インプライドオッズはポーカーの理論において重要な指標です。 インプライドオッズという用語は聞いたことはあったり、基本的な理解ができているかもしれません。しかし、ソルバーが誕生して以降、インプライドオッズの考え方は大きく進化しました。
インプライドオッズとは?
インプライドオッズとは、現在のハンドエクイティ以上に獲得できる見込みがある価値のことです。つまり、相手のハンドに対して、後のストリートで強い役を完成させたときに得られる価値とも言えるでしょう。「ダイレクトポットオッズ」とは対照的に、インプライドオッズの考え方を用いることで、コールするのに十分なエクイティがなくても、ドロー次第で将来的に利益を得られるハンドがあることがわかります。
ダイレクトオッズ vs インプライドオッズ
では、ここで例を見てみましょう。ターンで10BBのポットサイズのベットを受けたとします。このとき、ハンドは25%のエクイティでドローを持っていると仮定します。果たしてコールすべきでしょうか?
ダイレクトポットオッズの計算
ダイレクトポットオッズとは、コールをする上で最低限収支をプラスにするために必要な勝率のことです。このとき、後のストリートでチップを獲得できる可能性は考慮しません。
- 25%の確率でドローカードを引けて、20BB(ポット+相手のベット)を獲得します。
- 75%の確率でドローできず、10BB(私たちのコール分)を失います。
コールの期待値 = (25% x 20BB) – (75% x 10BB) = 5 – 7.5 = -2.5BB
上の計算ではこのコールはマイナスEVです。しかし、この計算は、後のベットを考慮していません。
インプライドオッズの計算
このコールを正当化するには、リバーでいくらかの追加資金(M)を獲得しなければいけません。このとき、ドローを引けなかったら毎回フォールドします。
- 25%の確率でドローを引けて、20BB+M(ポット+相手のベット+M)を獲得できます。
- 75%の確率でドローを引けず、10BBの損失(私たちのコール分)が生まれます。
コールの期待値 = (25% x (20+M)) – (75% x 10)
収支をプラスにするには、ドローカードを引いたときにいくら追加でポット額を得る必要があるのでしょうか?ではここで、EVを0に設定して損益分岐点を求めて、その後にMを解いてみましょう。
0 = (25% x (20+M)) – (75% x 10)
M = 10
つまり、このコールを正当化するには、リバーで平均10BB追加で獲得する必要があるのです。このとき、10BBはリバーにおいてたったの1/3ポットです。つまり、ドローを引けたときに少なくとも1/3ポットベットを相手から引き出せると考えれば、このコールは利益的になります。
言い換えれば、このコールは、リバーで少なくとも追加で10BB勝てればよいということになります。これがインプライドオッズの名前の由来です(インプライドは暗示しているという意味)。
エクイティの実現にどのように影響するのか
SB がオープンし、BB がコールするとします。ボードはJ♥T♦6♥2♣。SBが75%ポットベット、BBはコールします。SBは175%のポットオーバーベットをし、BBは5h3hでアクションする場合を考えてみましょう。
まずは、簡単なポットオッズの計算をしてみましょう。BBは26.25BBのベットを受けており、ポットは現在15BBです。コールをして収支を合わせるには、長い目で見て少なくとも26.25BBを獲得する必要があります。
エクイティが31.68%しかない5♥3♥のようなギリギリのドローを持っているとします。
では、ダイレクトポットオッズを考えてみましょう。必要なエクイティ = (コールする額) / (コール後のポット – レーキ)。BBがコールするのに必要なエクイティは26.25 / (15 + 26.25*2 – 0.6) = 39.24%。
もしSBがターンでオールインするなら、簡単にフォールドすることができます。しかし、今回はコールしても66.25BBが残っています。そのため、インプライドオッズを考慮すると、5h3hはドローカードを引いたときに、現在のエクイティ以上の勝ち分が期待できます。
5h3hのEVはフォールドよりも5.33BB高くなっています。つまり、コールした後に(26.25BB + 5.33BB = 31.58BB)の勝ち分を期待できます。SBからのベットをコールした後のポットは67.5BBなので、期待できるポットシェアは(31.58 / 67.5) = 46.78%ポットです(レーキを無視した場合)。
おさらいしましょう。
- エクイティは31.68%。
- ポット・シェアは46.78%。
つまり、エクイティ以上の価値を実現できるとも言えます。46.78/31.68 = 148%
正確には、後のストリークでチップを取れる可能性がある時、期待値はエクイティが表すものよりも高いということです。これがインプライドオッズの基本的な特徴です。
リバースインプライドオッズ
