SPRとはエフェクティブスタックの深さを測る方法です。ポットを獲得するためにそのスタックをリスクに晒すにはどの程度の強さのハンドが必要か、いわばリスクとリターンの計算です。エフェクティブスタックは、リターンであるポットを獲得するために、どちらのプレイヤーもリスクを負う可能性のある最大額のことを指します。
時々、特にプリフロップでスタックの大きさをSPRではなくBBで表すことがありますが、これはあまり役に立たない指標です。リターンを考慮せずにリスクについて語ると、誤った判断を下すことになります。
SPRとは、エフィエクティブスタック(賭けに入れられる額)をポットで割ったものです。
エクイティとSPR
ポットが100ドルの状態でフロップが開き、相手はすぐに100ドルのオールインをしてきました。相手がベットする前のSPRはいくつでしょうか?ベットにコールするために必要なエクイティは何%でしょうか?
エフェクティブスタックが100ドルでポットが100ドルの場合、SPRは$100/$100=1になります。このベットをコールするには、コール後のポット300ドルに対して100ドルを追加で入れる必要があるので、$100/$300=33%のエクイティが必要です。
SPRが2の場合、ベットは200ドルとなり、$200/$500=40%のエクイティが必要になります。SPRが3の場合、300ドルのベットをコールするには$300/$700=43%のエクイティが必要です。ポットに対するリスクが大きいほど、利益を得るには強いハンドを持っている必要があります(この計算が分からない場合は、まずこちらのポットオッズの記事を読んでください)。
また、SPRが高くなるにつれて、相手はスタックをリスクに晒すには、強いハンドを必要とします。SPRが1の時、例えあなたが絶対降りないとしても、相手はフラッシュドローでオールインできるようになります(フラッシュドローは多くの場合35%のエクイティを持っているため)相手のレンジには比較的弱いハンドも含まれるため、自分の比較的弱いハンドも33%のエクイティに達しやすくなります。
SPRが高い場合、スタック全体がポットに入ってくるので、相手のハンドは強いと予想できます。つまり、ポットに対するリスクを受け入れるにはエクイティがより必要になるだけではなく、相手のレンジが強いため、エクイティを持てる可能性も低くなるということです。
Equity Required to Breakeven By SPR
上の図は、どちらのプレイヤーもフォールドする可能性がなく、全てのスタックが一度にポットに入れられる状況を表しています。ブレイクイーブンエクイティとは、コールするのに必要なポットオッズのことです。SPRが非常に低い場合は、実戦ではこの数値に近くなります。
スタックが深くなるにつれて、ベットはどんどん複雑になっていきます。あるプレイヤーがエクイティの高いハンドと、ブラフを組み合わせてベットしたとします。その後相手も同様にブラフとバリューを混ぜてレイズ⇪をし、そのレイズがコールされた場合、フォールドエクイティはそれほど期待できず、相手は強いレンジを持っていると予想できます。その後そのプレイヤーがオールインし、それがコールされた場合、相手はおそらく強いハンドを持っているでしょう。
ロバストネス
相手のレンジが強くなるにつれて、エクイティが下がりにくくなるハンドがあります。この性質は「エクイティ保持力」または「ロバストネス」と呼ばれます。
SPR1でオールインできるペアやドローを含むレンジに対して、ミドルペアは高いエクイティを持っています。トップペア以上と強いドローだけのレンジ(SPR4でオールインできるレンジ)に対しては、ミドルペアは上手くプレイできません。ボトムセットは、SPR4におけるオールイン可能なレンジに対しては非常に高いエクイティを持っていますが、SPR100では、それより強いセットしか相手は持っておらず、エクイティは非常に低いでしょう。
ドローの魅力は、セットのように圧倒的に有利になることは少ないものの、そのエクイティが失われづらいということです。相手のレンジが強くなっても、エクイティが急激に下がることはありません。その結果、SPRが高い時にはベットやチェックレイズをしてポットを大きくするのに、ミドルペアのような中程度の強さのハンドよりもドローの方が適している場面が多くなります。
