ポーカーのステーキングの基本
プロのギャンブラーといえば、自身の大金を賭けて勝負する「ハイローラー」を思い浮かべる人が多いでしょう。映画『007 カジノ・ロワイヤル』が描いてきた、あの姿です。しかし実際のポーカーの世界は、まるで違います。
ポーカーを覚えたての頃は、10,000ドルのWSOPメインイベントに出るような人は、全員が自分の資金だけで勝負していると思うでしょう。ところが、この世界がこれほど多くのステーキングで成り立っていると知った瞬間、ポーカーの見方は大きく変わります。
現実はどのトーナメントでも、出場者の大半は何らかの形で出資を受けています。資金を出してもらってプレイする人は「プレイヤー(horse)」、そして資金を出している人は「出資者(backer)」と呼ばれます。あるいは仲間内で何割かを互いに持ち合っている人もいます。
近年のライブポーカーは、かつてない盛り上がりを見せています。優勝賞金が100万ドルを超える大会も、以前より頻繁に生まれるようになりました。そして、その盛り上がりを下支えしているのがステーキングです。
誰かがWPTやEPTのタイトルを勝ち取ると、「この人は一生遊んで暮らせるのか」と考えてしまいます。ところが、現実はそう甘くはありません。出資者がいれば、その取り分はごっそり持っていかれます。優勝賞金を、まるまる手にできることはめったにありません。
生涯獲得賞金ランキングも、実態を映してはいません。そもそも、利益ではなく賞金の総額を積み上げただけの数字です。そこにステーキングまで加味すれば、数字と現実の隔たりはさらに広がります。
ここからは、最も一般的なステーキングの仕組みを解説していきます。
なぜステーキングが必要なのか
ステーキングの存在を知った人が、まず決まって口にする疑問があります。「上手いプレイヤーが、なぜステーキングを受ける必要があるのか?」
理由はいくつもあります。
- 単純に、資金がないから。 家を買ったばかりだったり、資産の大半を投資に回しているなど、手元の現金が乏しいことがあります。あるいは、ポーカーそのもので破産してしまった場合もあり、これは出資を検討する側にとって分かりやすい危険信号です。さらに、スポーツベットや仮想通貨など、ポーカー以外の分野で資金を溶かしてしまったケースもあります。
- 資金管理を人に任せたいから。 自分でバンクロールを管理するプレッシャーを嫌い、会社員のように安定した形を望むプレイヤーもいて、ステーキングはそれに近いものを与えてくれます。あるいは、手元に大金があると、つい賭けに使ってしまうなど、自分を信用できない、という人もいます。残念な話ですが、才能に恵まれたプレイヤーが、自分の資金を管理しきれずに破産していく例は後を絶ちません。
- コーチングを受けられるから。 出資者の多くは、自分が出資するプレイヤーにコーチングも行います。さらに、小さな企業のように組織化されたチームには、その仕組みが初めから組み込まれている場合もあります。
- 分散を抑えられるから。 プレイヤーがアクションを売る大きな理由のひとつが、分散の軽減です。とりわけ、レベルの高いゲームに挑戦するときに効いてきます。大金がかかる場面では、ファイナルテーブルでディールをするのと同じように、アクションの一部を売って下振れの影響を和らげたいと考えるからです。 同じことが、インマネを確定させた後にも起こります。ファイナルテーブルで自分のエクイティの一部を売るケースで、ステーキングとファイナルテーブルディールの中間のような形です。 たとえば、$1/$2をプレイしていて$2/$4に挑戦したいプレイヤーがいるとします。このとき50/50でステーキングを受けても、ほとんど意味がありません。それなら$1/$2を自分の100%でプレイすればよく、しかも、より楽な卓に座れる可能性が高いからです。 ただし、より高いステークスのほうが時給がはるかに高くなることもあります。WSOPがいい例で、$1,500の大会の一部は、オンラインの$20の大会に近いレベルになります。$20のグラインダーが$1,500のMTTに見合うバンクロールを持つことはまずありませんが、それでも勝てる見込みは十分にあります。こうした場面なら、ステーキングは出資者とプレイヤーの双方にとって理にかなった選択になります。 これと似て少し異なるのが、より高いステークスに初めて挑むプレイヤーのケースです。新しいレベルに慣れ、その層の傾向をつかむまでの間、リスクを抑えておきたいと考えます。
