感情とポーカー
ポーカーは分散の波に耐えながら少ないエッジを積み重ねて勝っていくゲームです。しかし想像しているよりも分散は大きく、プロでも苦しめられることがあります。この記事では、ティルトの根本的な原因、感情、メンタルゲームについて紹介します。
メンタルゲームの重要性
ポーカーではパフォーマンスの質を一定に保つことは簡単ではありません。高いレベルでプレイできることもあれば、低いレベルでプレイすることもあります。Aゲームの割合を増やし、Cゲームの割合を減らすことが、上達への近道となります。
これを簡単な数学で証明します。Aゲーム、Bゲーム、Cゲームの3つの状態があり、ウィンレートは以下の通りだとします。
- A-game = 6 BB/100 (集中し、良いプレイができている)
- B-game = 3 BB/100 (それなりにうまくプレイしているが機械的にこなしている)
- C-game = -2 BB/100 (ティルトしている)
人によってこれらの数値は変わりますが、上記のウィンレートは上手いプレイヤーの数値です。多くのプレイヤーは、ティルトした場合、-2BB/100よりはるかに下の数値を出すでしょう。
シナリオ1: 全体の30%がCゲーム
シナリオ2: 全体の10%がCゲーム
全体の20%をCからAに移すだけで、勝率はほぼ2倍になります。感情をコントロールすることがポーカーで不可欠なスキルであり、上達への近道であることがわかるでしょう。
第1章:パフォーマンスの科学
パフォーマンスを最大限発揮するのは簡単そうであるのに、なぜ軽視されがちなのでしょうか。
ポーカーと違って、メンタルと上手く向き合えているかどうかはなかなか分かりません。ティルトはソルバーを使っても解決しません。優れたパフォーマンスを発揮するにはポーカーのスキルと同じくらい感情的知性が重要となります。感情的知性を養うには内省をして無意識のうちに無視している問題に取り組む必要があります。
最大限力を発揮するために重要となる要素について紹介します。
ゾーン
多くのパフォーマンスの専門家は、「ゾーン」とは、自分のしていることに完全に没頭しているフロー状態のことだと述べています。ゾーンはAゲームと同義です。
- 完全に現在の状況に集中している。
- 外部からの考えや雑念は一切ない。
- 結果ではなく、純粋にそのプロセスに集中している状態。
- 時間感覚が変わる。
- 過去や未来について考えるのは、純粋に戦略的なもののみ。
ゾーンに入るには?
- 心地良いストレスが必要
- 自信を持ってプレイする。
- 身体的なニーズ(睡眠、運動など)を満たす。
ストレスレベル
多くのプレイヤーは結果にこだわり過ぎるがあまり、ティルトしてしまいます。ハンドの結果を考え過ぎてしまうと良いプレイができなくなります。過剰な感情は論理的思考を妨げ、プレイの質を低下させるでしょう。
「ポーカーゾンビ」になって感情を完全に排除しようとするプレイヤーもいます。この方法では、感情の断絶によってモチベーションが下がり、プレイの質を低下させます。
では、適切な感情の量はどれくらいでしょうか🤔
ヤーキース・ドッドソンの法則では、集中するにはある程度のストレスが必要とされています。最適なストレスレベルは、タスクの複雑さによって異なります。
やる気を維持するのにはそれなりの感情が必要ですが、ティルトをしないように、プロセスと結果を切り離すためにはある程度リラックスしなければいけません。
相手とのレベルの差
自分が負けるゲーム(スキルが低い)ではプレイするごとに不安を感じますが、勝てるゲームでは自信過剰になってしまったり、退屈になってしまって集中できなくなることがあります。心理学者のミハイ・チクセントミハイは、ゾーンというフロー状態は、自分と相手に大きなスキル差がなく、勝てる可能性がある場合に起こるとしています。
熟練のポーカープレイヤーはグラインド(下のステークスから這い上がっていくこと)していくことは退屈に感じるかもしれません。しかしそのような感情はパフォーマンスの低下を招きます。自分が参加してない時でも他のプレイヤーを見て常に考え、ゾーンに入れるようにしましょう。
悪循環
仕事、人間関係、結果、生活全般から蓄積されたストレスは、すべて精神的疲労の原因となります。これらのストレスは、時間とともに蓄積されていきます。
さらに、こうしたストレスから睡眠、日常生活、栄養、健康がおろそかになり、長期的なストレスがさらに大きくなります。これらの悪循環は、ポーカープレイヤーに多く見られます。
この悪循環で最も危険なのは、長い間、疲労状態に陥ってしまうことです。長い間うんざりしたような気分でいると、元気でいることがどういうことなのか忘れてしまいます。いつも疲れていることに慣れてしまい、自分でも気づかないうちに「Cゲーム」になってしまいます。
