ポーカーにおける数学的誤解
ポットオッズとMDFは、ポーカーにおける基礎的な数式です。この記事では、まず一般的な定義とまとめ表を紹介し、その後これらの定義がどのようにGTOに関する誤解につながるかを説明します。
まとめ表
これらの言葉の定義は?
***簡略化された定義***
ポットオッズ: コールに必要なエクイティ
MDF(最低ディフェンス頻度): どのくらい広くディフェンスする必要があるか
Alpha: ブラフが成功する必要がある頻度
バリュー/ブラフ比率: ベットレンジをどう構築するか
実際の意味と誤解
ポットオッズ
コールに必要なエクイティ
コールするために勝たなければならないポットの割合です。ただし、エクイティはそのままバリューを意味するわけではありません。
例: 相手が10bbのポットに5bbをベットした場合、あなたは新しい20bbポットのうち少なくとも25%(=5bb)を勝ち取る必要があります。
しかしソルバーは、十分なエクイティがあるハンドをフォールドしたり、不足しているハンドでコールしたりします。これは、標準的なエクイティ計算が「チェックダウンされる」前提だからです。実際にはポジション、インプライドオッズ、レンジアドバンテージなど、多くの要素がハンドの実際の価値に影響します。
MDF(最低ディフェンス頻度)
どのくらい広くディフェンスする必要があるか
「相手の0%エクイティのブラフを0EVにするために必要なディフェンス頻度」です。つまり相手に好き勝手にブラフされないための指標です。ただし、相手が明らかにブラフ不足ならMDFを守る必要はありません。
さらに、もし相手のブラフ候補がチェックバックしたときにEVを持つなら、あなたは相手をベットとチェックの間でインディファレントにするためにそこまで広く守る必要はありません。例えば、そのブラフ候補がチェックバックで2EVの価値を持ち、ベットすると(あなたのオーバーコールによって)0EVになってしまう場合、相手は一切ブラフせずにあなたを逆にエクスプロイトすることができます。
Alpha
ブラフが成功する必要がある頻度
「0%エクイティのブラフが成功する必要がある頻度」です。しかし実戦ではリバー以前のほぼすべてのハンドにエクイティがあります。また、複数ストリートに渡ってブラフできる点も考慮されていません。
バリュー/ブラフ比率
ベットレンジをどう構築するか
この比率が正しいのはリバーに限られます。すべてのバリューハンドがナッツであり、ブラフは完全に価値がないと仮定した場合です。バリューとブラフの比率は、複数ストリートにまたがるとより複雑になります。
ごく基本的な目安として「1/3・1/2・2/3ルール」があり、フロップではおよそ1/3をバリュー、ターンでは1/2をバリュー、リバーでは2/3をバリューにする必要があります。ただしこれはベットサイズやレンジのポラリティなどの要因によって変化します。詳しくは「Caveman GTO calculator」を参照してください。
さらに、ブロッカー効果やレーキの影響により、このチャートが示す比率よりもややバリュー寄りに調整することが一般的に推奨されます。
代表的な数式
ポットオッズ = コール額 / (コール後のポットサイズ)
Alpha = リスク / (リスク + リワード)
ここでいうリスクとリワードとは、ブラフする額と、ブラフが成功したときに得られる額を指します。
MDF = 1 – Alpha
ベットされた場合(レイズではなく)、MDF = 1 / (1 + ベット%)
ブラフ% = ポットオッズ。この頻度でブラフすることで、相手をリバーでインディファレントにさせることができます。
バリュー% = 1 – ブラフ%
例1 – ベットする場合
Heroがリバーで10のポットに対して5をベット(ハーフポット)。
ポットオッズ: Villainは5をコールすると、ポットは20になります。コールに必要なエクイティは 5 / (5 + 5 + 10) = 5/20 = 25%。つまり、ショーダウンで4回に1回以上勝てるハンドであればコールすべきです。
Alpha: Heroは5をリスクに10を狙っています。式は a = 5 / (5 + 10) = 33%。Villainが少なくとも1/3の頻度でフォールドしなければ、Heroのブラフは損益分岐点に達しません。
MDF: MDF = 1 / (1 + 1/2) = 66%。つまりVillainは少なくともレンジの2/3をディフェンスすることで、Heroのブラフをインディファレントにできます。
バリュー/ブラフ比率: Heroはレンジの75%をバリュー、25%をブラフにすることで、Villainのブラフキャッチャーを「コールしてもフォールドしても同じ」にできます。
例2 – レイズに対して
Heroがリバーで10のポットに5をベット(ハーフポット)し、Villainが15のハーフポットレイズをします。
