前回、ICMを考慮した際、参加人数によってどの程度タイトにプレイすべきか、あるいはルースにプレイすべきか、分散はどれくらいあるのか、賞金の期待値がどの程度変わるのかに注目しました。今回はICMを考慮した際のペイアウトストラクチャーについて学んでいきます。
まずはペイアウトストラクチャーが標準的、フラット(平坦)か、あるいはトップヘビー(トップに集中している)の場合をそれぞれ見ていきます。
- 一般的なMTTのペイアウトストラクチャーでは、上位15%~20%のプレイヤーが賞金を受け取り、賞金総額の大部分はファイナルテーブルに集まっています。特に賞金総額の約30%から40%は1~3位のプレイヤーが獲得することが一般的で、こういった配分を標準的なペイアウトストラクチャーと呼びます。
- フラットなペイアウトストラクチャーでは、インマネしたプレイヤーにより平等に賞金が分配されます。標準的なペイアウトストラクチャーの時と比べて、1位のプレイヤーに支払われる賞金は少なくなる一方で、他のファイナリストの賞金は多くなり、最低賞金額も大きくなります。また、賞金を受け取るプレイヤーの割合が多くなることもあります。
- トップヘビーなペイアウトストラクチャーはその逆で、賞金総額の多くが最後の方まで残っていたプレイヤー、特に1位のプレイヤーに集中します。また、賞金をもらえるプレイヤーが少なくなることもあります。
こういった傾向がある中で、最もフラットなペイアウトストラクチャーはサテライトであり、全てのプレイヤーに同額の賞金が支払われます。一方、最もトップヘビーなペイアウトストラクチャーは勝者総取り(winner-takes-all)トーナメントです。この2種類のトーナメントの戦略的な違いは非常に大きく、まるで全く別のゲームのようになります。
バブルファクターについて
ICMにおける参加人数への影響の記事で紹介したように、フラットなペイアウトストラクチャーとトップヘビーなペイアウトストラクチャーの戦略的な違いを把握する最も簡単な方法は、トイゲームを使うことです。
- トーナメントで、全員が20bb持ちの6人テーブル。他のテーブルの平均スタックも20bb。
- 180人参加の27位からインマネで、現在残り28人でバブル
このトーナメントを、異なるペイアウトストラクチャーで何度かシミュレーションします。そして、それぞれの例におけるバブルファクターを見て、それぞれのフォーマットにおける戦略的な違いを確認します。
以下の表で3つの異なるペイアウトストラクチャーを比較します。
標準的(Normal)なペイアウトストラクチャーはPokerStarsの180人SNGと同じ比率を採用しています。フラット(Flat)なペイアウトストラクチャーでは、1位の賞金は少なくなりますが、ミニキャッシュ(賞金の最低額)を含むその他の賞金は多くなっています。トップヘビーな(Steep)ペイアウトストラクチャーでは、最後まで残った2人を除くプレイヤーの賞金が少なくなっています。
フラット(Flat)なペイアウトストラクチャーでは賞金がもらえる人数を増やし、トップヘビーな(Steep)ペイアウトストラクチャーでは減らすこともできましたが、比較対象をできるだけ近づけるため、ファイナルテーブルの前に1回賞金額を上げ、どちらも27人のプレイヤーがインマネするようにしました。
以下は、標準的なペイアウトストラクチャーにおける全員のバブルファクターです。
全てのプレイヤーが同じ1.41のバブルファクターであり、バブルファクターについての記事で紹介しているように、このテーブルでオールインにコールするには59%のエクイティが必要だということがわかります。
フラットなペイアウトストラクチャーの場合と比較してみます。
バブルファクターは1.48と高く、オールインにコールするには60%のエクイティが必要です。わずかな差ですがタイトになります。優勝賞金が少ないため、最低賞金額を確保し、段階的に賞金を増やしていくことがより重要となります。
最後にトップヘビーなペイアウトストラクチャーの場合を見てみます。
バブルファクターは1.35で、オールインにコールするには57%のエクイティが必要です。標準的なペイアウトストラクチャーと比べるとわずかな差ですが、フラットなペイアウトストラクチャーと比べると3%と大きな差があります。
次にもっと極端なペイアウトストラクチャーで検証してみます。例えば、勝者総取りのトーナメントだったらどうなるでしょうか?
答えを見る ↓
優勝者以外に賞金がなければ、基本的にチップEVとなるので、バブルファクターは1です。
逆に、27人のプレイヤー全てが同じ賞金のサテライトだったらどうなるでしょうか?
