
MTTのSB対BBは、ノーリミットプレイヤーを居心地の悪い状況に追い込み、SPRが高い状況で極端に弱いハンドをプレイさせます。この不慣れなスポットでは、ハンドを評価したり、どのプレイヤーがなぜアクションを起こすべきかを考えたりするのに、直感はあまり役に立ちません。この記事では、リンプポットにおけるSBのフロップ戦略を扱います。例えばどのフロップやどのハンドでベットするのが良いか、スタックの深さによってどのベットサイズを使うべきかなどです。
フロップでのSBのベットサイズ
ベットサイズの問題は分かりやすいのでそこから始めましょう。すべてのスタックサイズにおいて、SBの均衡戦略はほとんどチェックとスモールベットのどちらかを選びます。このスモールベットはよりリニアなベット戦略を取りやすくします。リニアなベット戦略は両プレイヤーが広いレンジと弱いレンジを持っている場合に重要です。SBのレンジにあるほぼすべてのハンドは、BBの最も弱いハンドからエクイティを得ることができ、コールされたとしても相手のレンジは広いのでエクイティを残すことができます。
SBはどのスタックでも、ほとんどチェックとスモールベットしか選択しない。


ほとんどのフロップでSBはポジションによる不利を適度なエクイティとナッツアドバンテージで補います。リンプポットは両プレイヤーがプリフロップでポットを大きくすることを拒否したということですが、SBのリンプはBBのチェックより強いはずです。なぜなら、SBはトラップとして強いハンドをリンプし、リンプリレイズを含んでいるためです。それに対し、BBはチェックでプリフロップのアクションを終えるので、よほどスタックが浅い場合を除き、強いハンドをチェックする理由はありません。
上の表が示すように、SBのベット頻度はエクイティアドバンテージと相関があり、BBのチェックレンジに対してリンプのレンジが強いほど、フロップでのベット頻度が高くなります。
非常にショートな場合、SBのエクイティアドバンテージは、SPRが低いためBBがリンプをレイズして強いハンドのほとんどを守ろうとすることによって発生します。そのため、SBがトラップとしてリンプしやすくなり、BBは強いハンドをチェックする可能性が低くなるため、SBのエクイティアドバンテージはスタックが25BBや40BBの時よりも多少大きくなります。
逆にスタックが深い場合、SBは再びリンプトラップしやすくなります。それはフロップ以降OOPからSPRをプレイするよりも、リンプリレイズの方が強いハンドにとって魅力的なためです。それに加えてBBもリンプポットではベストハンドは高いSPRの価値を失うリスクがあるのでレイズするようになります。つまり、SBはスタックが深いほどリンプレンジが広がりますが、ショートの時よりそのレンジは強くなります。増えたリンプは、ショートの時にフォールドする弱いハンドだけでなく、ショートでレイズしていた強いハンドも含まれていると言うことです。
どんなフロップでベットするべきか
フロップテクスチャからベット頻度を予測する能力を磨くことが重要で、特定のフロップの頻度を暗記する必要はない。
リンプポットにおけるSBのフロップベット頻度は以下の3つが関わってきます。
- エクイティアドバンテージリンプポットではSBの方がプリフロップのレンジが強くなります。フロップがBBより有利であればあるほど、BBのベットは増えます。
- ナッツアドバンテージBBのチェックよりも、SBの方がビッグポケットペアを含むビッグカードをリンプしている可能性が高くなります。SBはシングル、ビッグペアのフロップでのベットが増えます。
- ポジションの不利OOPは常に不利ですが、よりダイナミックなボードではさらに不利になります。BBが強いハンドをターンで引きやすくなればなるほど、SBがフロップベットでエクイティを否定しにくくなるため、SBのベット頻度は減ります。
これは60BBのフロップレポートです。SBはビッグカードフロップではベット頻度が多くなります(222フロップを除く、オーバーペアではナッツアドバンテージが大きい)。このようなフロップはエクイティとナッツアドバンテージが大きくなり易く、またトップペアは引かれにくくなり、エクイティが変動しづらくなります。数字が繋がっていないフロップもベット頻度が上がります。このフロップはさらにエクイティが動きにくく、SBが作りやすい強いワンペアに有利です。


25BBでも同じ傾向になります。


AJ6rは特にSBに有利な数字が近くないハイカードボードの良い例です。60BBでは57%近いエクイティがあり、ベストハンドやグッドハンドも多くなります。

その結果、レンジの約77%をベットし、そのほとんどはスモールベットとなりました。

SBはどんなハンドでベットするべきか
これほど大きなレンジアドバンテージがあれば、ベットで大きなミスになることはあまりありません。AJ6rでは、文字通り全てのハンドがベット候補になりますが、その中にもよりベットに適したハンドがあります。
SBは非常に弱いハンドではなく、25~50%のエクイティを持つ中くらいのハンドでチェックします。このような広いレンジでは、KハイやQハイは価値があり、特にバックドアストレートドローと一緒にバックドアフラッシュドローを持っている場合、チェックして小さなベットを打たれてもコールできることがほとんどです。
両プレイヤーのレンジがここまで広がると、ノーペアには一定のハンドランクがある。
このようなノーペアを正しく評価することは、リンプされたブラインド対ブラインドの対決をプレイする上で非常に重要です。多くのプレイヤーはノーペアの時はブラフかフォールドしなければならないと思いがちですが、両プレイヤーのレンジがここまで広がると、ノーペアには一定のハンドランクがあります。
低い数字のフロップや数字が繋がっているフロップでは、SBはベットをより慎重に行わなければならないため、さらに複雑になります。これは762TTの60BBのレンジです。

