
以前、ギャンブルのバイアスがプレイに与える影響と確証バイアスがGTO Wizardを使って行うポーカーの勉強に悪影響を及ぼす可能性について書きました。今回のメンタルゲームシリーズの締めくくりに、確証バイアス以外のポーカーの成長を妨げる認知バイアスについて書いていきます。
行為者 – 観察者バイアス
行為者 – 観察者バイアスとは、
自分の行動の原因は状況によるものだと考える一方、他人の行動の原因はその人の性格や意図によるものだと考える傾向です。

これは特にネガティブな経験でよく起こります。典型的な例として、肥満率が増加しているというニュースを見た時に、視聴者はその原因は当事者の努力不足だと考えますが、医者からダイエットを勧められると加工食品や遺伝、そしてストレスや怪我の原因のせいにするのです。
分散が大きな影響力を持つポーカーにおいて、収益の結果が運によるものなのか実力なのかを明確にすることは非常に困難です。ポーカープレイヤーと多くの時間を過ごした事がある人なら、行為者 – 観察者バイアスを目の当たりにしたことがあるでしょう。セッションで負け続けているときには分散のせいにしますが、誰かが負け続けている時には彼らをフィッシュと見なすのです。
このバイアスによって、次のフィル・ヘルミュースの名言が生まれました。
行為者 – 観察者バイアスが起こる理由の一つは、他人が置かれた状況を客観的かつ冷静に見ることの方が簡単だからです。これが、自分がポーカーをプレイし評価される立場にいる時よりも、他人がプレイをしているのを見る時の方が倫理的にプレイについて考える事が出来る理由です。Tritonのイベントを見ている時のほうが、実際にその場でプレイする時よりも良い判断が下せるはずです。人間は自分のエゴを傷つけないようにプログラムされており、そのせいで目の前にあるものが見えなくなる事があるのです。
ポーカーにおける行為者 – 観察者バイアス
行為者 – 観察者バイアスが働き自分が負け続けている理由を外的要因のせいにすると、改善する努力を怠ることに繋がります。もし運のせいで負けているなら、勉強する事に何の意味があるのでしょうか?
メンタルゲームコーチのジャレッド・テンドラーがこの記事で詳しく書いた、分散と実力を区別する為の習慣を身につける枠組み作りは、行為者 – 観察者バイアスを認識し軽減させるためにも役立ちます。これは非常にシンプルな枠組みで、毎回セッションが終わった後に次の質問を自分に問いかけます。
- 結果のどの程度が自分の実力によるものか?
- 結果のどの程度が相手の実力によるものか?
- 結果のどの程度が分散によるものか?
これらの質問に対する答えにはまだバイアスがかかっていますが、質問をすることで外部要因と内部要因をより冷静かつ客観的に見ることができます。例えば相手が良い判断を下したのか、それとも自分の運が良かったのかなどです。

オーストリッチ効果(ダチョウ効果)
行為者 – 観察者バイアスの原因の一つは関連バイアスで、それはオーストリッチ効果とも呼ばれます。その名の通り、
たとえ役立つ可能性があっても、地面に頭を埋めてネガティブな情報を無視してしまう傾向のことです。

典型的な例として、借金を抱える人は不安になるのを避けるために銀行口座の残高を見ないようにすることが挙げられます。自分が置かれた悲惨な財政状況を認めないことは、悪い消費習慣を続けることに繋がります。真正面から問題に向き合うのは居心地が悪いかもしれませんが、ストレスを緩和する為のより良い方法です。
ポーカーにおけるオーストリッチ効果
ポーカーの勉強でのオーストリッチ効果は、自分が持つ最大の弱点について勉強しないことです。GTO Wizardでドリル練習中に大きなミスを犯した際に、ドリルを中断してそのスポットを深く学ぶことをしないなどが例となります。

