トーナメント終盤のスタックが浅い局面で、ICMを踏まえた(ICMについて詳しくはこちら)プリフロップ戦略を理解しているプレイヤーは多いです。しかし、ポストフロップのICM戦略は理解できているでしょうか。GTOは、ファイナルテーブルやトーナメントのバブルラインにおいて、フロップ、ターン、リバーのプレイラインをどのように構築するのでしょうか。
ポストフロップのICM戦略は、まだ比較的未開拓の領域です。プリフロップ用のICMソルバーは以前からありましたし、ポストフロップのGTOソルバーは最近になって普及してきましたが、ポストフロップのICMを研究しているプレイヤーはほとんどいません。ポストフロップのソルバーを用いる上で、「ICMを考慮」するようになったのはごく最近であり、ICMがポストフロップの戦略にどう影響するかは最近になってようやく分かってきました。
「Endgame Poker Strategy: The ICM Book」の共著者として、ポーカープロのDara O’Kearneyと一緒にこの本を書きました。この本は、ICMについて深く掘り下げた初めての本です。また、「GTO Poker Simplified」という著書を彼と共に制作しましたが、こちらでは、著書名の通り、ソルバーを使って得られたポストフロップでの重要な戦略を記載していいます。
ポストフロップのGTOの本とICMの本を書いていますが、ポストフロップでのICMについては簡単にしか触れていません。その理由はこのトピックが膨大だからです。ポストフロップのICMは、1冊の本としてまとめるべきテーマなので、次のプロジェクトとして取り組みます。
Daraと私は、GTO WizardがポストフロップのICMソリューションの機能をリリースすることを知って、とても興奮しています。
私たちはポストフロップのICMについて、フロップ、レンジ、スタックの深さ、ペイアウトストラクチャーなど、様々な要素に幅広く対応できる法則を見つけました。他にも考慮するべきことは多くあり、普遍的なものではありませんが、ポストフロップのICMの研究に役立てるには十分な内容です。
ポストフロップのICMへのアジャスト
バブルファクター
トーナメントにはバブルファクターという概念があり、ICMを学習する上でこの概念の理解は必須です。
バブルファクターとは、チップを失った場合、同量のチップを獲得するよりも多くのエクイティが失われることを示す指標です。
バブルファクターはICMプレッシャーを表しています。バブルファクターとは、スタックされることで失うトーナメントエクイティ($EV)を、他のプレイヤーをスタックすることで得られる$EVで割った比率です。
ビッグスタックでは、飛ぶことなく大きなリスクを取れるため、バブルファクターは低くなります。逆にスタックが浅くても、バブルファクターは低くなります。なぜなら、バブルで飛びたくないものの、何もせずに飛んでしまうことを避ける必要があり、アグレッシブにプレイすべきだからです。プライズやより大きなペイアウトを得られる可能性が高いため、中間くらいのスタックではバブルファクターは非常に高く、チップリーダーとポットを争わず、リスクを回避するべきです。
バブルファクターが高いほど、投資したチップのリスクに対してリターンが割に合っていないことを表しています。バブルファクターが高いほどチップを失った際の損害は大きくなるため、タイトにプレイする必要があります。名前が示しているように、ほとんどの場合、トーナメントのバブルでチップを失うと大惨事になります。バブルやファイナルテーブルでオールインになった場合、現実のお金に換算すると、損失は勝って得られる金額を大きく上回ります。
しかし、バブルファクターは相対的な指標です。もし、セカンドチップリーダーであれば、バブルファクターは他のプレイヤーと比べて低いですが、もし全体のチップリーダーを相手にした場合、バブルファクターは非常に高くなります。平均的なスタックのプレイヤーを相手にしていれば大きなプライズを獲得できるのに、チップリーダーを相手にして逆に飛ばされるのは最悪です。ミドルスタック対ミドルスタックは、ショートスタック対ショートスタックと同様に、バブルファクターが非常に高いスポットです。しかし、ビッグスタック対ショートスタックでは、チップEVに近くなる傾向があります。ビッグスタックは失うチップが少ないので、ルースにプレイできます。ショートスタックはハンドを早々にプレイする必要があるので、広くコールしてくるプレイヤーを選んでポットに参加するのが良いでしょう(特に、他のスタックサイズのプレイヤーは、ビッグスタックとの3ウェイポットは避けるでしょう)。
さて、バブルファクターについてざっと説明しましたが、これはポストフロップのICMスポットでどのように適用されるのでしょうか。
その答えは、カバーしているプレイヤーはポストフロップでよりアグレッシブになれるというものです。バブルまたはファイナルテーブルにおいて、チップリーダー対ビッグスタックやミドルスタックがポットを争うとき、チップEVを踏まえただけでプレイすると、お金を失うことになります。ビッグスタックはOOPでも、頻繁にベットすることができます。また、相手が強いレンジやナッツアドバンテージを持っていても、アグレッシブになることができます。スタックの少ないプレイヤーはより慎重にプレイしなければならないため、明らかに相手にとって有利なフロップでも、ビッグスタックがドンクを打つのは珍しくありません。
