ボードカバレッジの重要性
初のGTO Wizard AIアップグレードでは、注目すべき機能が搭載されており、その機能では特にポーカーにおけるボードカバレッジの重要性を示してくれます。これまでGTO Wizardで見られるすべてのポストフロップのレンジは、ボードカバレッジを考慮して設計されています。
「ボードカバレッジ」とは、オープン、ディフェンス、3ベットといった各レンジが、あらゆるタイプのボードに対応できるようにすることを意味します。つまり、同じレンジでA♥A♦K♣のフロップ、J♥9♣8♦のフロップ、あるいは6♣4♥2♣のフロップにも対応できるようにしておく必要があります。ヒットしすぎても、逆にヒットしなさすぎても、相手に付け入る隙を与えてしまいます。
また、GTO Wizard AIの優れた機能の一つとして、ポストフロップの戦略に合わせてプリフロップレンジを変更できる点が挙げられます。この機能は、レンジがボードとどのように相互作用し、偏りがあるとどのような結果になるかを実例で示し、ポーカーにおけるボードカバレッジの重要性を改めて認識させてくれます。
ボードカバレッジの重要性はどれくらい?
例を挙げて説明しましょう。これはソリューションライブラリにあるすでに解かれているスポットです。40bbのUTG vs BBのSRPで、以下はUTGのオープンレンジです。
UTGは全体のわずか19.1%のハンドからなるタイトなリニアレンジですが、タイトながらも実際には全てのボードに対応できるように設計されています。このレンジはカードのランクが高いボードに対しては非常に強い一方で、中間のボードにも十分なハンドを持っており、ストレートの可能性もあります。また、低いボードにもヒットできる可能性があります。すべてのポケットペアを含んでいるため、どのセットも作ることができ、低いスーテッドのAxハンドがあるおかげでA2345のストレートも狙えます。
続いて、オープンに対するBBの反応を見てみましょう。
BBのコールレンジは、低いボードや中間のボードをより広くカバーしており、UTGよりも低いボードにヒットしやすい構成になっています。このレンジはボードカバレッジが優れているものの、レンジ自体が非常に広いため、実際には多くのボードで外してしまうことが多いです。なお、このレンジはプリフロップのプレミアムハンドを含まないため、キャップされたレンジと呼ばれます。
ここで652rのフロップを例に見てみましょう。BBにとって非常に良いボードです。セット、ツーペア、各種ペア、ストレート、そして多くのコンボドローを持っています。
しかしながら、このボードでも何も当たらないことが多いです。一方、UTGはナッツ級のハンドは少ないものの、強いハンドを多く持っています。具体的には、オーバーペア、セット、オープンエンドストレートドローとバックドアフラッシュドローがある78s、そしてペアとバックドアフラッシュドローがあるA6sやA5sなどです。
それに対するUTGの戦略は次の通りです。
UTGはレンジ面で優位に立っていますが、その優位性は決して大きくなく、常にベットできるわけではありません。BBは依然として多くのナッツ級のハンドを持っており、UTGもこのボードで当たっていないハンドが多くあります。そこで、UTGは大きなサイズを採用し、フロップでは主にポットの125%のオーバーベットをします。ほとんどのハンドは混合戦略になっていますが、常にオーバーベットするのは、QQ~77のような脆弱なオーバーペアです。このフロップはダイナミックな性質を持ち、ターンカードでボードがペアになったり、ストレートが完成したり、J以上のカードが出ると、これらのハンドには大きなダメージとなります。
また、オーバーベットのブラフは、ワンペアをまくれるハイカードでしています。
ここからは、新機能のGTO Wizard AIを使ってレンジを変更する様子を見ていきましょう。以下の例では、レンジだけを変更し、その他の条件はすべて先ほどのソリューションと同じ条件にしています。BBのディフェンスレンジは全く変わりませんが、UTGは以下のレンジに変更しています。
このレンジは全体の19.1%という点では変わりませんが、内容は「オールドスクール・ライブプレイヤー」のレンジに変更され、ハイカード中心の構成となっています。最も低いカードは、7としています。実際、彼らはもっとタイトなレンジを使うはずですが、比較のためにハンドの割合は同じにしてあります。
重要な点は、プリフロップでは全体的に強くなっているものの、このレンジはすべてのボードに対応できるわけではなくなっているということです。(今回見たボードもその例の一つです。)
まず注目すべきは、UTGの全体的なエクイティが低下している点です。UTGは依然としてわずかな優位性があるものの、最初の例では55.1%だったエクイティが、今回の例では51.3%に落ち込みました。最初の例ではUTGのEVは3.6bbだったのに対し、今回では2.7bbとなっています。一方、BBは最初の例で2.5bbのEVであったのが、今回は3.3bbに増加しています。
BBはエクイティやポジションでは不利な状態にありますが、UTGがボードを十分にカバーしていないため、BBは平均してより多くの利益を上げるようになっています。ここで注目すべき重要な指標は「EQR」です。最初の例では、UTGのEQRは107%で、多く実現できていました。しかし今回の例では、UTGのEQRが88%となり、エクイティを十分に実現できていません。一方、BBは最初の例ではEQRが91%だったのが、今回の例では113%に上がっています。
