エクイティを守り、利益を得る
ある状況で「どのハンドをベットするのが最適か」を考えるとき、通常はコールされた場合にそれぞれのハンドがどれほど良いパフォーマンスを発揮するかによって決まります。例えば、
- 相手より優位に立っているか?
- 役が進展する見込みはあるか?
- 後のストリートで、バリューやブラフとしてベットするのに適しているか?
- フォールドエクイティが非常に大きく、上記の条件を十分に満たさなくてもプラスになるか?
しかし、これらをすべて合わせても、まだ全体の半分に過ぎません。
優れたベット候補となるには、「ベットして利益が出る」だけでなく、「ほかの選択肢よりも利益が高い」ことが必須です。仮にベットしてプラスを得られたとしても、その利益がチェックした場合を下回るなら、チェックを選ぶべきでしょう。
つまり、各ハンドが「チェックした場合(チェックノード)」でどれくらいの期待値になるかも同時に考える必要があります。相手より優位に立っているか、役が進展する可能性はあるか、後のストリートでバリューやブラフとしてベットできるか、あるいは後のストリートで相手からベットされてエクイティを失うリスクはないか、などを検討します。
たとえば、「小さめのポットなら勝てる可能性があるが、大きなポットでは勝ちづらい」ようなハンドはポットを小さく保ちたい動機が強まります。これこそがエクイティを守る(equity preservation)ことの本質であり、単にフリーカードをもらうだけではなく、自分のハンドのエクイティを保ち、最大化する取り組みなのです。
チェックしたらどうなるか?
チェックは、ポットを小さく保つための選択です。状況によって、これが相手に与える情報量は増えたり減ったりします。
たとえば、プリフロップでコールしてBBにいる場合は、フロップでレンジ全体でチェックすることが多いでしょう。これは「自分のレンジが弱いので、ポットを大きくしたくないハンドが多い」という最もな理由があるため、相手にとって新しい情報にはなりにくいです。
チェックはポットを小さく保つ選択肢です。
一方、プリフロップでレイズをしている(例:BTN)のに、フロップでチェックした場合は、より大きな意味を持ちます。強いハンドや強いドローを持っていれば当然ベットしたい動機がありますし、逆に非常に弱いハンドならエクイティをあまり気にせず、フォールドエクイティ狙いでベットする動機もあります。にもかかわらずチェックをするということは、「そうしたハンドを持っていない可能性が高い」と相手に示唆することになるのです。
チェック
実際の戦略では、強いハンドをあえてチェックする場合もありますが、その頻度は少ないため、チェックレンジはベットレンジよりエクイティが低く、キャップされている傾向があります。
相手はこれを読み取り、弱くなったレンジに対してターンでアグレッシブにベットしてくるかもしれません。もし相手がベットしてこない場合でも、あなたがターンでベットした際に、以前より弱いハンドでコールやレイズをしてくるかもしれません。
その代わり、チェックをすると相手のレンジも広く残したままにできるため、後のストリートで相手が比較的弱いハンドでもチップを入れてくる状況を誘導できるというメリットもあります。
ベット
逆にベットをすると、相手の強いハンドともより大きなポットで戦うことになりますが、弱いハンドをフォールドさせられる利点があります。また、相手にレイズの機会を与えるため、これは一般的に「エクイティを守る」うえでよく知られた要素です。チェックする理由のひとつは、レイズで自分のエクイティを奪われるリスクを避けることにあります。
チェックしていれば、まだ見られたかもしれないカードを見られなくなる(=レイズで降ろされる)リスクを避けられる。
というのが、エクイティを守るわかりやすい理由です。ですが、これだけがすべてではありません。自分が相手の弱いレンジには強いが、相手の強いレンジには弱いという状況では、ポットを大きくしすぎないことも重要になるのです。
あまり理解されていないもう一つの理由は、ハンドが相手の弱いレンジには強いが、強いレンジには弱い場合にポットを大きくしすぎたくないという点である。
