上級者になるには、レンジで考える能力が必要となります。これは1326通りのハンドの組み合わせを全て頭の中でイメージするのではなく、レンジを構造として考えることです。
「形態学」とは、形や構造を研究する学問です。ポーカーでは「リニア」、「ポラライズ」、「マージ」、「コンデンス」、「キャップ」、「キャップされていない」といったレンジの形や構造を表す言葉があり、今回の記事ではそれらの内容について紹介します。
レンジがキャップされている/されていない
最もシンプルにレンジを表す方法は「キャップされている」と「キャップされていない」です。これによって、誰が有利か(通常はプリフロップのアグレッサー)、そしてそれに応じてどのようにプレイすべきかがわかります。
「キャップされている」とは、強いハンドがないレンジを指します。例えば、BBのコールレンジにはQQ+やAKのようなプレミアムハンドはプリフロップでレイズをするため含まれず、BB側にはレンジの強さに「上限」があります。
反対に「キャップされていない」とは、最も強いハンドを含むレンジを指します。標準的なオープンレンジは最も強いハンドを全て含んでいるので、キャップされていないということになります。
注意しなければならないのは、あるレンジがキャップされていたり、キャップされていないからといって、それが永遠とキャップされていないとはならないことです。例えば、A♠A♦を持っていたとしても、7♣8♣9♣のようなフロップではそれほど強くはありません。キャップされているプレイヤーがあるボードではキャップされていないということになったり、またその逆も起こります。
レンジの形: ポラライズ、リニア、コンデンス 、マージ
上達するにつれて、ポラライズ、リニア、コンデンス/デポラライズ、マージなど、レンジを表すより高度な用語が出てきます。
リニア
強いハンドから中程度の強さのハンドで構成されていることを意味します。理論的には、フォールド以外のアクションが1つしかない場合、いつでもリニアレンジとなります。例えば、オープンレンジは通常レイズかフォールド、EPの3ベットのレンジは通常レイズかフォールド、オールインをされた場合はコールかフォールドしかありません。つまり、フォールド以外のアクションが1つしかないときは、強いハンドはプレイを続け、残りはフォールドするのが正解です。このようなスポットは定義上、リニアと言えます。
リニアレンジはポストフロップでも見られます。典型的な例は、大きなベットをされた際に、レイズのレンジがほとんどない時です。例えば、AK6rボードのBTN対BBのSRPでは、BTNはフロップで125%ポットサイズのオーバーベットをします。BBのディフェンスにはチェックレイズがほとんどないので、最も強いハンドからリニアなレンジでコールします。ほとんどのセカンドペアとサードペアはほぼ同じ値(EVに差がない)ではありますが、ブロッカー効果により、6♣3♣のようなハンドはKQoのようなハンドよりも若干、EVが高くなります。
ポラライズ
「ポラライズ」とは、対立する2つのグループに分けるという意味です。ポーカーでのポラライズレンジとは、非常に強いハンドと非常に弱いハンド、ナッツとブラフで構成されたレンジのことを意味します。
ポラライズレンジはリバーで最もよく見られます。リバーはポーカーで唯一、チェックバックのレンジを守る必要がないスポットであるため、バリューハンドやブラフハンドでベットし、中程度の強さのハンドはチェックバックをします。
例えば、ブラインド対ブラインドのA♠A♥A♦2♣3♦のボードでは、BBはクワッズやフルハウスをバリューハンドに、弱いハンドをブラフとして、レンジの真ん中をチェックバックし、二極化しています。
これはエクイティ分布にも見られ、ベットレンジは「ベストハンド(エクイティが75%以上)」と「ゴミハンド(エクイティが33%以下)」で構成されています。この強いレンジと弱いレンジの分布がポラライズの定義です。
前の方のストリートでは「ブラフ」と「バリュー」の定義が難しいですが、リバーに近づくにつれてエクイティは変化しにくくなるため、レンジはよりポラライズする傾向があります。プリフロップのレンジがポラライズする最も一般的な例は、BBの3ベット vs SBのオープンです。BBはプリフロップとポストフロップの両方でポジションがあり、アクションを終えることができるため極端にポラライズされたレンジとなります。
初心者には、これらのハンドのうち、どれが「バリュー」で、どれが「ブラフ」なのか見分けがつかないと思います。しかし、3ベットのレンジの期待値を見ることで視覚化することができます。
なぜポラライズするのか?なぜリニアにベットしないのか?