スタックサイズが上位である必要はなく、相手をカバーしていれば良いのです。ビッグスタックがミディアムスタックに対してアグレッシブになるように、2番目のショートスタックであっても、テーブル内で最もショートのプレイヤーに対してはよりアグレッシブにプレイします。
しかし、相手プレイヤーをどれくらいカバーしているかによって、どの程度アグレッシブにプレイできるかが決まるため、注意する必要があります。もしあなたが相手の3倍のチップを持っていれば、かなりルースにプレイすることができますが、もしこちがが40BBで、相手プレイヤーが36BBであれば、どちらもオールインしたポットを失いたくないので、慎重にプレイしなければなりません。
ビッグスタック対セカンドビッグスタック
例を挙げて説明しましょう。この例では、40BのプレイヤーがBTNでオープンし、70BBのBBからコールされたとします。フロップはA♣8♦3♠です。ファイナルテーブルのスタックとペイアウトは以下の通りです。
プリフロップICM計算
ご覧のように、BBはBTNを余裕でカバーしています。また、COは非常にショートで、HJは超ビッグスタックを持っていますが、どちらもこのハンドには参加していないにもかかわらず、このスポットのICMプレッシャーに大きな影響を与えています。以下はこの場合のバブルファクターです。
ICM ソリューションのみを調べていると混乱するでしょう。有効なアプローチは、同じシナリオで、チップEVとICMの両方で比較することです。これはICMを戦略に組み込むのに役立ちます。チップEVのスポットを基準点として、それをICMのスポットと比較することで、ICMでの調整をよりよく理解することができます。
プリフロップのレンジ比較
ポストフロップのプレイラインを考える前に、プリフロップのレンジを見てみましょう。この表はBTNのオープンレンジです。
そしてこの表はBBのディフェンスレンジです。
以下の例では、ICM によってプレイラインがどのように変化するのかを理解するために、ICM と チップEV の両方の例で同じプリフロップレンジを使用しています。しかし、本来はプリフロップのレンジは両者で異なります。ICMのレンジは平均してレンジは狭く、3ベットは少なくなります。ICMのプリフロップレンジでは、AxとKxをハイカードにもつスートが多く、スモールペアやスモールスーテッドコネクターは少なくなります。Axsはプリフロップでより多くのポットを獲得する上でブロッカーとして機能し、またリバーでは非常に強いハンドになり得ます。スモールペアはICMプレッシャーが強いとエクイティを実現しにくいので、フォールドすることが多くなります。
また、ICMが強いスポットではプリフロップでの3ベットが少なくなります。TTや99のようなハンドは、チップEVではBB側は3ベットハンドとして使いますが、ICMではフラットコールします。しかし、以下の例では「同じもの」を比較をしているので、同じレンジで続けましょう。
ポストフロップのプレイラインの比較
では、両シナリオのフロップのアクションを見てみましょう。フロップはA♣8♦3♠です。このフロップではBBの33%のエクイティに対し、BTNは63%のエクイティと大きなレンジアドバンテージを持っています。BTNのレンジに占めるAxの割合は大きく、AAなど強いAxが含まれています。BBはAxのハンドも含まれていますが、非常にレンジが広いので、フロップは滑ることがほとんどです。そのため、チップEVとICMの例では、BBは100%チェックします。
以下はチップEVモデルにおけるBTNのCベット戦略
BTNは強いレンジアドバンテージを持っているため、レンジの100%でベットしますが、そのほとんどは小さいサイズを使います。しかし、中くらいのベットや大きいベットをすることもあります。AAはBBのコールレンジをブロックするため、常に小さいベットサイズを好みますが、AK-ATのようなハンドは弱いAxからチップを得るために大きくベットすることがあります。QJ♠やK4♠のようなハンドは明らかなドローがないので大きいサイズのブラフをすることがありますが、これらのハンドはランナーランナーのストレートやフラッシュを作ることができます。
すべての条件がまったく同じ場合、BTNはこのようにプレイしますが、ファイナルテーブルにいる場合、ICMプレッシャーによってプレイラインが変化します。
一見すると、何も変わっていません。先ほどと同じようにBTNのレンジアドバンテージを最大限に利用したレンジベットとなっています。しかしよく見てみると、大きな変化に気がつきます。BTNはほとんどで一番小さいベットサイズを選んでいます。これが冒頭で述べた「ダウンワードドリフト」の影響です。
この影響をわかりやすくするために、ベット頻度の戦略を並べて比較してみましょう。
ダウンワードドリフト(Downward Drift)とは、ICMを原因として、ソルバーのアクションがよりパッシブなプレイラインに向かって下降していくように見えることを意味します。ビッグベットがスモールベットに、スモールベットがコールに、僅差でコールするところがフォールドになるなどです。
多くのプレイヤーは、このようなスポットでベットサイズが下がる現象を見て、できるだけ安く相手をフォールドさせようとしているのだと思うでしょう。しかし、実際は逆で、ソルバーはICMを考慮しても、常に自分がリードしているときにポットを作ろうとしています。大きいベットをすると相手のフォールド頻度は上がります。また、チェックやレイズへのディフェンスとして小さくベットすることもあります。ソルバーは大きくベットした後に大きくチェックレイズされて、トーナメントにおいて大きなリスクを負いたくないないのです。