恥ずかしいプレイを隠すためにハンドヒストリーを運が悪かったように改ざんして他の人に見せるなど、行き過ぎた事をする人さえ見たこともあります。また、あるプレイヤーがハンドをミスプレイするのを見た後に、そのプレイヤーが実際のプレイとは異なる形でハンドについて語るのを見た経験がある人もいるでしょう。
現実を受け入れる
私も皆さんと同じようにこのバイアスに影響され、その結果セッションを録画し翌日コーチにプレイを見てもらうことが最も効果的な勉強方法となりました。このアプローチでは隠すことが難しく、自分が上手く見えるハンドだけを選んで勉強したくなる誘惑に負ける事もありません。
GTO Wizardのトレーナーが大きなミスを指摘するのは、友人があなたを助けるために誤解や間違っているかもしれない事を教えてくれているようなものです。特に恥ずかしく感じる部分は大きな弱点であり、あなたが最も改善できる領域です。
ダニング=クルーガー効果
ダニング=クルーガー効果とは、
その分野での専門知識が足りない人は自分の能力を過大評価し、逆にその分野で非常に高いスキルを持つ人は自分の能力に疑問を持つことです。
現代におけるダニング=クルーガー効果の典型的な例として、アメリカン・アイドルの様なオーディション型のリアリティ番組が挙げられます。出場する歌手は下手であるにもかかわらず、自信に満ち溢れているのです。もう一つの例はオンラインの政治討論会で、その場で最も無知な人物が最も自信を持って話していることがあります。
これは限られた能力しか持たない人は、その分野で能力を持つことがどのようなものなのかを認識できないことから起こります。自分が知らない事を知らないのです。これは無意識的無能と呼ばれます。ですが、その分野の専門家はスキルや専門知識の複雑さを非常によく理解し高く評価するため、自分の能力が十分であるかに疑問を持つことがよくあります。

ポーカーにおけるダニング=クルーガー効果
ダニング=クルーガー効果は特にポーカープレイヤーにとって致命的になり得ます。なぜなら、ポーカーの運の要素が行動と結果の因果関係を曖昧にし、ダニング=クルーガー効果が入り込む大きな余地を与えてしまうからです。ポーカーのランダムな性質が、短期的に悪い行為を繰り返させ良い行為を罰します。そして長期的には、何が正しく何が間違っているのかを見分けるのが難しくなり、軌道修正が困難になります。
ポーカープレイヤーに起こる最悪な事態の一つにキャリア初期の成功が挙げられ、特に分散の影響を受け最初に大きく勝った場合は悲惨です。生まれつきポーカーの才能があると信じ、ゲームの改善に取り組む努力の必要性を感じなくなるからです。反対に才能あるポーカープレイヤーがキャリア初期に不運に見舞われ、その結果が自分のミスによるものだと思い込みポーカーを辞めてしまうこともあります。
ダニング=クルーガー効果に屈したことがないと思っているなら、1 つ質問をさせて下さい。次に何を勉強するべきか迷ったことはありますか?メンタルゲームコーチのジャレッド・テンドラーが教えてくれたポーカープレイヤーが直面するよくある問題に “次に何を勉強して良いか分からなくなったため、全てを習得したと思い込む”ことがあります。十分な学習経験がないことは、自分がどれほど何も知らないかを理解していないことを意味します。学べば学ぶほど自分がいかに無知である事を思い知り、そして自分の小さな知識の枠の外にどれだけ未知の世界が広がっているのかを実感します。

テンドラーは、もし迷ったときには自分の最大の弱点の改善に取り組むことを勧めています。それは、GTO Wizard のトレーナーで「大きなミス」と表示されたものです。さらに、Tombos21がこのビデオ(英語)で解説したスポット別の重要性スプレッドシートも活用すると良いでしょう。最後に、専門のコーチにプレーを分析してもらうのは、まだ知らないポーカーの知識の宝庫に触れることが出来る素晴らしい機会となります。
偽の合意効果(総意誤認効果)
偽の合意効果とは、
自分の特徴、選択、判断が、一般的であると信じることです。
犬が大好きな私は、他の人も犬が好きだと思っています。なので、他人が私の犬の話や写真に興味がなかったり、リードから離してその人へ向かわせる事を嫌がると当惑します。犬に興味がない人や、本当に犬が怖い人もいますが、犬を飼っている人はこれを理解する事が出来ません。

