スタックサイズが影響する最も重要な概念は、プレイヤーが自分のスタック全てを賭けて利益を得るには、どれだけのエクイティが必要かということです。これはキャッシュゲームやトーナメントのチップの量、BBに対するスタックの大きさといった単なるスタックの大きさでは決まりません。これを決めるのはSPRです。SPRが低ければ低いほど、自分と相手がオールインするのに十分な強さのハンドを持っていることが多くなります。ポーカーではこれが全ての基準になっています。
オールインは強力なプレイです。ショーダウンで勝てる可能性のあるハンドをフォールドさせることで、自分のエクイティを実現し、相手のエクイティを放棄させることができます。これは相手のハンドが勝つ見込みがなかったとしても有効です。SPRが低いほど相手のオールインによってエクイティを放棄させられないように気をつけつつ、自分がオールインすることによって利益を得られるような状況を作ることを目指します。
SPRが低いほど相手のオールインによってエクイティを放棄させられないように気をつけつつ、自分がオールインすることによって利益を得られるような状況を作ることを目指します。
トーナメントとICM
トーナメントではICMによってレンジが狭まるので、オールインはさらに強力なプレイになります。2台の車が互いに正面からスピードを出しあっているところを想像してみましょう。トーナメントで2人のプレイヤーがお互いにオールインすると、お互いに何かを失うことになるので、そのような対決を避けることがお互いのプレイヤーの利益になります。リー・ネルソンとタイソン・ストリーブの著書「Kill Everyone」から引用すると、オールインすることは、ハンドルを窓から投げ捨てることと同じです。ハンドルを切ることはもはや不可能なので、相手は額の大きい分散の高い対決を避けるためにフォールドすることになります。
オールインレンジ
この原則を簡単かつ強力に説明するために、トーナメントでの50BBのChipEVシミュレーションを見てみましょう。COが2.3BBでオープンし、BTNがコールした後、BBはポットの約6倍の50BBでオールイン。この際のレンジは全体の5%でそこには88やJ9♠のような弱いハンドも含まれています。
ソルバーが登場する前は、このような大きなオールインはミスプレイだと言うのが常識で、フィッシュがポストフロップをプレイしたくないためにするアクションの一つだと捉えられていました。
しかし、フィッシュはある種正しい直感を持っていたとも言えます。
BBがどんなハンドをオールインするか見てみましょう。AAやKKはオールインではなくレイズとなっており、これは相手のアクションを誘っています。相手の強いコールレンジに対してエクイティがあり、かつ相手をフォールドさせることで利益を得やすいハンドやフロップ以降のプレイが難しいハンドがオールインに適しています。
相手の強いコールレンジに対してエクイティがあり、かつ相手をフォールドさせることで利益を得やすいハンドやフロップ以降のプレイが難しいハンドがオールインに適しています。
小さいレイズ
ここでのアクションは前述した原則を守っています。 BBは相手のエクイティを放棄させ、自分のAQoとミディアムペアのエクイティを100%実現するために、非常に額の大きいオーバーベットをするという極端なアクションを取ります。
これは相手に対して自分のエクイティを放棄させる機会を奪うことにもなります。「通常の」10.4BBへのレイズは他のプレイヤーにオールインの機会を与えるため、このようなハンドを不利な状況に追い込む可能性があります。JT♠は4ベットに着いていけるかもしれませんが、99やAKoのようなハンドに大きなポットで約50%のエクイティを奪われる可能性があります。
BBがこのようなスポットを避けるにはもう一つ方法があります。それは全くレイズしないことです。Q8sとJ8♠はレイズが混ざっていますが、K8♠とA8♠は全くレイズしません。これはこれらのハンドがレイズするには弱すぎるという訳ではなく、レイズフォールドするには強く、レイズコールするには弱いことが理由です。
BBがオールインより少ない額でレイズする場合、4ベットオールインを受けるリスクを考えてポラライズしたレンジでレイズします。このレイズレンジは、A9oやJToのようなレイズされたらすんなりフォールドできるハンドと、強いAXsや強いポケットといった相手にオールインしてほしい非常に強いハンドで構成されます。
BBがオールインより少ない額でレイズする場合、4ベットオールインを受けるリスクを考えてポラライズしたレンジを使います。
ポストフロップでのプレイ
この原則はポストフロップにも当てはまります。以下は、40BBでのBTN対BBのSRPでフロップが J♥ T♥ 5♦のBTNのCベット戦略です。BTNはレンジの79%でベットしており、そこにはT7♠や88のような多くのミディアムペアが含まれています。
20BBでの同じシナリオと比較してみましょう。BTNのCベット頻度は62%に下がり、強くないペアはほとんどチェックするようになりました。これは、20BBではBBがよりアグレッシブにチェックレイズオールインできるためです。レイズを受けたくないBTNのハンドはパッシブになります。
結論
先ほどの二つの例でご紹介した原則は、オールインが可能なポーカーゲームでは、全てのストリートや局面に当てはまります。エフェクティブスタックがポットに対して小さくなればなるほど、オールインがもたらす脅威と機会を軸に戦略が決まります。つまり、常に次のことを念頭に置いてレンジを構築する必要があります。
- エクイティは高いがプレイアビリティの低いハンドはオーバーベットになったとしてもオールインができる場合があります。その際、相手をフォールドさせるメリットが多いハンドを選ぶと良いでしょう。
- オールインが返ってきた時、エクイティを放棄せざるを得ないハンドでのベットやレイズには注意が必要です。スタックが浅くなるほど、ベットレンジはポラライズされその中間のハンドはチェックかオールインになります。