
確認バイアスに関する記事(英語) では、ギャンブル、特にポーカーにおいての決定に影響を与える多くの認知バイアスや誤解があることを述べました。これは、人間の脳がこのゲームで直面する分散(分散は、一連の数字が平均からどれだけ離れているかを表すものです。ポーカーでは、分散はそのゲームや戦略が自分のウィンレートに対してどれだけ「スイングするか」を指す為に使われることがよくあります。また、分散は標準的な偏差の二乗として定義され、通常はbb/100という形式で測定されます。)や不確実性などを自然と受け入れるように進化していないからです。
実際、これから取り上げる誤謬やバイアスの発見に寄与した研究の多くは、運に左右されるゲームをよくモデルとして使用したため、ギャンブルに影響されたものが多々あります。また、このようなミスリードは研究者が確率的問題を解こうとしたときに発見されたこともありました。
この記事では、特にポーカープレイヤーが乗り越えるべき、よくある誤謬やバイアスを紹介していきます。
ギャンブラーの誤謬
ギャンブラーの誤謬、または モンテカルロ1913年8月18日、モナコの有名なモンテカルロのカジノで、ルーレットのボールが連続して26回黒に落ちました。黒が連続して出るのを見たギャンブラーたちは、運のバランスの歪みを打ち消す為に赤が過剰に出るだろうという期待から、次第に赤にベットをし始めました。その結果、彼らは何百万ドルも失うことになったのです。 の誤謬とは::
ランダムで独立した出来事が、以前のランダムな結果によって、より可能性が高くなったり低くなったりすると誤って信じることです。
例えば、コインを3回投げて3回とも表が出たとします。ギャンブラーの誤謬に陥ると、あなたは4回目には必ず裏が出るはずだと信じ込んでしまいます。
コイントスを膨大な回数繰り返すと、その結果は正規分布(正規曲線・ガウス曲線)に従います。これは、コイントスが完全にランダムで独立した事象であり、過去の結果が次のコイントスに影響しない、いわゆる「コインに記憶はない」ためです。


しかし、人間は正規分布内で連続して物事が起こる現象を頭で理解するのが苦手です。例えば、オンラインの乱数生成器を使って100回のコイントスを行った結果、最終的には表が49回、裏が51回になりました。(H = 表、T = 裏)
ご覧のように、4回連続が何度か起き、5回連続や6回連続は一度ずつ起きています。
ですが人間の脳は、私が意図的に作り出した以下のような結果になると期待します。
ポーカーにおけるギャンブラーの誤謬
ギャンブラーの誤謬がポーカーに広まり、どれほど害を及ぼすかは簡単に想像がつくと思います。もし3回連続でフロップをミスしたら、あなたは次のフロップはヒットする “はず” だと信じることでしょう。2回連続でバッドビートを食らったら、次こそは ”自分がラッキーする番” だと自分に言い聞かせます。その結果、運の流れが変わったと思う時に、ハンドをオーバープレイしてしまいます。また逆に、すでに運を使い果たしたと思い込み、利益的なスポットを自ら避けるかもしれません。
ギャンブラーの誤謬は、プレイヤーが分散に苦しめられる原因にもなります。あなたはいつか自分の想像をはるかに超えるダウンスイングを経験し、その時に大きな不公平感や妄想を抱くことがあります。それは、自分が経験している現象が非常に異様であり得ないと感じるため、ただの運以外に何か原因があるはずだと感じるからです。
直近バイアス
直近バイアスはギャンブラーの誤謬の一種で、次のようなものです。
直近のランダムで独立した出来事が、すぐにまた起こると誤って信じること。
コイントスの例に戻すと、表が3回連続で出たため、4回目も表になるだろうと信じることです。
- 先ほど解説したギャンブラーの誤謬と似ている点は、この誤解も、過去に起こったランダムで独立した出来事が、未来のランダムで独立した出来事に影響を及ぼすという間違った前提から発生しています。
- ギャンブラーの誤謬との違いは、影響によりその現象が繰り返されると考えることです(先程は現象が止まると考えていました)。
直近バイアスのよくある例として、人がサメに襲われるたびに見られる現象があります。2023年にサメの襲撃で死亡したのは10人しかいませんでしたが、襲撃が発生するたびに海で泳ぐ人数は大幅に減少します。
ポーカーにおける直近バイアス
直近バイアスはポーカーにいくつかの形で現れますが、最も分かりやすい例は、プレイヤーが特定のハンドがラッキーである、またはツイていないと信じる事です。もしAKsを持っていて4回連続でフリップに負けた場合、ホールデムで最強のハンドの1つであるにもかかわらず、5回目は控えめにプレイしようと思うかもしれません。同じ様に、セッション中に22で2回セットを完成させた場合、流れが来ていると思い込み将来的にオーバープレイするかもしれません。
プレイヤーが特定ハンドがツイてないと言うと、そのハンドに対する直近バイアスがテーブル全体に広がることもあります。これはライブポーカーでよく起こり、例えば誰かが “今日は55が負けないぞ” や “このテーブルでQQは勝てない” と言うと、カードの配られ方の小さな偶然がテーブル全体に影響を与えてしまうのです。