フロップの例
ここでは、BTN vs BBのSRP(スタックは100bb)を想定し、フロップでの戦略を見てみます。BTNはこのフロップでおよそエクイティが54%と、エクイティアドバンテージを持っていますが、GTO戦略では50%以上チェックします。
意外に思われるかもしれませんが、この場面でA♠J♠は100%チェックします。一見すると、以下のようにベットしたい理由がたくさんあるハンドです。
- コールされたときのエクイティ
ベットサイズにもよりますが、コールされても30~35%ほどのエクイティがある - フォールドエクイティ
大きめのベットを使うと、いくつかの負けているハンドをフォールドさせることができ、小さめのベットでもBBが持つ多くのハンド(15~25%のエクイティ)をフォールドさせる - バレル継続の可能性
フロップでコールされても、ターンでドローに変化する場合があり、そのときブラフをしやすい - ナッツポテンシャル
リバーでストレートやフラッシュのナッツを作る可能性が僅かにあり、一発逆転も期待できる
にもかかわらず、A♠J♠はフロップでベットしません。理由は、上記の「ベットしたい動機」が、チェックを選んだ場合でも同等かそれ以上になるからです。
- エクイティ
フロップでチェックした場合、約49%のエクイティがあり、ベットしてコールされたときより高くなります。ベットするだけでおよそ3分の1のエクイティを失うのは大きな痛手です。
- フォールドエクイティ
チェックすると相手をフォールドさせることはできませんが、A♠J♠が相手をフォールドに追い込めるようなハンドはそもそもA♠J♠よりエクイティが低いものが多く、必ずしもフォールドさせることが大きな利益になるわけではありません。
- バレル継続の可能性
A♠J♠にはショーダウンバリューがあり、フロップでチェックバックしたあとでも必ずしもブラフに回す必要はありません。 - ナッツポテンシャル
ターンでナッツドローを引けば、ブラフをしやすくなるだけでなく、相手がベットしてきてもコールしてエクイティを守りやすくなります。
エクイティ分析
ここでは、同じ状況下でのA♠J♠と他のブラフ候補のハンドを比較してみます。
A♠J♠とは異なり、A♠5♥や8♦6♦などはフロップでベット候補になりますが、実はベットした際にA♠J♠以上にエクイティを失うことがあります。それにもかかわらず、なぜこれらのハンドのほうが「ベット候補」になるのでしょうか?
エクイティはあくまで「ショーダウンで勝つ可能性」を示す指標で、実際にそのエクイティを実現するには、後のストリートで相手が強いときにコストを抑え、相手が弱いときにはショーダウンに持ち込むなどの工夫が必要です。ハンドによって、そのエクイティをどれだけ実現しやすいかは異なります。
たとえば、AJやA5はコールされるだけでポットのおよそ15%分のエクイティを失います。特にBTN vs BBでは、Aハイがそのまま勝っている可能性もあるため、フロップをチェックした場合、ターンやリバーで相手のベットにどう対応するかが難しい問題になります。
他のよりもエクイティを実現しやすいハンドがある
ただし、AJはフロップをチェックバックしてターンで相手がベットしてきても、ドローを引いた場合などにはコールしやすい利点があります。A5ほど「弱いペアにしかならない」わけではないので、Aがヒットしたときの強さにまだ期待が持てるわけです。
Q♥5♥やQ♦J♥はストレートやフラッシュを完成させる可能性が比較的高く、ベットして相手のレンジを強くしても、自分が強いハンドを作れれば勝ちやすいという特徴があります。
8♦6♦は、もともとエクイティが低いため、コールされてもそこまで大きな損にはなりません。バックドアストレートは作れる可能性が低く、このハンドで勝つ際はペアを作ることですが、そのペアも弱いので、フロップチェックよりはベットを混ぜてフォールドエクイティを得るほうが期待値が高い場合があります。
ターンがウェットカードの場合