ポットオッズ: Heroは追加で10をコールする必要があり、コール後のポットは40になります。コールに必要なエクイティは (15-5) / (10+15+15) = 10/40 = 25%です。したがって、ショーダウンで4回に1回以上勝てるハンドはコールすべきです。
Alpha: Villainは15をリスクに15を獲得しようとしています。a = 15 / (15 + 15) = 50%です。Heroが少なくとも1/2の頻度でフォールドしない限り、Villainの0%エクイティのブラフは損益分岐に達しません。
MDF: 1 − Alpha = 50%です。Villainのブラフをインディファレントにするには、Heroは少なくともレンジの半分をディフェンスすべきです。
バリュー/ブラフ比率: Heroのブラフキャッチャーをコールとフォールドでインディファレントにするため、Villainはおよそ75%をバリュー、25%をブラフでベットすべきです。
スプレッドシートを使用した計算
スプレッドシート計算ツールでは、MDF/ポットオッズ、Alpha、ジオメトリックサイズ、ストリートごとのバリュー/ブラフ比率などを計算できます。
実戦応用と理論
以下のグラフは、ベットサイズが変化するにつれてこれらの変数がどのように連動するかを示しています。興味深いことに、それらは自然界で広く知られる数学定数「黄金比」で交わります。
ポットオッズは最も理論的に堅固な指標
プリフロップからターンまでの多くの場面で、ソルバーは十分なエクイティを持つハンドをフォールドしたり、十分でないハンドをコールしたりします。しかし、ポットオッズは「ポットシェア(ポストフロップのすべてを考慮した実際に獲得できるポット割合)」で見れば常に正しい指標です。
実戦でも、相手のレンジが極端にフィッシュ寄りであっても、チェックダウン前提のエクイティではなく「実際のポットの価値」を基準にすれば、ポットオッズは理論的に正しい指標となります。
例えば、ポットサイズベットに対しえて、利益的なコールをするには平均して少なくともポットの1/3を獲得する必要があります。本当にそれだけシンプルなのです
MDFとAlpha
MDFとAlphaは誤用されやすいため悪評もありますが、これはポーカーにおける絶対法則ではなく「理論上の単純化されたモデル」に近いものです。両者は0%エクイティのブラフを前提としており、それを0EVにするための設計ですが、実際にはほとんど当てはまりません。
必要なのは「相手のブラフをベットとチェックでインディファレントにする」程度のディフェンスです。例えば、ブラフ候補がチェックで1bbのEVを持つとき、過剰なディフェンスでベット時のEVを0にしてしまえば、相手は単にベットせずチェックを選びます。EVの低い選択肢をわざわざ取る必要がないからです。
多くの初心者は、これらの指標を根拠に本来フォールドすべきハンドでコールしたり、無謀なブラフを仕掛けたりしてしまいます。MDFは「相手が過剰にブラフしてくる場合のディフェンス基準」であって、絶対的なルールではありません。相手のブラフ頻度が低ければ、MDFを無視して弱いハンドはフォールドすべきです。
一般的にソルバーは、ポジション有利時にはMDFに近い頻度でディフェンスし、ポジション不利時にはオーバーフォールドする傾向があります。これは、ポジションがあるとき弱いハンドをチェックバックする方が価値を持つからです。
GTO Wizardは他に類を見ないデータ分析機能を提供しています。例えば、BTNのCベットに対して、BBが実際にどの程度フォールドしているかを、MDFが示す理論値と比較することができます。ここでは、20%から200%までのすべてのCベットサイズについて、戦略的に異なる1,755種類のフロップを解析しグラフ化しました。
その結果、BBはすべてのベットサイズに対して一貫してMDFよりも高い頻度でフォールドしていることが判明しました。
次にブラインド対ブラインドの状況を見てみましょう。この場合、BBはレンジでは不利ですが、ポジションアドバンテージを持っています。SBのCベットに対するBBの実際のフォールド頻度とMDFを比較すると、BBはMDFに非常に近い頻度でディフェンスしていることがわかります。個々のフロップで完全に一致しているわけではありませんが、全体の傾向としてはMDFとほぼ正確に一致しています。
まとめ
これらのチャートから得られるポイント: ポジションがある時はMDFに近い頻度でディフェンスし、ポジションがない時はフォールド寄りに調整すること。
MDFに関して一般的に言えること: MDFは相手のオーバーブラフを防ぐための盾にすぎません。相手が明らかにブラフ不足であれば、その盾を下ろし、ブラフキャッチャーで無理にコールすべきではありません。