
新しいゲーム形式、例えばプログレッシブノックアウト (PKO) トーナメントに適応するための鍵の一つは、通常のトーナメント戦略との違いを理解し、調整するタイミングを知ることです。PKOトーナメントにおいて、それはトーナメント初期と終盤でのプリフロップのプレイ方法から始まります。この記事を読み、PKOトーナメントでオープンレンジを広げたり狭めたりするタイミングに影響を与える要素を理解することで、PKO専用のプリフロップチャートを暗記せずに、ゲーム内で適切な判断を下せるようになるでしょう。
バブルファクター
レンジを見る前に、まずは各ポジションからプレイするハンド数を増減させる要素について理解する必要があります。ここでの注意点は、 バブルファクター (BF)バブルファクター(BF)は、トーナメントにおいて負けた際の損害が勝った際の利益に比べてどれほど多いのかを測るものです。これは生き残る事へのプレッシャーを測るもので、ICMスポットを理解するための貴重なツールです。バブルファクターは、オールインに負けることで失うトーナメントエクイティ($EV)をオールインに勝つことで得られる$EVで割った比率として定義され、BF = |$EV 損失 ÷ $EV 利益| となり、全てのチップが完全に投資された状態となります。各プレイヤーはお互いに独自のバブルファクターを持っています。チップEVのシナリオでは、負ける事と勝つことは同じなためBFは1となります。ですがICMシナリオでは、負けることは勝つことよりも被害が大きいため、BFは1を超えます。バウンティ形式では、バウンティを獲得する潜在的利益が存在するため、BFは1未満になることがあります。という用語を使う際は、負けた際の損害が勝った際の利益に比べてどれほど多いのかを測るものを指します。もう一つの用語は リスクプレミアムリスクプレミアムは、トーナメントでオールインする際に追加で発生するリスクです。これは生き残る事へのプレッシャーを測るもので、ICM スポットを理解するための貴重なツールです。リスクプレミアムは、(チップ EV) のポットオッズに比べて、相手のオールインにコールするのに必要な追加のエクイティとして定義されます。リスクプレミアム = 必要なエクイティ (ICM) - 全てのチップが完全に投資された状態の必要なエクイティ(チップEV)となります。各プレイヤーはトーナメントにおいて、他の全てのプレイヤーに対して独自のリスクプレミアムを持っています。で、これはトーナメントにおいてオールインする際に追加で発生するリスクを測るものです。
PKOと通常のトーナメント形式の主な違いの一つは、カバーしているプレイヤーとカバーされているプレイヤーのバブルファクターです。

バウンティが存在することでドルという形でポットにエクイティが追加されるため、相手のバウンティが獲得出来る場合にはハンドをプレイするインセンティブが高まります。プログレッシブノックアウトトーナメント理論の記事でバウンティパワーと説明されているように、このドルは追加のエクイティに変わります。
例えば、全てのプレイヤーが30bbを持った状態のバブル付近のPKOと通常のトーナメントのバブルファクター / リスクプレミアムは次のとおりです。バブルファクターは数値で、そしてリスクプレミアムはパーセンテージで表示されています。


たとえトーナメントから敗退するリスクがあっても、PKOでは対戦相手とハンドをプレイするリスクが大幅に減少することが分かります。この場合、通常のトーナメントでは14.2%の追加のエクイティが必要だったのに対し、PKOでは5.9%の追加のエクイティだけで良いのです。またPKOでは、チップEVのシナリオよりもさらに広いレンジでハンドをプレイできるバブルファクターがマイナスになるシナリオも存在します。
また上記のPKOの例では、$125ではなく$150のバウンティを持つプレイヤーも存在することに注目して下さい。
これが示すことは、
- より大きいバウンティを持つプレイヤーのバブルファクターは1.22と若干低くなる
- バウンティーが小さいプレイヤー (UTG+1、HJ、BTN、そしてBB)の1.27に比べ若干低くなる

これが今回のソリューションに与える影響はごく僅かですが、バウンティの相対的な大きさの違いがバブルファクターに与える影響には注目するべきです。なぜなら特にPKOトーナメントの後半では、各プレイヤーのバウンティの大きさの違いが顕著になることがあるからです。
これらの影響はオープンサイズを全体的に広げることに繋がりますが、どれくらい広げるべきでしょうか?ではまず、対称なスタックサイズ(スタックサイズが同じ)を持った状態の様々なシナリオでのオープンレンジを、トーナメントの段階別に見ていきましょう。
対称なスタックサイズでの比較
以下のチャートは、通常のトーナメントとPKOトーナメントにおけるオープンレンジの変化を示したものです。GTO Wizardはトーナメントの形式によって70%と75%という若干異なるフィールドサイズを使っており、最初の列にそれぞれのフィールドサイズを記載しています。

すぐに気付く興味深い点は、全てのシナリオで依然としてバウンティが存在するにも関わらず、PKOではオープンレンジに大きなばらつきがあることです。その理由を理解するために、対称なスタックサイズのバブルファクターの変化を見てみましょう。
先ほどのチャートと同様に、最初の列にはトーナメントの段階が、そして2番目の列にはスタックサイズが表示されています。次の2列には各トーナメントの段階別のバブルファクターの平均が示されています。そして最後の列には、通常のゲームと比較したPKOのバブルファクターの差が表示されています。

