上手い人はよく、ハンド単体ではなくレンジ対レンジで戦略を考えなければいけないと言います。
確かにこれは正しいのですが、間違って解釈されていることが多々あります。この記事では新しい視点でポーカーの戦略を紹介していきます。
固定戦略 vs 動的戦略
まず固定戦略と動的戦略の違いについて理解する必要があります。
固定戦略では、相手に合わせて戦略を変えることはありません。常に同じ戦略とります。GTOとは固定戦略のことで同じスポットでは常に同じようにプレイします。
動的戦略はエクスプロイト戦略のことで、GTO戦略が同じスポットでは同じようにプレイするのとは違い、たとえ同じスポットでも相手に合わせた戦略をとります。
この2つの違いは重要で、インディファレント、GTO、エクスプロイトが関係しています。
混合戦略のミス vs 純粋戦略のミス
ポーカーのミスは以下の2種類があります。
GTO戦略は、相手が純粋戦略を間違えた時にEVを追加で得ることができます。しかし固定戦略(GTO)は相手の混合戦略のミスに関しては追加でEVを得ることはできません。
GTOでは、レイズやコールなど様々なアクションが同じ期待値(GTO戦略に対して)を持っていることがあります。これがインディファレントの定義です。つまり、混合している戦略の割合を間違えた(頻度のミス)としても相手がそのミスを突くように戦略を変えてこない限り、EVを失うことはありません。
コーリングステーションが相手の場合
GTOボット同士がHUをします(レーキなし)。
ボット1 – 常に正確な固定戦略(GTO)をプレイします。
ボット2 – ポット1と同じようにGTOをプレイしますが、コールと他のアクションどちらも期待値が同じ場合は常にコールを選択します。
どちらのボットが勝つでしょうか。
ボット2は混合戦略のスポットで全てコールをしてミスはしていますが、「純粋戦略のミス」はしていません。ポット1はGTO通りプレイしており、相手の混合戦略のミスを突くようなことはしてきません。ポット2はミスをついてきて、バリューの割合を多くしてくるようなプレイヤーにはエクスプロイトされますが、ポット1がそれを行わないためEVを失うことはありません。これが均衡の性質です。
例えば、ボット2がレイズとその他のアクションの期待値が同じスポットで、全てレイズしたとしても純粋戦略のミスはしていないのでGTO戦略に対して負けることはありません。
また、フォールドの選択肢がある混合戦略のスポットを全てフォールドするようなボットになったとしても同様に負けることはありません。
ポラライズのトイゲーム
ここでは、互いにどういったレンジでプレイしているか知っているとします。
- ポット = $10
- スタック = $10
- ボード = 33322
- 自分のハンド:AAが50%、QQが50%
- 相手のハンド:KKが100%
- リバーで自分がオールインをする
まず均衡戦略を考え、その後、戦略を変えながらどれくらいそれぞれのプレイヤーのEVが変わるかを考えます。
自分がバリュー(AA)とブラフ(QQ)をベットした際に、相手がコールとフォールドでインディファレント(EVが同じ)になるようにします。ベットサイズはポットサイズであるため、2:1のオッズとなり、相手がコールするには33.3%のエクイティが必要です。そのため自分のAAは全てベットし、QQは半分ベットすると、バリューとブラフの比率が2:1となり、相手をインディファレントにすることができます。
相手は、少しでもバリューに偏っていたらフォールドし、少しでもブラフが多ければコールしてきます。ただ、適正なポットオッズでベットをしているのであれば、MDFに従ってコールをするべきです。
KKはこのベットに対して、エクスプロイトされないように2回に1回はコールしなければいけません。これによってベット側のEVをインディファレントにすることができます。
AA – 全てオールイン
QQ – 50%オールイン、50%チェック
目標:相手に33%のエクイティを与え、コールとフォールドどちらのEVも同じにさせること
KK – 50%コール
目標:ブラフ(QQ)をベットとチェックどちらのEVも同じにさせること。
期待値
自分: $7.5
相手:$2.5(QQがチェックした時(4回に1回)はKKがポットを獲得できるため)
問題1
自分は常に均衡戦略で相手が下記の戦略の場合、期待値はいくつでしょうか。
相手が毎回フォールド
相手が毎回コール
問題2
相手は常に均衡戦略で自分が下記の戦略の場合、期待値はいくつでしょうか。
QQが毎回オールオン
QQが毎回チェック
どの場合も期待値は均衡戦略と同じです。IPのEVは$7.5でOOPのEVは$2.5です。混合戦略の部分でミスをしたとしても、相手がエクスプロイトしようとしない限りEVが変わることはありません。