- ファンサービスのため。 これはごく最近になって現れた理由です。いまや多くのプレイヤーが、ファンを抱える「インフルエンサー」の顔を持っています。そうした人たちは、ときに自分のアクションを、楽しみのひとつとしてファンに売ります。たとえばダニエル・ネグラヌは、WSOPでステーキングを必要とする選手ではありません。それでも毎年、マークアップなしで一部を売り出しています。純粋に、ファンを楽しませるためです。
ステーキングはどこで受けられるのか
ステーキングは、ポーカーの中でしっかりと根づいたひとつの経済圏です。ライブでもオンラインでも、トーナメントのフィールドがあれだけの規模になるのは、ステーキングがあるからこそです。
いちばん広く行われているのが、プレイヤー同士で互いに何%かを持ち合うやり方でしょう。たいていは、同じ大会に出る友人同士が、5%や10%といった小さな割合で持ち合います。また、トーナメントの終盤で起こることもあります。2人がディープで残っており、スタックも近く、どちらかが大きく勝つ可能性が高まった場面です。
次に多いのが、ひとつの大会、あるいは複数の大会をまとめたパッケージについて、自分のアクションを一度きりの形で売るやり方です。誰でも参加できる市場で買い手を募る形で、本記事ではこれを「マークアップディール」と呼びます。
こうした取引は、SNSでパッケージを募集し、あとはすべてDMでやり取りする、といったごく気軽な形でも成り立ちます。あるいは、StakeKingsのようなステーキング市場を使う方法もあります。これはプレイヤー同士をつなぐ個人間(P2P)のマーケットプレイスです。こうした市場では、当事者間の取引を仲介し、勝者への支払い責任の一部を引き受けてくれる場合もあります。その対価として、手数料を取るのが一般的です。
近年のもうひとつの新しい形が、ポーカーサイトのソフトウェアに組み込まれたステーキング機能です。本記事の執筆時点では、GGPokerやACRでトーナメントにバイインし、その開始まで(マルチフライトのトーナメントならday2の開始前まで)アクションを売ることができます。出資者はポーカールームのバンクロールから資金を出し、勝ち分は自動的に出資者の口座へ戻ってきます。
ステーキング経済のもうひとつの大きな柱が、「メイクアップディール」と呼ばれる形です。プレイするゲームのすべてについて、プレイヤーが出資を受ける仕組みを指します。出資者がプレイヤーのポーカー資金を100%提供し、多くの場合はコーチングも行います。利益の分配は、たいてい50/50です。
この種の取り決めを結ぶプレイヤーは、たいてい出資者が抱える大勢のうちの一人で、彼らはまとめて「チーム(ステーブル)」と呼ばれ、共有のバンクロールを使います。ただし、チームの多くは、送金やコーチング、プレイヤーの管理を担う専任スタッフを抱えた大きな事業体です。Team651のような大規模なチームは、ソフトウェアやコンテンツ、人脈づくりや協業の場を通じてメンバーを支える、ポーカーのサブコミュニティのような存在です。そこでステークスを上げていくのは、企業で出世の階段を上っていくのに似ています。
メイクアップディール
メイクアップディールとは、次のような取り決めです。
出資者がプレイヤーにバンクロールを全額提供し、その見返りに利益を分け合う。割合はたいてい50/50。
ケース1: すぐに利益が出た場合
出資者がに$1,000のMTTのバイインすべてを負担し、$3,000の賞金を得たとします。まず出資者が元手の$1,000を回収し、残った利益$2,000を2人で分けます。50/50なら、それぞれの取り分は$1,000です。
プレイヤーにとっては理想的な話に聞こえます。タダでプレイでき、リスクはすべて出資者が背負ってくれるからです。ところが、実際はそう単純ではありません。
プレイヤーがステーキングで負けると、いわゆる「メイクアップ」に入ります。収支が赤字になり、その負け分を取り返すまでは、プレイヤーは一切の利益を受け取れません。
ケース2: 最終的に利益が出る場合
たとえば、私があなたに出資(ステーキング)しているとします。