毎日のルーティンを確立する
何時に起きて、何時に仕事をして、何時に食事をして、何時に寝る、というような簡単なことでもよいのでルーティンを守ることが重要です。習慣にすることで睡眠や食習慣、ストレスが改善されます。多くの研究で毎日の習慣が精神的・肉体的健康の向上と強い相関関係があることを示しています。
ポーカートレーニングルーティンを作る
健康的なライフスタイルを維持することに加え、トレーニングのルーティンを作りましょう。
ルーティンには以下のことが含まれます。
- 意図的で計画的な練習
- SMART目標
- TO-DOリスト
- 長期にわたって行う強いモチベーション
S.M.A.R.T.目標は、Specific(具体的)、Measurable(測定可能)、Attainable(達成可能)、Relevant(関連性)、Time-bound(期限付き)でなければなりません。
しかし実際にはVAPID目標であることが多く、これはあまり役に立ちません。VAPID目標とは、Vague(ふわっとしている)、amorphous(期限がない)、pie in the sky(役に立たない)、irrelevant(意味がない)、delayed(間に合っていない)のことです。
例をみてみます。
- 良い目標: 毎週2時間、4ベットポット、IPを練習し、トレーナーで定期的にGTOWスコア95%を達成できるまでやる。
- 悪い目標: 4ベットポットの戦略をあらゆる場面で暗記する。どれくらいかかるかは気にしない。
達成の4段階
達成の4段階では、最初は自分がいかに知らないか、あるいは自分の無能さに無自覚であることを示唆しています。自分の無能さを認識するにつれて、意識的にスキルを習得し、意識的にそのスキルを活用するようになります。最終的には、無意識にそのスキルを活用できるようになります。
- 無知
自分の知らないことを知らない状態のこと。したがって、自分の無能さを認識することができない状態です。 - 自覚
自分の能力のなさを自覚している状態のこと。 - 学習
集中して努力すれば、そのスキルを使える状態のこと。 - 習得
スキルが自然に使える状態のこと。
哲学者ソクラテスはかつてこう言いました、
自分がなにも知らない、ということを自分は知っている
達人への第一歩は、自分が知らないことがあることを認識することです。ポーカーを上手くなりたいなら、このゲームには考えたこともない戦略的な側面があるということを受け入れなければいけません。
第2章:ティルトの見分け方と対処方法
ティルトの7つのタイプ(ジャレッド・テンドラーによる)
ティルトとは、論理的な理由ではなく、感情的な理由によって最適ではないプレイをすることを指します。ティルトは誰もが経験するでしょう。The Mental Game of Poker(ポーカーのメンタルゲーム)では7つのティルトのタイプが紹介されています。ティルトの種類を見分け、対処する方法を学ぶことで、力を最大限発揮できるようになるでしょう。
(クレジット: The Mental Game of Poker by Jared Tendler)
下振れによるティルト
誰でも下振れは経験します。下振れによるティルトは、時間の経過とともに蓄積されます。悪いプレーをするようになり、それによってまたティルトするといったサイクルを繰り返してしまいます
The Mental Game of Pokerの一部を引用します。
下振れがティルトの原因ではありません。下振れがティルトする様々な原因を浮き彫りにしているのです。
下振れが他のどのタイプのティルトを引き起こしているのかわからないときは、以下のティルトを参考にしてみてください。
- 「こんなの不公平だ!自分は普通に勝てるはずだ!フリップで負け続けてる!」 = 不公平だと感じることによるティルト
- 「どうしてまたこんな負け方ができるんだ!」 = 負けず嫌いによるティルト
- 「やっぱり!ちくしょう、なんでこんなに下手なんだ!」= ミスによるティルト
- 「自分は上手いプレイヤーのはずなのに、どうしてこんな相手に負け続けるんだ!」 = 勝つのが当然だと思うことによるティルト
- 「このバカに3ベットしてやる。自分を誰だと思ってるんだ!」 = 復讐心によるティルト
- 「勝つまで1週間くらいここにいるよ」 = やけくそによるティルト
不公平だと感じることによるティルト
不公平だと感じることによるティルトは強いハンド同士で負けてしまったり、引かれてしまった時に起こります。また、何かに呪われていると思い込んでしまった時にも起こります。自分の運が、実際の数字よりも悪いと信じてしまい、ポーカーサイトやディーラーが自分が不利になるように操作していると思い込んでしまいます。
