「ドンクベット」とは、前のストリートでのアグレッサーに対してOOPから先にベットすることであり、このようなベットは下手なプレイヤーの特徴、つまり「バカ」(ロバの略)であると考えられていたことに由来する蔑称です。実際にドンクベットが正しいことはほとんどありません。
以下の図は、GTO Wizardのフロップレポートのデータに基づき、MTTの様々なスタックサイズと、アーリー、ミドル、レイトポジションの相手に対する、均衡時のBBのフロップでのドンクベット頻度を示しています。
相手のポジションが後ろになればなるほど、ドンクベットがやや多くなるように見えますが、それでもここでの最も明確な傾向は明確なエクスプロイト目的でない限り、BBがドンクベットをすることはほとんどないということです。
ドンクベットを最優先事項として勉強すべきではなく、勉強するまではドンクベットは絶対にしない方が良いでしょう。
しかし、これだけでは全容はわかりません。下記の図ではBTNに対するBBのドンクベットの頻度を、フロップのハイカード順に並べてみました。
対HJ
対UTG
このようにデータを並べ替えると、BBの戦略の中で実際にドンクベットをするフロップがいくつかあることがわかります。ローカードフロップはめったに発生しないため、ドンクベットの全体的な頻度は少なくなっていますが、6ハイや5ハイのフロップでは、BBが先にベットするのは必ずしも間違ったプレイではありません。
とはいえ、ドンクベットが正しいことはほとんどなく、誤用しやすいのは事実です。ドンクベットを勉強の最優先事項にすべきではなく、勉強するまでは、絶対にドンクベットをしない方が良いでしょう。このルールによってプレイが難しくなることはありませんが、無計画にドンクベットをすると、大きなミスとエクスプロイトにつながる可能性があります。
ドンクベットが正しい時はいつか
まだ読んでいるということは、上級者でよく勉強しているか、(ロバのように…)頑固かのどちらかでしょう。
BBのドンクベットはほとんどローカードフロップで行われます。6ハイや5ハイのフロップの特徴は、コネクトしているということです。カードの数字が低く、コネクトしているボードではプリフロップレイザーがCベットをする上で最も不利なボードの1つであり、BBが先にベットをするスポットです。
ドンクベットは、相手が頻繁にCベットをしないと思われるスポットで行います。
Cベットを多くしそうなボードでは、BBが先にベットすることはありません。BBがバリューでベットするにしても、ブラフでベットするにしても、相手のレンジが広く弱い場合にドンクベットをします。つまり、ドンクベットは相手が頻繁にCベットをしないと思われるスポットで行います。
Cベットに不向きなフロップの特徴は2つあります。
- プリフロップレイザーがエクイティアドバンテージを失った時。プリフロップレイザーははるかに強いレンジのため、多くのフロップでは大きなエクイティアドバンテージがあり、高い頻度でベットしてもBBをフォールドさせることができます。BBのエクイティが50%近くまで上がるのは、非常に特殊なフロップだけです。
- BBがナッツアドバンテージを持っている時。これは文字通りナッツという意味ではありません。実際、浅いスタックであれば、トップペアやセカンドペアであってもナッツとしてプレイするには十分な強さがあります。しかし、BBがセット、ストレート、ツーペアを多く持つ可能性が高いボードでは、チェックレイズされるリスクがあるため、Cベットをしにくくなります。
654rのフロップでのエフェクティブスタック20bbのUTG対BBのレンジの内訳は以下のようになります。
ここでは、BBはレンジの60%でベットします。エクイティはほぼ半々であるものの、BBはとても強いハンド(BEST HANDS)とそれなりに強いハンド(GOOD HANDS)をUTGに比べて多く持っています。ドンクベットをしないフロップでのレンジ構成を見てみます。JT9rのフロップでは互いのレンジ構成は以下のようになっています。
ドンクはどのハンドでするべきか
ドンクベットに適したフロップがわかったとしても、どのハンドですべきかという厄介な問題が残ります。
次の図は、エフェクティブスタック20bbの際、764rのフロップでのUTGに対するBBのドンクベットレンジです。ポジションやスタックサイズに関わらずドンクベットが高頻度で行われているスポットの1つであるため、どのハンドがドンクベットに適しているのかを理解することができます。
ドンクベットを正しく行うのが難しい理由の1つは、この比較的高頻度で行われているスポットであっても、明確なアクションはなく、わかりづらいことです。しかし、傾向を読み取ることはできます。
- トップペアはキッカーに関係なく、高頻度でベットしている。
- セカンドペアも多くベットしている。
- オープンエンドストレートドローはほとんどベットしている。
- AxとKxのハンドもベット頻度がそれなりにある。
ドンクベットをあまりしないハンドを見てみます。
- 小さいオフスーツのオーバーカード (QJo、JTo).