月曜に$1,000の負け。 火曜に$1,000の負け。 水曜に$1,000の負け。 そして木曜に$2,000勝ちます。この場合では勝ち分は一切受け取れません。ステーキング全体ではまだ$1,000のマイナスで、$2,000の勝ち分はまず出資者である私のもとへ戻るからです。
さらに金曜にもう$2,000を勝ったとしましょう。私はまず、残っている$1,000の赤字分を回収します。残った$1,000を50/50で山分けし、あなたの手元には$500が残ります。
トーナメントの世界では、プレイヤーが6桁、7桁ものメイクアップ(これまでの負債、参加費-賞金)を抱えることもあります。大きな大会で勝っても、実際のメイクアップを見れば手元には1円も残らない、という事態も珍しくありません。
こうした仕組みの中には、プレイヤーのモチベーションを保つため、勝ち分から「給料」を受け取ることを出資者が認めるものもあります。
あなたが$100,000のメイクアップを抱えている状態で、$50,000の賞金を獲得したとします。出資者はそのうち$40,000を回収し、残りの$10,000を生活費としてあなたに渡すかもしれません。ただし受け取った$10,000はメイクアップに上乗せされるため、メイクアップは$50,000ぶん減るのではなく、$60,000へとなります。
メイクアップディールは、プレイヤーにとって「抜け出せない」と感じさせる足かせになりかねません。こうした取り決めには、たいてい何らかの契約が伴い、プレイヤーが関係を解消できる条件が次のように限定されているからです。
- 出資者が解放する
- プレイヤーが契約を買い取る
- プレイヤーがポーカーを引退する
もちろん、これはメイクアップに限った苦しさではありません。自分の金で$100,000を失った人だって、収支をトントンに戻すにはその分勝たなければなりません。それでもメイクアップディールが多くのプレイヤーを惹きつけるのは、ステークスを一気に駆け上がれるからです。そして、それこそがメイクアップを歯止めなく膨らませる原因でもあります。
$1/$2を自分の資金でプレイする人が、堅実に$2/$4へ挑もうとするなら、まずはそのステークスの振れ幅に耐えられるバンクロールを築くところから始めなければなりません。$5/$10でも、その先のどのレベルでも同じです。これには時間がかかります。
ところが出資を受ければ、このバンクロール構築の過程をまるごと飛ばせます。出資者があなたに将来性を感じたり、あなたが勝てる大きなゲームを把握していたりすれば、必要なバンクロールを用意してくれます。そうして、大きな舞台へ一足飛びに飛び込めます。
こうした飛び級は、コーチ陣やコンテンツ、ソフトウェアといった環境が整ったチームで、頻繁に起こります。たとえばSpin & Goのチームでは、ローステークスからハイステークスへ一気に駆け上がり、ミドルステークスをまるごと飛ばしてしまうプレイヤーも珍しくありません。
ただし、ここには危険もひそんでいます。比較的低いステークスのプレイヤーが、ある日突然、ハイステークス級のメイクアップを背負い込みかねません。
リスク
メイクアップディールは、最初は甘い話に聞こえますが、あっという間に悪夢に変わることもあります。本来は実力のあるプレイヤーでさえ、多額のメイクアップを抱えるとモチベーションを失い、ときにはゲームから完全に身を引いてしまいます。毎日プレイしても、当分のあいだ利益が見込めない。その状況は、あまりに過酷だからです。
メリット
一方で、生活に「型」を必要とするプレイヤーにとっては、メイクアップディールがいちばんの選択肢になり得ます。自分にお金がかかっていないほうが良いプレイができる人、チームのコーチングや仲間との繋がりが力になる人、お金の管理を自分に任せておけない人。そうした人たちにとっては、確かに有力な選択肢になります。
マークアップディール
マークアップディールとは、次のような取り決めです。
ある大会、または一連の大会について、誰かのアクションの一部(何%か)を買い取る、一度きりの取引。
たとえば私が$1,000の大会に出るとして、あなたに10%を$100で売ったとします。私が$2,000を勝てば、あなたの取り分は$200です。