ギャンブラーの破滅
次のトピックは、それ自体は誤解ではありませんが、多くのポーカープレイヤーが理解をしておらず判断ミスを引き起こす原因になるものです。それに対処するための戦略は、この間違った考えを克服するのに非常に役立つ経験則となります。
ギャンブラーの破滅は、次の事実のことです。
ベッティングシステムに関係なく、期待値がマイナスである公平なゲームをプレイする人は、最終的に全員が破産する。
例えば、ルーレットをプレイしていて常に赤にベットした場合、ハウスエッジにより最終的には破産します。この場合のハウスエッジは、0がヒットした時に発生します。
ではここで、ルーレットで所持金を倍にする必要があると想像して下さい。この場合の最悪の戦略は$1をベットし、それが増えていくのを祈ることです。ここでの最良のアプローチは “大胆な戦略” で、この例なら一度だけ所持金の全てである$100を赤か黒に賭けることです。なぜなら、試行回数が多いほどエッジを持つ側が優位性を実現しやすくなるからです。
もしレブロン・ジェームズとバスケットボールの試合をする事になり、あなたが勝者を決める得点数を選ぶことが出来るのなら、1点先取を選びましょう。どのみち99.99%負けるでしょうが、ゲーム開始と同時にボールを投げることで一撃必殺のショットが生まれるかもしれません。
ポーカーにおけるギャンブラーの破滅と大胆な戦略
ギャンブラーの破滅と大胆な戦略は、劣勢な立場でポーカーをプレイする時に知っておくと役に立ちます。例えば、あなたがTritonのイベント出場権を得たとしましょう。これは、ほとんどのプレイヤーにとって、豪勢な開催地で世界最高のプレイヤーたちと大金を賭けてプレイする素晴らしい経験となります。
ほとんどのアマチュアプレイヤーは、せっかくの機会を無駄にしたくないとゲーム開始と同時にプレイをし始めます。ここでの問題は、エリートプレイヤーたちとスタックがディープな状態でポーカーをプレイする必要がある事です。なので、正しい “大胆な戦略” は、締め切り時間ギリギリにレイトレジストをしてプレイをする事です。この時点で何人かのプレイヤーは敗退しており、平均的なスタックサイズも浅くなるため、エリートプレイヤー達は自分が持つ優位性を実現することが難しくなります。フィル・アイビーがどれほど優れていても、あなたが20bbでトップペアを持っている場合、そのハンドで悲惨なプレイをすることは難しいでしょう。

同様に、比較的ソフトなトーナメントでタフなシートに座ることもあるでしょう。例えば、クラッシャーがあなたのすぐ左のシートに移動してきたとします。この場合の良い大胆な戦略は、その上手いプレイヤーとプレイするポットの数を減らしつつ、プレイする際には通常よりもポットを大きくすることです。SPRを小さくし、より強いハンドレンジでプレイすることは、上手いプレイヤーが自分に対してポジションがある状態で生き残る為の効果的な方法です。逆にポジションが無い状態で小さなポットをプレイすることは、彼らの優位性を実現させる確実な方法となってしまいます。
サンクコスト効果(埋没費用効果)
サンクコスト効果とは
すでにそれに対して多くの投資を行った、またはそれに対して思い入れがあるため、もしくはその両方により、すでに価値が無いにもかかわらず続けるべきだと誤って信じることです。
それは修理に多額のお金をかけた古い車や、破綻しつつある結婚生活、または全身全霊をかけたビジネスかもしれません。本当は手放すべきなのに、金銭的あるいは感情的に投資している、もしくはそれが自分のアイデンティティの一部になっているために手放すことが出来ないのです。
サンクコスト効果は全ての諦めが悪いプレイヤーに根付いています。パッシブで諦めが悪いプレイヤーは、リバーで中途半端なハンドをフォールドできずに、相手のバリューハンドにコールをし過ぎてしまいます。アグレッシブで諦めが悪いプレイヤーはブラフを止める事が難しく、頻繁にブラフキャッチされてしまいます。どちらのシナリオも最適ではありません。
それでは、GTO Wizardを使ってこういったミスを直す方法を見てみましょう。
これは、バブル付近のICMのシナリオ で17bb持ちのUTGがオープンした際の、9bb持ちのHJの反応です。


