この記事はICMのブラインド対決【SB編】の続編です。前回は、ICMによって両プレイヤーは大きいポットを避けるようになるが、BBの方が早いストリートでポットを大きくしやすいと述べました。ポジションがあることでブラフを打ちやすくなり、ポットをコントロールしやすくなり、エクイティをより効率よく実現できるようになります。そのためプリフロップでポットを大きくするのはSBほど危険ではありません。
ICMによって両プレイヤーとも大きなポットは避けるようになるが、BBは早いストリートではポットを増やしやすい。
次の図は、トーナメントの様々なステージでの、SBからのリンプとレイズの両方に対するBBの戦略を示しています。このシミュレーションでは全てのプレイヤーは40BBを持っています。なおファイナルテーブルは35BBで計算されています。
BBはリスクプレミアムが高くなるにつれて積極的なレイズはしなくなるものの、ICMプレッシャーが強い時でも一定のレイズレンジを持っています。このスタックの深さでは、BBにとってレイズの危険性は低いのです。OOPからのリレイズはSBにとって非常にリスクがあるため、BBはフロップを高確率で見ることができ、仮にSBがコールしてもポジションの優位性は揺るぎません。
SBのレイズオープンに対するBBのレンジはトーナメントが進んでも大きく変化しないように見えますが、注意が必要です。リスクプレミアムが高くなるにつれて、SBのレイズレンジは強くなるのに、BBのレイズとコールの頻度はほんの少ししか上がっていないのです。これは、リスクプレミアムが高くなるにつれて、BBがSBのレンジに比べて弱いハンドでポットを争うことを意味します。リスクプレミアムが高ければ高いほど、BBのポジションの優位性が高まり、EQRが上がります。
リスクプレミアムが高ければ高いほど、BBのポジションの優位性が高まり、EQRが上がる。
ショートスタック
20BBではリスクプレミアムが増加するにつれてBBは分かりやすく保守なプレイをするようになります。これはBBのリスクが増えただけでなく、SBのリンプやレイズレンジが強くなったことも原因です。BBはこのスタックではリレイズが非常に効果的で、リレイズは主にオールインなため、SBに厳しい決断をさせることができます。
ICMプレッシャーが強いときは、BBはオールイン以外に小さい3ベットが選択肢に入ります。レイズサイズは小さいですが、このレイズは非常にポラライズされており、これにはSBはほとんどオールインかフォールドで対応します。OOPからポストフロップで大きなポットを争うのは、バブルやファイナルテーブルでは非常に危ないので、SBはコールできるようなハンドであればオールインし、フォールドエクイティを取りに行きます。
次の図は、エフィエクティブスタックが20BBのファイナルテーブルで、3BBのSBオープンに対するBBのレンジを示しています。薄赤色はオールインではない3ベットです。フォールドレンジの一番上が薄赤色になっており、BBはコールするには強さが足りないハンドをレイズに回しています。これはSBがレイズに高頻度でフォールドするので、コールできるハンドをブラフに回す意味がないためです。
SBはレイズに高頻度でフォールドするので、コールできるハンドをブラフに回す理由がない。
「普通の」トーナメントでリスクプレミアムの低い場合のコツとして、レイズに対してオールインが返された時、コールに必要な額が2:1になるなら(レイズがエフィエクティブスタックの約⅓をコミットしているなら)、レイズしたハンドは相手のオールインにどちらにしてもコールすることになるので、自分からオールインした方が良くなります。
リスクプレミアムが高いと、スタックの⅓をコミットしていてもフォールドが選択肢に入ります。これは既にコミットしたチップの価値よりも残りのチップの方が価値があるためです。この広いレイズレンジは強いがプレイアビリティの低いハンドでエクイティを効率よく奪い、トラップを踏んでしまっても最後のチップは守ることができるようにできています。
大きなレイズ