メイクアップディールとマークアップディールの違いのひとつは、負けたときの扱いです。マークアップディールなら、たとえ負けても、その損失を出資者に返す義務はありません。次の取引も、メイクアップを背負わないまっさらな状態から始められます。
例外と言えるのが、一部のプレイヤーがリエントリー分について薄めた割合(diluted shares)を提示するケースです。さきほどの例で言えば、私が1発目の$1,000で飛んでリエントリーしても、その10%は1発目にしか適用されないので、リエントリー分には及びません。ただし当初の取り決めとして、リエントリー分にも2%を渡すことがあります。これは任意で、一般的とは言えませんが、好意の印として、あるいはアクションを買ってもらうための誘い文句として行われることが多いです。
プロのポーカープレイヤーは多くの場合、売りに出すアクションにマークアップを上乗せします。自分の実力と労力に見合った割増し、いわばプレミアムです。これまでの例で言えば、$1,000のMTTの10%をマークアップ1.2で売る場合、買うのにかかるのは$100ではなく$120です。私が$2,000を勝てば、受け取るのは$200ですが、私はマークアップの分、$20だけ多く儲かる計算です。
- $1,000のMTT、売り出すのは10%
- マークアップ1.2
- 買値は$100ではなく$120
パッケージにマークアップを乗せるとき、プレイヤーは実質的に「自分は勝ち組」だと宣言していることになります。多くの場合、マークアップにはそのプレイヤーが考えるROIが反映されています。つまり1.2で売るプレイヤーは、そのトーナメントで20%のROIがあると見込んでいる、という意味です。
とはいえ、ROIを正確に数字で出すのはほぼ不可能で、本来はトーナメントごとに変わるべき数字でもあります。多くのプレイヤーは、フィールドが優しいで知られるWSOPメインイベントで最も高いマークアップを設定します。一方、たとえば$25,000のハイローラーのように、誰もがエッジを出しにくい大会では、それほど高い数字をつけるべきではありません。
次に挙げるのは、私が今年、実際に買ったあるWSOPのパッケージです。
ご覧のとおり、メインイベントは1.5、シニアハイローラーは1.6で、どちらもアマチュアプレイヤーであふれる大会です。一方、$5,000の大会は強いレギュラーが多く集まります。そのため、マークアップは1.2に抑えられています。
マークアップをプレイヤーのROIに合わせるのは出資者にとって不公平だ、という意見もあります。出資者もROIの恩恵にあずかるべきだ、という考え方です。自ら「マークアップ・ポリス」を名乗るショーン・ディーブ(Shaun Deeb)は、プレイヤーは出資者とROIを分け合うべきだと強く主張してきました。たとえば、あるトーナメントでプレイヤーのROIが40%だと合意したなら、売値は1.4ではなく1.2にすべきだ、という考えです。こうすれば、その40%分の取り分(EV)を、両者で20%ずつ分け合えます。
マークアップは、おそらく他のどんな話題よりも激しい議論を呼びます。突き詰めれば「そもそもポーカーで本当に勝てているのか」という論争に行き着くからです。ただ、マークアップについてひとつだけ確かなことがあります。大多数のプレイヤーは、マークアップを設定するとき、自分がどれだけ勝てるかを過大評価している、という点です。
マークアップには倫理的な問題もつきまといます。たとえば、あまりに高い数字をつけるのは不当なのでしょうか。
仮にそのプレイヤーが勝てていない可能性があるなら、法外なマークアップだと糾弾されるべきなのでしょうか。それとも、出資者がその値段で納得して買う以上、自由市場として尊重すべきなのでしょうか。回答はここでは差し控えていただきますが、毎年WSOPでは、この手の論争が数えきれないほど繰り広げられています。
ステーキングをめぐるトラブル
プレイヤーによる契約違反
最も多いのは、単純にプレイヤーが出資者にお金を払わないケースです。$200,000のメイクアップを抱えたプレイヤーが$100,000を勝ち、それを全額自分のものにしてしまう。被害者が「信頼できる相手としか取引してはいけない」という大切な教訓を学ぶのは、決まって手遅れになってからです。契約書を交わし、裁判で履行を求めようとするケースもありますが、そうした例はごくまれで、残念ながら多くの国の政府はギャンブルの紛争に関与しようとしません。