ほとんどのハンドはオールインを選択しますが、AAのバリューとキッカーが弱いAxでブラフするミニレイズレンジが存在します。9bbしかスタックが無いのに、2bbのオープンに対して4bbのレイズを返す事に当惑する人もいるでしょう。そんな小さなレイズにフォールドするプレイヤーなど居ないでしょうし、ミニレイズに対してオールインを返されたらフォールド出来るはずはないと思うでしょう。
しかし、実際にミニ3ベットを返した際のUTGは以下のように反応します。


実はフォールドを選択するハンドは多く、私たちのブラフは相手の強いハンドを降ろす事ができます。それでは、UTGが4ベットオールインした際のHJの反応を見てみましょう。


実際に HJ はフォールドするのです。
サンクコスト効果が原因の問題を抱えるプレイヤーは、どちらのスポットもすでにポットにコミットしていると考えますが、実際にはそうではありません。
生存者バイアス
生存者バイアスとは、
選択プロセスを通過したデータサンプルに集中する一方、選択プロセスを通過しなかったデータサンプルを見逃すという欠陥のある傾向です。私たちは生存者にフォーカスするため、この名前がつけられました。
生存者バイアスの非常に有名な視覚的な例は、第二次世界大戦中の連合国の航空機の分析です。下の画像は、任務から帰還した航空機が被弾した箇所を表しています。この情報をもとに「この被弾箇所に追加装甲を施せば、より多くの飛行機が生還できるだろう」と考えられたのです。

ポーカーにおける生存者バイアス
生存者バイアスはポーカーの世界に蔓延しており、大きなポーカートーナメントで優勝したプレイヤーを称賛するという傾向を引き起こしています。例えば、その昔はWSOPのメインイベント優勝者には豪華なスポンサー契約が保証されていましたが、その結果には分散が大きく影響していました。以前、2004年のWSOPメインイベント優勝者であるグレッグ・レイマーが「優勝するまでの間に16回連続でコインフリップに勝った」と言っていたのを耳にしたことがあります。1つのイベントで優勝したプレイヤーを称賛し、世界的なプレイヤーと見なすのは間違いです。ですが私は、レイマーはポーカーの最高のアンバサダーの1人になったと思っています。
生存者バイアスが引き起こすさらに有害なものに、ポーカープレイヤーが単独の結果を利用してステーキングを募集したり、コーチング教材を販売したりする事があります。ポーカーが最も簡単だった栄光の時代に輝かしい成績を収めたポーカープレイヤーが多数存在し、今でも多くの影響力を持っています。ステーキングを募集している人やコーチングを提供している人に対しては、ある程度の懐疑心を持って接するべきです。(さてここで、私はプロのポーカープレイヤーではなく、ソルバーの知識を持ったポーカー記者である事を述べる必要がありますし、私が言うことに対しても懐疑心を持つべきです)
プロスペクト理論
プロスペクト理論はエイモス・トベルスキーとダニエル・カーネマンによって提唱された理論で、損失と利益が異なる見方をされることを唱えているものです。損失を出した際の痛みは、利益を得た際の喜びよりも強く感じられるのです。この理論は次のように述べられています。
人間は、利益を得る可能性よりも損失を避ける可能性によって、より意欲的になる。
この理論によって、トベルスキーとカーネマンはノーベル賞を受賞しました。
必ず$50がもらえるか、50%の確率で$100がもらえるかの選択肢が与えられた際、どちらの期待値も同じであるにも関わらず、ほとんどの人は必ず$50がもらえる選択肢を選びます。この傾向は ”ディール・オア・ノー・ディール” や “クイズ$ミリオネア” などのテレビ番組でよく見られます。番組の挑戦者は特定の賞金を “獲得” した結果それに固執しすぎるがゆえに、賞金を確保するために非常に悪い取引を受け入れてしまうのです。