もし犬が好きなら、ぜひ彼のInstagramページを覗いてみて下さい (ちなみに、妻に更新を催促されています)
ソーシャルメディア時代において私たちは狭い世界で生きているため、偽の合意効果はますます大きな問題となっています。今では同じ政治的信念、音楽の好み、職業や趣味を持つ人が、異なった視点を持つ人と有意義な時間を過ごすことは少なくなりました。
ポーカーにおける偽の合意効果
ハンドレビューは、この認知バイアスが現れる典型的な機会です。なぜなら、相手も自分と同じ様にプレイすると思い込みがちになるからです。この認知バイアスに乗っ取られると思考プロセスがどうなるのかについて、私がプレイしたハンドを例に説明します。
私はトーナメントの終盤で70bbを持っていて、チップランキングの上位にいました。すでにインマネしていて、ファイナルテーブルまで残り約40人程度です。45bb持ちのすぐ右のプレイヤーがカットオフからオープンし、私はボタンでK♠T♠をコールドコールしました。
フロップはT♦7♠2♦、トップペアグッドキッカーとバックドアのセカンドナッツフラッシュドローが付いています。
しかし、フロップであれこれ考える間を与えず、相手は残りの43bbをオールインしてきたのです。
プレイ中の分析
私はまず相手の立場になって考えることから始めました。もしフロップでいきなりオールインをする必要があったら、自分はどうプレイするだろうか?私の直感では、相手はブラフをしていると思いました。なぜなら、強いハンドを無駄にしているように思うため、私はトップペア以上でポットの6倍のオールインは決してしないからです。唯一考えられるハンドは何かしらのドロー、例えばフラッシュドローや89のオープンエンドストレートドローでした。
次にこの局面をGTOの視点から考えると、このフロップはオーバーベットが選択肢にあるものだと気付きました(ここまで大きなサイズではありませんが)。オーバーベットをする可能性のあるハンドはATやJJで、現時点では勝っているがプロテクションが必要なものです。実際にこの様なオールインを時々見かけますが、明確なハンドの傾向はありません。ナッツもあれば、オーバーペア、サードペア、もしくは完全なエアーである可能性もあります。
最終的に私はフォールドしたので相手のハンドは分かりませんが、似たような局面をGTO Wizardで調べるとカットオフの最適なフロップCベットはこの様になります。


もちろんオールインをすることはありませんが、オーバーベットを含めたベットレンジが存在します。オーバーベットをするのは私が先程述べたハンドであり、ブラフハンドはダブルバックドアがあるK♠Q♠やガットショット + バックドアフラッシュドローハンドであるJ♠9♠です (フラッシュドローやオープンエンドストレートドローのような強いドローではありません)。
プレイ中の分析の分析
上で行った分析の問題点は、相手が私のように考えていると仮定していることです。