リバースインプライドオッズという考え方も存在します。例えば、ドローカードを引けても大きなポットを失うような場合です。ドローしたハンドが後のストリートでドミネイトされたり、まくられたりして、現在の勝率に見合ったポット額を獲得できないことがあります。セカンドナッツ級の強い役を完成させても、逆に大きなポットを失うこともあります。
J♥T♦6♥2♣の例に戻り、K♠J♠を持っているとしましょう。
K♠J♠はエクイティが良く、相手のレンジの半分以上に勝っています。しかし、相手のオーバーベットに対しては、ほぼとんとんです。相手がポラライズしてきた時には、このような中程度の強さのハンドでは相手のバリューに勝つことはできないです。
これらのハンドはブラフキャッチャーに近く、リバースインプライドオッズが低いと言えます。
ここでも26.25BBを勝たないと収支が合わないので、K♠J♠は26.25 + 2.21 = 28.46BB、つまりポットの約28.46/67.5 = 42%を獲得する必要があります。
エクイティ 54.71%
EV 42.16%
エクイティの実現率=77%
実現したのはエクイティの77%だけとも言えます。
では、残りのEVはどこに行ってしまったのでしょうか?SBは自身のエクイティを十分に実現可能で、リバーでBBのトップペアをEVに差がない状況に追いやることができています。SBはより強いバリューとブラフのレンジでポラライズしたり、ハンドをまくったり、BBのトップペアをスタックして大きな利益を得ることができます。BBはSBのリバーでのベットに毎回コールするのは難しくなります。BBのレンジにはブラフキャッチャーのハンドがありますが、相手のレンジはとても強いため、こちらよりも弱いハンドからベットを引き出すことはできません。
グラフを見てみましょう。これが相手のオーバーベットに対するエクイティ分布です。線上の点はすべてのKJを表しています。ブラフキャッチャーのEVが長く直線的であることからわかるように、BBのレンジのほとんどはEVに差がないのです。
スタックサイズによってインプライドオッズがどのように変わるのか
スタックサイズは、インプライドオッズを評価する上で最も大きな要素です。「インプライド」とは、後のストリートでさらにチップを獲得できる見込みがあることを意味します。そのため、残りのチップがあればあるほど、後のストリートでチップを獲得する、または失う可能性が高くなり、インプライドオッズやリバースインプライドオッズが高くなります。
標準的なキャッシュゲームで、スタックサイズが異なる場合に、ソルバーがHJでどのようなレンジでオープンするのかを比較してみましょう。
HJオープン 50BB持ち
相手が後のストリートで自分のバリューベットにコールしてくれる可能性がどの程度あるかも考慮すべきです。例えば、フラッシュドローは、相手がすべてのフラッシュが完成するボードでフォールドした場合、インプライドオッズは低くなります。
HJオープン 100BB持ち
スタック深くなると、下位のポケットペアやスーテッドコネクターに加えて一般的にインプライドオッズの高いハンドが好まれることがわかります。この状況では、スタックサイズの影響は少しですが、トーナメントではより顕著になります。
スタックが少ないときは高いエクイティがあるハンドでのオールインが好まれていますが、スタックが深いときにはインプライドオッズの高い「複数ストリートに渡ってプレイしやすい」ハンドへとレンジが広がっているのが見てとれます。60BB以上になると、インプライドオッズが高まり、他のプレイヤーがより広いレンジでポットに参加できるようになるため、レンジが少し狭くなります。
インプライドオッズに基づいた、マルチウェイでのエクイティの移り変わり
インプライドオッズは、そのハンドがナッツになりうるドローカードがあるかどうかに影響されます。この影響を「プレイアビリティ」と呼ぶこともあります。次の図は、任意の2枚のカードを持った2~14人のプレイヤーのエクイティ分布を色分けしたものです。ここでは、エクイティがマルチウェイでどのように変化するかを見ることができます。正確な数字よりも、グラデーションに注目して見てください。
プレイヤーの数を調整する、つまりインプライドオッズの値を調整することで、GTOのオープンレンジとほぼ似たエクイティのグラデーションを作ることができました。たとえば、標準的な100BBのBTNのオープンレンジの隣に、上位44%のハンドのエクイティのグラデーションを表示してみます。
残りのプレイヤーが3人だけでも、100BBのスタックサイズによって、インプライドオッズが高まっています。ここで、GTOのEVグラデーションを再現するために、マルチウェイのエクイティ計算を8人のプレイヤー数へと増加させ、意図的にインプライドオッズを高めてみます。
プレーヤーを増やすと、エクイティのグラデーションは、ナッツを作る確率の高いより多くのスートとコネクテッドハンドに移ります。
このように、インプライドオッズを調整できる指標として扱うことで、さまざまな種類のハンドが持っているインプライドオッズを強調することができます。
この種の分析ではブロッカーの効果を過小評価するので、アーリーポジションのオープンレンジを再現するのは困難です。グラフや表を見てみて、インプライドオッズを面白いと思ってもらえたら嬉しいです。