) + (30% x 6.5bb) + (20% x -10bb) = +4.95bb
EVはプラスなので、ベットは正しいアクションとなるのでしょうか?まだ選択肢を吟味する必要があります。
チェックバックした時のエクイティは70%なので、ポットの70%(7bb)を獲得します。
EV (ベット) = +4.95bb
EV (チェック) +7.00bb
チェックと比べてみると、ベットは2.05bb分失っています。これは、相手のブラフにフォールドさせられたり、より強いハンドにコールされたりすることがあるからです。ここでは、チェックすることが最も優れたアクションとなります。
全体図は下記のようになります。
EVを使った様々な指標
ポーカーのあらゆる指標は全て期待値の方程式から導き出すことができます!
まず初めに、ポットオッズを紹介します。ポットオッズとは、ベットをコールするのに必要なエクイティのことです。例えば、リバーでOOPのプレイヤーが50%ポットサイズのベットをしたとします。IPのプレイヤーがこのベットにコールをするために必要なエクイティはどれくらいでしょうか?
以下の方程式がよく使われています。
必要なエクイティ = (コールするのに必要な額) / (コール後のポット額)
50%ポットサイズのベットの場合:0.5 / 2 = 25%、IPがこのベットにコールするには少なくとも25%のエクイティが必要となります。別の言い方をすると、IPは少なくともポットに投入した金額と同額を回収する必要があります。
しかし、これは期待値を使って計算することもできます。この方法の利点は、損益分岐点だけではなく、いくら得するか損するかを正確に見積もることができることです。
EV = (勝率 x 勝った時に追加で得られる額) – (負ける確率 x 負けた時に失う額)
- 勝ち = 1.5(ポットと相手のハーフポットベット)
- 負け = 0.5(コールする額)
- 勝率 = EQ
- 負ける確率 = 1-EQ
EV = (EQ x 1.5) – ((1-EQ) x 0.5)
EVを0に設定することで、損益分岐点を求めることができます。
- 0 = (EQ x 1.5) – ((1 – EQ) x 0.5)
- 1.5 EQ = 0.5 (1 – EQ)
- 3 EQ = 1 – EQ
- 4EQ = 1
- EQ = 1/4
- EQ = 25
つまり、プラスにするには最低でも25%のエクイティが必要です。
アルファ値 – エクイティ0%のハンドで収支をとんとんにするには、相手がどれくらいフォールドする必要があるか。以下の方程式がよく使われています。
リスク/(リスク+リワード)
ここでのリスクはブラフの金額、リワードは相手がフォールドした場合に得られるポット額のことです。50%ポットサイズでのブラフの場合、リスクは0.5、リワードは1となります。
0.5 / (0.5 + 1) = 33.3%
しかし、相手がフォールドを多くしたり、少なくしたりしたらどうなるでしょうか?その場合、ブラフはどれくらい利益的なのでしょうか?それを知るには期待値の方程式を使うのがおすすめです。
EV = (ポット x フォールド%) – (ベット x コール%)
では、EVを使ってアルファ値を求めてみます。
損益分岐点を見つけるために、EVを0とします。
0 = (1 x フォールド%) – (0.5 x コール%)
0 = フォールド% – (0.5 (1 – フォールド%))
フォールド% = (1 – フォールド%) / 2
2 フォールド% = 1 – フォールド%
3 フォールド% = 1
フォールド% = ⅓ = 33%
OOP MDF: OOPが0%のエクイティのハンドでブラフをして、利益を得られないようにするためIPがコールしなければならない頻度のことを意味します。この値は先ほど計算した1-αに等しいため、正確な導出は省略します。
MDF = ポット/(ポット+コール)
MDF = 1 / (1 + 0.5) = 66.6
または、1-α。
まとめ
ハンドを評価する方法は複雑で多岐に渡るため習得するには長い年月を必要とします。期待値は、ポーカーでアクションを決める際の重要な指標です。
プレイ中に複雑な期待値の計算をする必要はありませんが、自分のアクションが正しいかどうかを考えたり、ソルバーへの理解を深めたり、正しい分析をするためには、EVの仕組みを理解する必要があります。テーブルの外で様々なシナリオを経験することで、何が良い戦略で、何がそうでないかをより理解できるようになるでしょう。
翻訳:Ayumu