
読者の皆さんにはいつもお伝えしていることですが、私はプロポーカープレイヤーではありません。ソルバーに詳しいただのライターです。GTO Wizardで執筆している私の記事では、自身のリークを修正しようと勉強している「一人の生徒」という視点が強く反映されています。
そんな私ですが、2024年に「大きなリーク」を修正しました。コーチであるDara O’Kearneyがそのリークを見つけ、そこからGTO Wizardを活用してその問題点を徹底的に理解・改善しました。そのリークは「セミブラフのやり方」に関わるものです。
そもそも多くのブラフは「ナチュラル」であるべきです。つまり、完成したハンドでなくても、勝率を高める何らかの性質を備えているということです。
- リバーでは、特にブロッカーを持っていることにより、相手がコールできるコンボ数を減らすため、「ナチュラルなブラフ」となります。
- セミブラフはもう一つのナチュラルなブラフです。ここでのセミブラフは、ドローがあるハンドでブラフし、コールされても強いハンドに発展する可能性がある場合を指します。

私のリークは、この「セミブラフ」に関するものでした。昔から「強いドローほど大きくブラフすべき」という考え方があり、たとえばナッツフラッシュドローを持っているときだけオーバーベットやチェックレイズなどの強いアクションをしていました。一方で、ガットショットやバックドアドローのような「そこそこのドロー」では、大きなベットやレイズをほとんどしなかったです。
当時は、「大きなブラフをするリスクを負う以上、コールされても勝てる(あるいは勝率が高い)ハンドにしたい」と考えておりましたが、実際には多くの場合、この考えは間違っています。ここからは、その理由をいくつかの例をもとに解説していきます。
フロップでのセミブラフの選び方
NL500キャッシュゲームを例に、UTGオープン、BTNがコールした状況でフロップは J♥T♥2♣とします。


UTGはポジションが不利(OOP)で、かつBTN側にも強いハンドが含まれ得るボードなので、大半はチェックになります。全体のエクイティでは、UTGが54%持っているものの、BTNはトップセットを含む強いハンドをそれなりに持っています。
以前の私であれば、「最も強力なドロー(コンボドローやオーバーカードなど)ほど大きくベットする」と考え、A♥K♥やA♥Q♥のようなフラッシュ+オーバーカードがあるコンボドロー、あるいはK♥Q♥、Q♥9♥や9♥8♥のようにストレート+フラッシュドローがあるハンドでベットしていました。
しかし実際にソルバーで確認してみると、それらの“とても強いドロー”は、思ったほど頻繁にベットされていないことが判明し、特に、ハートのフラッシュドローを含むコンボドローは、他の“弱いドロー”と比べてもさらにチェック寄りになる傾向があります。

いくつかの例外もあります。例えばK♥Q♥は他のKQsよりも多くベットしていますが、それでも全体の傾向は明確です。
- もしストレートドローに加えてフラッシュドロー(例えばハート)を持っていると、ストレートドロー単体よりもベットする頻度が大幅に減少します。
- 一方で、バックドアフラッシュドロー(例えばクラブ)+ストレートドローを持っている場合、最も頻繁にベットします。
なぜこのような傾向があるのでしょうか?
いくつかの理由が考えられます。まずは、上記すべてのハンドのエクイティを見てみましょう。

ハートがあるドロー(コンボドロー)は、同じランク構成でもフラッシュドローのないハンドと比べて、エクイティがほぼ2倍近くになります。すべてのハートコンボドローは50%超のエクイティがあり、特にA♥K♥は67.4%あります。
この時点で、果たしてこれらを“ブラフ”と呼べるでしょうか? これらのハンドが他のドローに比べてベット頻度が低いのは、エクイティが多くあるからです。極端な話、A♥K♥でベットして相手が降りてしまうのはもったいないとさえ言えます。
この点が最も強く出てるのは、97sです。クラブの組み合わせ(バックドアフラッシュドロー付き)のときは96.2%もブラフしていますが、ハートの組み合わせではわずか10.8%しかブラフしません。(97s全てのコンボの頻度は69.5%)つまり、最もブラフに回るのは多くの場合ただのガットショット(+バックドア)クラスのハンドとなります。
このことは、下記のブラフの根本的な考え方を示しています。

ブラフと見なせるのは、そのハンドが“ショーダウンで勝つ”よりも“その場でポットを取れる”ことに大きな価値を見いだせるほど弱い場合
一方、コンボドローはエクイティが高いので、ポットを即座に奪ってしまうより、チェックして相手からベットを誘ったり次のストリートに回すことが多くあります。
クラブがあるバックドアドローは、ターンでストレートドローかつフラッシュドローに変化しやすいため、引き続きセカンドバレル(2発目のベット)を打ちやすい強みがあります。
フロップでコールされても、その後クラブを引けば「ストレート+フラッシュドロー」となるため、ターンでのブラフを継続しやすい。また、フロップでリレイズをされた際は、簡単に諦められます。そして、もし最終的にクラブのフラッシュを完成させたときは、ほとんどのプレイヤーが読みにくい“隠れた強ハンド”となります。
これらのハンドがなぜブラフをあまりしないのかを理解するために、フォールド頻度を見てみましょう。下記の戦略はUTGの33%ベットに対するBTNの戦略です。


BTNはスモールポケットや一部のAxをフォールドします。エクイティの観点から見ると、A♥K♥やA♥Q♥などのコンボドローはこれらのハンドに対してエクイティが大きく優っているので、むしろフォールドさせずに残しておきたいハンドとなります。
UTGがベットする場合のレンジは先ほどのとおりですが、「強いドローでチェック→レイズ」する戦略もあります。そこで、UTGがチェックした場合のBTNのベットレンジを見てみましょう。