マージナルなハンドのエクイティを守ることは、ターンのほうがフロップより重要になります。ショーダウンに近づいているため、チェックを選んだ場合でもエクイティを実現しやすいからです。
そこで、K♥9♥4♠のフロップでポットの75%をベットしたあと(A♠J♠はフロップでベットしないので、代わりにA♦J♥に置き換え)、各ハンドが異なるターンカードでどうプレイするか見てみましょう。
ここでは、J♠がターンに落ちた状況について取り上げます。J♠は、両者のレンジの多くのハンドを強くし得るカードです。(なお、このチャートには発生頻度の低いベットサイズが一部含まれていないため、アクション頻度の合計が100%にならない場合があります)
この状況で最適なバレル候補のひとつがQ♥5♥です。そこそこエクイティがあり、その多くをストレートかフラッシュの完成によって得るため、ベットしても失うものが少ないのです。Q♥5♥は、もしリバーで完成しなければ勝てませんし、完成すれば強くなった相手のレンジにも勝ちやすいため、相手のレンジをある程度強くしてしまうオーバーベットも選択肢に入ります。
一方でAJやQJはエクイティ自体はそこそこあるものの、セカンドペアとベットしてもエクイティが保たれるハンドではないので、オーバーベットでポットを膨らませると一気に価値を損なってしまいます。ターンで75%ベットをしておき、リバーでチェックする選択肢を残すなど、中~小サイズのベットならまだ選択肢がありますが、オーバーベットは非常に悪い選択肢となります。
A5や86のように、コールされた際のエクイティが極端に低いハンドは、むやみにブラフをしても回収が難しい反面、リバーでペアを作って勝つ可能性は少しだけ残ります。したがって、ターンでチェックしてそのわずかな勝ち筋を残すことも一つの戦略です。
オーバーベットはセカンドペアの価値をなくします
ターンがブランクカードの場合
今度はフロップで75%ポットをベットしてコールされたあと、2♣のようにほぼ影響のないブランクカードがターンで落ちるケースを見ます。この場合「ベットしてどれだけ損をするか」の度合いがハンドごとに異なります。
AJはストレートやフラッシュがほぼ狙えず、ペアを引くしか勝ち筋がないので、ベットをしてコールされるとエクイティを大きく失うため、あまりベットしません。
A5、Q5、QJはペア以外にも強いドローが残っているため、AJよりはベットの候補になります。
86はもともとエクイティが低いので、ベットしてコールされてもそれほど損をしません。BTNが多くのブラフを混ぜる状況なら、ブラフ候補として使える場合があります。
リバーでワンペアを完成させても、大きなポットより小さなポットのほうが、そのワンペアの価値は高くなる。
なお、この状況ではBTNがオーバーベット(ポットの175%など)を多く使用します。強いハンドで大きくポットを増やしたいだけでなく、コールされてもエクイティがあまり変わらない弱いハンドを大量にブラフに回せるからです。たとえコールされても失うエクイティが小さいハンドなら、大きいベットをしても大差ないのです。
まとめ
コールされた際のエクイティは、そのハンドがベットに適しているかを判断するうえで有用な指標ではありますが、それだけで判断してはいけません。ベットが+EV(期待値がプラス)であっても、チェックがさらに高い+EVを持つ場合も十分あり得ます。ベットとチェックの価値を比較するとき、また「どのベットサイズを選ぶか」を決めるときには、次のような質問が役立ちます。
- このハンドのエクイティはどのような状況で得られるか?
- ハンドが改善した場合、大きいポットと小さいポットのどちらでより価値を発揮するのか?
- チェックを選んだ場合、そのエクイティをどの程度実現しやすいのか?
- フォールドエクイティ(相手を下ろせる可能性)からどれだけ恩恵を受けられるか?
こうした問いへの答えはストリートごとに変化します。フロップでベットに値しなかったハンドが、ターンで良いベット候補に変わることもあります。このようにエクイティを守りながら上手に立ち回ることで、マージナルなハンドからも最大限の価値を引き出し、最終的にはより大きな利益を得られるようになるでしょう。