ナッツドロー戦略を解明する
ナッツドローは、ベットやレイズをする候補として非常に魅力的です。フォールドエクイティによって、時にはより強いハンドすら降ろすことができますし、相手がそのベットにフォールドしなかった場合でも、大きなポットを獲得する可能性も秘めています。
それでも、ソルバーはナッツドローを常にアグレッシブにプレイするわけではありません。例えば、100bbのCOvsBB(SRP)において、Q♠6♦2♦のフロップでは、COは69%の頻度でしかナッツフラッシュドローでCベットを打ちません。
ナッツフラッシュドローでCベットを打つ明確なメリットがありながらも、ソルバーは必ずしも一貫してベットするわけではありません。
COの全体的なCベット率(ナッツフラッシュドローに限らず、レンジ全体としての頻度)はわずか49%です。つまり平均的なハンドに比べて、ナッツフラッシュドローをアグレッシブに(69%)ベットしています。それでもベットはすべてピュアベットというわけではなく、ベットをする際には4つのベットサイズすべてを混ぜています。
なぜこのような戦略なのか?
2014年に自分のブログに載せたハンドを紹介します。当時私は、ゲーム理論やバランス、エクスプロイトについてほとんど理解していませんでしたが、もし相手が、「私たちがフラッシュドローで必ずCベットすると予想している場合、フロップでCベットをせずにターンでフラッシュを完成させても、相手は私たちがフラッシュを完成させたことに気づきにくい」という重要な考え方に気づいていました。だからこそ、あえてフラッシュドローでチェックし、相手の懐疑心を逆手に取ることで利益を得られるのです。
このハンドヒストリーは「アンティアップ」という、今ではほとんど廃れたフォーマットなので分かりづらいかも知れません。要点をまとめると、私はQ♣4♦2♦のフロップで、IPのプリフロップレイザーとしてA♦T♦を持っていました。私はフロップでチェックバックし、ターンに5♦が落ちたことでフラッシュが完成しました。相手が再びチェックしてきたので私はベットをすると、相手がチェックレイズしてきました。相手はポットサイズと同額のスタックを残していたので私はコールを選択し、相手はリバーの5♠でオールインし、私はコールしました。相手はK♠J♦を持っており、ドローイングデッド状態でポットの4倍のチップを注ぎ込んでいたのです。
私はブログ記事に「フロップをチェックバックした時に、ターンでフラッシュを作れるのは強みだ」と書きました。
ここで浮き彫りになっているのは、ポーカー戦略におけるより大きな原理です。つまり、自分のレンジをキャップするのは非常に危険だということです。相手がナッツを持つ可能性を残しつつ、こちらはナッツをほとんど持つことができないと正確に予想できれば、相手はポラライズレンジで大きくベットすることができます。その場合、こちらの最強クラスハンドでさえ、ただのブラフキャッチャーに成り下がってしまいます。これは、エフェクティブスタックが深くなるほど、より危険になります。
これは絶対的なルールではありません。ターンとリバーでボトムカードがペアになった場合に、自分がクワッズを持つことができないリスクだけを理由に、フロップの戦略全体を歪める必要はありません。ただ、3枚目のフラッシュカードがターンで落ちるようなよくある局面では、ソルバーはナッツドローをあらゆるアクションに混ぜることで対応しています。
もちろん、ソルバーには「先を見越している」という意識はまったくありません。そもそもソルバーに「思考」は存在しません(私の知る限り)。ソルバーはインセンティブに応じて期待値を最大化し、エクスプロイトのリスクがある潜在的な弱点を補っているのです。もしソルバーがあるハンドで混合戦略を採用している場合、そのハンドのすべてのアクションが同じEVである必要があります。つまり、この局面でナッツフラッシュドローをすべてベットしてしまうと、自分がナッツを持つことができない局面に達した時に、相手は先程述べた大きなサイズのベットを打つなどして、エクスプロイトすることが可能です。だからこそ、そのような局面でときどきナッツを作るインセンティブが生まれるのです。
検証してみましょう!