詳細は似たパターンなので省きますが、BTNもUTGと同じく、ストレート+フラッシュドローのようなハンドはあまりベットせず、ストレート+バックドアフラッシュドローで多くベットしています。
BTNがベットするときは、ほとんどの場合オーバーベット(125%ポット)を選ぶ場合が多く、これに対するUTGの戦略は以下の通りです。


UTGのチェックレイズレンジは非常に狭く、ほとんどのコンボドローはコールに回ります(もし自分で先にベットしていればもっと小さい金額で済んだところを、大きなベットにコールことになります)。
しかし、ごく稀にチェックレイズブラフをするときは、主にハートがあるコンボドローでします。BTNがオーバーベットでレンジが強くなった分、レイズする際にはさらに強いブラフ候補が必要になるためです。ただし、こういった場面はレンジ全体から見ればほとんど無視できる頻度に留まります。
ターンでのセミブラフの選び方
フロップでUTGチェック、そしてBTNもチェックしたとします。下記がUTGのターン戦略です。


BTNがフロップでベットしなかったためレンジが弱くなっており、その分UTGのベット頻度が高くなっています。では、ここでコンボドローの扱いがどう変わるのか見てみましょう。

フロップではほぼチェックだったこれらのハンドですが、ターンではいずれも多くがベットに回っています。ハートのフラッシュドローを含むコンボドローも70%以上の頻度でベットしていますが、それでもフラッシュドローなしのコンボドローに比べると少しベット頻度が低くなっています。
なぜなのか?エクイティを見てみましょう。

多くのコンボドローのエクイティは50%を下回り、平均すると43.01%ほどです。フロップ時点より残りのストリートが少なくなったことで、エクイティが「真のブラフ寄り」に近づき、ベットしやすくなっています。一方で、ハートドローを持たないコンボドローは平均で28.43%程度しかエクイティがなく、フォールドを勝ち取るメリットがより大きいため、より頻繁にベットに回されています。逆にハートがあるコンボドローはまだそこそこ強いので、リバーを見る価値も高く、ベット頻度がやや低くなっています。
それでは、33%ポットベットに対する相手の戦略を見てみましょう。


フロップほどではないにせよ、依然としてBTNはそれなりにレイズをします。フォールドするハンドは相変わらずゴミハンドやスモールポケットペア、弱いAxなどですが、その頻度はフロップよりやや高くなっています。
残り1枚でドローを完成できる可能性を考えると、コンボドローにとってこれは悪くない状況です。さらに、コールされたとしても、A♥K♥やA♥Q♥であれば相手の弱いストレートドローやや弱いフラッシュドロー(A5s、A4s、KQs、K9s)に勝っている可能性があり、十分に戦えます。
もしブリック(無関係なカード)が落ちたら?
もう一つ気になるのは、ターンでコールされてリバーでブリック(無関係なカード)が落ちた場合です。どちらのプレイヤーにも有利ではない(完成がほぼない)2dが落ちたとします。


ここで、ミスドロー(完成しなかったフラッシュドローなど)のハンドがどれくらいブラフに回されるか、チェック頻度を比較します。

ミスしたフラッシュドローは、他のスーツのミスドローと比べても倍くらいチェック(=ブラフしない)する傾向があります。
これは実戦でも非常に役立つ指針です。
ミスしたストレートドローのほうが、ミスしたフラッシュドローよりリバーでブラフしやすい
理由は単純で、ブラフするときは相手にフォールドしてほしいわけですが、相手のフォールドレンジにはミスしたフラッシュドローがたくさん含まれます。自分がフラッシュドローを持っていると、相手のそのようなハンドをブロックしてしまい、フォールドする頻度を下げてしまいます。一方、ストレートドローであれば相手がフラッシュドローを持っている確率を減らさないため、フォールドさせやすくなります。
132%ポットベットに対する戦略を見てみましょう。


たとえばKQsは色関係なくブラフしています。Axやスモールポケットペアを降ろすことができ、AKo・QQ・KJs・QJs・KTs・QTsといったコールレンジに含まれる強いハンドをある程度ブロックしています。
反対に87sは、 8♥7♥の時を除き、50%ほどの頻度でブラフします。例えば8♦7♦のようなハンドは、ハートをブロックしないのでブラフとして適しています。8♥7♥だと、BTNのハートドローをブロックしてしまい、相手のフォールド頻度を下げてしまいます。
ブロッカー・タブを見ると、

8♥や7♥がBTNのフォールド頻度を最も下げるカードであることがわかります。
一方、KやQはその逆で、

これらを持っているとBTNのフォールド頻度を上げており、たとえハートのKやQでも、フォールド頻度の低下幅は比較的小さく留まります。
まとめ
本稿で取り上げたスポットは一部ですが、私がここ数か月でセミブラフのリークを修正する過程でも、同じ傾向をたびたび目にしてきました。
- 「強力なコンボドロー」は魅力的なので、大きくベットして、相手に難しい決断を迫り、エクイティ優位な状態でチップを入れたくなりがちです。
- しかし、あまりにも強いドローは、実はフロップでポットを即奪うのが“もったいない”ほど優秀なハンドでもあります。
- ブラフとは本来「無抵抗でポットを取れることに大きな価値がある」行為といえます。フロップやターンでは、コールされてもアウツが残るのは大事ですが、レイズに対して簡単に降りられるハンドであることも重要です。
- 強い役になりやすいハンドをややパッシブにプレイして、結局リバーで完成せずに終わると悔しい気持ちになるかもしれませんが、スタックを無闇に投じず、自分のレンジ内でより適切なブラフ候補を選ぶことが大切です。