バブルファクターは27で、オールインにコールするには96%のエクイティが必要なほど極端になります。プリフロップで96%もエクイティがあるハンドはないので、UTGが72oでオールインしてハンドを表向きにしても、もしGTOをプレイするのであれば、BBはAAをフォールドするでしょう。
フラットなペイアウトストラクチャーではチップを持ち続ける方が重要なので、タイトにプレイすべきです。トップヘビーなペイアウトストラクチャーではトーナメントで優勝することがより重要なので、ルースにプレイすべきです。
ペイアウトストラクチャーと分散
ここまでバブルファクターの違いを通じてフラットなペイアウトストラクチャーとトップヘビーなペイアウトストラクチャーの戦略的な違いについて見ていきました。次は分散について考えてみましょう。
トーナメントの分散計算機を使用し、異なるペイアウトストラクチャーを比較したときに、運の要素がどれだけ異なるかを調べてみます。
以下の例では、$50 MTTで10%のROIを持つプレイヤーが、100人参加のトーナメントで1,000回プレイした場合をシミュレーションします。唯一の違いは、ペイアウトストラクチャーです。バブルファクターで行った際と同じようにフラットなペイアウトストラクチャーとトップヘビーなペイアウトストラクチャーの計算をするのではなく、インマネの人数を変えて比較します。
まず、100人のプレイヤーのうち15人に標準的な賞金を支払うというシミュレーションを行いました。以下は、シミュレーションで実行した20回のサンプル結果です。
最高のケースでは約$25,000を獲得し、最悪のケースでは約$10,000を失い、平均$5,000の利益を得ました。この例では、18.2%の確率で負け越すことがあり、破産リスクを1%に抑えるために必要なバンクロールは$9,840となります。
次に、各トーナメントで100人中5人しかインマネしない設定でシミュレーションします。
最高のケースでは、$35,000ほどプラスになりましたが最悪のケースでは$20,000近くもマイナスになっています。先ほどと同じく平均$5,000ほどの利益を得ています。今回は負け越す確率が26.1%で、必要なバンクロールは$14,275と、最初の例よりはるかに多くなっています。
最後に、100人のうち30人に一律の賞金を支払う場合をシミュレーションしてみます。
最高のケースでは$20,000プラスになり、最悪のケースでは$7,000マイナスになりました。平均利益は$5,000でした。負け越す確率は14.4%で、必要なバンクロールは$7,797となります。
すべてのシミュレーションにおける期待値は$5,000と一定でした。これは、$50のMTTで1,000トーナメントを10%のROIでプレイした場合の期待値です(文字通り、1トーナメントあたり$5を1,000倍したもの)。長期的に見れば、プレイヤーは賞金の仕組みに関係なく同じ額を稼ぐことになります。しかし、無限にトーナメントをプレイすることはできないので、実際はどのトーナメントに参加するか考える必要があります。トップヘビーなペイアウトストラクチャーでは、最も多く稼げる可能性がありますが、同時に最も負ける可能性があります。
トップヘビーなペイアウトストラクチャーでは、破産する可能性が高くなります。フラットなペイアウトストラクチャーでは、リスクははるかに少なくなりますが、その分利益の上限も制限されます。
トーナメントにいつ参加するべきか
ペイアウトストラクチャーはゲーム選択とICMのもう1つの重要な要素、参加するべきタイミングにも影響を与えます。この点についてはすでにレイトレジストの記事で簡単に説明しましたが、トイゲームで確認してみてみましょう。
参加費$10、初期スタック$1,000の9人トーナメントをプレイしているとします。4人のプレイヤーが飛び、10人目のプレイヤーとして自分が参加しました。遅れて参加することでどれだけICMエクイティを追加で得られるか見てみます。
まず、標準的なSNGのペイアウトストラクチャーを見てみます。
参加した時点では最下位となっていますが、遅れたことで、$1.17(11.7%)のエクイティを追加で得ています。
賞金をもっとフラットにしたらどうでしょうか?スタックの大きさは同じですが、1位から$10取り、2位と3位の賞金をそれぞれ$5ずつ増やしました。
前回より増え、$1.43のエクイティを追加で得られています。
反対に、3位からいくらかを取って1位の賞金に加え、配当をより上位に偏らせるとどうなるでしょうか?
遅れて参加してもプラスにはなるものの、前の例よりは少ない$0.99(9.9%)に減少します。
極端な例として、3人に同じ賞金が与えられるサテライトだとどうなるでしょうか?
最も大きな$1.71というエクイティを追加で得られています。
勝者総取りのトーナメントだったらどうなるでしょうか?