この考えはノードロックで検証できます。カスタムソリューションを使い、ベットサイズを一種類に固定します(ベット額ではなく、ベットをするか否かに焦点を当てるため、ゲームツリーを簡略化します)。1つのベットサイズしか許可されていない場合、COはQ62ttでレンジ全体の70%をCベットしますが、ナッツフラッシュドローでは76%をCベットします。改めて、そのようなドローが平均的なハンドに比べてベット候補として優れていることを示しています。
ソルバーは、いくつかのコンボで他のコンボに比べてよりベットすることを好む傾向を示していますが、それほど強いものではありません。
例えば、A♦8♦はピュアベットした方が6bb/100良く、A♦3♦はベットとチェックのEVが同じなので、混合戦略が採用されています。
A♦9♦はナッツフラッシュドローコンボのうち、均衡戦略ではかなりの割合でチェックを選択するもののひとつです。しかし、A♦9♦をピュアベットするようにCOの戦略をロックすると、AK、AT、A4、A3といった他の混合戦略を採用するコンボでチェックを増やしてバランスを取ります。
もしA♦9♦、A♦T♦、A♦4♦をピュアベットにロックすると、均衡戦略ではピュアベットだったA♦7♦とA♦5♦が、バランスを取るためにいくつかチェックを混ぜ始めます。
ベット戦略に固定したルールをどんどん導入しても、COのチェック頻度が比較的同じままであることに注目してください。さらに、より多くのコンボを「最善ではない」方法でプレイするよう強いられているにもかかわらず、EVまでもが一貫して維持されています。
ゲームツリーの各分岐でナッツドローの適切な頻度を維持することは、特定のコンボで特定のアクションを取ることよりも重要です。
ソルバーが特定のコンボをベットすることを好む理由はいくつかありますが、トップペアでもあるA♦Q♦を除けば、その理由は大したものではありません。あるコンボは若干多くBBをフォールドさせたり、ペアアウツがわずかに良かったりします。COはデュアルコアプロセッサーが搭載されている場合、その計算能力を活かしてどのコンボをベットし、どのコンボをチェックするかを決める際に、そのような小さな差異をタイブレーカーとして使っても構いません。しかし、それらはあくまでタイブレーカーに過ぎず、どのコンボをベットするかを決める方法自体はそれほど重要ではありません。
ここでの主な結論は、COの均衡戦略にはベットレンジにもチェックレンジにもナッツフラッシュドローが含まれ、それぞれのレンジでナッツドローの適切な頻度を維持することは、特定のコンボで特定のアクションを取ることよりも重要であるという点です。コンピューターは極めて精密な区別を行えますが、人間であれば、例えばキッカーが高いものをベットし、低いものをチェックするといった方法を選ぶこともできますし、あるいはすべてのコンボで25%の頻度でチェックするといった方法を採用してもかまいません。
フィルターを使用する際の注意点
この原則は、COが広いチェックレンジを持つあらゆるフロップに適用されます。ただし、今回Q62を選んだのは、このフロップではCOのナッツフラッシュドロー全てがコンボドローにならないためです。QT2のようなフロップでは、「フラッシュドローナッツ」フィルターにA♦K♦やA♦J♦は含まれません。コンボドローフィルターを追加するとそれらは追加されますが、K♦J♦などナッツではないコンボドローまで含まれてしまいます。フィルターを使用する際は、必要なコンボだけを、正確に追加するよう注意が必要です。
ターンがダイヤの際のプレイ方法 (フラッシュが完成するターン)
フロップがチェックで回った場合
以下のレポートは、COがフロップをチェックバックした後のすべてのターンにおける、BBのベット戦略を示しています。均衡戦略では、ダイヤのターンカードに対して大きなサイズでベットすることを最も控えている点に注目してください。
カスタムソリューションではレポートを表示することはできませんが、8♦のような影響の少なそうなダイヤを選んで、COがフロップでより多くのフラッシュドローをベットすることで、戦略にどのような変化が生じるかを比較できます。
また、COがレンジをキャップした際に、BBの戦略でオーバーベットがより重要な要素となるという仮説を検証するため、カスタムソリューションのパラメーターを少し変更します。すべてのベットサイズを自動で決定する代わりに、両プレイヤーはポットの25%、67%、200%の固定されたベットサイズをターンとリバーで使用します。
BBの均衡戦略では、8♦のターンではそれほどオーバーベットは行いません。
COがフロップでナッツフラッシュドローをすべてベットするようロックされていて、フロップでCOがベットしなかった場合、BBはこのターンでは大きなベットをより好むようになります。
この状況では、COはナッツフラッシュドローをすべてベットする代わりにローフラッシュドローを多くチェックすることでバランスを保っているため、レンジには依然としてフラッシュが含まれています。したがって、COのレンジにある程度のフラッシュが含まれていても、BBはオーバーベットを行うことでエクスプロイトできます。
COがフロップでフラッシュドローをすべてベットするようロックした場合、COがフロップをチェックした後のフラッシュが完成するターンで、BBはCOに対して強いプレッシャーをかけることができます。
まとめ
フロップでフラッシュドローをピュアベットし続けるのは、必ずしも悪いことではありません。アグレッシブにチェックレイズをしてこない相手に対しては、均衡戦略ではチェックが多くなる場面でも、レンジ全体をCベットすることが正解となる場合もあります。しかし、それはあくまで選択肢のうちのひとつであり、リスクとリワードを正しく理解した上で判断しましょう。
相手はどのようにあなたの選択をエクスプロイトできるのでしょうか?実際にそのエクスプロイトを仕掛けてくると思いますか?あるいは相手がエクスプロイトに走りすぎる場合、2014年に私が行ったように、逆方向に戦略をシフトしてカウンターエクスプロイトを仕掛けるインセンティブが生まれるかもしれません。
その戦略だけでなく、なぜそうなるのかという理由まで把握できるほど均衡解を深く理解するほど、テーブル上の選択肢を見極め、特定の相手に対して最も効果的な戦略を選ぶ能力が高まります。