ファイナルテーブルやバブルファクターの強い場面で多くのチップを持っている場合、非常に良い状況と言えます。それはチップをたくさん持っているからシンプルに有利というだけでなく、他のプレイヤーをカバーすることで、自分に対してオールインすることで飛ぶリスクを避けたい相手からより多くのチップを得ることができます。
これはテーブルを 「いじめる 」とも言われますが、実際はビッグスタックでのプレイは、アグレッションよりも繊細さが重要です。理想の道具はメスであり、大きなハンマーではありません。そういった状況で意識するべきなのは、自分は大きなリスクを負わずに、相手に大きなプレッシャーを与えることです。
ビッグスタックでのプレイは、アグレッションよりも繊細さが重要。
平均スタック35BBの9人のファイナルテーブルを考えてみましょう。自分はBTNで88BBのチップリーダーで、ブラインドは平均スタックより多い40BBと45BBを持っているとします。もしオールインをすれば、ブラインドに45bbのプレッシャーをかけることになりますが、同時に自分自身も45bbのリスクを負うことになります。これが先ほど例に挙げた大きなハンマーです。これらのプレイヤーはそのオールインにコールするのは非常に難しいですが、もしコールしてきたとしたら、ほぼ間違いなくビッグハンドを持っているはずです。
GTO Wizardは82sやQ2oのような弱いハンドも含め、74%のハンドでミニマムレイズでオープンすることをおすすめしています。
これがメスです。自分のリスクを最小限に抑えながら、ブラインドに大きなプレッシャーをかけます。チップリーダーと大きなポットを争うリスクを冒すほど強いハンドはほとんどないので、BBは比較的頻繁にフォールドし、3ベットはほとんどしません。
以下はこれに対するBBのレンジです。
KKですらポットを大きくすることを恐れています。24%は特に高いフォールド頻度には見えないかもしれませんが、チップEVの45BBでは、カバーされているかどうかは関係なく、BBはBTNのレイズに対してわずか12%しかフォールドしません。BTNの方が強いレンジを持っているにもかかわらずです。
もちろん、大きなレイズと比較すると相手のフォールド頻度は落ちますが、リスクも最小限に抑えられるので、リスクとリターンの比率は良くなります。BTNは即座に十分なフォールドエクイティを確保でき、BBが仮にフォールドしなかったとしても、BTNはIPでフロップを見ることができます。
フロップ以降でIPにいる時点ですでに自分のハンドエクイティ以上にエクイティを実現することができますが、カバーしているとさらに大きくなります。プリフロップと同じように、相手はフロップのベットに対して非常に頻繁にフォールドし、レイズはほとんどしないと予想できます。
レイズへの対応
チップリーダーには他にも小さなメリットがいくつもあります。例えば、先ほど例で前にいた全員がフォールドしたのは偶然ではありません。ブラインドと同様に自分の前のプレイヤー達もチップリーダーとの対決を避けようとするため、自分が後ろにいるとき、特にBTNやBBであるときは、よりタイトなオープンレンジになるはずです。
誰かが先にレイズした際は、相手を自由にいじめることはできない
つまり、誰かが先にレイズした際は、相手を自由にいじめることはできないということです。相手のリスクプレミアムはオープン戦略に組み込まれているはずで、相手のオープンは全て大きなポットを争うことができる強力なハンドを持っていることを意味しています。
自分より前で最もスタックの多い35BBのUTG1からのオープンを受けたBTNのレンジは、コール16%、レイズ9%となっています。
AKoやQQでさえレイズは混合戦略となっています。ここでのBTNの反応は、チップEVで35BBの場合はコール16%、レイズ6%ですがそれと比べてさほどアグレッシブではありません。
チップEVではUTG1は18%でオープンするため、UTG1の14%のハンドレンジは、このファイナルテーブルでは通常よりも強くなっています。そのため、ある意味でBTNは「いじめ 」続けているのです。相手は強いレンジを持っているのにもかかわらず、アグレッシブに対応します。例えば、BTNはUTG1が直ぐに飛ぶ可能性のあるオールインはしません。BTNの3ベットサイズはわずか5BBで十分で、全てのストリートで圧倒的なフォールドエクイティを生み出します。これが「メス」の使い方です。
大きなハンマーを使う時
これよりスタックが少ない場合は、オールインという大きなハンマーが正しくなります。平均スタックが15BBでBTNが21BB、ブラインドが7BBと11BBの例を見てみましょう。BTNはテーブル全体ではチップリーダーではありませんが、チップリーダーがフォールドした後は、実質チップリーダーとしてプレイすることができます。