これは一見簡単な質問のように思えますが、その理由を理解することが非常に重要です。多くの初心者は(そしてコーリングステーションとの対戦に慣れている強いプレイヤーでさえも)リニアにベットすることに慣れてしまっています。しかし、これは相手があまりに広くコールしない限り、エクイティを獲得する効果的な方法ではありません。
ベットの価値は常にチェックに対する相対的なものです。
リバーでポジションがある時にリニアにベットしたとします。このベットにはブラフがなく、強いハンドから中程度の強さのハンドでベットをしています。これは相手がオーバーコールした場合には有効ですが、相手がオーバーフォールドした場合には簡単にエクスプロイトされてしまいます。弱いチェックバックしたレンジが勝つことはほとんどなく、中途半端な強さのハンドは相手のより弱いハンドにはフォールドされ、より強いハンドにはコールされ、自分のナッツハンドはあまりコールされなくなります。
このリニア戦略は、エクイティを実現する方法としては効率的ではありません。バリューハンドで相手にペイオフさせるためにはブラフが必要であり、(リバーで)最も効率的なブラフはチェックでは勝てないハンドでのブラフです。これがポラライズする要因です。
この問題は、ポラライズレンジを使うことで解決できます。そうすることで、相手は頻繁にブラフされるのを避けるため、より広いレンジでコールするようになります。さらに、ナッツでより多くのバリューを引き出し、中途半端な強さのハンドでバリューを失わないようになります。
ポジションがある時の最適なリバーでのベットは、ほとんどの場合ポラライズしたレンジとなります。ポジションがある時が唯一、中程度の強さのハンドでのショーダウンが保証されています。
完璧なポラライズとベットサイズ
ポラライズしたレンジは一般的にベットサイズが大きくなります。なぜならバリューレンジがナッツ化するにつれて、スタックを全て賭けてプレイするようになるからです。
全てのバリューハンドが相手のレンジに対して100%のエクイティを持ち、すべてのブラフが相手のレンジに対して0%のエクイティを持つとすると、レンジは「完全にポラライズ」していると言えますが、実際にはこのようなことはめったに起こりません。
完全にポラライズしたレンジでは、常に「ジオメトリックベットサイズ」を使います。これは簡単に言うと、リバーまでに全てのチップを入れるため、各ストリートで同じポット%をベットするということです。このベットパターンはディフェンスする側のレンジの幅を最大化します(MDF参照)。
完全にポラライズしたレンジは理論上の概念であり、実際にはほとんど当てはまりません。あなたのレンジに対して、相手がブラフキャッチャーしか持っていないというのは、かなり珍しいことです。フロップやターンの時に、ドローのエクイティを早い段階で打ち消すために、不完全なポラライズしたレンジでジオメトリックなサイズよりも大きくベットしたい状況は存在し、相手がトラップや強いバリューのレンジを持っていて、小さくベットしたい状況も多く見られます。ポーカーはこのように複雑ですが、少しずつ学んでいくことが重要です。
コンデンスとデポラライズ
コンデンスされた(デポラライズと呼ばれることもある)構成とは、中程度の強さのハンドが多く、ナッツハンドや弱いハンドが少ないレンジのことを指します。
一般的な例はGTOでのSBのコールレンジで、ポケットペア、Axのスーツハンド、そして中程度の強さのブロードウェイで構成されている時です。このようなレンジは、キャップされているにもかかわらず、多くのボードでかなり強いハンドとなることがあります。エアーがない分、このレンジに対するプレイの仕方は変わってきます。
このレンジが「コンデンス」しているのは、とても強いハンドととても弱いハンドが少ないためです。レンジは中程度の強さのハンドに集まっています。HJのポストフロップ戦略は、相手のより強く、エアーが少ないレンジをターゲットにするよう変化するので、より慎重にプレイする必要があります。
マージ
ここまで見てきたことは、非常にシンプルでわかりやすいもので、定義自体は簡単に見えますが、ポーカーは複雑なゲームです。レンジの形は、明確に定義された構造というよりは、変化していくものです。
マージレンジはポラライズしたレンジとリニアなレンジの中間のことを意味します。一般的にはブラフやナッツハンド、それなりのオッズがある中程度の強さのハンドが含まれます。
以下は、992rのBTN対BBにおけるマージレンジの例で、BTNは1/3ポットサイズのCベットをし、BBにアクションが回ってきた時です。下記のように、BBはかなりの頻度でチェックレイズしており、ナッツハンド、ミディアムハンド、トラッシュハンドがあります。
これはエクイティ分布に反映されており、レイズレンジには、中程度の強さのポケットペアなど、中位の「弱い」ハンドや「強い」ハンド(エクイティ33%~75%)が多く含まれています。この分布を先ほど見たポラライズ分布と比較してみます。
なぜマージになるのか?