これは、ドローがナッツを作る可能性がある場合に最も当てはまります。弱いドローは、強いハンドに対してはロバストエクイティを持っているかもしれませんが、強いドローに対しては非常に弱くなります。これは、相手のレンジが強くなるにつれてナッツの可能性のあるドローの割合が増えるので、仮に引けたとしてもポットを失う可能性が高くなるためです。
SPRが低い場合のオールイン
下の図は、MTTのBTN対BBのSPRでポットは14BB、フロップが J♥ 8♦ 5♥ の局面です。プリフロップの後、ポットは5.5BB、エフェクティブスタックは12BBとなるので、SPRは2を超えます。BTNがフロップでオールインした際のBBの戦略を見てみましょう。均衡ではBTNがこのベットをすることはめったにありませんが、このベットに対するソルバーの戦略はためになります。
トップペア以上であれば、フォールドエクイティがなくてもオールインできることがわかります。また、セカンドペアやそれより弱いペア(フラッシュドローをブロックしているサードペア)でも可能になります。
それに対してほとんどのフラッシュドローはコールできますが、非常に弱いドローはフォールドとなっています。9枚のアウツだけではコールに必要な40%のエクイティは得られませんが、これらのドローのほとんどはペアも作ることで勝てる可能性があるほか、ナッツフラッシュドローの場合はすでに相手のハンドよりも強い可能性があります。オープンエンドストレートドローはバックドアフラッシュドローがあればコールできますが、ガットショットは全てフォールドとなっています。
SPRが中程度の場合のオールイン
先ほどのシチュエーションのエフェクティブスタックを30BBにしてみましょう。この場合SPRは5付近になります。
この高さのSPRでは、トップペアでのオールインは少し危険で、ナッツフラッシュドローも同様です。オープンエンドストレートドローは、♥ を持っているか♦のバックドアがない限り、フォールドとなります。
実戦では、ベットを何回かに分けるか、レイズでスタックを全てポットに入れることはありますが、ポットの5倍のオールインを受けることはまずないでしょう。しかし、このチャートは、オールインの基準がSPRと共にいかに高くなるかを見事に示しています。
ディープスタックでのオールイン
最後にSPRが16の場合をみてみましょう。
すべてのトップペアとすべてのナッツフラッシュドローは、コールとフォールドのインディファレントになり、A♥Jxでさえピュアコールではなくなりました。なお、9♥7♥、7♥6♥といったフラッシュドローかつセカンドペアはコールが利益的で純粋戦略となっています。これはロバストネスの良い例です。これらのハンドは相手のレンジが強くなってもエクイティが保たれますが、進展のないハンドは価値が落ち始めます。ポットの16倍を入れてくる相手は、トップペアに勝てるハンド、つまりオーバーペアやツーペアを持っていることが多いでしょう。
レンジ構成
オールイン時のスタックの変化による戦略の違いを比較してきましたが、これは正確ではありません。両プレイヤーのフロップでのレンジはSPRが変わると少し異なり、ポットサイズも異なります(ディープスタックではBTNはやや大きめのレイズを使うため)。しかし、ここから学べることがあります。それはプリフロップのレンジはポストフロップのプレイを視野に入れて構築するべきということです。NLHEにおける目標は常に自分の全てのスタックでプレイできるほど良いハンドを作ることなので、「自分のスタック」がポットと比較して何を意味するかを考えることが重要です。
例えば14BBの場合、BBはAAなどの強いポケットをプリフロップでコールし、スロープレイすることがあります。これはSRPでもSPRが非常に低いことが予想でき、オーバーペアも簡単にオールインできるためです。
スタックが深くなると、BBはこれらのハンドをプリフロップで必ず3ベットします。SPR4以上では、どんなに強くてもワンペアでのオールインは危険になります。従って、KK、AA、AKのような強いワンペアは作りやすいが、それ以上の強い役を作りにくいハンドは、フロップでのSPRを低くするために3ベットをするのです。