ペアでブラフをするべきか
役のあるハンド(ペアなど)をブラフに変えるという発想は、直感に反するかもしれません。ソルバーが登場する以前は、弱いペアを持っているときはチェックするのが一般的で、「ポットを膨らませず、安くショーダウンできれば十分」とよく言われていました。
しかし、ソルバーの解析によって、一部の状況では弱いペアをベットする方がチェックよりも高いEVを生むことがわかっています。とはいえ、「なんとなくベットしている」と「理論的に理解したうえでベットしている」の違いは自分でも判断しづらいものです。そこで本記事では、キャッシュゲームでどういった時にペアをブラフにするべきか詳しく解説します。
ペアをブラフに変えるロジック
実際の例に入る前に、まずいくつかの理論的な知識を押さえておきましょう。リバーでのソルバーの出力を見ると、ブラフに使うのはエアハンド(何も役がないハンド)だけではなく、一部のペアも含まれていることがわかります。ソルバーは次のようにEVを計算します。
- ピュアブラフのEV: EV(ブラフ) = (フォールド頻度 × ポット額) − (ディフェンス頻度 × ベット額)
- IP側のチェックEV: EV(チェック) = (ハンドのエクイティ) × (ポット額)
(OOPの場合はIPのアクションが残っているため、やや複雑になります)
この計算結果によって、リバーで取り得るすべてのアクションのEVを比較・評価できるようになります。
一方で、それ以前のストリートでは、複数の要因が絡み合い、弱いペアでアグレッシブにプレイする場面もあります。ソルバーは人間のように「考える」わけではなく、与えられた条件の中でEVを最大化する戦略を機械的に導き出すアルゴリズムにすぎません。そのため、ソルバーの出力を比較して、繰り返し現れるパターンを見つけ出すことが重要です。そうした共通点からヒューリスティック(経験則)を構築することで、理論をより直感的かつ実戦的に活用できるようになります。
適切に見分けるには
ペアをブラフに変えることは、非常にシビアな判断を要します。わずかな違いが、上手いプレイかそうではないかを分けます。ただしこれはソルバーのノイズではなく、すべて理由があります。レンジとボードテクスチャ、そしてランナウトの関係性を理解するほど、こうした判断はより明確になります。ここからは、弱いペアであえてアグレッシブにプレイする狙いを掘り下げ、理論に基づく判断と場当たり的なアクションの違いを見極める力を鍛えるために、いくつかの具体的なスポットをもとに検証します。
SRPでのペアブラフ
マージナルなハンドを持っているときは、基本的にポットをあまり大きくはしたくありません。しかし、弱いペアの一部ではチェックレイズを選ぶべき状況もあります。その理由を理解するために、次のスポットを見てみましょう。
ここではボトムペア、特にキッカーが最も弱いハンドでは、約20%の頻度でチェックレイズしています。続いてBTN側の反応を詳しく見ていきます。
ここでいくつかのポイントを見ていきましょう。
- BTNは55-77のようなより勝っているペア、一部の8x、さらにはトップペアでもキッカーが弱いハンドはフォールドすることもあります。特にボトムペアに対して2枚のオーバーカードを持つハンドを多くフォールドしているため、エクイティデナイアル(相手のエクイティ実現を阻止すること)が非常に大きくなります。一方で、BTNは強いバックドアドローを持つハンドではフロート(コール)しています。つまり、より強いハンドをフォールドさせつつ、一部の弱いハンドにはコール(あるいはフォールド)させるという、複合的な効果が生じています。
- BBが4を持っている場合、IPの強いハンドをブロックしつつ、相手のより強いペアに対し5アウツ存在し、捲り目もあります。
- IPはTx、Jx、Qxの多くをフォールドするため、OOPはこれらを含まない4xでチェックレイズする傾向があります。例えば、Q4はIPのフォールドレンジを多くブロックするため、43の方がレイズするのに適しています。さらに、強いハンド同士でぶつかってしまうリスクも減らすことができます。IPはチェックレイズに対して33を全てフォールドし、(K3oはそもそもIPのレンジに存在しない)、KQやQQといった強いQを含むハンドでディフェンスするからです。
- 例外として、トップペアに対してオーバーカードを持つA4はチェックレイズに適しています。Aがターンで落ちた際、ナッツ級のツーペアを作ることができ、相手のAxからチップを大きく取れるためです。