- A2oとK2o。A3やK3が持っているストレートドローがないハンド。
- スモールポケット。特にストレートドローを持っている時(33はほとんどチェック、22はほとんどベット)
- ナッツ。BBは主に85をチェックします。85は98や88、87のようなUTGのディフェンスするハンドをブロックしています。しかし、53はほとんどベットしています。セットやツーペアは、ターン次第で、まくられる可能性があるためスロープレイはあまりしません。
これらの原則を明確にすることで、ドンクベットは何を意味しているのか見えてきます。ここでのBBのベットサイズは、33%ポットサイズとオールインしか考慮していないため、例えば75%ポットサイズが効果的ではないとは言えません。しかし、OOPからの小さいベットではUTGがフォールドすることはほとんどないので、BBはコールされた時にある程度エクイティがあり、UTGのエクイティを否定することで利益を得られるハンドでベットすることがほとんどです。つまり、BBのレンジには何もないハンド(役がなく、ドローもない)がほとんどなく、ベットレンジのほとんどが薄いバリューとプロテクションになっています。
AToとKToは単なるブラフではありません。AJoやKQoのようなドミネイトされているハンドをフォールドさせることもありますが、QTsやK9sのようなドミネイトしているハンドからコールされることもあります。また、QJoのエクイティを削ることもできます。QJoは8アウツあるだけでなく、相手はポジションがあるため後のストリートで有利に立ち回ることができます。これらのハンドでドンクべットすることで、相手のエクイティを削り、Tが落ちた時にバリューを取れたり、AやKが落ちた時にチェックし、ブラフキャッチをすることもできます。
中程度の強さのハンドで多くベットすると、UTGにレイズされて厳しい状況に追い込まれることがあります。そのため、BBはレイズされるのを嫌うハンドと、レイズされると非常に嬉しいハンドをドンクベットのレンジに入れ、バランスを取っています。これにはセットやストレートだけでなく、75、65、54も含まれています。これらのハンドはオールインしてUTGのブラフに対するエクイティを削りつつ、相手のコールする強いハンドに対しても多くのエクイティを有することができます。BBのベットレンジのほとんどは、相手のエクイティを削ることで利益を得て、コールされたときにもエクイティがあるハンドと後のストリートでもプレイしやすいハンドで構成されています。これらのハンドの多くはレイズされると厳しいため、ナッツや強いドローを含めることでバランスを保っています。
中程度の強さのハンドを多くベットすると、UTGにレイズされ厳しい状況に追い込まれてしまいます。
ディープスタック
スタックが浅ければ浅いほど、BBはドンクベットを多くします。T7を持っている際にドンクベットし、レイズされてもSPRが3であればそれほど怖くはありません。このフロップでBBはとても強いハンドを多く持ってるわけではありませんが、それなりに強いハンドは多く持っています。20bbしかスタックがない時は、それなりに強いハンドで十分です。
エフェクティブスタックが100bbの際もBBは764のフロップでドンクベットをしますが、その頻度は先ほどと比べて3分の2になります。スタックが深くなると、BBはオールインまで行くことに価値があるハンドを持つことが難しくなり、その結果レイズあるいは大きいベットを(チェックレンジにナッツを残しておかなければ)されやすくなります。これは、T7のようなトップペアがナッツとしてプレイできなくなったこともありますが、プリフロップのコールレンジに53oが少なくなったのも要因の1つです。
100bbのスタックでは、BBのエクイティは劣勢で、それなりに強いハンド(GOOD HANDS)は少ないので、ドンクベットの頻度は減少します。
エフェクティブスタックが100bbの場合、BBがフロップで最もベットするのは654rの時です。その頻度は20bbの時の764rより若干低くなりますが、レンジの構成はよく似ています。