ビッグスタックでのレイズのように74%のハンドでオープンすることはできません。その代わりに、55%のハンドでオープンし、そのほとんどがオールインとなります。
小さいサイズのレイズはオールインを受けやすくなるというデメリットがあります。今回の例ではSBのスタックが十分に小さいので、オールインのリスクとリターンが合ってしまいます。BTNは例えカバーしているとしてもそういったオールインは避けるべきです。このようなオールインを期待する強いハンドはほとんどありません。AKoでさえ、自分からオールインしてフォールドエクイティを最大化する方が利益的です。
カバーしてても大きい衝突は避けた方が良い
ブラインドはショートですが、BTNは85やJ3などの比較的弱いハンドでオールインします。SBは最もショートなので、他のプレイヤーよりもICMプレッシャーは少なくなりますが、それでもほとんどのハンドをフォールドします。GTO Wizardでは、6.5BBでコールできるのにも関わらず、44、K9s、JTsのような強いハンドをフォールドし、21%しかコールしていません。
これはICMチキンそのものです。BTNは自らオールインすることで、ブラインドにこの有利な選択肢を与えず、フォールドを多くするか、両プレイヤーにとって不利になる大きなリスクをとるかの二択に追い込んでいます。
エクスプロイト的なICMアジャスト
ICMシミュレーションは、標準的なソルバーによるソリューション以上に、相手がどのように対応するかによって大きく変わります。チップEVはゼロサムゲームなので、相手が失ったEVは丸々自分の利益となります。しかしICMはそうはいきません。相手のミスによって自分が損することもあるのです。その場合、テーブルの残りのプレイヤーにその分の利益がわたり、両プレイヤーとも損をします。
ICMシミュレーションは相手の対応に大きく依存する
そのような状況ではストレスが溜まるかもしれませんが、自分がポットに関わっておらず、二人のプレイヤーがお互いに不必要なリスクを取っている場合は、自分は利益を得ていると思い出すようにしましょう。また、もし相手が自分ほどICMを理解していないと思われる場合はアジャストできるかもしれません。
ここまで解説してきたように、ICMによってフォールド頻度が高まります。ICMをあまり意識していない相手は、ICMプレッシャーが低い環境で身についた直感でプレイすると予想されます。実際、先ほどのBTNのオールインに対して、SBで44やJTをフォールドしない人は多いでしょう。そのような相手に対しては、よりタイトにオールインやオープンをする必要があります。
同様に、スタックが深い状況でのBTNのレイズに対するBBの対応がチップEVに近いと思われる場合、自分のBTNのオープンレンジもチップEVモデルに近づけなくてはなりません。つまりオープンレンジを70%から50%にする必要があるということです。本来得られたチャンスを失うのは惜しいですが、無理矢理ICM通りにプレイすることはできません。その場合、自分とBBの双方にとって損で、テーブルの他のプレイヤーの得になる大きな争いが起きるだけです。
とはいえ、ICMを理解していないプレイヤーは他のリークがあるかもしれません。例えば、92sやQ5oでミニマムオープンレイズをコールした方が良い理由を理解していないかもしれません。ファイナルテーブルに適した戦略をうっかりプレイしてしまうかもしれませんが、そういったプレイヤーのICMを無視した戦略はBBでは非常にパッシブで(これはよくあるリークです)その場合、上に示したICM戦略がうまく機能します。
同様に、フロートや3ベットブラフは、自分に対してオールインする危険性を意識していないUTG1のプレイヤーに対してはあまり効果的ではありません。適切な14%のハンド(チップEVでは18%が適正頻度)でオープンしておきながら、チップリーダーが入ってきた際にルーズでアグレッシブなプレイをすれば、お互いに損をすることになります。そのためそういった相手にはより慎重に対応する必要があります。
しかし、これはICMのためにオープンレンジを正しく調整したにもかかわらず、カバーというプレッシャーを受けた場合はなぜかそれを忘れる変なプレイヤーです。それよりも、最初にオープンレンジを広げすぎていて、3ベットされたり、フロップでCベットをレイズされたりして、初めて自分の置かれている状況が危険だと認識するプレイヤーの方が多いでしょう。このようなプレイヤーに対しては、ICMモデルの最適戦略よりもさらにアグレッシブにプレイする方が良いでしょう。
まとめ
非常にショートな状況以外では、ビックスタックは全ての局面で超攻撃的な「いじめ」をするべきではありません。それよりも、小さなポットを最小限のリスクで拾い上げ、自分とぶつかる相手の恐れをエクスプロイトする方が重要です。相手がオープンレイズしたり、3ベットするなどして、ポットを争う意思を見せたら、相手がICMを変な解釈をしている場合以外は、すごく慎重にプレイする必要があります。