これまででフロップでチェックレイズするという方針が明確になったかと思います。続いてはその後のストリートではどうプレイするべきかタ解説します。ターンやリバーのランナウトは無数に存在し、どのタイミングで、どんな理由で弱いペアでベットし続けるべきか見極めるのは簡単ではありません。これからは、後のストリートで弱いペアでベットを続けるべき場合と、そうすべきでない場合を具体的に見ていきましょう。
ペアでブラフを継続すべきとき
ターンでブランクの「2」が落ちとします。ソルバーでは、BBの4xハンドの約80%がここでも引き続きベットしてプレッシャーをかけるよう推奨されています。これはフロップと似ている動機もありますが、いくつか異なる点があります。
- BTNは依然として多くのより強いペアをフォールドしています。
•
Kより下のポケットペアはすべてフォールド。
•
セカンドペアの約68.4%、トップペアの約34.9%もフォールドしています。
(また、BBはフロップでフロートしていたBTNの多くのハンドからもエクイティデナイアルを得ています。
- 一方で、BBはブラフ候補が尽きつつあります。8〜Kの間にあるBDSDやBDFDは、ブロッカーとしては優れておらず、相手のトップペアをまくる見込みもないため諦めます。そのため、4xのようなサードペアがブラフへと押し出される形になります。また、BTN側は56や67といった一部のガットショットを除き、ほぼすべての弱いハンドをフォールドしており、これらの4xは完全なブラフとして扱われています。
リバーでどのカードが落ちても(Kや8が落ちた場合を除き)、ほとんど状況は変わらず、BBは4xのかなりの割合をブラフに変えています。
BBがスモールペアの一部をチェックレイズする理由は、フロップではバリューとブラフの複合的であったものの、リバーに進むにつれて意図が明確になります。BTNの強いハンドのかなりの部分をブロックしていること、そしてレンジの中でかなり弱い部類にいながら、ブラフを使い果たしていることが、このスポットで4xをブラフにする主な理由となっています。
ペアでブラフをやめるべきとき
先ほどのスポットとは違い、ボードテクスチャーを変えています。
一見、わずかな違いしかないように思えますが、スートが変わっただけで、OOPの4xの戦略は大きく異なります。ここではBBの4xはすべてリバーでチェックしています。
- リバーでのBBの4xのエクイティを見ると、前のスポットと比べてエクイティが約2倍あります。理由はシンプルで、BTNが多くのフラッシュドローをミスしているためです。その結果、BBの4xは相手レンジの一部に対して勝っており、ショーダウンで十分なEVを確保できるため、チェックが最もEVの高いアクションとなります。
- また、BTNが多くのフラッシュドローをミスしているのと同様に、BBもまたミスしたフラッシュドローを多く持っています。前のスポットではBBがナチュラルなブラフ(何も役がない)を使い果たし、レンジの一番下にある4xをブラフに回していましたが、今回はチェックレイズやターンでベットしていたフラッシュドローをブラフとして選択できるため、4xをブラフに変える必要がなくなっています。
一度ここまでの内容をまとめます。
フロップやターンでローペアをベットする際には、ショーダウンバリューが十分にあり、他にもブラフ候補があるにもかかわらず、複合的な動機でベットすることがあります。
ローペアをベットする主な動機は次のとおりです。
- より強いハンド(ペア)をフォールドさせること。
- より弱いハンド(ドロー)にコールさせつつエクイティデナイアル(相手のエクイティ実現を阻止すること)を行うこと。
このようなマージドベットは、IPのときにより頻繁に発生します。IPはリバーでチェックバックできる選択肢を常に持っており、弱いペアをブラフに変える必要のないランナウトでは、自分のエクイティを最大限に実現できるからです。
このように、ボードテクスチャーのわずかな違いでも、最適戦略には大きな変化が生じます。各ストリートでレンジ構成を意識することで、こうしたスポットでもより正確に、そして効率的に立ち回ることができるようになります
3ベットポットでのペアブラフ
ペアをブラフに変えるのは、SRPだけではありません。3ベットポットでペアをいつブラフすべきか、いつすべきでないかを理解するために、次の2つのスポットを一緒に検証していきましょう。