繰り返し説明しますが、主なチェックハンドはオフスーツの弱いブロードウェイで、アウツが少ないハンドです。それらのハンドはバックドアのストレートやフラッシュドローさえ持っておらず、トップペアを作れてもドミネイトされている可能性があります。BBはバリューと相手のエクイティを削るため、弱いペアやドローでベットする傾向があります。
BBのナッツアドバンテージは、UTGが87、65、54、32のコンボをほとんど持っていないこと、また44のコンボを全て持っていないことからきており、UTGはアグレッシブにレイズすることができなくなっています。UTGに対してはドンクベットの頻度が多くありますが、BTNの場合だとストレートやツーペアが多く含まれているため、あまりドンクベットすることはありません。
BBのスタックが浅い場合、UTGに対しては654rのフロップで積極的にベットします。以下がエフェクティブスタック20bbの場合の戦略です。
ドンクベット頻度は似ているものの、ベットレンジにはいくつか異なる点があります。20bbのスタックでは、BBはA8sや83sでベットしません。これらは深いスタックでは高頻度でベットするハンドです。これらのハンドは、スタックが浅い時は不利に働き、相手がドンクベットに対して、これらの強いドローをフォールドさせるようなオールインをしやすくなります。
スタックが浅い時、BBのドローは不利に働き、相手がドンクベットに対して強いドローをフォールドさせるようなオールインをしやすくなります。
ここでのUTGの均衡戦略は、BBのドンクベットに対して約16%頻度でオールインをすることです。以下の通り、BBのA8sはフォールド一択であり、83sのエクイティは36%で、コールするのに必要な39%には少し及ばないことがわかります。
代わりにドンクベットするハンドは、QJoやQToのような弱いオフスーツのオーバーカードで、100bbのスタックでは決してベットしないハンドです。BBはオールインに対して83sでフォールドするのと同じように、これらのハンドもフォールドします。スタックが深い時とは違い、これらのオーバーカードは、トップペアに昇格すると強いハンドとして扱うことができます。
スタックが深くなると、UTGはもはやオーバーペアのみでオールインすることができなくなります。レイズ頻度は半分以下となり、ほとんどが小さいサイズを使います。つまり、BBはこれらのドローを持っている時にレイズされる可能性が低くなります。レイズされる頻度が減少し、レイズされたときに良いオッズでコールでき、ストレートを引いた時、大きなバリューを期待できます。
ICM
ICMはプレイヤーのアクションを変えます。
大雑把に言うと、どちらのプレイヤーもポットを大きくしようとする動機が少なくなります。片方のプレイヤーがカバーされている場合は、特にベットする動機が薄れます。有利なボードであっても、自分がカバーされているプレイヤーである場合は、ドンクベットの頻度を減らすべきです。逆に相手をカバーしている場合、ドンクベットの頻度は増加します。この記事では、これらの概念について詳しく説明しています。
まとめ
BBがドンクベットを最大限に活用するには、3つの条件が必要です。
- 両者のエクイティが近く、高頻度でCベットしないと思われる場合。BBはエクイティで優位に立つ必要はなく、また著しく不利になることはありません。
- ボードがダイナミックで、BBはバリューを先に取り、レンジの多くの部分で早くチップをポットに入れたい時。
- BBがナッツアドバンテージを持っており、相手がドンクベットに対してポラライズしたレイズで攻めるのが難しい時。
フロップがドンクベットに適したカードになることは稀であり、ドンクベットの機会は滅多に起こりません。しかし、低いカードと中程度のカードでコネクトしているいくつかの特定のフロップでは、BBはかなりの頻度でドンクベットをすることで利益を得ることができます。