ポーカーにおけるプロスペクト理論
プロスペクト理論はポーカーのあらゆる部分で見ることができます。まず、セッション中に受けた、あるいは与えたバッドビートの数を考えてみて下さい。長期的にはそれらの数は等しくなりますが、私たちは自分が受けたバッドビートや損失をはるかに多く覚えています。私たちは、他人に与えたバッドビートが目に入らない、または無視したセッションがあるはずですが、自分が受けたバッドビートに対して不公平だと感じます。
プロスペクト理論はトーナメントの終盤でも現れる事があります。ショートスタックはバブル付近でタイトにプレイするべきだと皆知っていますが、最低賞金を獲得する為にブラインドを放棄し、自分に優勝するチャンスを与えないプレイヤーもいます。プロスペクト理論は、自分が獲得するべきだと感じる賞金を確保するために、一部のプレイヤーがひどいファイナルテーブルのディールを受け入れる理由にもなります。
GTO Wizardのおかげで直すことが出来た私の経験からの例をご紹介します。 こちらが例に出した状況です。BBがチェックし、 UTGはT♦8♦4♠ のフロップでベットをします。BBの反応は以下となります。


このフロップでの最高のドローはJ♦9♦、9♦7♦、A♦Q♦そして、A♦4♦やQ♦4♦などの4のペアを持つフラッシュドローです。
上記のハンドのほぼ全てがレイズではなくコールを選択していることに気づきましたか?A♦4♦は68%のエクイティがありコールをするのに対し、48%のエクイティしかない “弱い” ドローであるK♦6♦はレイズを選択しています。多くのプレイヤーは弱いドローよりも強いドローをチェックレイズすることを好みますが、それは最適ではありません。これは エクイティの実現が理由です。K♦6♦のような48%しかエクイティが無いハンドでポットを獲得するのは良い結果ですが、エクイティが68%もあるA♦4♦相手を降ろしてしまうと、エクイティを過小に実現する結果となってしまうのです。 さらに、チェックレイズをすると相手は強いハンドレンジでコールをするため、A♦Q♦などのハンドでコールをする事により自分のハンドのペアのアウツが温存されます。
私はこの概念を理解するのに苦労し、フロップの強いドローで常にオールインしようとしていました。これは、プロスペクト理論の一種であり、必ず$50がもらえるか、50%の確率で$100がもらえるかの選択肢を人々に与えた研究のようなものです。私は、リバーでドローが完成せずに負けることを避けるために、高いエクイティがあるにもかかわらず、比較的確実なポットをフロップで取ることを選択したのです。なので、私はこのようなスポットで常にベットをし、もっと多く勝てなかった事に少し失望していました。ポーカーの腕前は、最終的には勝ったポットの数ではなく、生み出したバリューの量で測られます。これは、GTO Wizardの助けを借りて直した、私の大きな弱点でした。
コントロールの錯覚
コントロールの錯覚とは、
実際よりも、自分が出来事に対して与える影響が大きいと信じる傾向の事です。
これが、競走馬にあやふやで、目を引く名前が付けられる理由です。近年のグランドナショナルの優勝馬には、”One for Arthur (アーサーのために)” や ”Rule the World (世界征服)”、そして、”Comply or Die (従うか死ぬか)” などの多くの人が共感できる名前が付けられています。今いる部屋にアーサーという知り合いやペットがいる人はいますか?これにより、競馬の初心者がその馬に賭ける可能性が高くなります。このような意味が込められた名前は、実際にはランダムに馬を選んでいるにもかかわらず、結果をコントロールしているような一種の感覚を、ギャンブルを娯楽として嗜む人に与えるのです。

ポーカーにおけるコントロールの錯覚
コントロールの錯覚は、ポーカーにも広まっています。誰しもがオールインした際にカードを呼び込んだ事があるでしょうし、運を自分に引き寄せるために ”一度だけ” と口にしたこともあるでしょう。フロップが配られた際にそれを見ないプレイヤーもいます。または、AAでオールインした際に “いつもこのハンドで負けるんだよ” と宣言することは、ジンクスを打ち破るためのコントロールをしようとする歪んだ感覚の例でしょう。
私がコントロールの錯覚を記事の最後に持ってきた理由は、多くの認知バイアスにはこの要素が含まれているからです。
まとめ
ポーカーに関連した認知の誤謬やバイアスが多い理由の一つは、人間が分散に対しての理解が乏しく、不確実性に対しての耐性が非常に低いことが挙げられます。その問題の根本から対処したい場合は分散の概念を理解し、不確実性に対処する方法を学ぶことが必須となります。
ですが、この記事で行ったように、誤謬やバイアスが生み出される誤解を解き明かす方法で対処する事も出来ます。それは、不安定な人間の内面を管理する手助けとなります。この場合、ポーカーが持つランダムな要素を受け入れる事が、これらの心理的な落とし穴に対する解決策となります。