9人のファイナルテーブルで、全員35BBを持っている先ほどの例には面白い点がありました。ここではBBはSBのリンプに対して7BBまでレイズするレンジを持っています。このレンジはスタックが30BBの時、最も多くなります。また、50BB以上では小さいサイズのレイズが好まれ、20BB以下ではリンプに対してオールインが好まれます。以下の図は9人のファイナルテーブルでのBBの戦略をスタック別に示したものです。
BBのこのレンジ構成は、30BBの場合に最も顕著になります。
- AKo、AQo、JJ – KKといった強いがプレイアビリティの低いハンドとAAは小さめの3ベットを好みます。AAはエクイティを否定することで得られる利益は少なく、SBのオールインレンジの多くをブロックしています。AKoはQToや98sをフォールドさせられますし、A5sからのオールインを誘えるのに対し、AAは前者はほとんど得がなく、後者は相手のハンドをブロックしています。ファイナルテーブルでは、KKですらSBのAxをフォールドかオールインの二択に追い込むことで利益を得るようになります。AAは独自の特性をもつ強力なハンドです。
- 均衡ではこのレイズはブラフとしては特に利益的ではありません。そのため、BBはフロップを見る必要のないトラッシュハンドで7BBのブラフをします。均衡時にほとんど、もしくは全くレイズしない似たトラッシュハンドは、チェックとEVがほとんど変わらないので、リンプやフォールドを頻繁にするような相手に対しては、そういったハンドでレイズを多くすると良いかもしれません。
- QJoや98のような中くらいのハンドはリレイズが怖いため、チェックすることがほとんどですが、レイズする場合は3.5bbのサイズを使います。これはSBの広いコールレンジに対して最もプレイしやすいサイズです。
- この大きなレイズは、50BBや60BBといったディープスタックではあまり有効ではありません。ブラインドやアンティのスチールの価値が落ちるため、AA以外の強いポケットでさえ、SBにコールされたり3ベットされたりすると、全てのスタックをポットに入れるのは危うくなります。
BBがカバーしている場合
SBが35BBでBBが40BBのシナリオでは、BBのリスクプレミアムは12.2%(SBとスタックが同じ場合と比較)から11.3%に減少し、SBのリスクプレミアムは13.1%とわずかに増加します。このリスクアドバンテージの変化によって、BBの戦略はややアグレッシブになり、7%のハンドで7BBレイズ(同じ場合は5%)、28%のハンドで3.5bbにレイズするようになります(同じ場合は24%)。
BBがSBからのレイズを受けたときのBBのレンジは、スタックが同じ場合とあまり変わりません。しかし、先ほど述べたように、SBのリスクプレミアムはレイズレンジに組み込まれているため、SBの方が強いレンジを持っているにもかかわらず、BBのレンジは変わっていないと言うことを意識する必要があります。
SBにカバーされている場合
100BBのSBからのリンプに対して、35BBのBBが7BBのレイズを使うことはありません。その代わりに、レンジの4%でオールインするようになります。このレンジはスタックが同じ場合に7BBにレイズしたレンジとは全く異なります。カバーされている場合、BBのオールインレンジはブロッカーに大きく依存し、A9o~AQoとA2oがレンジ大半を占めます。
カバーされており、15.2%のリスクプレミアムがあるにも関わらず、BBは29%のハンドで3.5BBでレイズします(スタックが同じ場合は24%)。このレンジはSBがより広く弱いレンジでリンプしていることが原因です。このシナリオではSBがフォールドすることはほとんどなく、強いハンドでレイズすることがほとんどです。どちらかと言えば、SBの広く弱いリンプのレンジを考慮すれば、34%というレイズ頻度は低い方です。
まとめ
スタックが同じ場合、BBもSBと同様にICMプレッシャーが強い場合は大きいポットは避けるようになります。しかし、BBはフロップ以降のポットをコントロールしやすいため、ファイナルテーブルでSBにカバーされている場合でも、プリフロップのレイズでポットを大きくする方が安全なのです。
スタックによっては、小さな3ベットやリンプに対する大きいレイズなど、型破りなアクションを取れることがあります。多くのプレイヤーはこういったプレイに慣れておらず、うまく対応できないので、エッジを出すことができるでしょう。