ペアでブラフをするとき
リバーの出力を詳しく見てみると、BTNがサードペア以下のハンドの約62%をブラフに使っていることがわかります。その理由は下記のとおりです。
- BTNの弱いペアはショーダウンバリューがほとんどありません
- IPはナチュラルなブラフ候補が尽きつつあります。ターンでガットショットだったQJ、QT、JTといったハンドは、リバーでストレートまたはペアを完成させており、ブラフには使えません。BTNのレンジには、リバーでドローが外れたハンドが非常に少なくなっています。そのため、相手の弱いハンドをブロックしていない弱いペアをブラフへと変えざるを得ない状況になっています。ナッツを変えないリバーカード(例えば2)に変えてみると、BTNのほとんどのローペアがチェックバックしているのがわかります。
- リバーではレンジ全体が非常にタイトになり、ブロッカーの効果が一層重要になります。相手のレンジ内の強いハンドを一部ブロックしている、あるいは即フォールドするハンドをブロックしているかどうかが、相手のコール/フォールドに大きな影響を与えます。例えば、Q♦9♦はショーダウンバリューがわずかに低く(約5%ほどエクイティが低い)にもかかわらず、諦めています。一方でQTはブラフに使われます。これは、Q9(ダイヤ)では相手のフォールドハンドを多くブロックしてしまう一方、JTは相手の強いハンドを複数ブロックしているためです。
ここでも、ローペアをブラフに回す理由は同じです。
- ローペアは弱く、ショーダウンバリューが低い。
- ブロッカーとして有利に働く。
- ナチュラルなブラフが尽きている。
次にレンジの理解が戦略にどのような影響を与えるかを確認してみましょう。
リバーでのオールインにおいて、J♠T♠はJ♥T♥よりもEVが高く、さらにJ♦T♦の2倍以上の値を示すのはなぜでしょうか?
J♠T♠が最もブロッカー効果を持っているからです。J♥T♥は、ボード上のKが♥であるため、COのレンジ内のKTsを1枚もブロックしていません。一方、J♦T♦はCOのスナップフォールドハンド(J♦T♦やQ♦T♦)を2コンボもブロックしてしまい、ATsのような強いハンドはまったくブロックしていません。
この知識を応用すれば、相手が理論上よりもやや広くコールする傾向があると感じたとき、EVが低くインディファレントなペアをシンプルに諦める(ブラフしない)という判断ができるようになるでしょう。
また、なぜ特定のコンボが他よりも選ばれるのか理解しづらい場合は、次の2点を確認することでその意図を掴みやすくなります。
- 各コンボ左上に表示されているTrash / Value Removal スコアを確認すること。
- 自分の戦略に対して、相手がどのように反応するかを観察すること。
ペアでブラフをやめるべきとき
ご覧の通り、BTNのローペア(22〜66)は、このリバーではほとんどブラフしていません。
- 最も弱いペアである A3s ですら、約16%のエクイティを持っており、前のスポットにおける弱いペアよりもはるかに高い値を示しています。COのレンジには多くの役が完成しなかったドローが含まれており、その結果、CO側の最も弱いペアでも約15%以上の確率で勝っています。
- BTNはナチュラルなブラフをまだ持っています。IP側には、ストレートドローをミスしたハンドや、スートがスペードでないAハイなど、ブロッカー効果のあるコンボが十分に存在します。これらのハンドはローペアと比べてショーダウンバリューがはるかに低いため、ブラフに使うのに適しています。
リバーで、ブロッカー特性に優れショーダウンバリューの低いナチュラルなブラフ候補を多く持っている場合、プレイヤーは弱いペアをブラフに変える必要はほとんどありません。
ポジションが戦略に与える影響
ポジションは戦略を練る上で非常に重要な要素です。ペアをブラフに使う上で、ポジションがどのような差を生むのかを理解するために、次の2つの状況を比較してみましょう。
両方の状況は非常によく似ており、フロップのベットサイズ、ターンでのチェック、ボードの構成まですべて同じです。唯一の違いはポジションだけです。IPの弱いペアの戦略を確認すると、BTNは100%チェックしているのに対し、UTGは約40%の頻度でブラフに変えています。この違いには明確な理由があります。
