トーナメントとキャッシュゲームの戦略のほとんどは同じです。ハンドリーディング、バリューベット、ハンドクラスといった重要な考え方はどちらにも当てはまります。ICMを除けば、基本的なポーカーの理論を理解していれば、どちらでもある程度やっていけます。
この記事ではトーナメントとキャッシュゲームでどのようにプレイが変わるかをご紹介します。アンティなどトーナメントに固有のものではないですが一般的にトーナメントに関連が高いものや、フォールドEVのようにトーナメントに大きな影響与える代表的なものを解説します。
アンティがある場合は広いレンジで参加する
アンティはMTTでは一般的ですが、キャッシュゲームではそれほど一般的ではありません。もちろん、アンティがあるキャッシュゲームもあれば、ないMTTもあります。しかし、アンティがあるかどうかは、MTTとキャッシュゲームを区別する大きな違いで、両者においてプリフロップ戦略が大きく異なる原因の1つです。
アンティとは、全てのプレイヤーがハンドが配られる前に支払わなければならない、強制的なベットの一種です。アンティは開始前からポットのサイズを大きくし、全てのプレイヤーに大きなポットを獲得するチャンスを与えるため、どのポジションのプレイヤーにおいても、より多くのハンドで参加するメリットが生まれます。特に、BBではより参加するべきハンドが増えます。アンティがあれば、アンティがないゲームに比べてより弱いハンドでポットを争うことになります。
アンティは開始前のポットサイズを大きくし、全てのプレイヤーに大きなチップを獲得するチャンスを与え、より弱いハンドでゲームに参加するインセンティブを与えます。
アンティは出所よりも、そのサイズの方が重要です。1人のプレイヤー(通常はBB)がBBと同額をアンティとして支払っても、8人のプレイヤーがそれぞれBBの1/8をアンティとして支払ったとしても、ポットに入るチップの量は同じです。そのため、アンティをどのプレイヤーが支払うかによって戦略的な違いはありません。ライブにおいて、BBとは異なり、アンティはデットマネーです。チップがポットに入ってしまえば、誰が払ったか、あるいは出所がどこなのかは問題ではなくなります。
以下は、6maxのキャッシュゲームにおいて2.5BBでオープンした場合のBTNのレンジです。
アンティありの6maxのMTTで100BB持ちのとき、2.5BBをオープンするBTNのレンジとこの表を比較してみてください。
BTNはキャッシュゲームでは42%のハンドをオープンしていますが、MTTでは53%のハンドでオープンしています。MTTでは、キャッシュゲームよりもポットにより多くのチップが入っているため、MTTの方が全ハンドでEVが高くなります。AAをオープンした場合、アンティがあるときは13.29BBのEVがありますが、アンティがないときは9.62BBのEVしかありません。
この影響はBBに対してはさらに大きくなります。プリフロップではBBは最後のアクションになることが多く、かつポットに対して少しのベットでフロップを見ることができます。他のプレイヤーはポットに参加するかどうかを考える際、ポットに対してリスクに晒す額に加えて、後ろにいる他のプレイヤーがコールやリレイズをするリスクがどれだけあるのかを考える必要があります。🙋♂️ このため、ポットオッズ以上にタイトにプレイする必要があります。SRPでは、BBのコールによってアクションが終了するため、どのハンドが利益的であるのかは、ポットオッズに大きく左右されます。
ポット額が大きければ大きいほど、BBがすでにベットしたチップの価値も上がります。💰 キャッシュゲームで、BBは4BBのポットに1.5BBを支払ってコールします。MTTで同じ額をレイズされた場合、4.8BBのポットに1.5BBを支払ってコールすることになります。8人または9人のMTTでは、アンティはさらに大きくなり、BBはより弱いハンドで参加できます。
以下はキャッシュゲームでのBTNのレイズに対するBBのアクションの頻度です。BBはハンドの26%をコールし、14%をレイズし、合計のVPIPは40%になります。
アンティありのMTTでは、レイズのレンジ構成が多少異なるものの、BBはまたハンドの14%をレイズし、61%をコールし、合計のVPIPは75%となり、アンティなしのキャッシュゲームと比べてほぼ2倍の参加率になります。
もう1つの重要なポイント
これらのトーナメントのレンジは、チップEVモデルに基づいています。後ほど解説しますが、MTTの他の特徴として、プレイヤーはポット毎の勝ち負けだけでなく、飛ばずに生き残ることを重視するため、より保守的なプレイをするようになります。それでも、以下のことが言えます。たとえ同じシナリオであっても、アンティがない場合とある場合とでは、アンティありの方がプレイヤーはより広いレンジでポットに参加します。
動的なスタックサイズ
トーナメントではブラインドは徐々に高くなり、チップは再度補充することができないため、様々なサイズのスタックを目にする機会が増えます。また、ショートスタックのプレイヤーに遭遇する可能性が高く、自分のスタックサイズが戦略的に大きく変動することがあります。そのため、キャッシュゲームよりもMTTの方が、テーブル内の様々なスタックサイズに対して戦略的に対応する必要があります。