このティルトは、ポーカーでの分散を理解していないことが原因です。ポーカーは想像以上に分散が激しいです。詳しくはこのビデオを見てください。人間は、勝った時よりも負けた時の方が記憶に残りやすいので、負けたことばかり気にしてしまいます。
またこのティルトのもう1つの原因は、自分の結果をしっかりと認識していないことです。運が悪いこととプレイが悪いことを混同して考えている場合が多くあります。
自分の長所と短所を見極め、結果をしっかりと記録し、ツールを使って自分のプレイを振り返りましょう。またどれくらい分散があるのか考えることも重要です。
負けず嫌いによるティルト
このティルトは、負けたときの感情によって起こるティルトです。
負けず嫌いで、競争心の強い人によく見られます。このタイプのプレイヤーは、勝つことよりも負けることを嫌います。少し負けただけで気分が大きく下がる人はこのティルトを引き起こす傾向があります
勝つ嬉しさよりも負けることが嫌いだ
根本的な原因は、過度な競争心と、結果を求めすぎていることです。失ったお金は、一時的に投資して失っただけです。EVがプラスのプレイで負けたのなら、良いプレイを続ける限り、負けは一時的なものでしょう。
ミスによるティルト
このティルトは、過去に行った悪いプレイを振り返るときに感じる苛立ちから起こります。このティルトは、完璧なプレイが常に完璧な結果につながるという、無意識の誤った思い込みが原因です。お金とスキルは同一ではありません。このティルトに対処するには、まず完璧なプレイが完璧な結果をもたらさないことを受け入れることです。自己反省は有益で必要なことですが、ミスに執着するのはよくありません。
ミスによるティルトの根本的な原因は、
- 非現実的な期待 – 強いハンド同士でぶつかったり、引かれた時に避けられたはずだと考えたり感じたりすること(これは明らかに間違っています)。
- 完璧を求める – 完璧にプレイできていない自分に厳しくなりすぎること。毎回完璧にプレイできるわけではないと認識する必要があります。
- 不運と悪いプレイを混合してしまっていること。プロセスと結果を分けて考えましょう。ポットで負けたからといって、プレイが悪かったとは限りません。
勝つのが当然だと思うことによるティルト
このティルトは例えば、自分のAAがKKに対して常に勝つことを期待している時に起こります。また、自分は相手より強いからポットを取る権利があると考える時にも起こります。
問題は、自分が相手より強いと思っていることではありません。その結果、自信過剰になり、傲慢になり、リスクの高いプレイをするようになり、最終的にティルトすることです。
もし自分にこのティルトがあることに気づいたら、以下のことを思い出すようにしてみてください。
- スキルが高いからといって、ポットを取れるわけではありません。
- より強いレンジを持っているからといって、ポットを取れるわけではありません。
- 相手のスキルや戦略を正確に認識していない可能性があります。
- エゴを守るために嘘をつくのは止めましょう。
復讐心によるティルト
このティルトはある特定のプレイヤーから標的にされていると感じたり、何かしらのプレイで見下されたりする時に起こります。特定の相手を攻撃するために、自分の戦略を変更するようになります。
👊 復讐 👊
- Aゲームでプレイできておらず、誰かを攻撃するための戦略をプレイしてしまう。
- 冷静で論理的なエクスプロイト戦術と、怒りに満ちた復讐による戦術は違います。
- 復讐することはエゴだと思って耐えてください。
いつものプレイができなくなる状況やプレイヤーを特定し、それらの原因を解決しましょう。また、スキル面でのミスを減らすようにしましょう。
やけくそによるティルト
やけくそになっているかどうかは自分自身では気づきにくいものです。このタイプのティルトは、バンクロールを無視し、必要以上のリスクを負う原因となります。やけくそティルトになると、バンクロールを失ってしまう可能性があるため最も危険なティルトです。よりリスクの高いラインを取ることで収支を合わせようとしたり、他のギャンブルで収支を合わせようとします。
やけくそによるティルトは非常に危険です。もしやけくそになっている状態を定期的に経験しているのなら、それを緩和するために以下のステップを試してみてください。
- 危機感を持つ – やけくそによるティルトが本格化する前に気付けるようにします。
- ポーカーをやめる時間を決める – 他の予防方法と組み合わせることで、最大限の効果を得られます。
- 緊急対応策を練る – 悪化する前にセッションをやめます。
他のタイプのティルト