- BBのポストフロップのディフェンスレンジは、UTG相手よりもBTN相手の方がはるかに広くなっています。このことは、BTNのローペアがUTGと比べて、より多くのエクイティとショーダウンバリューを持っていることを意味します。それらのエクイティを比較すると、UTGの99以下のエクイティが0%である一方、BTNの同じハンドは8〜25%のエクイティがあります。
- ポストフロップのディフェンスレンジだけでなく、プリフロップのオープンレンジもポジションによって大きく異なります。UTGは、7ハイ〜Kハイのコンボのようなナチュラルなブラフが少なく、BTNはそれらを多く持っています。
ご覧のように、ポジションは「いつ、なぜペアをブラフするのか」を理解する上で非常に重要な要素です。とはいえ、最終的にはレンジ構成とボードテクスチャの相互作用をどれだけ深く理解しているかにかかっています。このスキルを磨くことで、よりポーカーへの理解を深めることができるでしょう。
いつGTOから外れるべきか
自ら(意図せず)GTOから逸脱している弱い相手に対しては、こちらも戦略を調整する必要があります。デフォルトのGTO戦略から、相手に合わせたエクスプロイト戦略へ切り替えるということです。ここでは、ペアをブラフに変える際にどういった調整が必要なのか見ていきます。先ほどのBB vs BTN(ボード:JT36A、フラッシュ完成)のスポットを少し条件を変えて検証してみましょう。
理論上、このスポットでは、BBはリバーで67%ポットサイズのベットに対して、サードペア以下のハンドのわずか50%強しかフォールドできません。
では、地元のカジノでプレイしていて、相手はリバーでサードペア以下をすべてフォールドしてしまうタイトなプレイヤーだとします。このとき、戦略をどのように変えるべきでしょうか?
- デフォルト(GTO)の戦略を見ると、BTNはローペアをリバーで100%チェックしています。これらのハンドには十分なショーダウンバリューがあり、またBTNはブラフに使えるエアハンドを多く持っているため、ローペアをブラフに回す必要がありません。これらは「レンジ内で高すぎる位置」にあります。
- ところが、ノードロック(エクスプロイト)したソリューションを見ると、大きな違いがあります。BTNはローペアを100%ブラフとして使っています。BTNのローペアのEVを比較すると、BBのオーバーフォールドが戦略に与える影響の大きさが明確にわかります。
コンボによってはブラフのEVが250%から最大400%以上まで増加しています。このような結果は、非常にタイトなプレイヤーと対戦する状況では決して非現実的ではありません。本来ショーダウンに回すはずのペアをブラフに変えることが、非常に高い利益を生むケースもあるということです。相手のプレイヤータイプを把握し、自分と相手が理論上どうプレイすべきかを理解し、その上で適切に調整できるようになること、それこそが、ウィンレートを飛躍的に向上させる鍵です。
まとめ
情報量がかなり多かったと思いますので、ここで重要なポイントをもう一度整理しましょう。
- リバーでローペアをベットする主な動機は、より強いハンドをフォールドさせることです。一方で、フロップやターンなどそれ以前のストリートでは、ローペアのベットには複合的な動機が関係します。主な理由は、より強い役のあるハンドをフォールドさせ、より弱いハンド(主にドロー)からコールをもらいながらエクイティを否定することです。ローペアでのマージドベットは、EQRが高いIPでより頻繁に発生します。
- リバーで、ブロッカーとして優れており、ショーダウンバリューの低いナチュラルブラフ候補を多く持っている場合、ローペアをブラフに変えるのはやりすぎ(オーバーキル)になることが多いです。
- 一見あまり違いがないと思えるボードテクスチャーを見逃してはいけません。そうした小さな差が、最適戦略に大きな影響を与えることがあります。
- 特定のコンボが他のコンボよりも採用される理由がわからない場合は、各ハンドの左上に表示されている Trash / Value Removal スコア、そして自分の戦略に対して相手がどのように反応するかを確認してみてください。そうすることで、より自信を持ってハンドをプレイできるようになります。
- レンジ構成とボードテクスチャーとの相互作用を理解することこそ、相手より強くなるための鍵です。
- 相手のミスに対応する力が、大きく勝ち越せるかどうかの分かれ目になります。
ペアに関する戦略をさらに学びたい方は、こちらの「ワンペアでのチェックレイズ」に関する記事もぜひご覧ください。




