マージはポーカーの複雑さを表しています。完全にポラライズしたレンジはエクスプロイトされることが多く、現実の世界では複数のストリートにまたがって有効であったり、強い戦略となることはありません。
例えば、BBがトリップスと、とても弱いハンドだけでチェックレイズをして、その後もベットをし続けたとします。この超ポラライズした戦略の問題点は、より多くの頻度で諦めなければいけないスポットが出てくることです。ターンで2や9、Aが落ちた時にレンジ構成が悪く、ターンやリバーでバランスの取れたポラライズした戦略を取れなくなってしまいます(あるいはブラフをし過ぎてしまう)。
さらにポラライズレンジは非常に小さなプローブベットや小さいサイズでのベットやレイズの影響を受けやすくなります。このようなベットやレイズに対してのコールレンジがある限り問題はありませんが、ポラライズし過ぎると、非常に小さいサイズのベットやレイズによって、強いバリュー群とブラフ群を切り離すことを強いられ、ディフェンスすることが難しくなります。
最後に、マージはポラライズレンジに比べて相手に悪いエクイティを与え、適切な状況下ではより効率的な構成となり、より広いレイズができるようになります。要するに、マージはポラライズレンジとリニアレンジの両方の長所を取り入れています。
チェックレイズに対してBTNがどのようにディフェンスするかを見てみます。
BTNは、オーバーカード、AX、ダブルバックドアのハンドなど、こちらの中程度の強さのハンドが勝っているようなハンドでフロートする必要があります。また、BBはレイズすることで、相手をフォールドさせ、エクイティを奪ったり、後のストリートで相手のバリューハンドをまくったり、ブラフをしたりすることができます。
プリフロップのレンジでリニア-ポラライズの変化を見る
マージレンジは、リニア戦略とポラライズ戦略の中間と考えることができます。BB対BTNの3ベットレンジのパターンを見ることで、この変化を見ることができます。
一般的に、3ベットサイズが小さく、レーキが低いほど、リニアな戦略に近くなり、3ベットサイズが大きく、レーキが高いほど、ポラライズした戦略になります。これはBTNのコールレンジと4ベットレンジが大きく関係しています。
BTNのコールが多く、レイズの頻度が低い場合、相手のコールレンジに勝てる、よりリニアなレンジで3ベットをするようになります。これはレーキが低い時や3ベットサイズを小さくした場合に起こります。
反対に、相手がレイズ(4ベット)することが多く、あまりコールしない場合は、コールEVの高い中程度の強さのハンドで行うよりも、レイズがきた時に簡単に判断できるようなポラライズしたレンジで3ベットをする方が良くなります。
何をもって 「バリュー」や 「ブラフ」とするかは人によって主観が異なるので、ここでは単純に3ベットレンジの期待値を見ることにします。
これらの3つのレンジはすべて「マージ」ではありますが、変数を変えるとリニアにもポラライズにもなります。
まとめ
- キャップされている
レンジに強いハンドがないこと(例:BBのプリフロップのコールレンジ。AAがない) - キャップされていない
レンジに強いハンドがあること(例:BTNのオープンレンジ。AAがある) - リニア
強いハンドから中程度の強さのハンドで構成されていること(フォールド以外のアクションが1つしかない場合や、コーリングステーションに対してエクスプロイトする際に使われる) - ポラライズ
強いハンドと弱いハンドで構成されていること(ナッツかエアーを表すときやとても大きいサイズを使うときに使われる) - コンデンス
中程度の強さで、弱いハンドやナッツがあまりないレンジで構成されていること(例:EPのオープンレンジに対するBTNのフラットコールレンジ) - マージ
強いハンド、弱いハンド、中程度の強さのハンドのレンジで構成されていること(より強固で、エクスプロイトされにくく、小さなベットやレイズでよく使われる) - リニアとポラライズはそれぞれ段階があり、どの程度リニアなのか、どの程度ポラライズしてるかによって異なります
このような用語は、ポーカーを研究する際のレンジ分析に欠かせません。レンジを構造として考えることで、様々なプレイの長所や短所、なぜそのプレイになっているのかの原因が分かります。様々なレンジの形を知ることでさらにレベルの高い分析ができるようになるでしょう!
翻訳:Ayumu