レンジによって戦略は変わるのか
上手いプレイヤーでも以下のことを理解していないことがよくあります。
相手がエクスプロイトしようとしない限り、自分のレンジによって自分の戦略が決まることはありません。相手が常にGTO戦略を取ってくるのであれば、「レンジ対レンジ」でプレイしているのではなく「ハンド対相手の戦略」でプレイしていることになります。
「自分のレンジによって戦略が変わる」というのは、自分のレンジが相手の戦略に影響を与え、その相手の戦略が自分のレンジに影響を与えているということです。
実際は自分のハンド対相手の戦略でEVを最大化しようとします。相手の戦略は、あくまで相手が想定している自分のレンジを元に作られており、その戦略に対して、自分のハンドの戦略を考えます。もし、相手が自分のことをニットと認識しているのなら、相手のコール頻度は少なくなるはずで、その戦略に対して自分のハンドはどういうプレイをしたらよいかを考えます。
相手の戦略が変わらない(GTO)戦略のままであるなら、自分のレンジを考えてバランスを取ることなく、相手の戦略に対して自分のハンドを最大化することを考えるのがよいでしょう。
GTOボットと対戦しよう
自分はBBでSBとHUです。Q95rで、ボット(SB)が33%のCベットをしました。
その際、BBのGTO戦略は下記のようになります。
SBは固定(GTO)戦略をとり、BBは以下の3種類の戦略をとります。
- レイズ頻度があるハンドは常にレイズする
- コール頻度があるハンドは常にコールする
- フォールド頻度があるハンドは常にフォールドする
BBは上記の3つの戦略の内、どの戦略を採用したとしてもSBはGTO戦略をとるため頻度のミスをエクスプロイトされることはありません。
自分のレンジが変わると戦略は変わるのか
BTN vs BBのSRPでの戦略を見てみます。
BTNがフロップで33%のベット、ターンで175%のオーバーベットをし、リバーでBBにアクションが回ってきました。
ここでのBBの最適戦略はレンジチェックです。
ナッツを持っていたとしてもチェックをします。例えばナッツであるQ6sのEVを確認してみると、全てのアクションの中でチェックが最もEVの高いアクションです。
BBのレンジは弱いため、チェックをすると相手がベットしてくる可能性が高く、クワッズも含めてチェックすることでEVを最大化することができます。
もしBBのレンジがクワッズだけになったら戦略は変わるのでしょうか
相手(BTN)が固定戦略を取り続けるとしたら、BBはどのようにプレイするべきでしょうか。
A. BBはベットをするべきでしょうか
B. ベットとチェックを混ぜるべきでしょうか
C. それともレンジチェックを続けるべきでしょうか
C. レンジチェックを続けるべきです!
以前と同じGTO戦略をとるようリバーでノードロックすると、BBの戦略はレンジが変わっても同じレンジチェックをしています。
つまり、各ハンドのEVを最大化させる場合でも、相手が戦略を変更してエクスプロイトしようとしない限り、戦略は何も変わりません。
まとめ
重要な3つのポイント
- 混合戦略のミスと純粋戦略のミスを理解する
- それぞれのミスがどのようにエクスプロイトされるか学ぶ
- 固定戦略と動的戦略の違いを理解する
混合戦略の頻度はエクスプロイトされないために守る必要がありますが、エクスプロイトしようとしてこない場合は混合戦略の頻度を守る必要はありません。その場合は頻度に固執するのではなく、相手をエクスプロイトすることに集中するべきです。
また頻度よりもレンジ全体を考えた戦略の方が重要です。例えば、Q95rのボードでのJ3sのそれぞれのハンドのアクションの頻度はさほど重要ではなく、レンジ全体でそれぞれのアクションがどれくらいの頻度で構成しているかを考える方が圧倒的に重要です。
相手が常にGTO戦略であれば、頻度の低いアクションをし続けたとしても問題はありません。ただそのようなアクションは、ハンド履歴分析などで100%の精度を得ていたとしても、頻度のミスを突いたエクスプロイトをされる可能性はあります。逆にいうと、頻度のミスをしたとしても相手が固定(GTO)戦略を続けるのであれば問題ありません。
細かな頻度にこだわるのではなく、アクションの境目を探すようにしてください。レンジ構築機能を使って、レンジ全体でどういう頻度でアクションを取るかの練習をするのがおすすめです。「バリューベットする一番弱いハンドはどれか」「フォールドする一番強いハンドはどれか」に注目し、インディファレントのアクションを考えるのではなく、まずはアクションの境目を考えるようにしましょう。そうすれば、より強い戦略を構築できるようになります。
翻訳:Ayumu