つまり、UTGがボードをカバーしないことで、エクイティをBBに譲ってしまっていることが分かります。UTGは、自分のレンジでエクイティを十分に生かせず、厳しい局面に何度も追い込まれることになるでしょう。
ここからは、この状況での戦略について詳しく見ていきます。最初の例では、UTGのレンジとポジションの優位性からBBは100%チェックでポストフロップのアクションを開始していました。しかし、今回、BBは次のようにポストフロップでアクションを開始します。
BBはこれまで常にチェックしていたのに対し、半分程度の頻度でベットしています。レンジは以前と同じですが、UTGにナッツ級のハンドがないことを把握しているため、より積極的なプレイが可能になっています。BBはナッツ級のハンドだけではなく、ガットショットやバックドアといった弱いドローやオーバーカードのようなハンドでも広くベットします。
それに対してUTGは次のように対応します。
UTGは依然として強いレンジを持っているため、フォールドはあまりしません。最初の例でオーバーベットが有利だったハンドは、以前と同様にプロテクションのためにレイズします。しかし、大部分のハンドは単にコールに回り、最初の例でベットとチェックになっていたAxやKxもコールになります。
BBがチェックする局面(全体の約半分以上)では、UTGは次のような戦略となります。
UTGは依然としてオーバーベットをしますが、今回はオーバーベットと小さめのベットが半々の割合で使われ、以前のように多くオーバーベットするわけではありません。しかし、最も大きな変更点は、ベット頻度が減少したことです。最初の例ではチェックが43%となっていましたが、今回は61%になっています。
ボードを十分にカバーできていないため、UTGのレンジはキャップされており、そこでの正しい調整は、よりパッシブにプレイすることです。
もし適正なレンジの時と同じようにアグレッシブにプレイすると、相手にチェックレイズやブラフキャッチでエクスプロイトされてしまいます。したがって、レンジがキャップされている場合の正しいプレイは、よりパッシブにプレイし、相手にベットをさせることです。
ただし、ここで重要な注意点があります。これらの例では、両プレイヤーとも完璧なプレイを前提としています。UTGはキャップされているレンジになっており、その状況を踏まえて最善のプレイをしていました。
実際のところ、キャップされているレンジのプレイヤーは、フロップ後に完璧なプレイを実行することは難しいでしょう。特にローボードでは、Cベットをしすぎて自ら難しい状況に迷い込み、さらに多くのEVを相手に与えてしまうことが多々あるでしょう。
ボードカバレッジを簡単に獲得する方法
上記の2種類のUTGレンジはいずれも、全体の19.1%のハンドを含んでいます。
最初のレンジは、より多くのボードに対応できる点が大きな特徴です。ホイール (A2345)や中程度のツーペア、中程度のストレート、さらにはどのランクでもセットを作ることができます。
このレンジでのMVP級のハンドクラスはAxsです。Axsどのポストフロップレンジにおいても重要な役割を果たしています。
まず第一に、AxsでAのワンペアを作れば、他のペアには全て勝つことができます。トップペアでこれらのハンドを持った場合、かつてはドミネイトを気にしていましたが、実際はそれほど大きな問題ではありません。
次に、どんなボードにも対応できるという点です。たとえば、ボードが442やK66の場合、いずれのフロップでもスリーカードを作る可能性があります。また、ローボードではA2s-A5sがホイールストレート (A2345)を完成させることも可能です。
さらに、Axsでフラッシュを作るとナッツフラッシュになります。(極稀にストレートフラッシュが可能なケースを除けば)また、Axsでフラッシュドローになれば、非常に強いセミブラフハンドになります。相手がコールしてもナッツを作れるだけではなく、Aでトップペアを作れる可能性もあります。
重要なのは、Axsはレンジに取り入れやすいカードであるという点です。各スーテッドハンドは組み合わせが4通りしかないのに対し、オフスーツハンドは12通りあります。
たとえば、A5oはA5sの3倍の組み合わせがあります。つまり、プレイするハンドの割合を変えずにボードカバレッジを確保したい場合、オフスーツハンド1枚を控える代わりに、レンジにスーテッドエースを3枚加えることができるのです。
特に、こうしてタイトなアーリーポジションレンジは、ボードカバレッジを確保しながらも全体のタイトさを維持できます。
まとめ
ポーカーではキャップされたレンジでプレイしなければならない場面もありますが、ボードカバレッジを意識すればレンジをキャップされることは減ります。ボードカバレッジは、適度な頻度でフロップにヒットして相手に疑念を抱かせるために重要です。ボードをカバーしないと、相手にエクスプロイトされてしまいます。
相手のレンジがキャップされている場合、ボードにヒットしていない点を攻めることでエクスプロイトできます。そうした相手は、たとえ強いハンドを持っていても、ブラフやシンバリューに対抗するためにパッシブにプレイすべきです。しかし実際には、ボードカバレッジを理解していないプレイヤーは、キャップされているボードで適切な調整ができず、状況をさらに悪化させる可能性があります。
ボードカバレッジを効率良く実現する最も良い方法は、Axsハンドをレンジに入れることです。これらのハンドはトップペアを作るだけでなく、フラッシュが完成すればほぼ確実にナッツとなり、フラッシュドローの場合には強力なセミブラフとなります。また、キッカーはミドルからローのカードでのボードカバレッジに役立ちます。