ソルバーは、ICMプレッシャーがかかっているときでも、常にポットを作ろうとしますが、分散の低いプレイラインを取ることでポットを調整します。
フロップベットへの反応の比較
もう一歩話を深めて、両方のケースで最も一般的なベットサイズである25%ポットに対して、BBがどのように反応するかを見てみましょう。まず、チップEVの例を見てみましょう。
BBはフロップで何らかのエクイティがあるレンジでは42%の頻度でコールし、滑った48%はフォールドします。強いトップペアとセットで、10%強の割合でチェックレイズします。XRのブラフは、ガットショットとバックドアフラッシュドローがある52♠のような手で行います。
それではICMの例と比較してみましょう。
一見すると似ていますが、よく見るとフォールドの割合が少なく、コールが多くなっていることが分かります。ICMレンジではフォールドの割合が多いと思っている人は混乱するかもしれません。これはBBはBTNをカバーしているので、より多くコールする余裕があり、後のストリートでより多くのICMプレッシャーをかけることができるためです。
もう1つの大きな違いは、この例ではチェックレイズが多いことです。先ほどの頻度は10%でしたが、今回は12%以上でチェックレイズしています。これはレンジ全体のプレイラインから見れば小さな違いですが、チェックレイズできるハンドの量が20%増えています。チェックレイズのレンジにもブラフが若干多くなっています。トップペアのレイズが減り、その代わりに44のようなハンドが、ランナーランナーストレートドローとしてブラフになります。
ICMの影響が大きい場合、カバーしているプレイヤーはポストフロップでよりアグレッシブになります。相手をカバーすればするほど、よりアグレッシブになれるのです。
これはポストフロップのICMを研究していると何度も目にする傾向です。カバーしているプレイヤーはよりアグレッシブになります。今回の例では、BBはポジション的にもレンジ的にもかなり不利ですが、それでもチップEVより20%多くチェックレイズしています。このシミュレーションをより極端なICMプレッシャー(例えば、ペイアウトを均一にするとか、BBのチップの量を大きくするなど)で行った場合、BBはさらにアグレッシブにプレイすることになるでしょう。
「進展のない」ターンで何が起こるのか
BBがスモールベットをコールし、ターンが2♥だったとしましょう。これは2xや45♠と45oを持っているBBにとっては有利なカードですが、それでもほとんど進展のないカードです。BBのレンジに占める2xの割合は少なく、BTNのレンジにも45♠とA2♠は含まれています。
以下はチップEVでのBBのターン戦略です。
やはり、このターンはほとんどの場合あまり変わりません。これはBBはフロップですべてのゴミハンドをフォールドしているためです。今回はBBは57%のレンジアドバンテージを持っていますが、BTNは未だ強いハンドをたくさん持っており、ポジションも持っているため、BBは100%チェックします。
次に、全く同じ状況で、ICMが影響する場合を見てみましょう。
ここではより顕著な違いが現れます。ICM以外の変数はすべて同じですが、チップEVの例ではBBからベットすることはなかったですが、ICMの影響によって、ターンでは25%以上の頻度でBBからベットすることになります。ポストフロップのICMスポットを研究していると、BBのドンクベットを弱いレンジであるにもかかわらず打つ場面を目にします。これはインポジションのプレイヤーはよりパッシブにプレイしなくてはならないのが要因です。ICMファクターが強い場合、カバーしているプレイヤーはあらゆるスポットでよりアグレッシブになります。
最後に、ICMファクターがあるとき、すべてのターンカードでBTNの戦略がどのように変わるか、ターンのレポートを見てみましょう。次のグラフは、BTN のターンのチップEV と ICM 戦略の集合です。
ここでもダウンワードドリフトの傾向が明らかにあります。ソルバーがより低分散のプレイラインを選ぶため、BTNのオーバーベットの多くは、ハーフポットベットになっています。
まとめ
これはほんの一例ですが、ポストフロップのICMポットとチップEVポットの重要な違いのいくつかを解説しました。最も重要なのは、どのプレイヤーがカバーし/カバーされているのかを意識することです。トーナメントでは、ほとんどのプレイヤーは本能的に意識しているかもしれませんが、これらのスポットで、ソルバーがカバーする側/カバーされる側のそれぞれで、ポストフロップの戦略を調整していることを知っている人はほとんどいないでしょう。
重要なポイント
- ICMシナリオでは、プリフロップでもポストフロップでも、一般的に3ベットは少なくなります。
- プレイヤーをどの程度カバーしているかによって、どの程度アグレッシブにプレイできるかが変わります。
- ソルバーでは、相手が中サイズのベットをフォールドすることが多い場合、バリューを引き出すために小さなベットサイズを使います。
- また、ソルバーは、分散を小さくするために小さなベットサイズを好みます。
- カバーしているプレイヤーは、ポジションやレンジのアドバンテージに関係なく、よりアグレッシブになることができます