MDFとAlphaはどちらもベットを受けた際にどのくらいの頻度でディフェンスするべきかを表した指標のことです。
広くディフェンスしすぎると、相手にバリューベットの割合を増やされるとエクスプロイトされてしまいます。逆にタイトに守りすぎると、ブラフの割合を増やされます。そのため、相手のブラフがインディファレントになるようにコールできれば良い戦略と言えます。この指標は実践でそのまま使うには問題がありますが、ポーカーの理論を語る上では外せません。
MDFとは
MDFとは相手のエクイティ0%のハンドがブラフをした場合としなかった場合で同じ期待値になるにはどのくらいの頻度でコールするべきかを示す指標のことです。
簡単にいうと、MDFは自分のハンドに関係なく相手のブラフが利益的にならないようにします。ブラフを増やされたときには、最低限ディフェンスしないといけません。
MDFは相手のブラフのEVを0にするリスクとリターンを計算したものです。
ディフェンスするとは
ディフェンスは「アクションを続ける」という意味です。例えばレイズやコールはどちらもディフェンスに含まれます。
MDFの注意点
MDFは相手がブラフしすぎている場合に使うようにしましょう。本題に入る前にここだけは頭に置いておいてください。
相手のブラフが本来するべき頻度より少ない場合には決して使わないようにしましょう。
相手のブラフが明らかに足りていないなら、相手のブラフのEVを0に合わせようとしても意味がありません。バリューが多い相手には多めにフォールドするだけで問題ないでしょう。相手がブラフを増やした時、エクスプロイトされないようにMDFを使います。
Alphaとは
MDFは防御手段でしたがAlphaは攻撃手段として使えます。
アルファはMDFの逆です。エクイティ0%のハンドでの自分のブラフがとんとんになるには、相手がどれくらいの頻度でフォールドする必要があるかがわかります。
アルファはリスクとリターンを計算したもので、ブラフが損をしないために、相手がどれくらいの頻度でディフェンスする必要があるかを計算します。相手のディフェンス頻度が少ない時は良いですが、頻度が高ければ、ブラフを慎重に行う必要があります。
Alpha = 1 – MDF
MDF = 1 – Alpha
計算方法
公式
リスクとリターンを計算するにはポットに対するベットの大きさを見て、ブラフをインディファレントにするために必要なデフェンス頻度を計算します。
MDFとAlphaの計算は非常に簡単です。
Alpha (α) = リスク/(リスク+リターン)
リスク = ブラフする際に追加で必要になる額
リワード = 相手が降りた場合に得られる額
ベット額とポット額を基準にした式もありますが、レイズの場合にその式は使えなくなるので上記の式の方がおすすめです。参考に以下にその式も記載しますが、ベットにしか使えません。
MDF = ポット / (ベット+ポット)
Alpha = ベット / (ベット+ ポット)
例題1
100ドルのポットに60ドルでベットした場合のMDFとAlphaを見てみましょう。
- リスク = $60 (ブラフの額)
- リターン= $100 (相手が降りた時に得られる額)
Alpha (α) = リスク/(リスク+リターン)
Alpha (α) = $60/($100 + $60)
Alpha (α) = 37.5%
相手は少なくとも37.5%の頻度でフォールドしないといけません。
MDFは単純に1 – αで計算できます。
この場合、MDF=1-37.5%で62.5%となります。つまり、ブラフが損をしないためには、相手は少なくとも62.5%のレンジでディフェンスする必要があります。相手がこれよりディフェンスする頻度が低ければ利益的になりますが、高ければ損をすることになります。
例題2
100ドルのポットに60ドルをベットした時、相手から200ドルのレイズが返ってきました。その際のMDFとAlphaを求めてみましょう。
160ドルを得るために、相手は200ドルをリスクに晒しています。
Alpha (α) = リスク/(リスク+リターン)
Alpha (α) = $200/($200 + $160)
Alpha (α) = 55.5%
MDF = 1 – α = 44.5%
つまり、相手のブラフレイズからディフェンスするにはベットしたレンジの44.5%を守る必要があります。逆に相手のブラフが利益的になるには55.5%以上あなたをフォールドさせないといけません。
早見表
ベットサイズに合わせたAlphaとMDFを調べるために、表を使うプレイヤーもいます。この表を使うには、最初の列のベットサイズを見て、3番目と4番目の列で適切なアルファとMDFを見つけるだけです。
注意点 – この数字は最初のベットに対してのみ有効です。MDFとアルファはレイズされた場合は異なります。その場合、ポットに対するベットの割合のみで算出することはできません。