オールインの強さを理解することは非常に重要です。オールインすることで、対戦相手のエクイティを放棄させ、自分はエクイティを完全に実現することができます。ベストハンド以外で、相手のオールインを受けてエクイティを放棄させられないようにしながら、こちら側からオールインできる局面を探します。詳しくはこちらの記事をご覧ください。
スタックが少ないほど、オールインするリスクが小さくなり有利にプレイできます。スタックが少ないプレイヤーが後ろにいる場合、こちらがオープンした後にそのプレイヤーがオールインするリスクがあり、普段よりも多少タイトにオープンする必要があります。反対にこちらのスタックが少ないなら、相手側はこちらのオールインにコールしづらいため、普段よりも多少広くオールインできます。
全プレイヤーが9BBを持っている場合、COは31.6%のハンドをオールインします。
後ろのプレイヤーのスタックが深い場合(それぞれ29、21、32BBの場合)、COは35.3%のハンドをオールインすることができます。COはどんなシナリオでも9BBのリスクを負いますが、後ろのプレイヤーはより深いスタックを持っていればいるほど、より大きなリスクを負うことになります。SBがCOのオールインをコールした場合、スタックの半分近くをポットに入れることになり、もしBBが強いハンドでコールしてきた場合には、事実上21BBをポットにコミットすることになります。
COは後ろのプレイヤーのスタックが深いほど、より広くオールインできます。🤔
BTNのレンジにはBBのオールインに対して、コールできたり、フォールドするハンドが含まれていますが、たとえフォールドしてもコストを伴います。BTNがフォールドしたハンドには本来なら勝っていたハンドも含まれ、BBのオールインにフォールドした場合、そのエクイティを失うことになります。BTNは、スタックが9BBであれば本来はコールできたハンドのエクイティを放棄します。
このことは、少ないスタックは深いスタックよりも価値があるという訳ではありません。むしろ、チップの多いプレイヤーはより大きな賞金を獲得する可能性が高いので、スタックの金銭的価値は大きくなります。しかし、ポットを争うとき、ショートスタックはチップを取りやすいという利点があります。
フォールドは+EV
キャッシュゲームでは、フォールドしても何も得られません。つまり、どんなに小さな期待値であっても、プラスになるアクションの方がフォールドするよりも良いのです。トーナメントでは、生き残ることに価値があります。つまり、フォールドはキャッシュゲームのように0ドルではなく、プラスの期待値を持っているということです。
トーナメントでは、生き残ることに価値があります。
他のプレイヤーが脱落すれば、そのプレイヤーのチップを奪っていなくても、こちらのスタックの価値は上がります。次のプライズの獲得の可能性がより高まったということです。ペイジャンプに近ければ近いほど、フォールドして他のプレイヤーにリスクを負わせることが利益的になります。
フォールドするよりもEVが高い場合に限り、コールやレイズをします。ライブでプレイ中にEVを正確に計算することはできませんが、ICMの表を使って勉強することで、直感が身につきます。
以下は、20BBスタックで50%のプレイヤーが残っている場合のCOのオープン戦略です。ハンドの30.7%でレイズします。
20BBスタックで25%のプレイヤーが残っている場合のCOのオープン戦略とこの表を比較してみましょう。
COは上位28.6%のハンドまでレンジが狭まり、50%の頻度でオープンしていたギリギリのハンド(44, K4♠, Q6♠)はフォールドとなっています。50%の頻度でオープンしていた、少し強いハンド(55, K6♠, Q7♠)は、レイズとフォールドの混合戦略となりました。
ここで言えるのは、ハンドをオープンする価値が下がったのではなく、フォールドする価値が上がったということです。
ICMのEVは、フォールドした場合に、テーブルエクイティの割合がどれだけ変化するのかで計算されます。テーブルエクイティとは、トーナメントにおいて、テーブル全体の$EVうち、自分が持っている割合を意味します。
たとえば、フォールドしたとき、こちらのスタックの価値が$100であり、テーブル全員のスタックを合計した額が$1000であれば、テーブルエクイティは10%です。上の図では、AAのEVは2.95なので、レイズした場合、こちらのテーブルエクイティは2.95%増えます。
COは2番目のシナリオで約5%タイトにオープンしていますが、25%のプレイヤーが生き残っていて、最初のペイジャンプであるバブルラインまではまだ時間がかかる状況であるにも関わらず、すでにCOはややパッシブなプレイをとってアジャストしています。場合によってKKやAAをフォールドするのが正しくなることもあります。
それぞれの局面でフォールドの価値をざっくり理解することは非常に大切です。以下はフォールドの価値を決める要素です。