出資者による契約違反
逆に、出資者がアクションの購入を申し出ておきながら、大会が始まる前にお金を送らないという問題もあります(あるいは、プレイヤーが勝ち進みそうだと分かってから、ようやく送金してくる)。ほかにも、交渉を始めたのに時間内にまとめない、あるいは「相手は買うと約束した」と一方が主張しても、それを何の形でも記録していなかった、といったトラブルもあります。
こうしたトラブルは、ルールを徹底すればたいてい防げます。出資は資金を受け取ってから成立とすること、そして合意した条件を必ずどこかに書き残し、取引成立の証として「BOOKED(成立)」の一語を添えておくことです。
プレイヤーによる詐欺
出資者にとってのもうひとつのトラブルが、プレイヤーが「ステーキングを集められる」と嘘をつくケースです。先ほどの未払い問題と同じく、これも「買い手責任(caveat emptor)」の世界であり、対処法はただひとつ、出資する前にきちんと調べることに尽きます。
多くの人は、ステーキングを求めるプレイヤーが本当に勝てている証拠を、たくさん提出するよう求めます。たとえばSharkScopeのグラフです。あわせてポーカーの知識を試す質問を投げかけたり、試用期間を設けたり、そして何より重要なこととして、信頼できる筋から、その人物の実力と信用について保証を取りつけたりします。
プレイヤーによるアクションの売りすぎ問題
プレイヤーが自分のアクションを100%を超えて売ってしまうケースです。プレイする前から利益を確定できる一方、もし勝っても、勝ち分以上の額を支払う羽目になります。複数の相手に売ることで起こり、こうしたプレイヤーは、そもそも将来の勝ち分を返す気などないまま出資を募っています。
もっと巧妙でたちの悪いパターンが、自分のアクションを大きな割合で、しかも非常に高いマークアップで売るケースです。たとえば$1,000のMTTの70%を1.6で売ったとします。手元には$1,120が入り、プレイする前から$120の利益が確定します。30%は自分のぶんとして残っているので売りすぎではありません。とはいえ、自分の取り分があまりに小さくなると、本気のプレイ(Aゲーム)をするモチベーションがなくなってしまいます。
プレイヤーによる税金の見落とし
大きく勝ったとき、税法を理解していなかったり、曖昧なままにしていたりすると、きわめて深刻な問題になります。ギャンブルの勝ち分に一切課税せず、アメリカと租税条約を結んでいる国もあります。たとえばイギリスのプレイヤーは、ベガスでの勝ち分を100%手元に残せます。一方で、国によっては重い税負担を背負うプレイヤーもいます
下の表は、2023年のWSOPメインイベントのファイナルテーブリストたちが獲得した金額と、おそらく支払った税額です。
上記の図から分かる通り、ヤン=ペーター・ヤッハマン(Jan-Peter Jachmann)は、自分より上位であるアダム・ウォルトン(Adam Walton)よりも多く獲得しています。ヤッハマンはプロではなくドイツ在住だったため、ギャンブルの勝ち分に課税されなかったからです。仮にあなたが選べる立場で、しかも「出資者が受け取るのは税引き後の利益」という取り決めだったなら、3位ではなく4位のプレイヤーに出資したほうが得だった、ということになります。
それ以外にも、こんなケースもあります。訪れた国の税法を知らないまま大きく勝ち、出資者への分配まで終えた後になって、初めて請求書を突きつけられる。とても有名なあるハイローラーは、バルセロナで好成績を収め、出資者への分配を済ませた数年後に、巨額の税金を請求されました。本人も出資者も勝ち分はとっくに使い切っていましたが、法的に納税義務を負っていたのは本人だけでした。
税負担を抱えるプレイヤーは、そのことを取引の前に伝えておくべきです。とりわけ、勝ち分を出資者に渡すのは税引き前か、それとも税引き後かは、はっきりさせておかなければなりません。
プロモーション特典の扱いを決めていない
プロモーションで得られる追加特典を誰が受け取るのか。これもまた、手遅れになってから初めて表面化する問題です。