以下では、最近のメンタルゲーム本では扱われていない、その他の一般的なタイプのティルトについて説明します。
- 失うのが怖いティルト
お金を失うことを恐れてパッシブにプレイしてしまうティルトです。適切なバンクロール管理をして対処しましょう。 - 勝ち続けることによるティルト
想像以上によく起こります。非常に調子が良いと、大きなリスクを負ったり、オーバープレイするようになります。自分がいつ調子に乗っているかを認識し、過信しないようにしましょう。 - 思考放棄によるティルト
よくあるゾンビのように自動操縦されている状態のことで、ボタンクリックを間違えたり、注意力が欠如しています。 - 注意散漫によるティルト
ゲームに集中できていない状態のことです。マルチタスクが原因です(例:プレイ中にビデオを見たり、ソーシャルメディアを見たり)。ポーカーだけに集中し、ゾーンに入れるようになりましょう。 - 暗黙のバイアス
人間は勝ったことよりも負けたことの方が記憶に残ります。上振れよりも下振れの方が記憶に残ります。これによってあまり良くないことに精神的なエネルギーを使うようになります。
ティルトに対処するための一般的なヒント
コントロールの輪
コントロールの輪は、自分の影響力の範囲内のことにエネルギーを集中すべきだということです。自分の力の及ばないことにエネルギーを浪費しないようにします。ポーカーに関して言うと、
- デッキをコントロールすることはできませんが、戦略をコントロールすることはできます。
- 運をコントロールすることはできませんが、運にどう反応するかはコントロールできます。
- 感情そのものをコントロールすることはできませんが、感情に振り回されないようにすることはできます。
論理を取り入れる
ポーカーテーブルで感情をコントロールするための「万能の解決策」はありません。Jared Tendlerは、ティルトを克服するために次の戦略を使うことを勧めています。
- 論理的思考から外れていることに気づく
- 思考プロセスに論理を取り入れる
- 適切な戦略を立てる
上記のことができない場合は、セッションを終了してください。上手いプレイヤーでも勝てる可能性は低くなっています。
プロセスと結果を分ける
最も重要なことは、プロセスと結果を切り離すことです。ポーカーでは上手くプレイできたかどうかが重要で結果重視になってはいけません。
メンタルゲームを得意に
ポーカーは自分のハンドをプレイするのではない、目の前の相手とプレイするんだ。
– ジェームズ・ボンド、カジノ・ロワイヤル
ポーカーではメンタルと上手く向き合うことができれば、スキルがあることと同じかそれ以上の差を生みます。ティルトの原因を特定できると、相手がいつティルトしているのかわかるようになります。
実際、相手も同じことをしてくるでしょう。
例1
相手が大きなポットを失った後、ニットのようにプレイするようになりました。
このプレイヤーはお金をこれ以上失いたくないと思っています
例2:
相手が大きなポットで負けてしまい、取り返そうと多くのハンドでプレイしてしまっています。
このプレイヤーは負けを取り戻そうとするあまり、ルースにプレイしています。
- このような相手には、小さいバリューを取りに行き、ブラフを減らします。ブラフをしても十分なフォールドエクイティを得られないので、バリューで大きな利益を狙っていきます。
- 相手がアグレッシブすぎる場合は、レンジをタイトにし、ブラフをやめ、マニアック(ほとんど全てのハンドでベットやレイズをするプレイヤーのこと)にポットを大きくさせます。後のストリートでコールするつもりがない限り、ブラフキャッチャーでコールしないようにします。
まとめ
ティルトはどのプレイヤーにも関係してくることで、簡単な解決策はありません。自分のメンタルと上手く向き合うには、様々な種類のティルトを知り、その原因となる根本的な感情の扱い方を学ぶことです。自分のティルトに対処できて初めて、メンタルゲームを得意とすることができます。
CゲームではなくAゲームをプレイできるようにしましょう。以下は参考文献のリストです。
- The Mental Game of Poker – Jared Tendler
- The Mental Game of Poker 2 – Jared Tendler
- Peak Poker Performance
まとめると、
- ライフスタイルとトレーニングのルーティンを確立する
- 心身の健康を疎かにしない。
- 毎回ゾーンに入ることを目標とする。
- 結果とプロセスを分けて考える
- 様々なタイプのティルトの根本原因を特定する。
- 分散を理解し、長期的な視点で考える。
- 無意識に起こるバイアスを認識する。
- メンタルゲームを武器にする。