フォールドの価値は何によって決まるか
- ペイジャンプへの近さ – より大きなプライズを獲得する可能性が高いほど、賞金が確定するまでリスクを回避するメリットが大きくなります。ペイジャンプが大きければ大きいほど、リスクを回避するメリットも大きくなります。
- ショートスタックの存在 – フォールドの期待値は、他のプレイヤーがこちらよりも先に飛ぶ可能性がどれだけあるのかによります。現在プレイしているテーブルだけではなく、トーナメント全体でショートスタックが多ければ多いほど、フォールドする価値が高くなり、そのプレイヤーが先にバストしてくれるように仕向けます。
- 自分のスタックサイズ – 持っているチップの量が多ければ多いほど、1ハンドでバストするリスクが低くなり、フォールドしなくても良いハンドが増えます。現在プレイしているテーブルでこちらのスタックをカバーするプレイヤーがいない場合に特に当てはまります。
- 残っているプレイヤーの人数 – リスクを負うのに値する場合は、チップを獲得し、上位数名のみに与えられる高額なプライズを獲得するチャンスが増える時です。高額なプライズを獲得できる可能性が高いほど、リスクを取るメリットが生まれます。何十人、何百人ものプレイヤーが残っている場合、チップを貯めても大きな賞金を獲得する確率はあまり上がらないので、リスクを負ううまみは小さくなります。
- 対戦相手のスキル – 他のプレイヤーがトーナメント戦略を理解していれば、同様にリスクを避けるため、こちらがフォールドした後に他のプレイヤー同士でリスクを犯してポットを奪い合う可能性は低くなります。もし、他のプレイヤーが誤ったリスクを取ってくる場合、こちらはよりフォールドすべきです。
インマネ直前のチップには最も価値がある
トーナメントで勝つために必要なのはチップと椅子だけだという古いことわざがあります。トーナメントに残っている限り、どんなにスタックが少なくても、賞金を獲得できるチャンスがあります。グレッグ・マーソンは2012年のWSOPメインイベントで、5日目にたったの数BBになった後、優勝しました。つまり、インマネ直前のチップが最も価値があり、それ以降にスタックに追加されるチップの価値は多少減ります。
インマネ直前のチップに最も価値があり、それ以降に追加されるチップの価値はそれには劣ります。
キャッシュゲームでは、100枚の5ドルチップを持っていれば、スタックはちょうど500ドルの価値があります。チップを半分失えば、スタックの価値は$250になります。ダブルアップすれば、スタックの価値は$1000になります。これらのチップの価値は直線的なものです。
しかし、トーナメントでは異なります。もし$500でトーナメントに参加し、500点のチップを受け取った場合、スタックは$500の価値があります(レーキは無視します)。しかし、1000点のチップにダブルアップした場合、スタックの価値は$1000以下になります。新しく追加したチップは、すでに持っていたチップよりも価値が低いのです。逆に、スタックの半分を失ったとしても、残りの250点のチップは$250以上の価値があります。
このことから、ショートスタックを持っている場合は慎重にプレイする必要があります。バッドビートをくらってショートスタックになった場合は特に、元のスタックサイズまで戻すことは耐え難い苦痛に感じますが、残った数チップにはまだ多くのエクイティがあり、慎重に扱うべきです。「スタックはもうなくなった」と思い込んだり、次に来た中途半端なハンドで残りチップをオールインすることは、大きな間違いです。
ショートスタックは相手よりもむしろ有利です。つまり、オールインせずに我慢すれば、残りチップを賭けるべき機会が訪れるのです。自暴自棄になり、自ら劣勢になるべきではありません。悪いカードが配られ続けたり、まともなカードが配られたとしても誰かが先にオープンしたら、フォールドし続けるべきです。👐
最終的には、以下の2つのうちのどれかになるでしょう。
チップを賭けるべき良い状況になる(次のハンドでAAが配られる可能性もあります)。
または
スタックサイズが少なくなり、より多くのハンドでオールインした方が利益的になる。
スタックが少なくなると、アンティがあるため、どのポジションからでもほとんどのハンドで利益的にプレイできるようになります。もちろん、スタックが少なくなる前に良いハンドが来て欲しいですが、中々配られなくてもフォールドして耐えることが最善です。👌⌚
まとめ
トーナメントはキャッシュゲームよりもテンポが速く、プレイするハンドが多いように見えますが、これはショートスタックとアンティによる影響であり、プレイヤーはより多くのポットを争うことになります。同じスタックサイズとアンティがあるキャッシュゲームとトーナメントを比べると、リスクを回避したり、チップを存続させるメリットがないため、キャッシュゲームの方がより多くのアクションを取ることになります。
自分がどのような局面でリスクを取るべきで、他のプレイヤーにどのような局面でリスクを負わせるべきかを理解できているかどうかが、熟練のトーナメントプレイヤーと、基本的なポーカー戦略のみを理解したプレイヤーとの差となります。