前回の例で述べたように、WTAトーナメントはチップEVであり、バブルはないため遅れて参加するメリットはありません。いつ参加しようが、$10は$10のままです。そのため、もし相手より上手いのであれば最初からエントリーするのが良いでしょう。
ペイアウトストラクチャーに関するICMの重要な点は、
遅れて参加した場合、全体としてはより多くの賞金を稼ぐことができますが、最初から参加した場合と比べて、同等のスキルを前提とした場合、優勝する頻度は少し低くなる。
ペイアウトストラクチャーがフラットであればあるほど、最低賞金額が最優先されるため、遅れて参加する価値が高くなります。上位に賞金が偏っているトーナメントでは、優勝することがより重要になります。トップヘビーなペイアウトストラクチャーであっても、遅れて参加することは利益的ですが、深いスタックで優位に立てるのであれば、早めに参加する方が良いかもしれません。
複雑な要因
今日の例はすべて、参加者間のスキルが同等で、賞金をもらえることによる価値も同等であることを前提としています。しかし実際には同じトーナメントにおいても、全員が同じEVでプレイしているとは限りません。
例えば、過去2年間、GGPokerはWSOPメインイベントのオンライン予選であるプロモーションを実施しています。GGPokerのワッペンをつけてメインイベントで優勝すれば、さらに$100万が追加されるというものです。2022年にEspen Jorstadは優勝し実際に追加でもらうことができました。また、過去にはPokerStarsが予選通過者を対象にWSOPのファイナルテーブル進出でスポンサーシップを提供した例もあります。
WSOPメインイベントファイナルテーブルの優勝賞金が$1,000万だとします。一方でGGPokerのワッペンをつけると、$1,100万になるとします。もし2位になれば、準優勝と同じ賞金を獲得できますが、優勝すれば他の選手が優勝した時よりも10%多く獲得できます。つまり、異なるペイアウトストラクチャーでプレイしているのです。
同様に、いくつかのプロモーションはペイアウトストラクチャーをフラットにします。例えば、リーダーボードのプロモーション。有名な例では、2019年にロバート・キャンベルがWSOPプレイヤー・オブ・ザ・イヤーのリーダーボードを獲得しましたが、WSOPはポイントの計算を間違えていました。ショーン・ディーブは、リーダーボードで首位に立つには大きな大会で大きな成績を残す必要があると思い、優勝を狙ってプレイしました。後になってこの誤りが発覚したのですが、首位に立つには比較的小さなトーナメントのファイナルテーブルでよかったのです。ディーブは後に、もし知っていたら本当にニットなプレイをしていただろうし、おそらく他のイベントにも参加していたと述べていました。
この例では、最低賞金額とペイアウトストラクチャーは、トーナメントでたった1人のプレイヤー、ショーン・ディーブにとってより大きな価値がありました。ディープは他のプレイヤーよりもフラットなペイアウトストラクチャーでプレイするべきでしたがWSOPのミスのせいで、彼はかえってトップヘビーなペイアウトストラクチャーでプレイしていました。
この効果は誰かがブレスレットを賭けてプレイしたときにも見られます。お金よりもブレスレットに価値を見いだし、バブルを気にせずにプレイする人もいます。逆にお金がより重要なプレイヤーもいます。最低賞金がどうしても必要だったり、優勝賞金を狙わなければならない経済的な事情がある場合です。
重要なのは、現実の世界では、全員が同じペイアウトストラクチャーでプレイしているとは考えられないということです。あるプレイヤーはトーナメントで優勝するというのに賭けているのかもしれなく、また、サテライトで出場権を獲得しており、最低賞金額はそのプレイヤーにとってより大きな意味を持つため、バブル時にそのプレイヤーをエクスプロイトできるかもしれません。
まとめ
ICMのフラットなペイアウトストラクチャーとトップヘビーなペイアウトストラクチャーでの違いは、多くの点で小さいトーナメントと大きなトーナメントの違いと似ています。フラットなペイアウトストラクチャーは小さいトーナメントと同じで、優勝を狙ってプレイする利点が少なく、少しでも残って賞金を獲得しようとします。
トップヘビーなペイアウトストラクチャーは大きいトーナメントでのプレイと似ています。賞金総額の多くが上位に多く分配されており、インマネする価値が低くなるため、アグレッシブにチップを獲得しようとプレイします。このことはまた、ペイアウトストラクチャーがフラットなトーナメントでは、遅れて参加することがより利益的になります。
小さいトーナメントのように、フラットなペイアウトストラクチャーでは、賞金を手にする可能性が高いため、ばらつきが少なくなります。しかし、これらのトーナメントでは上位に入賞してもあまり多くの賞金を獲得することができません。大きいトーナメントのようにトップヘビーなペイアウトストラクチャーでは、分散が大きく上位1%に入ることが重要です。
標準的なペイアウトストラクチャーとほんの少しフラットであったりトップヘビーであったりするものとの戦略的な違いは、非常に些細なものです。しかし、フラットな場合とトップヘビーな場合の違いはかなり大きくなります。さらに、サテライトや優勝者が全ての賞金を獲得するような極端なペイアウトストラクチャーでは、全く別のゲームとなるでしょう。