EV計算
MDFとAlphaは損益分岐点を表しただけです。EVの計算式を使って、ピュアブラフの実際の収益性を計算することもできます。それを使えば、相手がどの程度コールするかによってどの程度利益が出るのか推測できるようにもなります。
ピュアブラフのEVは以下の式で表せます。
EV (ブラフ) = (フォールドする確率 x ポット) – (コールする確率 x ベットサイズ)
この式が成り立つのは、ポットが相手がフォールドしたときに得られる額で、ベットがコールされたときに失う額だからです。この式ではブラフはコールされたときに必ず負けると仮定しています。
例題3
100ドルのポットに125%のピュアブラフを打ったとします。その際、相手がレンジの40%でコールする場合を考えてみましょう。
EV (ブラフ) = (フォールドする確率 x ポット) – (コールする確率 x ベットサイズ)
EV (ブラフ) = (60% x $100) – (40% x $125) = $10
相手がフォールドしすぎているため、EVは10ドルとなります。
ではEVを0ドルにするには相手はどの程度フォールドすれば良いでしょうか。
Alpha = リスク/(リスク+リターン) = 125/225 = 55.5%
つまり、相手がレンジの44.5%をディフェンスする場合、このオーバーベットブラフはトントンになります。そこから相手が少しでもフォールドを増やせば利益的になっていきます。
グラフ
相手のフォールド率によってブラフがどの程度利益的になるのか、グラフにしてみます。
- 相手がフォールドしないほど、ブラフは損をします。
- 相手がフォールドすればするほど、より多くの利益を得ることができます。
幾何学的には、(0, -125)と(1, 100)の間に直線を引くことができ、その直線がx軸と交差するところが、ブラフで損をしないために必要なフォールド率を表します。この交点が今回はAlphaになります。つまり55.5%です。
グラフに色をつけてみます。
右側は、相手が55%より多くフォールドするため+EVとなっており、左側は相手が55%より低い確率でフォールドするため-EVとなっています。
限界について
そろそろ放置していた大きな問題を解決しておきましょう。実は、MDFは単独ではうまく機能しません。MDFは、単独の指標としてある重大な前提を置いています。
MDFはブラフのエクイティを考慮していません。
MDFはほとんどの場合、実践を考慮できていません。普通はブラフはリバーより前のストリートではある程度のエクイティを持っています。
例えば、ドローでセミブラフできますし、ハイカードでも、相手のバリューの一部に勝っている場合もあります。
この点を考慮するとどのように戦略が変わるのでしょうか。
チェックバックされた時エクイティがあるケース
ブラフするハンドにチェックバックされた際にエクイティがあるなら、0ドルに合わせる必要はありません。その代わり、ベットとチェックでインディファレントにする必要があります。
例えば、相手がリバーでブラフを仕掛けてきた場合、ブラフに勝てるハンドにのみMDFを適用すべきです。ブラフキャッチャーでないハンドにMDFを使っても意味がありません。
例題
相手がリバーでIPからオールインしてきたとします。相手のブラフはチェックバックされた際に20%のエクイティを持ちます。相手のブラフをインディファレントにするにはどの程度ディフェンスする必要があるでしょうか。
目的は相手のブラフとチェックを同じEVにすることです。チェックバックした場合のEVはポットの20%です。
EV(ブラフ) = 0.2 (ポット) = (フォールドする確率 x ポット) – (コールする確率 x ベット額)
0.2 = (1-コールする確率) – コールする確率
コールする確率 = 40%
相手ブラフのエクイティが0%であれば50%コールが正解です。しかし、今回相手のブラフはエクイティがあるので、40%ディフェンスすれば十分です。そのため通常よりもフォールドすることが可能になります。別の言い方をすれば、相手のブラフにはチェックした際のエクイティがあるので、相手のブラフは利益的になります。
目標:ブラフEV = チェックEV
チェックEV = 20% pot
ブラフEV = 20% pot
要約:ショーダウンバリューのあるハンドでブラフされている場合、少なめにディフェンスする。
コールされた場合にもブラフがエクイティを持つ場合
相手はターンでポットをオールイン。相手のブラフはほとんどドローで、コールレンジに対して20%のエクイティを持っています。これらのドローでターンをチェックする場合のEVも20%のポットです。
相手のドローをチェックとベットでインディファレントにするにはどの程度ディフェンスするべきでしょうか?