最初に相手はトップペア以上のハンドを “無駄” にしないだろうと仮定し、その推測からブラフをしていると考えました。それは私は決してその様なプレイをしないからです。その後、コールされた時点である程度のエクイティがあるブラフレンジを仮定しました。その理由は、私がもしこのスポットでポットの6倍のブラフオールインをする必要がある場合、ある程度のエクイティを持っていたいからです(ちなみに、ソルバーは非常にエクイティの高い強力なドローハンドを、オーバーベットして”無駄”にするようなプレイはしません。)。
その後ハンドレビューを行っていた時、私は相手が上記の分析で使ったGTOのオープンレンジでプレイしていると仮定しました。極端なオーバーベット戦略を行っているので、最低でもハンドの選択など、最適なオーバーベット戦略の特性の一部を取り入れていると仮定しました。
ですが、ここまで書いたことは分析には役に立たないでしょう。なぜなら、この相手プレイヤーは経験不足かギャンブルのスリルを求めて派手なアクションをしていただけかもしれないからです。私の思考プロセスの元となった概念を知らない可能性があり、上記のように相手のハンドレンジを想定するとかなり的外れになってしまう可能性があります。相手はナッツを持っていた可能性もあり、プレイの仕方が分からなかった66の様な中程度の強さのハンドや、完全なエアーでブラフしていた可能性もあります。(このハンドを他のプレイヤーと共有した結果、相手のハンドはオーバーペアだった可能性が一番高いという意見で全員が一致しました)。
この様なスポットでは、まず相手のプレイの傾向を観察し、その後GTO Wizard AIを使いより現実的なレンジを想定し、現実的なベットサイズを設定した後、最終的にハンドをノードロックし、得られた読みを考慮する方がより良い方法です。
自転車置き場の議論
パーキンソンの凡俗法則とも呼ばれる自転車置き場の議論とは、
難しく主要な懸念事項ではなく、理解が簡単な小さな問題に重点を置く傾向のことです。
シリル・ノースコート・パーキンソンは、2つの議題があった仮想の原子力発電所委員会を例に出しました。議題の2つのポイントは次のとおりです。
- 新しい発電所の計画の承認
- 建物の自転車置き場の色の決定
パーキンソンは、自転車置き場の色についての議論により多くの時間が費やされるだろうと仮定しました。なぜなら、たとえ関連性が無かったり重要でなくても、誰しもが説得力のある意見を述べることが出来るからです。ですが、原子力発電所は万が一の際のリスクが大きいため、発言するのを怖気づいてしまう議題です。またその内容を考えるためには、専門知識も必要です。

私たちは皆、些細な物事の決定に時間をかけ過ぎる事が良くあります。そしてそれは、政治的議論が脱線してしまう理由でもあるのです。例えば累進課税についての議論のはずが、議員の一人がその場で使った不適切な発言を糾弾する議論に変わってしまうことなどです。
ポーカーにおける自転車置き場の議論
ポーカーの勉強では、ハンドレビューをする際に些細な部分にこだわることは非常に簡単です。学ぶスポットの選択では、セットオーバーセットなど不運なハンドに過度に集中してしまうことは良くあります。ですが、実際にはその状況を避けることは出来ません。SB vs BBのようなレンジが広くより一般的なスポットに集中するのは多大な努力が必要です。こういったスポットは複雑で、多くのアクションをミックスするため習得するのが非常に困難だからです。
この記事で2回目となりますが、スポット別の重要性スプレッドシートを活用することをお勧めします。このスプレッドシートの使用方法の基本理念は重要項目に優先順位をつけることであり、それはポットサイズ、出現頻度、そして習得度によって決められています。テレビ番組で見るようなAA vs KKや、UTG vs UTG1の4ベットポットなどは、このシート上に存在しません。
まとめ
このシリーズでは、私がポーカーのプレイや勉強に影響を与えると思う興味深い認知バイアスをそれぞれ紹介しました。バイアスはまだ他に30個ほど紹介できますが、これはポーカープレイヤーがバイアスに陥りやすい事を意味するのではなく、ポーカーというゲームの環境がバイアスを助長しているだけなのです。ポーカーの絶え間のない不確実性は、バイアスにとっての肥料のようなものです。それらをコントロールするためには、自己認識と献身性を持ち合わせた庭師が必要なのです。
私たちは相手が何を持っているか、何を考えているのか、そして次のカードも分かりません。そして一つ一つの結果が自分の実力なのか、それとも運によるものなのかを知ることもできません。人間の頭は、自分が知っていることと知らない事の間のギャップを埋めるために、これらのバイアスを作り出します。それらバイアスの存在を認識することは、バイアスによって間違った判断を下さないように、それらを管理する方法を段階的にアップグレードするのに役立ちます。ですが、多くのバイアスは防御機能として働くこともあるので、それらを完全に消し去る事が出来ると考えるのは楽観的でしょう。
少し考えてみてください。もしそれらを完全に無効化出来ると考えているなら、おそらくあなたはダニング=クルーガー効果に陥っていますし、無効化できない事を認めないのはオーストリッチ効果に陥っているのです。