このフロップでは25~50%のエクイティに入るハンドがさらに多くなります、それによってエクイティは動き易くなります。SBはピュアベットになるハンドはありませんが、ベットしやすいハンドとしては、すでに強いハンド(ミドルペア以上)か、強いドロー(フラッシュドロー、ストレートドロー、バックドアドロー)が多くなります。A♥ 3♥やK♣5♣くらいの強さのハンドは100%チェックになり、少しでもベットを打たれたらフォールドします。
こういったハンドが弱いのはエクイティがないからではありません。A♥ 3♥は45%近いエクイティがフロップであり、BBの33%のポットベットを打たれても約40%のエクイティがあります。原因はEQRです。BBは多くのハンドでブラフやバリューベットを効果的に行うことができるため、エースハイはショーダウンまで持っていくのは難しいハンドです。
発展するカードが落ちても、そのほとんどはプレイするのが難しいギリギリのハンドになるだけです。オープンエンドストレートドローを待っている時にサードペアをターンで引けたとしても嬉しくはありません。エースをターンで引ければ良いですが、3枚のエースのうち1枚はボード上に3枚ダイヤが出ることになります。ストレートを引いてもそれは、ボードの4枚のストレートの下限になり、フラッシュの心配もあるかもしれないので、危なくなります。
勝ってる可能性が高いハンドはベットしなくて良い
ここまでの内容から間違った理解をしてしまうことがあります。多くのプレイヤーは、A♥ 3♥ のように勝っている可能性が高いが、引かれやすかったりやブラフに弱いハンドはフロップでベットすべきであると考えています。実際は、勝ってる可能性が高いと言うことはベットしない理由となります。SBはもっと弱いハンド、つまりフォールドエクイティで多くの利益を得つつ、コールされても改善の可能性のあるハンドでブラフするべきです。A♥ 3♥のようなハンドはベットを受ければフォールドしますが、チェックは諦めている訳ではありません。BBは均衡時は半分以上の確率でチェックバックし、その場合これらのハンドはまだショーダウンバリューがあります。
良くあるエクスプロイト
先ほどソルバーよりベットしすぎてしまうハンドを述べましたが、これらのベットは必ずしも間違いではありません。ブラインド対ブラインドのプレイは非常にトリッキーなので、対戦相手が大きなミスを犯す可能性も大いにあり、このようなベットが有利に働く可能性もあります。
例えば、どのスタックサイズにおいても、BBの均衡戦略はSBのリンプに対してポラライズされたレイズレンジを持っており、72oやT4oのようなハンドは非常にアグレッシブにレイズします。しかし、多くのプレイヤーはBBからもっとリニアなレンジでレイズし、非常に弱いハンドをチェックし、「良い」ハンドだけでポットを大きくしようとします。この結果、チェックレンジが弱くなり、リンプポットでのSBのエクイティアドバンテージが大きくなり、SBのフロップベットは均衡よりも多くなります。
また、人間のプレイヤーの多くは、BBでフロップベットに直面したときに、自分の弱いハンドやノーペアを過小評価する傾向があり、フォールドが多すぎたり、レイズが少なかったりします。これもまた、SBのベットの価値を高め、均衡時はめったにベットしないようなハンドでもベットができるようになります。
ターン以降

ターンやリバーのさまざまなシナリオを一般化するのは難しいですが、リンプポットは見かけほど他のシチュエーションと変わりません。SBのフロップ戦略の法則は、OOPからのCベットの法則と似ていますし、ターンとリバーのプレイの法則も似ています。
特に以下の二つが重要です。
- フロップでお互いチェックした時、通常フロップで有利なプレイヤーは引き続きターンでも有利です。つまり、762ttのような不利なフロップでは、SBはブラフしづらくなります。非常に弱いハンドは、たとえそれ以前のストリートにアクションがなかったとしても、ターンとリバーでもブラフには適しません。逆に、AJ6rのような有利なボードでは、BBがフロップでベットしていなければ、SBは非常に弱いハンドでもブラフするべきです。つまり、フロップやターンでブラフをしなかったトラッシュハンドは、リバーでは有益なブラフとなるのです。BBの「良い」ハンドを下ろす必要はなく、ただ自分のトラッシュハンドを押しのけるだけでいいのです。
- 利なボードでは、BBがフロップでベットしていなければ、SBは非常に弱いハンドでもブラフするべきです。つまり、フロップやターンでブラフをしなかったトラッシュハンドは、リバーでは有益なブラフとなるのです。BBの「良い」ハンドを下ろす必要はなく、ただ自分のトラッシュハンドを押しのけるだけでいいのです。
SBがフロップで高い頻度でベットするのであれば、ターンではベット頻度を下げ、よりポラライズしたレンジを持つべきです。エクイティアドバンテージを「手に入れる」ことができるのは一度だけです。フロップベットはたくさんのハンドを降せますが、BBがコールした場合、BBの方が強いレンジを持っているはずです。ターンで状況が大きく変わらない限り、SBは引き続きベットするならハンドを厳しく選ぶ必要があります。
まとめ
幸いなことに、SBのリンプポットは相手にとっても難しいスポットになります。自分のプレイが相手を上回るほど完璧である必要はありませんし、相手のミスによって利益的なエクスプロイトができるかもしれません。ブラインド対ブラインドを攻略するには、ポーカー戦略の基本を理解し、応用しなくてはいけません。例えばプレイヤーや各プレイヤーのレンジ間でどのようにエクイティが分配されているか、特定のハンドがポットを大きくしたり、エクイティを奪ったりすることでどれだけの利益を得られるかなどです。IP対BBのSRPから得たハンドの強さやベット頻度の直感をブラインド対ブラインドに当てはめるのは、ソルバーの混合戦略をすべて記憶するのと同じくらい非現実的です。