目的は相手のブラフとチェックを同じEVにすることです。なお、チェックバックした際のEVはポットの20%であると知っているとします。
EV (ブラフ) = EV (チェック) = 20% pot
EVの計算式にコールされたときのエクイティを含める必要があります。
0.2 = (フォールドする確率 * ポット) + コールする確率((勝率 * ベット額+ポット) – (負ける確率 * ベット額))
0.2 = (1 – コールする確率) + コールする確率 (20% * 2 – 80%)
コールする確率 = 57%
感覚的な話をすると、ドローはコールされたときのエクイティがあるため、ピュアブラフに対してリスクが少ないということです。
20%のドローでポットサイズのオールインをした場合、純粋な(エクイティ0%の)ブラフで75%のオールインをした場合とほぼ同じリストとリターンの比率になります。その意味では、ベット額が小さいと考えることもできます。
このことは、ドローの多いボードでベット額を大きくできることが多い理由にもつながります。しかし実戦では、強いドローをインディファレントにしようとすることはほとんどありません。
GTOはMDFを守っているのか
GTO Wizardのcomplexレポートを使って、想定されるMDFのフォールド頻度(赤)に対するGTOのフォールド頻度(青)をグラフにしました。これらのレポートは、1755種類のフロップすべてを網羅しています。全体的に、BBはフロップの全てのベットサイズに対して一貫してオーバーフォールドしています。
同じレポートをSB対BBのSRPで見てみましょう。この場合、BBはポジションがあるので、平均してMDFに近いコールをします。
少なめにディフェンスする場合
MDFよりもディフェンス頻度が少なくなることは理論的にはよくあることで、実際多くの場合でそれは正しい戦略です。MDFに従ってコールすることの問題点は、チェックバックされた際に0EV以上あるハンドを相手がブラフに回す理由がなくなってしまうためです。
ナッツとエアーしかないトイゲームでは問題はありませんが、ブラフにエクイティがある実践のポーカーでは問題となります。多くの場合、ディフェンスしなさすぎよりも、ディフェンスしすぎる方がエクスプロイトされます。
つまり以下のような状況ではMDFより少なくディフェンスした方が良いでしょう。
- フロップやターンでOOPの場合
- 役があるハンドで相手がブラフする場合
- チェックバックされた場合にEVがある場合
- バリューヘビーな相手
例を挙げましょう。CO対BBのSRPでボードがQQ3rとします。BTNのほとんどのブラフはこのボードで大きなエクイティとEVを持っています。さらにBBはそのエクイティを実現することができません。そのため、BBはこのフロップでは通常よりかなり広くフォールドしなくてはなりません。
COは33%のCベットを打ったとします。BBのMDFによれば、レンジの75%をディフェンスし、このサイズのベットに対してフォールドするのはせいぜい25%。しかし、ソルバーはレンジの半分近くをフォールドしています。
広めにディフェンスする場合
MDFよりも広くディフェンスするケースは珍しいですが、理論的にはあり得ます。ただし、そのケースが起こるのはアグレッサーのブラフがコールレンジに対してエクイティを持っている場合です。エクスプロイト的にいうと、相手がオーバーブラフしているとき、広くコールしていることを主張できます。
つまり以下のような状況ではMDFより広くディフェンスした方が良いでしょう。
- ドローヘビーなボードで早い段階でオールインが入った場合
- チョップボードで相手がドローでブラフすることが多くかつIPの場合
- 相手がブラフヘビーな場合
例として面白いスポットがあります。これはBTN対BBの4BPで、BTNがフロップで134%のオールインをした場合です。MDFによると、BBは134/234=57%のレンジをフォールドし、43%のレンジをコールするはずです。しかし、ソルバーはそれよりも10%オーバーコールしています。
まとめ
MDFは、相手のオーバーブラフへの防御手段です。Alphaは特定のベットサイズでブラフをする際に相手をどの程度フォールドさせれば良いかを知る攻撃手段です。
この指標はブラフにエクイティがないことを前提としているため、完璧ではありません。しかし、どれくらいの頻度でディフェンスすべきか、相手のフォールドがどの程度あるのかをざっくり推測するには役立ちます。相手のブラフ頻度がずれている場合には、エクスプロイトするべきです。MDFを盲目的に信じないようにしましょう。
GTO戦略はIPの場合はMDFに近くなりますが、OOPではほとんどの場合オーバーフォールドします。
この指標は、この記事で紹介した以外にも多くの方法で使うことができます。例えば、異なるラインのバリューレンジの境界線を決めるのにも役立ちます。
この記事でAlphaとMDFについて、理論的かつ応用的な理解が深まったなら嬉しく思います。