たとえばWSOPでブレスレットを獲得すると、翌年のトーナメント・オブ・チャンピオンズ(ToC)への無料の参加権がもらえます。WPTのメインイベントを勝てば、WPT世界選手権への無料招待が得られます。ToCの場合、このフリーロールの費用はWSOPのマーケティング予算から出ています。WPTの場合は、参加権の費用がプライズプールから差し引かれます。
プレイヤーがこれらの大会に勝てたのは出資のおかげなのだから、出資者もその出場権の一部を受け取るべきなのでしょうか。一概には言えません。長く付き合う出資者との間では、レーキバックを分け合うことが期待される場合もあります。
経費の取り決め漏れ
特典があるなら、経費はどうでしょうか。プレイヤーは自分の旅費を、出資者の利益から何%か差し引いてよいのでしょうか。以前、あるプレイヤーがマッサージ代をこの種の経費として正当化しようとした、という話を聞いたことがあります。これはほとんどの場合、はっきり「ノー」です。そもそも最初のマークアップに、大会中の経費は織り込んでおくべきものだからです。
プロモーション特典にせよ経費にせよ、この種のトラブルのほとんどは、条件を前もって取り決めておくことで避けられます。実際、あからさまな詐欺や横領を除けば、ステーキングをめぐる論争の大半は、きちんと事前確認(デューデリジェンス)をしていれば防げたものばかりです。
チームぐるみの不正
スキャンダルといえば、ステーキング最大ともいえる潜在的リスクが、チーム内での不正です。しかも、これは年々無視できないものになりつつあります。
もちろん、すべてのチームが不正に手を染めているわけではありません。とはいえ、ポーカーで起こる不正の多くは、チーム内で発生しているのも事実です。これまでにも、ハンドヒストリーの共有、データマイニング、プレイヤー同士の共謀、さらにはファイナルテーブルでコーチが本人のアカウントを乗っ取ってプレイするなど、チームぐるみの不正が次々と摘発されてきました。
この問題は無視できないほど深刻で、GGPokerは、ポーカーチームに所属するプレイヤーへの規制強化を発表しました。おそらくこれは、自社のステーキング機能をより多くの人に使ってもらうための施策でもあったのでしょう。それ自体は悪いことではありません。今回取り上げてきた未払いのようなトラブルの多くを、未然に防げるからです。
いずれにせよ、業界全体がポーカーチームへの締めつけに動いているのは確かです。私自身は、ポーカーチームに賛成でも反対でもありません。ただ、もしチームへの参加を迷っているなら、避けておくほうが無難かもしれません。規制強化は避けられそうにないからです。
まとめ
ステーキングのパラドックスは、勝てるプレイヤーだけがそれを受けられる、という点にあります。だとすれば、なぜそれが必要なのか、と考えたくもなります。
ポーカーでステーキングを受ける理由は、その人の状況によってさまざまです。
- 分散を抑える
- 金銭的なプレッシャーを軽くする
- 実入りのいいゲームに挑戦する
- より高いステークスへの移行を早める
- コーチングで上達する
- ただ生活に「型」をもたらす
多くのプレイヤーにとって、ステーキングは夢のような話に聞こえます。とはいえ、二者の間で大金が動くときの常として、トラブルの火種は尽きません。その多くは、信頼の問題(相手が契約を守ってくれるか)か、透明性の問題(予期せぬ事態を取り決めの前に詰めていなかった)のどちらかです。
メイクアップディール
ステーキングには、見過ごせないメンタルゲームの問題もついて回ります。とりわけ、プレイヤーが多額のメイクアップを抱え込んでいるときです。あまりに多くのプレイヤーが、早すぎるペースでステークスを上げられ、クリアできそうにない額のメイクアップを背負わされてしまいます。赤字を抜け出すのに何度も大きな勝ちが要る。そんな見通しは多くのプレイヤーのやる気を削ぎ、ゲームから去る引き金になります。
マークアップディール
対照的に、マークアップディールはずっとプレイヤーに優しい仕組みです。対象となる大会を超えて義務を負うことがないからです。もちろん、自分のマークアップとROIを正当化する必要はありますが、それはどんなステーキングの取り決めにも、ほぼ間違いなくついて回ります。結局、ステーキングのパラドックスは「自分がすでに勝てるプレイヤーだと証明すること」に行き着きます。