これらの2つのチャートを比較することで、バブルファクターの変化が戦略とレンジにどのような影響を与えるのかを見ることが出来ます。以下は注目すべきいくつかのポイントです。
- PKOのバブル前ではバブルファクターは依然としてマイナスなままで、これらのシナリオでオールインをする際に、相手に対して優勢である必要はないという事を意味します。
- トーナメントが進行するにつれPKOと通常のトーナメントのバブルファクターの差は大きくなります 。これは、各プレイヤーが持つバウンティが増加することで、各プレイヤーのバウンティパワー(バウンティパワーは、トーナメントでのバウンティのドルの価値をチップの価値に変換、またはその逆を行うために使用されます。バウンティパワーの公式は、残りの賞金プールに対して自分が持つチップの影響力を測ります。)も増加するからです。また、通常バウンティトーナメントでは合計賞金額の半分のみがキャッシュプライズに割り当てられるため、順位を上げる事の価値が低くなります。またリスクプレミアムがプラスになっているように、バウンティパワーはバブル付近でのICMの影響を完全に軽減させるわけではありません。その為、トーナメント敗退のリスクを負った状態でのオールインをする際には、依然として追加のエクイティが必要となります。
- PKOでは、20bb持ちでのオープンオールインが大幅に減少します。20bbの対称なスタックサイズのPKOのソリューションでは、バブルファクターが低くなるためSBからポストフロップをプレイするハンドが増え、本来オールインするほとんどのハンドはオープンリンプかオープンレイズを選択します。
非対称なスタックサイズでの比較
ここまではスタックサイズが同じ時、バブルファクターがレンジにどう影響するのかを見てきましたが、続いては対戦相手をカバーしている場合、またはカバーされている場合にPKOのプリフロップレンジがどのように調整するのかを見てみましょう。
75%のプレイヤーが残った状態でのICM



注目すべき点
上記の例に基づくと、PKOにて最初にアクションを行う場合のプレイ方法にいくつかの大きな違いが見られます。
- カバーされているプレイヤーのバブルファクターはどちらの形式も似ていますが、カバーしているプレイヤーの場合は大きく異なります。PKOではバウンティが存在するため、バブルファクターは小さくなります。これはレイトポジションのプレイヤーに最も大きな影響を与え、レイズレンジとオールインレンジの両方が広がります。プログレッシブノックアウト形式でバブルファクターがどのように機能するのかについての詳細は、 ICMによってPKOの戦略はどう変わるのかをご覧下さい。
- SBとBB両方のブラインドのプレイヤーをカバーしている場合バウンティが獲得出来るため、BTNプレイヤーのリスクプレミアムはマイナスになります。これにより、BTNは全体的に広いレンジでプレイし、4.4%多くオールインをします。そしてSBとBBは、オールインをより広くコールする対応を取ります (SBは6.1%、BBは5.9%広くなります )。
- SBがBBをカバーしている場合、ほぼリンプかオールインのどちらかを選択する戦略に切り替わります。これには次の2つの要素が関係しています。
1) 参加プレイヤーの75%がまだ残っている場合、トーナメントから敗退するリスクプレミアムはごく僅かです。
2) SBがBBをカバーしバウンティを獲得する事が可能なため、オールインをする追加のインセンティブが生まれます。その結果、SBはICMの影響に制約されにくいスポットとなり、アグレッシブにポットに参加する場合はオールインを選択します。
バブル付近のICM



注目すべき点
バブルファクターによって、PKOでは最初にアクションを行うプレイヤーのプレイ方法が変化します。以下がそれらの新しい特性です。
- PKOのバブルファクターは通常のトーナメントに比べ全体的に低くなっており、それはスタックサイズが最も小さい場合でも同様です。これは、大きなスタックサイズで中程度のスタックサイズの相手とプレイする際に特に顕著です。
- PKOのソリューションでは、バウンティが獲得出来る場合、BTNがブラインドに対してプレイする際のリスクプレミアムはマイナスになります。さらにBTNは、ミニオープンに対してオールインするインセンティブも持っています。これは、ブラインドが広いオールインレンジをよりライトにコールするからです(SBは3.5 %、BBは5.7%広くコールします)。
- またSBはBBにカバーされているにも関わらず、10%多くオールインをします。これは、PKOではバウンティが存在するため、 BBはよりライトにオールインをコールするからです。通常のトーナメントの例ではSBのオールインに対してBBは15.8%コールするのに対し、PKOでは22.7%コールします。
自分をカバーしているプレイヤーが後ろに残っている状態でのオープンレンジの調整方法の例は、PKO のボタンのプレイ方法をマスターする – プリフロップ編 – (英語) をご覧ください。
まとめ
通常のトーナメント戦略をプログレッシブノックアウト(PKO)形式に適応させる方法を学ぶ際は、プリフロップのレンジから始めるのが最適です。トーナメントの段階、スタックサイズ、カバーしているもしくはカバーされているプレイヤーの人数など全てが、オープンレンジに影響を及ぼします。以下は、バウンティが獲得できる際に良い意思決定を行うために役立ついくつかの重要な要素です。
- PKOトーナメントではバウンティパワーによりバブルファクターが小さくなり、より多くのハンドをオープンします。それにより、特に後ろのプレイヤーをカバーしている場合は、レイトポジションからのオープンオールインをより頻繁に行います。
- ただし非対称なスタックサイズの例で見られたように、バブル付近でのバウンティがオープンレンジに与える影響は、リスクプレミアムが上昇するため小さくなります。
PKOでのオープンレンジの理解度をテストしてみたい方は以下のドリルを試してみて下さい。
